「“これ”を見たらすぐ逃げて」クマが近くにいる2つのサイン。過去には悲惨な事故も…。

ニュースなどで頻繁に目にするようになったクマと人との遭遇。人間の生活圏内での出没情報も聞かれるようになった今、自然と親しむ釣り人は、どのような対策ができるのか?今回は、クマが残す2つのサインについて解説。クマが出没する地域ではとくに気を付けたい内容だ。

●写真/文:小川 貴恵(エクストリーム)

クマは自分の存在をサインで残す

静かに降る雪とマイナス気温に凍える真冬の北海道で「今年もこの季節がやって来たか…」と憂鬱になりながらも、冬のアイスバーンの運転ですら、これぞ冬の醍醐味だと楽しんでいる生粋の道産子の小川貴恵です。

前回の記事ではクマスプレーについて書かせていただきましたが、今回からヒグマとの遭遇を避けるために知っておくべき事について、「見逃しがちなヒグマのサイン」という内容で私の経験なども含めてお話していこうと思います。

不意な遭遇を避けるために

ヒグマは行動をする上で様々な形で存在のサインを出したり残したりしています。ホイッスルやクマ鈴などの装備以外に、この「サイン」について理解しておくと、より不意な遭遇を避けることが出来ると思うのです。

以前の記事でも書きましたがヒグマは本来、行動が慎重で人を避けると言われております。ばったり出くわすような不意な遭遇は、人身事故に繋がるので避けなければなりません。

様々な「サイン」がありますので数回に分けてお話して行こうと思いますが、まず今回はある程度見つけやすいヒグマの足跡とフンについてお話をさせていただこうと思います。

クマが残すサインその1‟足跡”

砂地や土などの地面にくっきりと残されることが多いので一番見つけやすい痕跡だと思います。後足の跡が、前足の跡のすぐ前につく場合が多いです。

ヒグマの足跡があるとそこにはヒグマがいる(いた)ということは一目瞭然です。ヒグマの足跡を見つけたら慌てず、周りを見渡し安全確認をしてすぐにその場から立ち去ることをお勧めします。

明らかに数日経っているものであっても、ヒグマが近くにいる可能性があるので過信は禁物です。どこかに身を隠している可能性もありますし、これから再びその場所を通るかもしれないのです。

クマの足跡を見たらその場から離れるべし。

ただ、足跡は砂利や岩がごろごろしているような場所では見つけにくいので足跡がないからといって油断は出来ません。

足跡でクマの大きさを判断できる…?

足跡といえば皆さんがニュースで聞いていた巨大グマ「OSO18」という名称を覚えていますでしょうか。 「OSO」は被害が発生した標茶町オソツベツの地名、そして「18」は前足の幅(前掌幅)の事です。

前掌幅を計測することで、そのヒグマのオス・メス、あるいは子グマかどうかを判別できる場合があります。ヒグマの前足の跡には爪や指の跡が残る場合が多く、人間の手のひらのような少し丸みがある足跡です。

歩き方は蹠行性(人と同じようにかかとをつけて歩く動物)。そのため、後足の足跡は前足よりも縦長についているので大きくインパクトがありますが、ヒグマの足の大きさを語る上でここを間違う方も多くいらっしゃると思います。

クマが残すサインその2‟フン”

フンはヒグマが今どんなものを食べているかなどを知る貴重な手がかりになります。見つけやすくわかりやすい痕跡であり、林道や渓流の山沿いの茂み近くなどに見かける事が多いです。そしてヒグマのフンも足跡と同様に見つけたらその場を立ち去る事をお勧めします。

「フン」と聞くと頭の中で一般的に汚い画像を思い浮かべる方がきっと多くいらっしゃると思いますが、ヒグマのフンはちょっと想像と違うかも知れません。フンを見て季節的な食性を知り、気を付ける事が出来るのでそれほど汚いものではない…。と思うのは私だけですかね?(笑)

