釣れた魚のお腹にあったブクブクに膨れたワーム…! 20年以上も続ける調査から見えてきた「塩分」の秘密。

塩の含有率が高く、シンカーがなくともよく飛んで沈みの速いソフトプラスチックルアー“高比重ワーム”。世の中に登場して間もなく半世紀を迎えようとしている今、あらためて、その有効性を使い方と共に検証し、おさらいすると共に、この先のポテンシャルを考察します。

●文:ルアマガプラス編集部

2024 秋エギング特集

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大津清彰(おおつきよあき)
老舗ティムコにてルアー・ロッド開発から各種広報まで担当するマルチプレイヤー。生み出したいくつもの製品がバスフィッシング業界に多大な影響をもたらす大注目の『奇人』。

ノーシンカーリグが基本 使い方はいたって簡単

高比重ノーシンカーワーム(…正確に表現すると“高比重ワームのノーシンカーリグ”ということになりますが、ココではノーシンカーワームとして表記します)。日本ではちょうど5月~9月あたりまで「よく釣れる」ルアーとして昔から使用されるワームのひとつでしょう。ボートからだと、シャローに向かって投げて落とすだけが基本となるこのルアーは、バスたちの生息域が浅い場所に集中する時期にはなくてはならないルアーです。しかも最近では、デプス社のカバースキャットに代表されるような、ボトムでのノーシンカージャークの釣りが普及したことで、シャローだけでなく沖に投げるスタイルも登場。こうなってくると、真冬をはじめ一年中よく釣れるワームとして、さらに確固たる地位が築かれたといっても良いでしょう。

基本的な使い方は「投げて落とすだけ」。皆さんが想像される通り、高比重モデルのノーシンカーリグとしてはこの方法こそが基本であり、また、究極のテクニックと言っても過言ではありません。これは落とす場所さえあっていれば、日本を代表するプロアングラーでも、最近バスフィッシングを始めた方でも等しくバスが食ってくるという事実です。例えば、それがジグヘッドリグやダウンショットリグになると、それぞれワームやリグセットに合った正しい動きを演出しないとバイトは激減します。また、高比重ノーシンカーワームは、シンカーがない関係で他のワームのリグに比べてもスナッグレス効果を高めることができ、結果、根掛かりも少なくなるという、実に使い勝手の良い優秀なルアーでもあるのです。

高比重と低比重論争 適材適所と使い分け

古今東西、釣りというものにおいて、餌(ルアー)を「水の中で自然に漂わす」手法は、魚に違和感を与えないでバイトさせる基本的かつ王道な釣り方です。例えば、キス釣りの天秤仕掛けなど、本来、リールを使用して遠投する投げ釣りでは、イソメなどの餌自体に重さがないため、天秤の「ウエイト(おもり)」を使用することで飛距離を稼ぐ方法が一般的です。しかし高比重ノーシンカーは、ワーム自体に重量があるため、ウエイトを付けずとも遠くへ正確に投げることが可能となります! これは素晴らしいことで、ノーシンカーならばシンカーの存在による動きの不自然さもなく魚にアピールできるのです。例えばシンカー+ワームの総重量が10gのリグと、ノーシンカーで10gのリグとでは、たとえ同じ重量でも水中での動きの自然さが変わってくるのです。

ここでひとつ、天邪鬼的な思考を投げかけてみましょう。先のキス釣り仕掛けもそうですが、ウエイトで飛距離がまかなえるならば、ワーム自体が高比重である必要はないのでは? …という疑問です。どのあたりからが高比重と解釈するか難しい部分もありますが、少なくとも、水中でゆっくり誘いながら落としたいのであれば、高比重である必要はないはずです。また、実際の生物は高比重ワームのような速度で落ちていくことはなく(身体と水の比重差がない)、もっとゆっくりであることもお分かりになるかと思います。実際、魚に対してダイレクトに誘っていくサイトフィッシングで使用されるワームの多くは、もっと低比重で作られることが大多数です。これは私自身の経験値と使い方も含まれますが、確かに少し低比重で、よりゆっくり良く動くノーシンカーワームのほうが食ってくることが多いです。しかも開発者側から考えても低比重のほうが成型の自由度が向上し、より複雑な動きを演出するワームを作ることが可能なのです。

加えてワームを高比重化すると、強度が低下します。それならば、低比重ワームにネイルシンカーを挿入したほうが結果的によく飛び、強度もあり、より動きの良いワームができるのではないか? 実際、このような解釈で新しく釣れるワームが誕生するケースも多々あります。動きを重視することでバスがバイトするという考えは、ルアーフィッシングにおいて基本的な考え方であることは間違いありません。特にワーム本来の動きを重視するメーカーほど、この傾向が見られるといっても良いでしょう。

それでもなお、高比重ノーシンカーワームの存在は揺るぎません。「釣れる」という事実が底支えし、脈々と続く過去からの経験がアングラーに理屈抜きで釣れるという信頼を勝ち取っているのです。

シャイナースティック4in(ティムコ)にて。惜しくも廃盤となってしまったこのシャイナースティックは、塩の量を極限まで多くしているモデル。

高比重ワームがバスに好まれるワケとは?

