フライパンにすっぽり収まるとして“パンフィッシュ”と称される程体高のある魚、ブルーギル。本場アメリカはもとより、日本においてもバスのメインベイトとして認知されているとおり、数多のメーカーがギルタイプのルアーを輩出しているが、果たしてその本質とは如何に?
●文:ルアマガプラス編集部
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大津清彰(おおつ・きよあき)
老舗ティムコにてルアー・ロッド開発から各種広報まで担当するマルチプレイヤー。生み出したいくつもの製品がバスフィッシング業界に多大な影響をもたらす大注目の『奇人』。
魔訶不思議なギル型ベイトの本質を暴く
摩訶不思議な扁平ルアー【ギル型】 と呼ばれる所以
バスと同じく、スズキ目サンフィッシュ科に分類されるブルーギルという魚。この魚は、私が長年行っているバスの胃の内容物調査「ストマック調査」の結果からしても、実によく食べられている存在です。
これは、多くのアングラーが考えている通り、バスのメインベイトのひとつになっていると断言しても良いと思います。ため池やリザーバーの他、様々な場所にバスとともに棲んでいる… そんなバスの隣人ともいえるブルーギルに関して、今回は考察してみましょう。
ブルーギルの外見的特徴としては、「やや扁平な魚である」ということが挙げられます。魚類はその性質や習性など、種の誕生と進化の過程における様々な要因によって、その形状は万別です。とはいえ、水中で生活する生物というジャンルでくくっていくと、その形状は大雑把ではありますが、数種に分類が可能です。
その意味では、ギルやヘラブナといった扁平な魚は、オイカワやワカサギのような細身の魚と比較しても素早く泳ぐことは苦手だと想像できます。無論、複雑な魚類社会の中では例外もありますが、遊泳力が強い魚はやや細長い形状か紡錘形をしていることが一般的です。
ブルーギルも同じく、素早く動くことが苦手な魚類と言えるでしょう。ただ、素早く逃げることが苦手だからといって、それが、バスから捕食されやすい直接の要因であると決めつけるのは早計かなと。
ということで、まずはブルーギルが生息している場所を考えてみましょう。ブルーギルは常に流れの緩やかな障害物近くで生活し、ワカサギのように湖のど真ん中にいることはまずありません。オイカワのように素早くバスの攻撃から逃げることはできませんが、ブルーギルは、危険を感じた瞬間に障害物に逃げ込むことを得意としており、この辺りはエビやゴリの逃げ方と似ているともいえます。
忘れてはいけませんが、どんな生物も肉食生物に襲われれば逃げるのです。その逃げ方は種類によって様々ですが。
“ラージマウス”バスに好まれるギルのサイズとは?
バスにとっては、ブルーギルは、オイカワのように浅い場所や水面に追いやって捕食するような追い込み型の狩りで捕食するスタイルとは異なり、静かに身を潜めて待ち構えることで、至近距離で一気に捕食する吸い込み型の捕食スタイルで狩りを行います。
そのため、ブルーギルがメインベイトとなってくるフィールドでは、ほとんどのケースでバスの口径が大型化する傾向が見られます。これは、一気に餌を吸い込むときに有利になるためだと考えられます。
バスの好物とされているブルーギルですが、実際に調べてみると、その捕食されているサイズは想像と異なることが分かります。実は、私たちアングラーが考えているより、はるかに小さなサイズが数多く食されているのです。
これが何を示すのか。バスという魚の性質にも繋がる部分なのですが、一般的にアングラーがよく使うとされる、3~4in(10~12cm前後)程度のギル系ルアーサイズのブルーギルが食べられていることは、ほとんどありません。
それは、バスが餌を口にした際、我々人間のように歯を使って食材を嚙みちぎることができないためです。つまり、バスは自身の咽喉部の広さ以上のブルーギルを飲み込むことは物理的に難しいのです(もちろん、55cmを越えてくるようなランカーサイズのバスに関しては、大きなブルーギルを捕食対象にしているのですが…)。
バスの平均的サイズ、たとえば40cm前後のバスにとって、ブルーギルは格好の餌ではあるものの、4~5cm程度の小型のギル以外は大型の鯉やニゴイと同様、食べることができない存在なのです。
にもかかわらず、バスは、確実に大型のギルルアーを口にします。これは何故か? バスの食性とは異なる要素でのバイト… いわゆる好奇心による「リアクションバイト」の割合が実は高いのではないかと私は考えています。
