
宮古島在住の宇田和志さんが最高の釣り体験のためのヒントを与えてくれる連載『釣りと黄金郷』。魅力的な釣りのメソッドから、釣りに行くからこそ出会える感動まで、読めばきっと釣りの理想郷に近づけるはず…!今回は宇田さんが宮古島で学んだ「ただ巻き」エギング。驚くほどの釣果を出すこのメソッドは、宮古島のフィールドと噛み合っているという。そしてそんな宮古で生まれた伝説のエギも紹介!
文と写真:宇田和志
宇田和志
うだ・かずし/愛する釣りの魅力を宮古島から発信するフィッシングクリエーター。「 Eldorado 」にてアングラー向けのシルバーネックレスを手掛ける傍ら、ブログやYoutubeなど各種SNSを通して「釣りを通して人生をさらに楽しくする」を応援する。海外釣行にも力を入れており、その様子にも注目だ。
冬の宮古島は良型のアオリイカが釣れることで有名だが、一般的にはあまり馴染みのない少し変わった釣り方で狙うアングラーが多い。今日はそんなお話をしてみたいと思う。
しゃっくってフォールさせるだけがエギングじゃない
日本全国にアオリイカを狙った釣りにはいろんな釣り方があるが、中でも大変人気で熱烈なファンも多いのがエギングだと思う。
エギングと言えば一般的に「餌木」と言われるルアーをキャストして沈めては激しいロッドワークでしゃくり、沈めてはしゃくり…といったことを繰り返してイカを誘うというイメージが強いのではないだろうか。
釣り場では多くのアングラーがヒュンヒュンと音を鳴らしながらロッドを激しくしゃくってイカを誘っている姿をこれまでにもよく見てきた。
エギングはフォールとしゃくりのアクションで誘うのが当たり前。もちろんそれは正しい釣り方の一つではあるだろうし、エギングの常識としてなんとなくそうやってきたという人も多いのではないかと思う。
しかし宮古島ではその常識が通用しなかった。なんと宮古島では餌木をただ巻きするのだ。
フォールさせることもなければ、しゃくることもない。ただただ表層をゆっくり巻いてくるだけ。これは私が宮古島に移住して初めて知った釣り方で、エギングに対するイメージをすっかり変えられてしまった。
フィールドに適応する理にかなった釣法
珊瑚が隆起してできた宮古島は、島全体が珊瑚に囲まれていて比較的遠浅な海が続く。そんな場所でオカッパリから釣りをするとなると磯場であっても足元の水深が1~2mしかないということも少なくない。
岩や珊瑚が点在するこんな場所で餌木を沈めたら、一瞬で珊瑚に引っかかってしまうのだ。逆に言うと、水深もなく遠浅で透明度の高い宮古島の海でオカッパリからアオリイカを狙う場合、別に沈めなくてもイカに見つけてもらえるということ。このようなことなどが理由で宮古島では餌木をしゃくらない人が多いのだ。もちろん漁港のようなある程度水深がある場所においては例外もあるが。
良型が連発する冬の宮古島
「餌木を水面直下でただ巻きするだけでイカが釣れる」
この話を初めて聞いた時、私はにわかには信じられなかった。これまで餌木は沈めてしゃくるものだと思っていたし、それが当たり前だった私にとっては嘘みたいな話だった。あの日までは…。
冬の宮古島は陸から良型のアオリイカが狙えるシーズン。地元の釣り仲間にお誘いいただき夜の磯場で待ち合わせた。
宮古島でイカを狙うのは初めて。このポイントも足元の水深は1m程度しかないため餌木を沈めることはできない。少しでも沈めようものなら確実に根掛かってしまう。「ゆっくり巻くだけでいいよ」とい
うアドバイスを受け、半信半疑のまま釣りを開始した。
餌木をできるだけ遠投したあとはカウントもせず表層・水面直下をただただゆっくり一定速度で巻き続ける。
「本当にこんな釣り方で釣れるのか?」という疑念がどうしてもぬぐえない。
釣れる気がしない。
おそらくこのまま1時間も2時間も釣れなかったら私は友人に隠れて餌木をしゃくっていただろう。
そのほうが釣れる気がするから。
しかし勝負は意外と早かった。
一定速度でゆっくりを巻いているとビニール袋かなにかにでも引っかかったかな?と思うようなずっしりとした重みを感じた。