では将来的に、高比重ノーシンカーワームの使用頻度が低下し、その存在が薄れていく可能性はあるのでしょうか? これに対して、私の答えはNOです。それは、バスが単純に「高比重ノーシンカーワームが好きだから」という理由に他なりません。その点に関して仮説を交え詳しく説明しましょう。

高比重ワームの大半は、塩をワーム素材に混入させることで比重をアップさせています。塩の量が多くなればなるほど重くなるわけですが、実際成型するとなると、40%程度が限界になります。これは塩の量が多くなればなるほど金型への流れ方が悪くなるためで、細やかなパーツ類を設けたい場合は塩の量を減らしていく必要が出てきます。複雑な形状のワームほど塩の量が少ないのはそのため。高比重ワームと言われているそれらのほとんどが、成型の問題でシンプルな形状になっているのです。ワーム本来の動きの自由度が少なくなる高比重化。動きがあった方がワームは釣れそうな気がしますが、実際シンプルな形状でも良く釣れます。これは長年疑問となる事象でした。しかし私は20年以上続けているバスの胃の内容物を調べる行為「ストマック調査」によって、その疑問に対するひとつの答えを導き出しています。

釣ったバスの胃の内容物を調べる行為では、残念ながら飲まれたワームが出てくることがあります。世間一般でよく売れている、釣れると言われているワームほど飲まれているのかと思いきや… 実はここで出てくるワームの多くが、塩を多く含んだ高比重ワームなのです。しかもハリがなく、塩分が抜けてスカスカの状態で出てくることも。果たして、このデータは一体何を示すのでしょうか?

ベイトフィネスジグ+ゲーリーフラッピンホグJrにてキッカーフィッシュ。ラバージグのトレーラーとしても、高比重ワームは相性抜群!

塩分濃度と浸透圧の関係 淡水魚は塩分を欲する!?

淡水魚の性質として、体内の浸透圧は水中よりも高く、生活しているだけで水分が絶え間なく体内に侵入してきます。そのため、大量の尿としてその水分を排出し、体内の浸透圧を調整しています。それと同時に、体液の塩分濃度を維持するために、淡水魚はエラから水中に含まれる微量の塩分を吸収する仕組みを持つのですが、さらにもうひとつ、餌から塩分を効率良く吸収する仕組みも持ち合わせているのです。

以上の点を考えてみると、塩が多く含まれている高比重ノーシンカーワームがバスに好まれる理由も見えてくるのではないでしょうか? それは、ワームの高比重化という単純な回答が釣果をもたらすのではない、あくまでも副次的作用として「バスは塩気の多い(しょっぱい)ものが好き」という結論です。人間を含めた陸上動物たちは塩分が多いものを本能的に好む傾向があります。そのことがバスという淡水魚にも当てはまるのではないか? ということです。これが、高比重系のワームが釣果に結び付く理由です。しかし残念ながら、現在の日本において私のような立場の人間がこれ以上の研究を行うことは難しく、仮説の域を出ることはありません。

ワームの良さはマテリアルで決定される、という言葉があります。例えば、ゲーリーヤマモト社が釣れることは知られているところですが、確かにゲーリー素材はどんな形状に成型されても良く釣れます。ゲーリーマテリアルは高比重… すなわち大量の塩を含みます。塩気が多いゆえにワームを口にしたバスが離さない。その結果として数多くのバスがキャッチされる。もちろん、釣れる高比重ノーシンカーワームはゲーリーブランド以外にもたくさんありますので、ひとつ検証してみるのも価値はあるでしょう。塩がどのように混入され、どのくらい入っているのか? 味やにおいなども含めてバスがルアーを口にする理由は様々です。ワーム本来の動きだけではなく、こんなことを考えながら高比重ノーシンカーワームを選んでみると、さらに釣果に結び付くかもしれません。

塩入り高比重ワームは塩が染み出しやすい。淡水の水中では浸透圧の関係上、逆に塩分が抜けて膨張する。

海水魚と淡水魚では、浸透圧の仕組みが全く逆となる。体内の塩分濃度が薄くなる傾向の淡水では、食物から塩分を取り込む必要があるのだ。

バックスライドホッグ(ゲーリーヤマモト)で釣ったBIGバス。私の利根川自己記録はやはりゲーリーマテリアルで釣っているのです。


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