ただの土の塊?実はこれ、マジで“危険なサイン”。近くに危険生物がいる可能性が。「速やかにそこから離れてください」

ニュースなどで頻繁に目にするようになったクマと人との遭遇。人間の生活圏内での出没情報も聞かれるようになった今、自然と親しむ釣り人は、どのような対策ができるのか?今回はクマが残す、見逃しやすい痕跡を画像付きで解説。悲惨な事故を回避するためにも、ぜひ覚えておいてほしい内容だ。

●写真/文:小川 貴恵(エクストリーム)

クマが残す痕跡(サイン)とは。

こんにちは。冬の間は野生動物や野鳥の観察を楽しんでいましたが、本州渓流の解禁の知らせを聞いて釣り欲を我慢出来ず、まだ雪深い北海道の渓流を歩き始めた小川貴恵です。今年は2月に入って帳尻合わせで大雪になった地域も多いようですね。

以前、「見逃しがちなヒグマのサイン」という内容で、「ヒグマの足跡とフン」のお話をさせていただきましたが、これはあくまで「誰でもわかりやすいサイン」としてお話させていただきました。

今回、一歩踏み込んで「他のサイン」についてこれからお話しをしていきますが、足跡やフンと異なり、正確に判断することは難しいと思っています。

判断しやすい足跡。

というのも、その「サイン」そのものだけで、それがヒグマ由来のものなのか、判断することは専門家でも大変難しいことであり、その「サイン」を見つけた私たち釣り人が「ヒグマとの突然の遭遇を避けるために周囲の異変(通常時とは異なる状況)に気づき、自分の身をどう守っていくか」ということを考えることが重要だと私は思っています。

私の経験談と“実際の画像”を交えながら、いくつかお話させていただくので、この記事を読んで自然を楽しむ上で、少しでもお役に立てたら幸いです。

「いつもと違う?何か臭い気がする…」ニオイの違和感

「ニオイ」は感じる人と感じない人がいるので少々難しいお話かもしれません。色々な人と釣行をする機会がありますが、同じニオイを嗅いでいる環境下において、「何かクサイような気がする」という人もいれば「全く感じない」という人もいます。またニオイについては風向きも関係する場合がありますし、その他の影響もあるかと思います。

私が感じる獣臭とは、家畜の臭いとは大きく異なり、強烈な汗臭いニオイというか生乾きをため込んで発酵させたような、そしてどことなく甘い香りも含んでいるような… なんとも、文字や言葉では表しにくい、それが獣臭「ニオイ」です。

クマが出没するエリアでは、ニオイにも要注意。

いつもと違う「ニオイ」がしたら…

この「ニオイ」について、人それぞれ感じ方が違うかと思いますが、私は「いつもと違うニオイ」を感じた時点でその場から立ち去るようにしています。「考えすぎ」「このくらい大丈夫でしょう」とは私は思わないようにしています。

そもそも、感じた「ニオイ」が獣臭だとしても、その発生源がヒグマであるとは断定できません。もしかしたら、感じた「ニオイ」が腐敗臭で、近くに動物の亡骸があったり、埋まっている可能性もあるかも知れない。

もしそのニオイが土饅頭(土饅頭とはヒグマが動物の死体などの大きな餌を土や木の枝、落ち葉などの周りにある物をかぶせて隠した場所のことで、しばらくこの場所に執着し居座る事があります)から漂うニオイだとしたら…大変危険な場所の近くにいるかもしれない…ということになるのです。※北海道の「石狩沼田幌新事件」と言われるヒグマ獣害事案を参考にされてもいいと思います。

こういった骨、動物の遺体を見かけたらすぐその場を離れないと悲惨な事故に繋がるかもしれない。

そのため、「いつもと違うニオイ」を感じる場所に来てしまったときは無理は一切せず、退避する選択をした方がいいと思います。

樹木に傷?ヒグマの爪痕ってどういうもの?

