
世界を旅する釣り人であり、釣り具メーカーのツララ(エクストリーム)のフィールドスタッフもつとめる前野慎太郎さんが、各地への釣行で遭遇したエピソードをレポート。今回は、マレーシアでのセイルフィッシュ釣行をレポート。憧れのターゲットを狙い、はるばる旅をした前野さんだったが…。
●写真/文:前野慎太郎(エクストリーム)
人気の高いターゲット「セイルフィッシュ」を追ってマレーシアへ
ルアマガ+をご覧の皆さまこんにちは。前野慎太郎です。今回私がご紹介するのはマレーシアのセイルフィッシュ! ソルトウォーター界のスーパースターを釣るために、マレーシアを旅した際の出来事をご紹介させて頂きます。
セイルフィッシュってどんな魚?
セイルフィッシュはカジキの仲間ですが、他のカジキにはない大きな背びれが特徴です。遊泳時、その背びれを水面に出して泳ぐ様子が船の帆に似ていることからセイル(帆)フィッシュと呼ばれていたり、日本ではその背びれが芭蕉の葉に例えられて、そのままバショウカジキと呼ばれています。
バショウカジキ(セイルフィッシュ)。
大きさは他のカジキより少し小ぶりで、体長は2〜3mほどがアベレージ。インド洋から太平洋の暖かい海域に広く生息しており、日本でも鹿児島県や南西諸島で時々釣られていることを目にしますが、マレーシアのクアラ・ロンピン近海では主に夏の期間、セイルフィッシュが群れを成して集まってくるというのです。
運が良ければ目視でセイルフィッシュを発見し、そのままサイトフィッシングができるとも。そんなことを聞かされてはもう我慢できません。私はセイルフィッシュを釣るために、マレーシアへ向かいました。
釣り堀天国マレーシアで巨大グルーパー
日本からおよそ7時間。マレーシアの首都クアラルンプール国際空港に到着した私ですが、すぐにクアラ・ロンピンには向かわず、まずはクアラルンプール近郊の複数の釣り堀へ向かいました。
マレーシアの首都、クアラルンプール各所に存在するグルーパー釣り堀。
以前ご紹介したタイと同様、マレーシアにも釣り堀文化があり、首都近郊で多様な魚を釣ることができるのです。私がまず訪れたのは巨大なグルーパーが狙える釣り堀。ここではアジなどの小魚を使用したウキ釣りなどで、大型のグルーパーを狙うことができます。
餌を投入するとすぐにウキが沈むほどに魚影の濃いポンドで、天然では中々ヒットしないような大型のグルーパーが次々と食いついてくるので、普段とはまた違った釣りを楽しむことができました。
釣り堀と言えど、大型のグルーパーの引きは強烈!
次は、ルアーフィッシング専用の釣り堀へ
次に訪れたのは、何種類かの魚が入っているルアーフィッシング専用の釣り堀です。池の四方が歩けるようになっていますが、これといった障害物や地形変化は無く、加えて現地の方も頻繁に利用するようで、巨大グルーパー釣り堀のように簡単には釣れてくれません。
クアラルンプールのルアー釣り専用の釣り堀でキャッチした、バラマンディ。
ここでは5g程度の小さなバイブレーションやミノーなどをローテーションして数を稼ぎました。釣り堀といえど簡単ではないですが、やはり首都近郊で手軽に色々な魚を狙えるのはとても便利ですね。もしこういった釣り堀へ行かれる場合は色々なルアーを持参していくことをオススメします!
