「ルアーをデカくする理由?」「半分以上はロマンです」痴虫の新作がジョイントベイトのダブルスイッシャーである理由。

デカトップとフローティングのビッグベイトは本質的になにが違うのか? 誰も答えを知らない問いを、痴虫は今日もぐるぐると考え続けている。

●文:ルアマガプラス編集部

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水面用ビッグベイトの模索

痴虫・松本光弘さんがここしばらく血道をあげて取り組んできたのが“ビッグベイト”である。昨年、自身にとって第2弾のマスプロダクトモデルとなる「牛ネズミ」を発表したばかりだ。

ボディー本体が120mm、重量は2ozクラス(約56g)。これまで世に放ってきた痴虫ルアーと比較して飛び抜けて大きいわけでもないので、ビッグベイトではなく“でかトップ”のくくりに入れても問題はないはず。

それでも松本さんにとって「牛ネズミ」の開発は、あくまでも“ビッグベイト”という、未知のジャンルへの新しい挑戦だったという。

痴「ジョイクロやマザーなどが登場してビッグベイトブームが巻き起こった時代に、僕は乗り遅れてるんです。トッパーには関係のないものだとスルーしてしまった。今になって自分なりのビッグベイトを作りはじめて、勉強を深めるなかで、たくさんの発見がありました」

たとえば、ビッグベイトは集魚力が強いためチェイスが多発する、という一般論がある。H-1グランプリなどの大会にもガチ参戦している松本さんは、こうした魚探的な役割にも期待を寄せていた。

痴「だけど、実際には牛ネズミを投げていてもぜんぜん追ってこなかった(笑)。食うときはチェイスなしにいきなり出るんです。常に水面に浮いていると、ボディーサイズだけでは魚をひっぱれないことがある。これまでの自分がプロペラやブレードなどのギミックにどれだけ頼っていたのか、あらためて気づかされました」

オモテとウラ

痴「牛ネズミは僕なりに王道のビッグベイトを作ったつもりでした。スローフローティングやサスペンドの設定ではなく、高い浮力を持たせたまま、キレのある動きやスピードを生かしたアプローチができるようにしてあります。ただ、これはあくまで“オモテ”のルアーなんです。やる気のあるフィーディングモードの魚だったり、不機嫌な魚にスイッチを入れるためのルアー。オモテがあるなら、当然“ウラ”も必要になってくる」

松本さんが通う関東のフィールドでは、常に胃もたれ&二日酔いのような魚が多いと松本さんは感じていた。オモテのルアーだけでは勝負できない、いわゆるニュートラルな状態のバスを獲るための“ウラ”として考案したのが「ビッグベイトのダブルスイッシャー」だった。

痴「5年ほど前、ジーニアスJr.のボディをカットして前後にペラをつけてみたのが発端でした。ただ、なぜこれを作ろうと思ったのか、不思議とその頃の記憶がないんです。冬の釣れない時期にいじくっていたルアーのひとつだった気がしますが」

動かしてみると興味深い発見があった。首を振らせて止めた瞬間、余韻でスーッと漂うような挙動を見せたのだ。

痴「こんな動きのダブルスイッシャーは見たことがなかった。浮力が高いとダメなんです。比重を高くして慣性が働くと、こういうアクションになる。以前、シードライブ(エバーグリーン)にプロペラをつけた『S字のダブルスイッシャー』を試したことがあって、まったく動かずに断念したんですが、これなら別の方向性でカタチにできるんじゃないかと」

デカいルアーを作る意義

その後、形状を変更して約180mmの扁平なボディーになったのが「牛メキシコ(仮称)」の最新プロトモデルだ。ここから微調整を加えて今年度中にはウッドモデルを限定発売、さらにプラスチック化も予定しているという。

痴「ダブルスイッシャーって、トッパーのなかでは“いちばん褒められないルアー”なんです(笑)。釣れて当たり前。ノーテクニックで巻くだけでいい。“ウラのルアー”だからこそ、とにかく1尾がほしいときに手が伸びるものにしたかった。だからダブルスイッシャーを選びました」

基本の操作はスローなただ巻き、あるいはロッドワークによるデッドウォーク。巻いている途中にポーズを入れると「カクン」とジョイント部が折れ曲がるので、そのワンアクションがトリガーになることも意図している。

痴「いきなり朝イチから投げるルアーではないです。いろんな魚を反応させてしまうので、逆に状況判断がしづらくなる」

最後に根本的な疑問をぶつけてみた。なりふり構わず釣りたいのが“ウラのルアー”であるならば、ビッグベイトにこだわらず、普通の小型ダブルスイッシャーを使えばいいのでは?

痴「そういうルアーも作りますが、同時に自分の上限も広げていきたい。モノを作って発表している人間が、可能性を追わなくなったら終わりでしょ? ビッグベイトのブームに乗り遅れた自分だからこそ、このジャンルでひとつでも新しいモノを作り出すことができたら、“痴虫”が存在する意義があるんじゃないかと思ってます」

現在の日本における釣果最優先のトップウォーターは? ひとつの答えが「小さい海馬75」のダブルスイッシャーモデルだという。

金属パーツを封じ、ビッグベイトの王道を模索した「牛ネズミ」。どこからが“ビッグ”なのかは主観的な問題だが、松本さんにとっては2ozが境界線。

牛メキシコ(仮称)

スローフローティングのジョイントボディーに前後ふたつのプロペラを装着した痴虫のNEWアイテム。
「でかくなればなるほど釣りづらくなる(by松本)」ビッグベイトを、いちばん釣れる自信のあるダブルスイッシャーにしたアンビバレンツな存在でもある。現段階では51g・全長約180mm(下)だが変更の可能性あり。上は「スライドスイマー250を意識しすぎてこうなった」という試作品だ。

ルアーをデカくする理由? 半分以上はロマンです

「牛メキシコ(仮)」の発端になったプロトモデル。もはや作った理由すら覚えていないが、新しいモノはこうしたひらめきから生まれることも多いとか。

男はロマンだニャ

profile

松本光弘(まつもと・みつひろ)
1977年大阪府出身。トップウォータールアーブランド「痴虫」代表。ハンドメイドのウッドルアーからキャリアを開始し、「海馬」「カブメス」シリーズなどが高い評価を受ける。近年はプラスチック製の「プラカイバードミニ」「牛ネズミ」を発表、全国にファンを増やし続けている。


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