おそらくエゾシカの角の研ぎあとと思われる痕跡。

これはよく話題になるサインの一つです。なぜ話題になるかというとエゾシカの角の研ぎ跡と見間違う方が多いですし、一度でも跡がついたら、その樹木がある限り、跡が残り続けるからです。

実際、私も見間違った経験があります。私は道北に遠征をしていて、初めて入る地域の川で釣りの途中に突然、木に傷のような痕跡を見つけて驚きました。

樹木につけられた痕跡は判別が難しい。

そしてその近くにはヒグマの足跡も多かったため「どの野生動物の痕跡か?」という事を考えるよりも、私はビビりなのでとにかく「ヒグマの爪痕かも知れない、どうしよう。怖い」という気持ちから、速やかにその場から退避しました。

今でもこの時の対応は「釣り人として一番良い判断だったのではないか?」と私は思っています。なぜならば「何らかの異常、違和感を感じて身を守る判断をした」ということだからです。

爪痕の新旧は判断が難しい

実際に、ヒグマがつけたと思われる爪痕も幾度と見ていますが、樹木に一度付けた跡はそのまま残ることから、その痕跡が「いつ、ついたものなのか」という判断はとても難しいのです。それこそ、ヒグマが目の前で木に登っているならば「新しい爪痕だ!」と判断できるでしょう。でも、そういう遭遇は絶対したくないですよね。

私は何度か実際に木に登っているヒグマを遠目で見た事がありますが、見つけた時点でその場から離れることだけを考えました。そしてその後、見た場所を忘れないように携帯の地図機能がなかった時代は手持ちの地図に印をつけて、現在はマップにピンをおいてその場所へ近づかないように心がけています。

以上のことから爪痕と思われる痕跡からわかることがあるとすれば「そこにヒグマや何らかの野生動物がいた。(いる可能性がある)」ということだと思うので、過信はせずに立ち去ったほうがいいと思います。

ヒグマが食べた跡?食痕といわる痕跡

渓流で私がよく見かけるのはフキや虫を食べたような痕跡です。草木の根本や土を掘り返していたり、大きな石がひっくり返っていたりするのはヒグマが虫を食べている可能性があります。また、フキの先端が不自然になくなっている状況を見かけることがあります。

不自然に掘り起こされてる土はかなり危険なサインかも。

ただ、この場合もヒグマが食べたものか、エゾシカ等その他の野生動物が食べたものか、見分けがつかない場合が多々ありますが、問題はそこではありません。

どの動物の食痕か?などの確認をするよりもそういう場所を見つけた時は、まだ近くに食痕を残した野生動物が隠れている可能性があると考えて、慌てずに脱渓ポイントを確認し速やかにその場から立ち去るようにしたほうがいいと思います。

野生動物は本当にかくれんぼが得意です。木々や草木が生い茂る季節に、そういった動物たちを肉眼で見つけることはとても困難だと思います。

そのほかの警戒すべきサイン

そのほか、私が気を付けていることは、ヒグマの足跡などを見つけた時に見かける「獣道」です。藪の方に、不自然に倒れた草木で道のような、何かが通ったような跡を見かけることがあります。

草木が不自然に倒れ、道のようになっている獣道。

このような場所を見つけたらヒグマなどの野生動物が通った(再び、これから通る)可能性があると判断し、周囲の安全確認をしてから脱渓ルートを考えます。

「自分の身を守る行動が先決。異常を感じたら深追いはせずにその場から立ち去ること」

過信は禁物!違和感を感じたらすぐに退避

釣りに夢中になっているときに、痕跡らしきものを見つけても自分の感覚で「このくらいなら大丈夫」と過信して自己判断で無理をしてしまうことが多々あるかもしれません。

でも、そんな時にこの記事の内容を思い出して「ちょっと待てよ?」と立ち止まり、ヒグマとの不要な遭遇を回避する行動に繋がっていただければと願っています。

北海道は自然豊かな大地ですが、ある意味、「ヒグマが資源を守っているのではないか?」と思う時もあります。私にも当然、「いい魚と出逢いたい。いい景色も見たい」という気持ちもありますが、その前に釣りをする上で釣果よりも命が大切なので絶対に無理はしないように心がけています。

次回の記事は、私の住む道南以外の北海道の地域で釣りや野生動物に関わるお仕事をしている知人たちにお話を伺ったので、それも交えてお話して行こうと思います。また次の記事でお会いしましょう。

事故回避のためにクマ対策グッズも準備しよう。

小川 貴恵(おがわ・たかえ)

北海道出身、北海道在住の、TULALAフィールドスタッフ。釣り好きの父からの影響で、子供の頃からイワナ、ヤマメ、鮭釣りなどを始める。そのうち、自然と渓流魚の美しさに惹かれ、渓流トラウトをメインに狙うようになる。道内のトラウトフィッシングには精通しており、ルアーフィッシングを始め、フライフィッシングも行う多彩なアングラー。


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