旅の目的地、クアラ・ロンピンへ。いよいよセイルフィッシュと対面…
釣り堀をひと通り楽しんだところで、一路クアラ・ロンピンへ向かいます。行き方はレンタカーか長距離バスの2択がメインだと思いますが、今回はレンタカーで行くことに。マレー半島の西側に位置するクアラルンプールから東側のロンピンへ行くには、半島を横断する必要がありますが、半島自体が細長い地形なので4時間ほど走れば到着します。
ロンピンを象徴する、有名なカジキのモニュメント。
車線も日本と同じ左側通行なので、運転自体はそう難しくありませんが、文字が読めないと高速道路で苦労するので、レンタカーで行かれる方は事前に調べておくとよいです。市街地には大きなカジキのモニュメントがありますが、これはセイルフィッシュではなく普通のカジキ。なぜ? とも思いましたが、ともあれ無事にロンピンに到着したことに案著しつつ、ホテルへ入りました。
セイルフィッシュと対峙する前に…もう1つのお楽しみ
ようやくロンピンに到着したのですが、セイルフィッシュを狙う前にもうひとつマレーシアで人気な釣りをさせてもらうことになりました。ターゲットはジャイアントスネークヘッド。マレーシアではトーマンという名称で親しまれている雷魚の仲間です。ロンピンは海に面している港町なのですが、少し内陸に入ると大きな湖が現れます。ここにトーマンが生息しており、ガイドがボートで狙わせてくれるというわけです。早朝から出船してトーマンを狙うのですが、湖面を注意深く見ていると見たことのある植物が自生しています。近づいてみると、その植物はなんとウツボカズラ!食虫植物という名前で図鑑に載っていたので姿形は知っていましたが、まさかロンピンで自生するウツボカズラを見れるなんて…現地の方からすればごく当たり前なのかもしれませんが、トーマンを釣る前から大興奮です。
湖面には、食虫植物のウツボカズラが茂っていた。
釣りのほうに話を戻しますが、広大な湖でトーマンを釣るためには手返しが重要な局面が多々あります。加えて水草が想定以上に多かったこともあったので、引っ掛かりにくいオフセットフックに大きめのシャッドテールワームをセットしたルアーで水面を早引きして誘い出すことにしました。しばらく投げていると、突然水面が爆発して釣り竿が絞りこまれます。弾丸のように早い速度と強烈な引きはまぎれもなくトーマン。
何度かの突っ込みをいなしてキャッチした個体は婚姻色の出た妖艶な個体でした。釣りを楽しんでからは町のレストランで美味しい料理に舌鼓を打ちます。ロンピンは中華系のレストランが多いイメージですが、世界各国どこに行っても中華料理にハズレ無し。それに加えてこれまた美味しいマレーシア料理も同時に楽しめるので、食事が好きな方にもオススメな地域です。
いざセイルフィッシュ釣りへ!
ついにセイルフィッシュ釣りに挑みます。まずはロンピン港に向かいましたが、木製の桟橋には何隻もの大きなボートが係留されており、この町がいかにセイルフィッシュ釣りで成り立っているのかを感じました。
ロンピン港。セイルフィッシュを狙うためのボートが多数係留されている。
足元は砂泥質で、テッポウウオやマッドスキッパーという大型のハゼがたくさんいました。ボートは横幅がかなり広く、5〜6人が釣りをしていても船中央部には数人がゆったり座れるスペースが確保されています。
セイルフィッシュの釣り方ですが、主にペンシルやポッパーなどのトップウォーターを用いたルアー釣りと、あらかじめサビキで釣っておいたアジなどの小魚を用いたエサ釣りがあります。自分のやりたい釣りをやらせてくれますが、やはりルアーよりもエサのほうが確率はグンと上がるようで、まずエサ釣りでボウズを回避して、その後は自由に釣りをするのが一般的なようです。
昼食はお弁当を作ってもらった。
本当に魚影が濃い海域。すぐにターゲットから反応が…!
ロンピンでは、エサ釣りの場合、レギュレーションとしてネムリ針を使うことが決められています。この針はエサを針ごと飲み込んでも喉奥に刺さり辛い形状をしており、魚に対するダメージが軽減される仕組みになっているため、基本的にキャッチ&リリースされているロンピンでは必須なのです。
もし持っていなくとも、ロンピンに数店舗ある釣具屋にたくさん売っていたので安心しました。この海域は本当に魚影が濃く、サビキを落とすだけで次々と小魚が釣れます。それらをネムリ針に付けて、あとはフリーで流してアタリを待つと、待ち呆けるヒマもなく、ラインが引っ張り出されていきました!
