
宮古島在住の宇田和志さんが最高の釣り体験のためのヒントを与えてくれる連載『釣りと黄金郷』。魅力的な釣りのメソッドから、釣りに行くからこそ出会える感動まで、読めばきっと釣りの理想郷に近づけるはず…!今回はGT(ジャイアントトレバリー)の話。国内でも釣れるが、その難易度はかなり高いようで…
文と写真:宇田和志
宇田和志
うだ・かずし/愛する釣りの魅力を宮古島から発信するフィッシングクリエーター。「 Eldorado 」にてアングラー向けのシルバーネックレスを手掛ける傍ら、ブログやYoutubeなど各種SNSを通して「釣りを通して人生をさらに楽しくする」を応援する。海外釣行にも力を入れており、その様子にも注目だ。
宮古島でSUPフィッシングを始めてそろそろ4年目になるが、「SUPでGTを釣る」という目標にはなかなか手が届かないでいる。一体どこに居るんだ?ロウニンアジ…。
偶然の出会いから始まった3年ぶりのオフショアGTフィッシング
内地の知り合いが仕事で宮古島に来て、空き時間に船をチャーターするとのこと。しかも「一緒にどう?」と誘っていただいた。
そんなわけで久しぶりにGTフィッシングに挑戦することとなり急いで棚の奥の方へ追いやられているGTロッドを引っ張り出してきた。
うっすらと埃をかぶっているが、大丈夫だろうか。
7:30。漁港で待ち合わせてナカヤさんと再開。
ナカヤさんとの出会いはブラジルの空港だった。
アマゾン川で釣りをするための移動の道中、サンパウロ空港のベンチでマナウス行きの飛行機を待っていたら突然日本人に声を掛けられた。それがナカヤさんだった。
聞けばなんと私とほとんど同じ期間に同じエリアで釣りをする予定らしい。そして全く同じ日、同じ時間の飛行機に乗るという。地球の裏側でこんな偶然があるだろうか。
さらにマナウス⇔バルセロス間往復のフェリーまで完全一致。重なる偶然。シンクロニシティ。そんな不思議な出会いだった。
ナカヤさんはボンバダアグアのプロトロッドのテストも兼ねた釣行とのこと。
今後はGTフィッシングにおいても4ピース、5ピースのパックロッドが主流になってくるのだろうか。個人的には是非ともそんな未来を作ってほしいと思う。
荒れる冬の宮古ブルー
今回は宮古島のルアーゲーム案内船「プカラス」号にて出船。
新城船長は初心者から上級者までアングラーのニーズに合わせた釣りを案内してくれる宮古島の海を知り尽くした大ベテランだ。
宮古島は年間を通して気温が10°を下回ることはなく比較的暖かい気候ではあるが、冬場(12~2月)はほぼ毎日強い北風が吹くため海は荒れている。
本日も例外ではなくアウトリーフではサーフィンができそうなほど大きく波が割れているためアウトリーフを超えて沖へ出ることは不可能。港からわずか数百メートルの浅場で風を避けながらワンチャンスを狙っていく作戦となった。
水深は4mほど。
真下の砂や岩が全て見えてしまうほど海の透明度は高い。
釣れるポイント、釣れるタイミング
強い北風に押されながらも船長の操船によってベストなコースを流れていく船。私たちはただ前にルアーを投げるだけでいい。
「出るなら次の一投だよ」
冗談まじりに、でも自信に満ちた表情の船長が口を開く。
この辺りの海を知り尽くしている船長がそう言うんだ。”なにか”があることは間違いない。その”なにか”が何なのかは分からないが…。
言い方を変えれば「最高のシチュエーションは用意したよ。あとは目の前の魚をお前が釣るだけだ」と言われているような気がして。次のキャストには力が入った。
素人目にはどこに投げても釣れそうな宮古島の海。
しかし船長は釣れるピンポイント、釣れるタイミングを知っている。ベストなライン取り、ベストなタイミングで本命ロウニンアジにアプローチすることができたのだろう。
宣言通り、次の一投で海面が爆発した。
このワンチャンスをものにしたのはナカヤさんだった。
私は急いでキャストしたばかりのルアーを巻き取って撮影部隊に早変わり(いつも撮影ばかりしてる気がする…)
諦めたくなる?本気のロウニンアジ
船上が一気に活気づき、誰もがナカヤさんVSロウニンアジの本気の戦いに注目する。
