
先日、相模湖で行われたH-1GPXマスターズカップを制したのは、グラスルーツのプロスタッフ・横井丈史さんだった。その際、彼が使っていたのは、グラスルーツのロッド「エンゲージ ナイヴス」。クランクベイトを駆使しての勝利に貢献したそのロッドこそが、理想のクランクベイト用ロッドなのか?グラスルーツでロッドをプロデュースしている村中義明さんにお話を聞いてみよう。
●文:ルアマガプラス編集部
村中義明
むらなか・よしあき/写真左。埼玉県在住。原理原則に適ったロッドビルドを信条とし、これまで数多くのバスロッ
ドをプロデュース。各マテリアルの特徴を熟知するロッド開発職人だ。国内トーナメントにも長年出場してきたベテランアングラーで、アメリカのルアーやその歴史についても明るい。
クランキングは実はとても奥が深いテクニック⁉
バスフィッシングフリークが考えるクランキングの話。まずはクランクベイトというルアーを再定義してもらう。
村中「クランクベイトは、形がずんぐりむっくりで魚っぽくない形をしているし、動きも激しい。基本的にはカバーやストラクチャーに依存させて使うものです。そして、クランクベイトはただ投げて巻くだけのルアーじゃない。ボックスの中にあるクランクベイト、一つひとつ個性が違う。どれも設計思想的に狙ったシチュエーションが存在する。その狙いをアングラーが理解して、クランクベイトをチョイスしていかなくてはいけない。どの潜行深度でどのスピードで、どのアクションで、どうやってカバーにタッピングさせるか、そのあたりを整理して使っていくルアーです。その上にさらに自分の好みや考え方も乗っかってくる。ですので、クランクベイトは一つ一つの個性を理解して使いこなすシチュエーションベイトなんです」
シャローカバークランキングに特化したロッド
さらに、クランクベイトの中でもジャンルは細分化されていく。
村中「大きく分けて2種類。ショアラインのカバー周りを釣るシャローカバークランキング、ミドル〜ロングレンジでオープンウォーターのストラクチャーを釣るオープンウォータークランキング、それぞれシチュエーションが異なり、使うクランクベイトだけではなくロッドも変わってきます」
クランキングロッドと一括りにはできないということだ。
エンゲージナイヴスは現在19本がラインナップ。そのうち、完全にクランクベイトに特化したモデルは2本。今後、さらにクランクベイト用のロッドの発売が控えているという。
村中「グラスルーツでは2本グラスコンポジットの竿を出しているのですが、テーマはシャローカバークランキング。ショートグリップで、レングスは68。その理由はキャストスタイルの自由度やハンドリング性能のためです。サークルキャストやピッチングで撃ちやすい長さで、キャスト後にメンディングでトレースコースを修正しやすい。68は日本人の体型に合わせても標準的かなと。これがオープンウォーターのストラクチャーを釣るクランキングでは、もっとレングスもグリップも長い方が扱いやすいし、素材も低弾性カーボンのほうが巻き感度が高く、飛距離も出ます。なので、この2本はショアラインのカバーに向けてショートディスタンスでキャストしていくスタイルで使う際に真価を発揮するモデルと言えます」
理想を具現化する独自のグラスコンポジット構造
グラスルーツのシャローカバークランキング用ロッドは独自レイヤー構造のグラスコンポジットだ。
村中「ショートディスタンスのゲームなんで、ティップを柔らかくターンさせてキャストするほうが、リリースポイントも広がり、アキュラシーも上がる。近距離でカウンターバイトしてくる釣りなので、戻りが遅いグラス素材がバイトを乗せやすいしバラシにくい。しかし、キャスタビリティを補助する上で、アラミド/カーボンをバット部にコンポジットしている。バットを補強するとテイクバックでルアー重量を背負わせたキャストでティップが速く戻ろうとするので、初速が速い低弾道なキャストが可能になる。また、カバー際で掛けたバスを寄せる意味でも、曲がらない領域を作ってあげている」。
グラスの柔軟性を保持つつ、カーボンの反発力をプラスすることでキャストアキュラシーとファイト時のパワーが向上。その柔軟性とシャープさの融合は実際に手に取ってみるとすぐに実感できる。
村中さん独自の理論でグラスとカーボンを融合させた。
村中「ティップからバットエンドまでグラスが貫いていて、バット部のみ外周をアラミド/カーボンで補強しています。さらにブランク全体を4軸カーボンで締め上げることでグラスのソフトなフィーリングを残しながらもティップ収束を速めてキャストアキュラシーを高めている。立体的なカバーに対して的を射抜くように撃てること、そしてカバー際でビッグバスに主導権を譲らせない剛性感はコンポジットブランクならではのメリットです。それでいてクランクベイトをライブリーにアクションさせ、柔らかなフラッタリングを促すソフトネスなフィーリングはグラスそのもの。ハイテーパー化によってドラスティックな軽量化も実現し、巻き感度も向上。グラスのネガティブな部分だけを払拭した理想的なブランクスと考えています」。
エンゲージナイヴスのグラスコンポジットは、柔軟性に優れるユニディレクション(単一方向性)グラス素材をベースに、ティップにまで至るブランクス全体を4軸カーボンテープで締め上げている。さらにバット部はグラファイト+アラミドシンセティックファイバーで補強。ミドルからティップ部分を光に透かすと、グラス素材を補強するカーボンテープ4軸構造が浮かび上がる。
正解を探すのではなく、どこを重視するかが大事
クランクベイトを使うにあたって、フルグラスはあまり出番はないのだろうか?