次の瞬間、ギュイーン、ギュイーンとラインを出される。
100%アオリイカだと確信した。本当にただ巻きで釣れるんだ…。
1.9kg。
宮古島で初めてのエギングにしては出来過ぎだった。
餌木をキャストしてカウントせず表層から水面直下をゆっくり一定速度で巻いただけ。ものの15分で釣れてしまった。
たまたまアオリイカの群れに当たったのか、タイミングがよかったのか。
そこからは連発だった。
宮古島のただ巻きエギングにお勧めな餌木
一度釣れだしてからはものの30分で2kg前後のアオリイカが計4匹。
これは全て餌木のただ巻きによる釣果である。
短時間でこれだけの釣果を上げることができた私は一瞬で「ただ巻き」に対する疑いが無くなった。
単純と言われるかもしれないが、今となってはただ巻きが釣れる気しかしない。
この時を境に私は何匹もただ巻きでアオリイカを釣っている。
先述したように宮古島のフィールドは足元の水深が1m程度しかないような遠浅のポイントが多く、できるだけ餌木をフォールさせないほうが根掛かりなどのトラブルもなくエギングを楽しむことができる。しかしキャスティング用の餌木にはフローティングタイプのラインナップが無いようで、各メーカーから出ているキャスティング用の餌木は必ずといっていいほどフォールさせることを前提に設計されているらしい。
それならばフォールのスピードがなるべく遅いものを選ぶことをお勧めする。
具体例を挙げると、キーストンのエギシャープであればV0(超スローフォール)かV0+(スローフォール)あたりがいいと思う。
何度も言うがこの釣り方は餌木をフォールさせる必要がない。水深のないエリアで珊瑚礁に引っかけてしまわないよう、ゆっくり巻いた時にちょうど水面直下を引ける程度のフォールスピードの餌木を選択することが重要だ。
もっと言うと完全に沈まないフローティングタイプの餌木があっても面白いのではないかと思うが、需要が一部の地域に限定されるため商売としては成り立たないのかもしれない。
伝説の池間餌木
宮古島を構成する大小6つの島の一つ、池間島には「池間餌木」と言われる伝統の餌木がある。
参考:https://ikemaegi.web96design.com/
海に浮かんでいた木片にイカがまとわりつくのを見て考えついたのが池間餌木の始まりとされ、このことから沈めてしゃくるのではなく表層をただ巻くだけというコンセプトの餌木が生まれたらしい。
たまにフリマサイトなどの中古市場で出回るが、現在は池間餌木の職人が積極的に制作・販売することを辞めてしまったため正規のルートで池間餌木を入手することはほぼ不可能に近いという状況なのが残念だ。
私の宮古島の知り合いでも池間餌木を所有している人達は「失くしたらもったいないから使わない」と口を揃えるほど、宮古島では非常に人気の高い餌木。
一般社団法人池間島観光協会では池間餌木の作製を体験できるイベントを企画しているので宮古島に来島された際には是非問い合わせてみてほしい。
尚、池間餌木の考え方としては「イカは色の識別ができないため色は全く関係がない」とされ、カラーリングに関しては認識しやすい赤やピンク、オレンジなどの蛍光色にすることが推奨されている。
エギのただ巻きという新たな引き出ししゃくらないエギングのメリットとして、
・アタリが分かり易い
・繊細なアタリをとる必要がないため高価なタックルが不要
・初心者でも比較的簡単に釣ることができる
ということが挙げられる。
投げてゆっくり巻くだけ。そしてただ巻きで釣れるイカのアタリはコツコツとかチョンチョンという繊
細なアタリをとる必要がなく突然ゴミに引っかかったかのように重くなるため初心者にも非常に分かりやすい。
もちろんしゃくって誘うほうが反応を得られる時もあるだろうが、「エギング=沈めてしゃくる」という固定概念に縛られるのではなく、「ただ巻き」という引き出しを持っておいても損はないと思う。
水深が浅く根掛かりの多いフィールドで釣りをすることが多いあなたへ。
騙されたと思って是非一度試してみてほしい。