[きたぁぁぁ!]2週間かけて釣り上げたモンゴル奥地の「幻の魚」。しかし現地人は「早く逃がして!」

2024 シーバス特集

モンゴルの遊牧民の食生活で欠かせないうどん

ツァイの他に、もう一つ代表的なものがモンゴルうどんです。小麦粉を練って作ったうどん麵に、乾燥肉を出汁に使い、塩で味付けしたゴルタイシュルという肉うどんや、ツォイワンというモンゴル風焼うどんがあり、どれもラム肉のような独特の野生風味がありますが、おいしいです。

乾燥肉を刻む遊牧民のお父さん。

遊牧民の主食はおそらくゴルタイシュルで、私はおいしいおいしいと食べていましたが、3日も4日も毎食ゴルタイシュルが出てくると、さすがに飽きて辟易してしまいました。ある時遊牧民のお父さんに、「干してない新鮮な肉を食べることはないの?」と聞くと、「冬場は草原が雪に埋まって餌が少ないので、家畜がやせ細る。だから夏場にたくさん草を食べて太った家畜を来年の夏まで食べる分だけ捌いて、一年間保存するために乾燥させるんだ。その時に新鮮な肉を食べることはあるけど、それ以外では祝い事がない限り、基本的には食べないよ」と教えてくれました。過酷な環境で生き抜くための術が、今でも遊牧民の生活には残っているのです。

ゴルタイシュル:少なくとも30食は食べたが、最後のほうは見たくもないほどに飽きていた。

目的の川に到着。ここから「幻の魚」を探す釣行がスタート!

奥地へ向けて走ること数日後、ようやくセレンゲ川が見えてきました。澄んだ色の綺麗な川ですが、生命感はほとんどありません。ここからは足を使って釣りをしながら、各支流の目ぼしいポイントをチェックしてタイメンを探します。数時間で移動するエリアもあれば、2〜3日粘ってみるエリアもありますが、近年めっきり数が減ったというだけあって、簡単ではありません。

それでも頑張っていると、時折レノックというコクチマスが釣れてくれます。トラウトチックで綺麗な魚体に鯉科のような顔つきの魚ですが、モンゴルうどん以外を口にできる喜びはひとしおです。とはいえ、ここに来た目的は一にも二にもタイメン。早く顔を拝みたいものです。

レノック。

なかなか姿を見せない「幻の魚」タイメンを求め賭けに出ることに

釣りを始めて2週間ほど経ったある日、あまりの釣れなさにメンタルの限界も近いかと感じていた頃、とある遊牧民から有益な情報を得ることができました。なんでも、今いる地点から2日ほど悪路を走った先に、ほとんど人が入らない小さな支流があるというのです。一応地図では道が記してあるのですが、あまりにも小さいために見逃していました。

残りの日数を全て捧げれば行けないことはないですが、ここはモンゴル。平気で道なき道は出てきますし、もし車が壊れれば一発アウト。救助は車が通らない限り無理なので、おそらく数日間歩きながら遊牧民を探すことになるでしょう。運よく辿り着けても、そこで釣れなければゲームオーバーです。かなりの賭けでしたが、正直ちょっとやそっとの奥地ではタイメンを釣ることが厳しいと感じていた私は、最後の可能性に賭けて、その場所へ行くことにしました。

道中、橋のかかってない川。運よく浅瀬があったので迂回せずに乗用車で無理やり渡った。

草原地帯から針葉樹林が茂る地域へ景色が変わってくると、途端に気温が下がります。岩山谷沿いに作られた悪路をひたすら進むと、やがて小さな村が現われました。村人に挨拶をしながら情報収集していると、一人の男性が「その車ではここから先の川沿いには行けないから、私の車で連れて行ってあげよう」と言ってくれました。

奥地の村。

お言葉に甘えて彼のオフロード車に乗り込み、さらなる奥地を目指します。オフロード車の真骨頂を発揮できるような悪路をひた走っていると、ようやく目的の川が現われました。

