「ルアーをデカくする理由?」「半分以上はロマンです」痴虫の新作がジョイントベイトのダブルスイッシャーである理由。

デカトップとフローティングのビッグベイトは本質的になにが違うのか? 誰も答えを知らない問いを、痴虫は今日もぐるぐると考え続けている。

●文:ルアマガプラス編集部

2024 秋エギング特集

水面用ビッグベイトの模索

痴虫・松本光弘さんがここしばらく血道をあげて取り組んできたのが“ビッグベイト”である。昨年、自身にとって第2弾のマスプロダクトモデルとなる「牛ネズミ」を発表したばかりだ。

ボディー本体が120mm、重量は2ozクラス(約56g)。これまで世に放ってきた痴虫ルアーと比較して飛び抜けて大きいわけでもないので、ビッグベイトではなく“でかトップ”のくくりに入れても問題はないはず。

それでも松本さんにとって「牛ネズミ」の開発は、あくまでも“ビッグベイト”という、未知のジャンルへの新しい挑戦だったという。

痴「ジョイクロやマザーなどが登場してビッグベイトブームが巻き起こった時代に、僕は乗り遅れてるんです。トッパーには関係のないものだとスルーしてしまった。今になって自分なりのビッグベイトを作りはじめて、勉強を深めるなかで、たくさんの発見がありました」

たとえば、ビッグベイトは集魚力が強いためチェイスが多発する、という一般論がある。H-1グランプリなどの大会にもガチ参戦している松本さんは、こうした魚探的な役割にも期待を寄せていた。

痴「だけど、実際には牛ネズミを投げていてもぜんぜん追ってこなかった(笑)。食うときはチェイスなしにいきなり出るんです。常に水面に浮いていると、ボディーサイズだけでは魚をひっぱれないことがある。これまでの自分がプロペラやブレードなどのギミックにどれだけ頼っていたのか、あらためて気づかされました」

オモテとウラ

痴「牛ネズミは僕なりに王道のビッグベイトを作ったつもりでした。スローフローティングやサスペンドの設定ではなく、高い浮力を持たせたまま、キレのある動きやスピードを生かしたアプローチができるようにしてあります。ただ、これはあくまで“オモテ”のルアーなんです。やる気のあるフィーディングモードの魚だったり、不機嫌な魚にスイッチを入れるためのルアー。オモテがあるなら、当然“ウラ”も必要になってくる」

松本さんが通う関東のフィールドでは、常に胃もたれ&二日酔いのような魚が多いと松本さんは感じていた。オモテのルアーだけでは勝負できない、いわゆるニュートラルな状態のバスを獲るための“ウラ”として考案したのが「ビッグベイトのダブルスイッシャー」だった。

痴「5年ほど前、ジーニアスJr.のボディをカットして前後にペラをつけてみたのが発端でした。ただ、なぜこれを作ろうと思ったのか、不思議とその頃の記憶がないんです。冬の釣れない時期にいじくっていたルアーのひとつだった気がしますが」

動かしてみると興味深い発見があった。首を振らせて止めた瞬間、余韻でスーッと漂うような挙動を見せたのだ。

痴「こんな動きのダブルスイッシャーは見たことがなかった。浮力が高いとダメなんです。比重を高くして慣性が働くと、こういうアクションになる。以前、シードライブ(エバーグリーン)にプロペラをつけた『S字のダブルスイッシャー』を試したことがあって、まったく動かずに断念したんですが、これなら別の方向性でカタチにできるんじゃないかと」

デカいルアーを作る意義

その後、形状を変更して約180mmの扁平なボディーになったのが「牛メキシコ(仮称)」の最新プロトモデルだ。ここから微調整を加えて今年度中にはウッドモデルを限定発売、さらにプラスチック化も予定しているという。

痴「ダブルスイッシャーって、トッパーのなかでは“いちばん褒められないルアー”なんです(笑)。釣れて当たり前。ノーテクニックで巻くだけでいい。“ウラのルアー”だからこそ、とにかく1尾がほしいときに手が伸びるものにしたかった。だからダブルスイッシャーを選びました」

基本の操作はスローなただ巻き、あるいはロッドワークによるデッドウォーク。巻いている途中にポーズを入れると「カクン」とジョイント部が折れ曲がるので、そのワンアクションがトリガーになることも意図している。

痴「いきなり朝イチから投げるルアーではないです。いろんな魚を反応させてしまうので、逆に状況判断がしづらくなる」

最後に根本的な疑問をぶつけてみた。なりふり構わず釣りたいのが“ウラのルアー”であるならば、ビッグベイトにこだわらず、普通の小型ダブルスイッシャーを使えばいいのでは?

痴「そういうルアーも作りますが、同時に自分の上限も広げていきたい。モノを作って発表している人間が、可能性を追わなくなったら終わりでしょ? ビッグベイトのブームに乗り遅れた自分だからこそ、このジャンルでひとつでも新しいモノを作り出すことができたら、“痴虫”が存在する意義があるんじゃないかと思ってます」

現在の日本における釣果最優先のトップウォーターは? ひとつの答えが「小さい海馬75」のダブルスイッシャーモデルだという。

金属パーツを封じ、ビッグベイトの王道を模索した「牛ネズミ」。どこからが“ビッグ”なのかは主観的な問題だが、松本さんにとっては2ozが境界線。

牛メキシコ(仮称)

スローフローティングのジョイントボディーに前後ふたつのプロペラを装着した痴虫のNEWアイテム。
「でかくなればなるほど釣りづらくなる(by松本)」ビッグベイトを、いちばん釣れる自信のあるダブルスイッシャーにしたアンビバレンツな存在でもある。現段階では51g・全長約180mm(下)だが変更の可能性あり。上は「スライドスイマー250を意識しすぎてこうなった」という試作品だ。

ルアーをデカくする理由? 半分以上はロマンです

「牛メキシコ(仮)」の発端になったプロトモデル。もはや作った理由すら覚えていないが、新しいモノはこうしたひらめきから生まれることも多いとか。

男はロマンだニャ

profile

松本光弘(まつもと・みつひろ)
1977年大阪府出身。トップウォータールアーブランド「痴虫」代表。ハンドメイドのウッドルアーからキャリアを開始し、「海馬」「カブメス」シリーズなどが高い評価を受ける。近年はプラスチック製の「プラカイバードミニ」「牛ネズミ」を発表、全国にファンを増やし続けている。


※本記事は”ルアーマガジン”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。