セイルフィッシュのダッシュを耐える。
「ギャーーーーー!」今まで聞いたことのないドラグ音が響くとともに、見たこともない速度でラインがどんどん出ていきます。ラインはガイドの推奨通りPEライン4号を300m巻いているので心配はないのでしょうが、スプールからみるみる減っていくラインを見ると「本当に大丈夫か?」と、不安になります。
船べりでの、セイルフィッシュとの攻防。
なにせ一度のダッシュで酷いときには100mも走られるのですから気が気でなりません。ですが心配とは裏腹に最初のダッシュ以降はロングランの長さも短くなっていき、かつ船も魚を追いかけてくれるので、想像よりもすんなり船に近づいてきました。船を見ると再び息を吹き返しますが、それさえ耐えればこちらのもの。最後はガイドがセイルフィッシュの長いビルを掴んでランディング。
初めて釣り上げたセイルフィッシュ。
ファイト時間は10分少々だったと思います。ヘトヘトの状態でセイルを膝に抱えて記念撮影を行いますが、ロンピンはしっかりと魚を守る体制が整っているので、1分も立たずにリリースしてくれます。最初から最後まで気持ちよく終われるのですね。
セイルフィッシュのリリースシーン。
それにしても、間近で見るセイルフィッシュのビルや背びれの迫力は凄まじいです。このビルで小魚を叩いて捕食するらしいのですが、ぜひともその光景を見てみたいと想像しながら、本命のルアー釣りに挑みます。
ルアーでセイルフィッシュの群れを狙う
ルアー釣りも基本的なタックルはエサ釣りと変わりません。使用ルアーは10㎝~20㎝程度のトップウォーターやミノーになりますが、口がとても堅いのでフッキング率が悪く、かかっても非常にバレやすい魚です。色々なルアーを試しましたが、セイルの口にすっぽり収まる12∼13㎝程度のルアーが一番キャッチ率が高いという印象でした。
船の屋根から海を見下ろすと、鳥がわらわらと集まっています。その下に小魚がおり、そのまた下にはセイルがいるのだなと観察していると、突然黒い板のようなものが海面から浮上しました。セイルだ! と釣り竿を構えた瞬間、何匹ものセイルが同じように背びれを出して小魚を追いかけています。
観察したい気持ちと釣りたい欲求が交錯しますが、そんな気持ちとは裏腹に、身体はすでにルアーを投げていました。12㎝のポッパーを動かして誘うと、背びれを出したまま私の操るルアーに近づいてきます。それだけでも興奮ものですが、次の瞬間なんとビルで私のポッパーを叩いたのです。
狂喜乱舞する私を知ってか知らずか、ルアーの周りをクルクル回りながら、ポッパーはセイルの口に吸い込まれていきました。例外なくロングランで走られますが、こちらももう慣れています。無駄な体力を使わずに少しずつ距離を詰めていると、時折全身を投げうって跳躍するのですが、これがまた格好良くて惚れ惚れしてしまいます。
最後は例のごとくガイドがビルを掴んでランディング。最高の写真を撮って頂き、そそくさとお別れしました。
セイルフィッシュ以外の魚も色々な釣りが楽しめるロンピン!
後日談にはなりますが、あまりにもロンピンで過ごした日々が楽しくて、2年後に同地を再訪しました。もちろんトーマン釣りも楽しんで、メインのセイルフィッシュ釣りに挑みます。早々にエサで1匹釣ってからはルアーに専念したのですが、明らかにセイルフィッシュとは違うバイトが少なからずありました。
フッキングはしなかったのですが、どうも気になってしつこく攻めてみると、ようやくフックアップ。セイルのようにどうにもできないほどの力ではないですが、ルアーターゲットとしてはちょうどいいパワーで一進一退を繰り広げます。相手が諦めた頃合いで一気にランディングすると、正体はまさかのクイーンフィッシュ。しかも余裕でメーターオーバーです。
クイーンフィッシュ(オオクチイケカツオ?)も狙えます。
こんな魚もいるのか! と驚きましたが、ガイド曰くGT(ロウニンアジ)なども釣れるようです。また箸休めにエギを投入してみると、アオリイカも入れ食い。サビキを入れればアジが入れ食いなので、夕食は毎晩釣った魚をレストランに持ち込んで食べていました(セイルフィッシュ以外は持ち帰り可)。
ロンピンは小さな町ですが、みな優しくて過ごしやすい町です。最近はセイルフィッシュが少しスレてきたと聞きますし、それと同時に行く方も少なくなったのか、ひと昔前ほど情報が入ってこなくなりました。少し寂しい気もしますが、ロンピンはマレーシアの中でも一押しのエリアです。もしマレーシアに行く機会があれば、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。私も近いうちに、海外釣り旅の合間で顔を出してみようと思います。