ルアーフィッシングは多彩な要素によって成立しています。マッチ・ザ・ベイト的な一面的な見解だけではなく、様々な角度から考え、理解する必要があります。そう考察していくと、従来捕食しているベイトとはかけ離れたサイズや形状のルアーを口にするバスの行動は、マッチ・ザ・ベイトだけで理解するのには少々無理があることが分かります。
食性?orリアクション?・・・ブラックバスが体高のある扁平なベイトを好む理由を考察
奥が深すぎるギル型ルアーキーワードはタテとヨコ
そんな「食わせ要素」と「リアクション要素」を併せ持つギル型ルアーですが、突き詰めていけばいくほど、この企画内ではすべてを語れないくらい深い要素を持っていると考えています。なので今回は、個人的に最重要と捉えている要素に絞って皆様にお伝えしたいと思います。
ひとつに、ギル型ルアーを縦で使うか、横で使うか、といった考え方です。縦で使用するルアー、例えばゾーイに代表されるハードルアーは明らかにギル個体を意識したもの。それもそのはず、ゾーイは本物のギルから型を取って、かつ、本物から採取した模様をもとに彩色しているからです。
ちなみに、魚類は我々人間のようなモノの見え方とは少し異なる認識する力を持っていることが証明されています。魚の視覚は重要な部分を誇張し、重要ではない部分を省略して見るメカニズムになっています。
その一方で、形状識別能力は抜群で、人間が見分けることが絶対不可能なわずかな幾何学模様の差も識別することが可能です。おそらくバスたちは、このゾーイがもつ扁平であるという部分を誇張してギルだと認識し、他のルアーとは違う… 極めて本物に近い模様の部分にさらなる興味を抱き、バイトしてくるのでは? と私は考えています。
横に使用するブルフラットのようなソフトルアーは上記の考え方とは異なります。これは、通常縦で泳いでいるブルーギルが横になっている…すなわち、弱っていると認識してバスが興味を持ち、口を使っている可能性があるということです。
肉食生物は、群れの中でも弱った個体に狙いをつけて狩りを行うことは普通の行動。例えば、針に掛かってしまったギルに対し一気に襲い掛かるバスの行動は、間違いなく、群れから逸脱したギルと判断しての狩りを行っている証明です。
また、横にスライドしながら落ちていくこれらのワームは、受ける水圧によって不規則なフォール姿勢を演出することがあります。まっすぐ落ちていくだけのルアーではないという部分にも興味を持つ、ということでしょう。
ギルが生息していなくても釣れるのが『ギル』ルアー
最後に、ギル型を含めた扁平なルアーが持つ幻惑効果についてお話したいと思います。
『形状が変化し続けるルアーは見切ることができない』
これは、一部でささやかれているバスフィッシングの説です。例えば、ストレートワームやラバージグなどのルアーは、シェイクしている間は形が変化し続けるため、バスが偽物だと見切ることができないという説です。
扁平な形状は、垂直方向と水平方向の面積が極端に異なります。幅広と幅狭の両極が交互に、もしくはイレギュラーにアクションし、その動作を繰り返すことで上記と同じような効果が出やすなるのが、ギル型ルアーなのではないか? という考え方です。
例えば、ノリーズのフリップギル。このルアーは特別薄く作られていますが、横から見ている大きさと、正面から見ている大きさがあまりにも異なることから、その要素がバスを惹きつけているのではないかと考えています。
以上、様々な角度からギル型ルアーに関して考察してみましたが、いかがでしたしょうか? ここまで書いておきながら、私としても、なぜ釣れるのかを本当はよく理解していないというのが本音です(笑)。
理屈から生まれることの方が少ない… これは釣れるルアーの傾向として言えることなのですが、テストの結果としてはよくわからないがたくさん釣れた、というルアーが後に名作となるパターンが圧倒的に多いのです。
例えば、定番となったバズベイトやスピナーベイトが理詰めによって誕生したとは到底思えないのです。おそらく「試してみたらよく釣れた」もしくは「ネタで作ってみたが何故か釣れて定番化した」のどちらかでしょう。
しかし、アングラーにとっては、理屈はどうであれ釣れることが大切です。ギル型ルアーも同様で「確実に反応が良い状況がある」という点を理解していることが何よりも重要なのではないでしょうか? ブルーギルがほとんど生息しないフィールドでも効果的なことがありますし、特定の時期だけ強烈に釣れる場所も存在します。
「今投げているルアーに反応が鈍いので投げてみる」
…まずは、そういった認識が必要なのだと思います。
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