村中「もちろん、フルグラスにしか出しえない特性はあります。テーパーデザインにもよりますが、懐深く曲がり、ティップのターンが緩やかなので、リリースポイントが広いキャスト感がより顕著になる。そうしたフィーリングを重んじる人には向いたロッドです。料理と一緒で、味付けが濃いのが好きな人もいれば、薄味が好きな人もいる。フルグラスの感触が好きな人も当然いるし、それでいいと思います。お客さんたちは自分の好みの竿を探すだけ。ですから、自分たちは私たちの竿はこういう味付けになっていますよっていうのをしっかり発信していき、実際に使ってその個性に共感してくれたら一番嬉しいですね」
グラスルーツのグラスコンポジットロッドはシャローカバーが豊富なフィールドでその性能が磨かれた。写真は長門•将監川でのテスト風景。
釣れるルアー、釣れる竿はないあるのはアングラーの選択だけ
極論、どんな竿でもクランクベイトで釣ることはできる。
村中「レングスだって、66も64も、6フィートアンダーもありです。それはその人それぞれ。アキュラシーだけを考えると、短いほうが圧倒的に楽です。しかし、ショートロッドは曲がり代が決まっている。ロッドのアクションの表現力はロングロッドよりも狭くなる。長いほうがいろいろなロッドのアクションを表現できる。クランキングは投げるだけではなくさまざまな要素が必要で、ラインメンディングもするし、時にはピッチングで入れたりもする。ピッチングは短い竿だと振り込みにくいですよ」。
大事なのは、どう理解して、どうやって使い分けていくか。
村中「昔、井佐さんと亀山ダムで釣りをしていて、上流にあるレイダウンにクランクを入れて一発で40アップを釣ったときがあった。亀山はクランクフィールドじゃないし、そもそもレイダウンが何キロも続くフィールドなんてない。けど、スポット的にクランクが効く場所は、全国どのフィールドにもあるはず。結局、タックルを持ち替えるタイミング。アングラーがどうセレクトするかなんです」
エンゲージナイヴス(グラスルーツ)
村中さんの信条とグラスルーツ契約スタッフのニーズが具現化されたエンゲージナイヴスシリーズ。
村中「ナイヴスはそれぞれのモデルに専門性を突き詰めたコンセプトがあります。自分の釣りにマッチしたロッドを探して最高の釣りを楽しんでほしいですね」。
ガイドは小口径のものを多点で設置。ブランクスの曲がりと等しくラインが追従し、ガイドを軽量化することでティップの収束を早めている。グラスの性能を保ちつつ、キャストのアキュラシーを向上させることに成功。
グリップ・リールシート:握りやすいグラスルーツ独自のリールシート
リールシートは、握った時の指の位置とリールの位置関係を吟味し、C6カーボンでオリジナル成形。パーミングの良さと自由度のある手首の動きを実現。グリップには高品質のコルクAAAを採用している。
EKC68L/GC
●全長:6フィート8インチ●標準自重:127グラム●継数:1●ルアーウェイト:1/8〜1/2オンス●ライン:6〜20ポンド●アクション:MS(ミディアムスロー)●価格:6万1600円(税込み)
フィネスカバークランクを極めるならこの1本
タイニークランクやフラットサイドクランクを気持ちよく扱えるライトアクションのグラスコンポジット。重さ8.5グラムのランビットはまさにドンピシャ。グラス特有のソフトさでしっかりと乗せ、フルベンドさせてからはカーボンのパワフルさが如実に現れる。H-1GPXマスターズカップのウィニングロッド
EKC68ML/GC
●全長:6フィート8インチ●標準自重:127グラム●継数:1●ルアーウェイト:3/16〜5/8オンス●ライン:6〜20ポンド●アクション:MS(ミディアムスロー)●価格:6万1600円(税込み)
低弾道キャストで仕掛けるクランクベイト・バーサタイル
最も標準的なシャローカバークランキングロッド。中量級クランクにマッチするMLパワーだが、カバーの密度が濃いスポットへのアプローチや、引き抵抗の大きな小型クランクにもマッチする。また、中型ノイジーやクローラーベイト、スパイベイトなど、主にトレブルフックを用いたルアーに高い親和性を発揮する。
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