オフロード車で川を渡る。

これまでとは明らかに雰囲気が違う…「釣れるかもしれない」

ブラックウォーターの川を目の前にして興奮を隠しきれない私ですが、「この奥に大きな淵がある。そこに行けば釣れるはずだ。」という彼の言葉に逸る気持ちを抑えながら進み、ついに秘境に到着しました。

ブラックウォーターの川。

6月にもかかわらず雪が残っており、川の水は1分も入っていられないほどに冷たいです。「ここなら本当に釣れるかもしれない…」これまでとは雰囲気の違うこのエリアでついに釣り竿を振る時がやってきました。

雪の残るエリア。

川を観察しながらルアーを投げ続け、丁寧に探っていきます。上流に投げたルアーが流されて、流れの反転するエリアに差し掛かるころ、突然「ズンッ」と釣り竿が絞り込まれました。水面でのたうち回る大きな魚は、遠目から見てもまさにタイメンです。「きたぁぁぁ!」この2週間の鬱憤を全て吐き出すかのように叫んで異常を皆に伝えた私は、そこから無我夢中でタイメンを浅瀬にずり上げました。

タイメンとのファイト中。

ついに目的のタイメンをキャッチ!しかし…

苦労の末に釣り上げたタイメンを前に、喜びを爆発させる私とは裏腹に、モンゴル人の彼らは狼狽えながら「早く逃がして!」と、タイメンを釣ったばかりの私を急かします。モンゴルは日本のアニミズムに近い考え方があり、中でもタイメンは川の神のような存在だそうなのです。というわけで早々に写真撮影を終えた私は、もう1匹のタイメンを釣ったところで納竿することにしました。

タイメン:苦労の末に釣り上げた魚は格別の喜び。

もう少し釣りたい気持ちはありましたが、苦労の果てに釣れた魚は格別で、満足度も満ち足りていましたし、何より私は彼らと行動を共にし、彼らに協力してもらえたからこそ得られた釣果です。彼らが狼狽すると分かっていながら釣り続けるのも気が乗りません。「その代わり、またここに来たときは1匹だけ釣らせてね!」と言うと、ホッとしたような面持ちで「いつでも戻っておいで!」と温かい言葉を頂き、私はウランバートルに向けて帰るのでした。

ウランバートルへの帰路、お世話になった遊牧民に挨拶

ウランバートルに帰る途中、お世話になった遊牧民のお宅を訪問することになりました。ただし遊牧民に住所などは無いので、この辺かな?と思う地域になると、みんなで双眼鏡を片手に彼らのゲルを探します。無事に合流できた私たちに、遊牧民のご家族はホルホグというモンゴルの国民料理をふるまってくれました。ホルホグは密封できる鍋に羊やヤギの肉と野菜、少量の水を入れ、塩で味付けした後に焼いた石を入れて密封し、蒸し焼きにして作ります。食材にしっかり火が通れば完成なのですが、これがまた絶品でした。

ホルホグの準備。

最後の最後まで楽しく新鮮な日々を過ごさせてくれたモンゴル。生息する魚の数自体は多く無いですが、点在する湖にはノーザンパイクやヨーロピアンパーチが生息しており、タイメン釣りとは違った釣りを楽しむことができました。

ノーザンパイク。

今回は旅程の都合で行くことはできませんでしたが、ヘルレン川水系やゴビ砂漠、北の針葉樹林帯など、見どころも多い国です。またいつかこの魅力的な国に再訪するのなら、次は釣りメインでなく、ゆっくりと各地を見てみたいものです。

みんなでご飯。

アングラープロフィール

前野慎太郎(まえの・しんたろう)

20カ国超!海外遠征を繰り返し「自分だけしか見たことのない景色や魚」を求め、秘境を探しさすらう。地元広島河川のシーバスを始め、国内でもあらゆる釣りにチャレンジ。TULALAフィールドスタッフにして、Routesシリーズ開発担当。XBRAIDサークルメンバー


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