釣りあげられまいと命懸けで逃げようとするロウニンアジの本気の力は味わった人でないと分からない。
何度も通い何度も悔しい思いをして、それでも夢見て何度も何度も通いようやく掴んだワンチャンス。今まさに憧れのロウニンアジと釣り糸一本で繋がっている。
誰もが羨むこの状況。
しかし初めてこの状況を経験した若き頃の私はこんなことを考えていた。
「諦めたい」
あれは9年前。
人生で初めて39kgのロウニンアジとファイトした時、想像をはるかに超えるパワーに圧倒された私は冗談抜きでこう思っていた。
「ちょっと誰か変わってほしい」「もうラインが切れてほしい」と。
さすがに口には出さなかったが、不安定な船の上で自分自身の命の危険を感じていたのかもしれない。あの時は本当にきつかったな。そんなことを思い出しながらカメラを構えた。
GTフィッシングの醍醐味
船長は「左側に根があるから気をつけて」「竿を右側に回して」といった的確なアドバイスをしながらラインブレイクを避けるため深場まで誘導。
ナカヤさんも落ち着いている。
船長のサポートのおかげで安心して魚とのやり取りに集中できるということもあるだろうが、やり
取りに全く焦りを感じさせない。さすがだ。
ボンバダアグアのプロトロッドも4本継ぎ?5本継ぎ?とは思えないほど美しいカーブを描いている。今後の製品化に期待したい。
格闘すること6分。ようやく魚の姿が見えてきた。
力を使い切ったロウニンアジは抵抗することをやめ、くるくると円を描きながらゆっくりと上がってくる。
水の中で青白く光る物体(魚)が見えるこの瞬間が私は大好きだ。
しかし船に上げるまで気を抜いてはいけない。
ランディングにミスがあると最後の最後でネットに針が絡んで逃げられてしまうなどということもある。
私はナカヤさんと船長の邪魔にならないよう、二人から一定の距離を取った。
海面に姿を現したのは紛れもなくロウニンアジ。
GT(GiantTrevally)だ。しかもでかい。
誰もが一目で20kg以上はあることを確信した。
タモ入れも一発で成功。
ナカヤさんと船長が力を合わせて船の上に引き上げると皆のボルテージはMAXに。
そしてナカヤさんの疲労も…。
釣りあげた魚に触れることもなく真っ先に全身が脱力してしまっ
たらしい。
ヒットから約6分間のファイトだった。
意外と短く感じられるかもしれない。しかしロウニンアジとのファイトは最初から最後まで全力勝負。アスリートでもない限り日常生活の中で自分の持つ本気の力を振り絞るという経験はないと思うが、ロウニンアジとのファイトは本気対本気。
釣りあげられまいと全力で逃げようとするロウニンアジには自分の持つ力の全てで応えなければ負けてしまうからだ。
ロウニンアジのパワーとスピードに耐え、打ち勝つ6分間は本人にとっては非常に長く感じただろう。
本当におめでとうございます。
久しぶりにこの目で見たロウニンアジは相変わらずかっこよかった。
貫禄があった。
これでも25kgと宮古島ではアベレージサイズ。
宮古島にはこの倍の50kg以上にもなる個体も生息しているというから恐ろしい。
いつかはSUPでGTを釣りたいと考えているが、万が一そんな魚がヒットしてしまったら一体どこまでSUP
ごと引きずられてしまうのだろう…。
ナカヤさんとプカラスの新城船長は何年も昔からの仲で、ナカヤさんが宮古島に来るたび何度も何度もプカラス号に通いGTフィッシングに挑戦しているらしい。
お二人のことは何も知らないが、1匹の魚を二人で大切に扱う姿を見ているだけでなんとなくお人柄にふれることができたような気がして嬉しかった。
リリースも無事に成功。
今日は本当にいい一日だった。
ロウニンアジはそう簡単に釣れるものではないが、それ故に釣れた時の感動はひとしお。船長とアングラーの絆だけでなく、アングラー同士も船中が一丸となってたった1匹の魚を追いかけ、たった1匹の魚にそこにいる全員が歓喜する。
他人が釣った魚に対して心の底から「おめでとう」と思える釣り、それがGTフィッシングだと思う。
そうでもなければ私がおっさんの手を固く握るなんてこと、あり得ないのだから。