ヒグマは消化があまりよくないので、食べたものがそのまま出てくることが多いというちょっと変わった特徴があります。

春から初夏に見られる緑のフン

春から初夏にかけてよく見られるフンは、フキなどの草木類を含んだフンです。繊維質が消化されずそのまま残っているフンをよく見かけます。比較的新しいフンだと緑色が残っています。

フキなどの草木類を含んだフン

秋に多い2種類のフン

秋にかけてよく見られるフンは、クルミやドングリなどの堅果類タイプのフンと、コクワ(サルナシ)やヤマブドウなどの液果類を含んだフンです。

堅果類タイプのフンはクルミなどの殻が消化されずに残っていたりします。

クルミなどの殻が残っている堅果類タイプのフン

液果類タイプのフンといえば、昨年コクワ(サルナシ)を食べたヒグマのフンを見つけたのですが、時間もあまり経過しておらず色も形も鮮やかでまるでジャムの塊がドサッと落ちているような感じでした。

フンは時間が経つと酸化して変色するので新しいものかどうか判別がつきやすいです。そして、基本的に不快な臭いがほとんどなく果実由来のフンであればその果実の臭いが少しある場合があります。

小川さんがみつけた液果類を含んだタイプのフン。不快な臭いはほとんどしなかったという。

このような特徴を知っていると、ヒグマのフンかそれ以外の動物のフンか見分けがつく場合があります。

タヌキのフンと間違えないように注意!

山にはたくさんの野生動物がいるので様々なフンがありますが、よくヒグマと間違いやすいのはタヌキのためフンです。一か所に複数の個体がフンをし、大きく見えるため、遠目では間違えることがあります。

近くで見ると2~3センチくらいの塊が積み重ねられていたり、新旧異なるフンが混ざっている場合が多いですが、私個人の感じる大きな違いとしては、タヌキのフンは不快な臭いがする場合が多いです。

クマのサインを見逃さず、不意な遭遇を防ごう

「北海道人ならみんなわかるでしょ!」と思っている道外の方も多いと思いますが、実は北海道で釣りをしていても、以前はヒグマの足跡を見たことがない釣り人が多かったのです。 北海道は広いので、それぞれ地域ごとにヒグマの生息密度も異なります。

私の生まれ育った北海道道南地方はヒグマの生息密度が高く、ヒグマの存在は身近にあり、そして過去に悲しい事故も発生しており、私は幼い頃からその話を聞かされて育ちました。

昔と異なり、ヒグマの個体数や状況が違うので、過去の知識が通用しない場合もあると最近感じる事が多く、アウトドアや釣行を楽しむ為にもヒグマについて知っておくことが重要かつ、身を守ることに繋がると私は考えています。

フィールドは危険と隣り合わせですが、そこでしか見れない景色や楽しさがあり、釣りは特に雄大な自然の中で楽しめる素晴らしい遊びです。幼い頃から釣りをしてきた私にとって経験してきた全てが大切な宝物になっています。 今も釣りを楽しめたり、自然について考える事ができるなんて、私はとても幸せ者だと思っています。

フィールドに行く前にクマの情報をしっかりと確認しよう

北海道庁や市町村のホームページなどにヒグマに関しての注意喚起情報が最近は多く見られますので、釣りなどで北海道遠征を考えられている方は、事前に確認する事をお勧めいたします。

今後もまだまだある、その他の「見逃しがちなヒグマのサイン」についてお話し出来ればと思っています。それではまた次の記事でお会いしましょう。

小川 貴恵(おがわ・たかえ)

北海道出身、北海道在住の、TULALAフィールドスタッフ。釣り好きの父からの影響で、子供の頃からイワナ、ヤマメ、鮭釣りなどを始める。そのうち、自然と渓流魚の美しさに惹かれ、渓流トラウトをメインに狙うようになる。道内のトラウトフィッシングには精通しており、ルアーフィッシングを始め、フライフィッシングも行う多彩なアングラー。


※本記事は”ルアーマガジンリバー”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。