継続中のクロマグロ問題! 釣りのための『枠』はどうなるべきか【日本の海だけ魚が居なくなる!】

さて、歪ともいえる日本の魚族資源に関する管理実態。それが表面化してクローズアップされているのがクロマグロに関するお話。クロマグロの資源回復に関しては『日本』がイニシアチブを握っている状態だとか。未来に繋げていくためにも、正しい現状を把握すること。感情論ではなく数字からそれを紐解く、片野歩さんの見解を見ていこう。

●文:片野歩

2024 秋エギング特集

クロマグロの漁獲枠の増加で釣りはどうなるのか?(以下:片野歩)

クロマグロの資源が回復してきたので、漁獲枠が増えるというニュースを聞かれたことがあるかも知れません。

2024年7月に釧路で太平洋クロマグロの資源管理に関する国際会議が行われました。国際的な圧力により厳格な資源管理が行われ、徐々にですが資源が回復してきています。

2024年11月~12月に開催されるWCPFC(中西部太平洋マグロ委員会)で正式に決定される予定ですが、2025年以降に大型魚(30キロ以上)は1.5倍(約2,800㌧)、小型魚(30キロ未満)は1.1倍(400㌧)にそれぞれ漁獲枠を増やす案で合意されています。

資源が回復して漁獲枠が増えるのは良いことです。ところで毎月解禁しても、すぐに漁獲枠がいっぱいになりクローズになっているマグロ釣りはどうなるのでしょうか?

30キロ未満のクロマグロ

クロマグロの成長について 水産庁

まず30キロ未満のクロマグロの話です。皆さんは釣りでは30キロ未満のクロマグロは採捕禁止なのをご存じでしょうか?意図せず釣れてしまった場合は、直ちに放流しなければなりません。30キロ未満でも釣りのターゲットとしては巨大ですが、30キロあっても、20%しか成熟していないのでまだ子供の魚なのです。

成長する前の魚を獲ってしまえば「成長乱獲」が起きてしまいます。このため大西洋では30キロ未満の小型クロマグロは原則漁獲禁止です。一方で、太平洋では日本がその小型クロマグロの8割強を漁獲しています。

小型魚を漁獲しても、活かしたままで養殖(畜養)に利用するならまだ良いのですが、多くがメジマグロ、ヨコワ、本マグロの子などの名称で流通されています。 簡単に言えば、もっとも保護すべき資源を日本は積極的に漁獲していると言い換えることができるかもしれません。

(編集部注釈)簡単に言えば日本の30kg以下のクロマグロの漁獲はクロマグロの資源管理の上で世界的に見てもボトルネックになっているということ。この成長乱獲を管理するということが、資源回復の有効な一手ということです。

太平洋クロマグロの未来は我が国次第

(WCPFCの資料より筆者作成)

上の表をご覧ください。太平洋クロマグロ漁業で、日本の漁獲枠のシェアは全体で75%、小型については86%と大半を占めています。他の漁業国からすれば、資源の持続性、成長乱獲を防ぐために、日本に小型のマグロの漁獲をしないで欲しいと思っていることは疑いの余地もありません。

つまり、成長乱獲に繋がる30kg以下の個体の採捕を、日本は特に制限・規制する必要があるということです。

重要な漁獲枠の配分、釣りのための枠を増やすことは実は有効

(編集部注釈)釣りのためのクロマグロの漁獲枠を増やすというのは、実は資源管理の面でも有効という話が下記にデータで示されます。これは釣り人擁護という観点ではなく、全体の長期的なクロマグロの資源管理において有効な手段です。ここでは『釣り』について話をしていますが、沿岸漁業者へのクロマグロの捕獲枠を増やすことも有効な手段として提示しています。この理屈は簡単で、大型船の漁獲能力が段違いで資源減少へのインパクトが大きいからです。では、片野さんの解説をご覧ください。

さて、これから国内でのクロマグロの枠の配分が大きな議題になってきます。日本では、釣りの漁獲枠ができたものの、年間で40㌧と漁獲枠に占める比率はわずか0.4%となっています。

