「どうして日本だけ…」魚の漁獲量、世界全体で2倍の増加。日本は3分の1と激減。日本で魚が釣れなくなっている理由。

世界では2倍なのに、日本では1/3に激減。サンマにいたっては9割減、スルメイカ8割減。全滅状態になっているものなーんだ。答えを言うと日本近海での漁獲量!もちろん釣り人に関係のない話ではありません。そう、単純に魚が『めちゃくちゃ』減っているのです。しかも、日本だけですよ?世界一とも言える海を抱えているのにどうしてこうなった!専門家に解説していただきましょう!(文:片野歩)

●文:ルアマガプラス編集部(深谷真)

なぜ魚が釣れなくなって来ているのか? 数字を直視してわかる『惨状』

以前はもっと釣れたのに?そんなことを漠然と思うことはないでしょうか?でもそれは日本で漁獲されている魚の全体像を知ると納得せざるを得なくなります。

農林水産省より2023年の水産物の生産量(漁業+養殖)が発表されました。数量は372万トンと、現在の形で統計を取り始めた1956年以降で過去最低を更新しました。過去最低は毎年のこととなっており悪化が止まる気配はありません。

Point 1 日本の漁業は衰退の一途を辿っている。しかも加速度的に!

前年(2022年)も過去最低でしたが、それに比べて4.9%・数量にして19万トンという膨大な数字です。さらに漁業(前年比4.3%・13万トン減)に留まらず、養殖(前年比6.9%・6万トン)も減少しておりかなりの重傷です

身近な魚の代表格。アジ。この魚でさえ近海の資源量が激減している。

また、世界全体ではFAO(国連食糧農業機関)の数字では、1970年代から1980年代にかけて20年弱世界一の生産量を誇っていた面影はありません。2021年に世界第11位とベスト10から陥落し、2022年には同12位とさらに順位を落としています。また、順位が落ちていくのは他国の生産量が増えているというより、日本の生産量が減り続けているためにずり落ちているのです。

様々な魚が獲れなくなっているため、サンマをはじめあまり食用になっていなかった小さな魚が売られ、しかも価格が高くなるといったことが増えてきています。この傾向は、供給量の減少で今後も強まってしまいます。

Point 2 日本の生産量だけが減り続けている

どんな魚が減っているのか? 答えはほぼ全滅!!!という危機的状態

12年前と比較するとその激減ぶりに驚くはず。2021年から2022年の比較でも、のっぴきならない理由がわかっていただけるかと思います。アジは漁獲量増えてる?捕らなくていいサイズまで採り始めたからと考えるとぞっとしませんか(編集部)

ところで具体的にはどのような魚が減少しているのでしょうか?上の表は最新(2023年)の水産白書からのデータです。2022年の数字は2012年と比較すると16種(その他の魚種は1魚種として)の内、実にイワシを除いたすべての魚種です。なお、ホタテは漁業といっても稚貝をまいている漁業なので除外します。16種中でイワシ類を除いた15種、9割以上で減少しており「全滅」状態なのです。

さらに2022年と2021年の比較でも、ほぼ全魚種が減っていることが表からわかります。これに2023年を比較したら、そのまたさらに減少してしまうのは、2022年よりさらに全体として減っているためいうまでもありません。なお、マイワシは環境要因で大きく変動します。マイワシまで減少に転じたら一体どうなってしまうのでしょうか?

Point 3 もはや日本近海で資源量が回復している種がほとんど存在しないという事実

魚が減っているという問題はメジャーなマスコミではなかなか取り上げられない

ところが、こういった全体の生産量が減り続けている問題がマスコミで扱われることは、ほとんどありません。サンマが、サケが、スルメイカが、サバが、イカナゴが、、、といった個別の報道では全体像がわかりません。また、すでに大きく水揚げ量が減っている前年より少しでも増えると、前年比何割増、何倍といった報道になるので、まるで回復したような錯覚を覚えさせられてしまいます。

残念ながら、まだ効果がある資源管理が適用されていないので、悪くなっても中長期的によくなることはありません。下のグラフ(水産白書)は我が国の生産量が減り続けていることを示しています。

沿岸部はそうでもないんじゃない?と釣り人は安心しないでください。採れる魚は加速度的に少なくなっています。釣り人のみなさんなら『実感』があるはず(編集部)

世界全体では増え続けている『漁獲量』

これが日本だけの事象であれば、やれ温暖化、やれ外国船がと理由をつけることもできるかもしれませんが実情は『日本だけが一人負け』ということに注目してください。日本周辺の海域だけが大きく環境が変わったわけではありません(編集部)