現在の状況は、漁獲枠がタイトなためマグロ漁に出られない一本釣り漁船や、マグロを獲っても水揚げできない漁船があります。一部は海上投棄しているという報道さえあります。

また、マグロの釣り船は、月ごとに枠が決まっていて、同じくタイトなために月が替わって釣りが再開できても、数日でクローズになっているケースが続いています。

マグロ釣りに行くのにマグロが釣れないのであれば、キャンセルせざるを得ませんので地元経済にも影響が出ています。

海外との釣りに対する漁獲枠配分の比率。

次に海外と比較してみることで日本の漁獲枠の配分についてみてみましょう。

1)米国との比較:まず米国と比較してみましょう。

2022年で太平洋での釣りが占める数量は1,367㌧で比率は約8割(78.7%)となっています。米国では経済効果が大きい釣りの配分が非常に大きくなっています。

出典 ISC

2)ノルウェーとの比較

(出所 ノルウェー青物漁業協同組合の資料を筆者がまとめたもの)

次にノルウェー(タイセイヨウクロマグロ)と比較をしてみます。上の表はノルウェーでのクロマグロの枠の配分です。同国では沿岸漁業に配慮した配分が行われています。そもそも大型の漁船には枠が配分されておらず、15メートル以下の小さな漁船に限っての配分となっています。

比率から、日本の釣りとタグ付けリリースの数量を単純に試算すると、約300㌧にもなります。

3)日本の場合

水産庁資料を編集

最後に我が国の配分です。大中巻き網漁船向けに約半分となっており、沿岸漁業への配慮という観点で、ノルウェーとは大きく異なっています。SDGs14.b(海の豊かさを守ろう)の中には「小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する」とあります。

水産資源は『国民の共有財産』という世界の認識に日本も追従するべき

本来筆者は、水産資源は「国民の共有財産」(EU、ノルウェー、オーストラリアなど)として、どうやったら持続的かつ経済的に効果があるかが国内で議論されるべきではないかと考えています。またステークホルダーを偏らずに招集して議論することも大切です。

そうでないと、漁業者間、もしくは漁業者と釣りの間で思い寄らぬ軋轢や問題が起きてしまう恐れがあります。

将来のために必要なこと

大切な水産資源です。本来必要なことは、マグロが増えたからたくさん獲りたいといった単純なことではないはずです。

増えたといっても、太平洋クロマグロの資源は、少しずつ回復している途中にすぎません。日本が主導してマグロ資源の将来を決める位置にあります。まずは、小型クロマグロの枠では保留枠を増やして鮮魚などで流通することを抑制し、畜養に回す分に限るといった配分が将来につながります。

また、枠の配分は特に沿岸漁業者、そして遊漁への配分比率を大幅に増やすべきです。そして資源量が大西洋並みに増えるようになったら大型漁船への配分を増やすといったノルウェーでマダラの枠を配分する際に使っている手法を取り入れるべきです。

そうすれば、資源だけでなく、漁業者間の関係も改善していくことができるのです。もちろん、大型のクロマグロがたくさん釣れる海に戻ることは言うまでもありません。

片野 歩 (かたの・あゆむ)Fisk Japan 代表取締役。東京生まれ。早稲田大学卒。東洋経済オンライン ニューウェーブ賞受賞(2022 年)。2015 年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990 年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第 2 位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20 年以上毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会) 『日本の漁業が崩壊する本当の理由』、『魚はどこに消えた?』(ともにウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)。連載 東洋経済オンライン 、 Wedge(ONLINE、 魚が消えて行く本当の理由(ブログ) 累計でシェアは累計で 8 万回を超える。世界浮魚協議会でアジアから唯一の評議会メンバー。国内外での講演多数。参議院で講演。日本大学、宮城大学他で特別授業。NHK ラジオ他出演多数。2023 年 12 月に Youtube 「おさかな研究所」を開始。これまでの著書 4 冊は、日本経済新聞、朝日新聞、産経新聞他、全書が書評で紹介されている。


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