上のグラフは世界全体の生産量のグラフです。減り続ける日本とは対照的に増加が続いています。青の海面漁業が横ばいなのに対して、ピンクと緑の養殖量が増加していることがわかります。水産物の供給のためには養殖業は不可欠になっています。

青の海面漁業は横ばいで推移していますが、これは魚が獲れないので伸びていないということではありません。北欧・北米・オセアニアをはじめ、科学的根拠に基づく資源管理の重要性に気づいている国々は、実際には単年、もしくは数年間は大幅に漁獲を増やすことができることがわかっています。しかしながら資源の持続性を考えて大幅に漁獲を制限しているのです。

Point 4 世界は資源量の管理に真剣に取り組んでいる

科学的根拠に基づき、漁業者や漁船ごとに実際に漁獲できる数量より大幅に少ない漁獲枠が割り当てられています。このため価値が低い小さな魚や、脂がのっていない、おいしくない時期の魚は、自ら獲らないようになる制度なのです。これを個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)などと呼び、譲渡性の有無などによりいくつかのパターンがありますが、乱獲を防ぐという意味で基本は同じです。

小さい魚であっても持ち帰る? 釣りにもキープできるサイズの制限があってもよい。※筆者提供・こちらはリリース。

日本の内水面には、持ち帰ることのできる魚の体長の規定があるが、知っている人が少ない。『小さいと唐揚げにすると美味しい』というような理由で違法にキープされ、顛末はといえば、産卵にたどり着くまで成長する魚がおらず、秋になると資源量が大幅に減る。それを次の解禁のシーズンまでに放流で補填するという悪循環。日本の川に真の天然魚は少ない(特にトラウト/サーモン類、1割もいません)

わが国でもようやく個別割当制度(IQ)の適用が、2020年の漁業法改正があり始まりました。ただし、実際に漁獲できる数量より割当が大きかったり、実際に漁獲されている魚が小さかったりなど、まだまだ運用面での課題があります。漁業者の方に、まだ個別割当制度に関する正しい情報が伝わっていないことは大きな問題です。

世界全体と日本単体を比べるのはおかしい? 世界全体で漁獲量、資源量が増えているのであれば相対的に、日本の漁獲量も上昇するはずですが、下降する一方です。資源管理制度の問題なので、魚を採りすぎる漁師が悪いという回答は不正解です(編集部)

上のグラフは世界全体(赤の折れ線グラフ)と日本の生産量(同・青)を比較したグラフです。世界全体では1980年代の1億トンから2倍に増加して現在は2億トンになっていて増え続けています。対照的に、我が国は同1,200万トンから400万トンと3分の1に激減して、さらに減り続けて悪化が止まる気配はありません。

このように、世界と日本の傾向を比較すると「何故これほどまでに違うのか?」という大きな疑問がわくはずです。我が国では青い折れ線グラフの方しか学校で取り上げないため、水産業は魚が獲れず、後継者もいない厳しい一次産業と習ってしまいます。しかしながら、実際には世界人口の増加と水産物の需要増加を背景にした紛れもない「成長産業」なのです。

Point.5 日本では漁業は斜陽産業。世界では成長産業。

社会科の先生がこういった客観的な事実をする機会がなく、現実を知らずに授業をしていることで、教えられた子供にも水産業に対する誤解が広がり、国民全体が誤解してしまっているのです。

筆者には、拙稿やYoutube(リンク)をご覧になったマスコミ関係者からの問い合わせが増えています。記事を書かれる際には魚が減っていく本当の理由について、「獲り過ぎ」という本質的な内容が伝わるようにしていただければと思います。

片野 歩 (かたの・あゆむ)Fisk Japan 代表取締役。東京生まれ。早稲田大学卒。東洋経済オンライン ニューウェーブ賞受賞(2022 年)。2015 年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990 年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第 2 位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20 年以上毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会) 『日本の漁業が崩壊する本当の理由』、『魚はどこに消えた?』(ともにウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)。連載 東洋経済オンライン 、 Wedge(ONLINE、 魚が消えて行く本当の理由(ブログ) 累計でシェアは累計で 8 万回を超える。世界浮魚協議会でアジアから唯一の評議会メンバー。国内外での講演多数。参議院で講演。日本大学、宮城大学他で特別授業。NHK ラジオ他出演多数。2023 年 12 月に Youtube 「おさかな研究所」を開始。これまでの著書 4 冊は、日本経済新聞、朝日新聞、産経新聞他、全書が書評で紹介されている。


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