
多くの釣り人はロッドを話題にするとき、ブランクやガイドにばかり注目してしまいがち。一方で、グリップとリールシートが釣りのパフォーマンスに重大な影響を与えることを、一体どれだけの人が意識できているだろうか。25BLXでは徹底的にリールシート部分を見直し、史上最高レベルの使い心地を目指した。そこに至るまでのDAIWAリールシートの歩みを、川村光大郎さんに解説してもらおう。
●文:ルアマガプラス編集部
川村光大郎
かわむら・こうたろう/オカッパリのスペシャリストとして幅広いメディアで活躍。近年はレンタルボートやバスボートでの釣りも精力的に挑戦し、自身のフィールドを拡大している。DAIWAではスティーズショアコンペティションシリーズの開発などに尽力。
19BLXで感じていた決して小さくはない違和感
BLXのリニューアルにあたって、かねてから川村さんが感じていた不満点の解消に徹底して取り組んだ。それは、ロッドを握ったときに感じる違和感だ。
「僕は、ロッドではスティーズ・ショアコンペティションの開発のみ携わっているんですが、BLXも気に入った番手は使っていました。ただ、リールシートに不満があったんですね。そこで、25BLXにショアコンペティションが加わるということで、自分も開発に携わるようになり、以前から感じていたリールシートの不満点を徹底的に解消するようにお願いしたんです」
スティーズと比べてしまうと、BLXのグリッピングはやはり気になるところがあるようだ。
「僕の理想のリールシートが、スティーズに採用されているエアビームシート。これに比べると19BLXのリールシートはフィット感が劣るし、ずっと使っていると指が痛くなったりしていたんです。そういったことはスティーズのエビームシートには起こらないんですね」。
25BLXで目指したのは、スティーズのエアビームシートにどれだけ近づけるか。
「エアビームシートのいいところは、まずどう握ってもフィットする点。キャストするときの1フィンガー、操作するときの2フィンガーや3フィンガーまで、すべての持ち方に違和感なくフィットする。それは、指に接するところが全部滑らかになっているから。19BLXは、トリガーが細く、その付け根もくびれていて、軽量化にはメリットがある一方、キャスト時は指1本に負荷が集中して指が痛くなる。トリガーが細くて窮屈なんですね。19BLXの不満点を見直しつつ、コストも抑えながらエアビームシートに近いフィット感を実現したのが、25BLXのゼロシートです」
ゼロシートパーミングフィットトリガー(ベイト)
繋ぎ目を感じさせない滑らかな握り心地
握ったときの違和感や長時間使用したときの指の痛みなどを徹底排除。
1フィンガーから2フィンガーへの握り変えもしやすくなっている。
スティーズの握り心地に限りなく近づいた、川村さんの熱意が形になったリールシートだ
ブランク剥き出しで感度が向上することはない
エアビームの利点は、段差のない高いフィット感と軽さ、オフセット構造によるコンパクトな
グリップ感だ。どう持っても違和感がないし、指の痛さや疲労感もない。
「ハイエンドのスティーズだからこそ投入できる技術なんですが、ブランクがグリップの中心を通っているのではなく、少し下のオフセット構造になっているんです。リールをセットしたときに、よりコンパクトでより一体感が生まれるんです。ただ、これはものすごくコストのかかる技術なんですね」
このオフセット構造は、25BLXではコスト的に採用できない。
「そこでオフセット構造に近づけるためにリールシートを極限まで薄くしてもらいました。ブラン
クは一部露出していますが、凹凸が少なくエアビームシートに近い感触になっています。加えて、これまでのリールシートはトリガーの前後で高低差があったのですが、25BLXではそれを極限までフラット化しています。また、19BLXはブランクがタッチできるようになっているんですが、はっきり言うとこれで感度が良くなるということはないです。それよりも、凹凸ができることでフィット感が悪いんですね。エアビームシートのように滑らかな面で当たるほうがフィット感は高いです」。
トリガー部分は、短く幅が広く設定された。
「トリガーは指が引っかかる高さがあればいいと思っています。人によって指の太さ長さは違いますが、個人的にはトリガーが長いのは好きじゃない。トリガーが長いと、1フィンガーから2フィンガーだったりの持ち替えの動作に邪魔になってしまうんです。ですので、25BLXのトリガーは短くしています」
左から19BLX、21スティーズ、25BLX。尖った印象だったトリガー部を、短く、そしてやや幅広く設計。1フィンガーから4フィンガーまで、握り変えるときの移行もスムースにできるようになっている。
リールシート比較
19BLX
リールシートはエアセンサーを採用。トリガー前方はブランクが剥き出しとなるブランクタッチの構造を採用しているが、川村さん的には感度への影響はほぼなく、逆に直線的な形状がフィット感を損ねていたという。
グリップ・リールシートのセンターをブランクが通る、多くのロッドに採用されている製法。リールをセットしたときにやや重心が上になり、ロープロファイル感は損なわれる。
21スティーズ
最高峰のエアビームリールシートを採用。どんな握り方にもフィットし、指触りも滑らか。流れるような流線型のデザインで、カド張ったところを徹底的に排除し、握ったときの違和感や指の痛みなどは一切ない。
リールシート内の中心ではなく、やや下を貫通するオフセット構造を採用。リールをオフセットできるため、一体感が向上してパーミングしやすくなる。この構造だと本来ならブランクが剥き出しになるブランクタッチ型のリールシートになるところだが、高い技術力によりブランクが露出しない滑らかな形状を実現している。
25BLX
新たに開発したゼロシートを採用。エアビームシートの握り心地を目指し、19 BLXと比べて、カド張った部分や直線的な部分が少なく、エアビームシートに近い流線型のフォルムになっていることがわかる。トリガーの前後の高低差も限りなく均一にしてある。
センター貫通タイプではあるものの、薄さと強度のギリギリのところを攻めながらエアビームに近い低重心化を実現。また、ブランクの露出を最低限に抑え、トリガーも短くすることで1フィンガーから4フィンガーまであらゆる握り方にフィットする滑らかな形状のリールシートになっている。
ゼロシートシームレスフィット:スピニング
スティーズに迫るシームレスな握り心地
その名の通り、リールとリールシートの繋ぎ目を感じさせないシームレスなグリッピングを実現。
フロントフードの膨らみを抑制し、逆アール形状の窪みを設置することで、違和感のない指あたりになっている。
軽量化を求めすぎると握りにくさに繋がる
25BLXはスピニングモデルにおいても、ベイトロッド同様、グリッピングのストレスを徹底的に排除。スピニングはライトリグなどの繊細な釣りを扱うため、ロッドを握ったときに違和感があるようでは釣りのパフォーマンスが低下する。
「スピニングの場合、リールシートを軽量化していけばいくほど、リールフットが露出してきてしまう。これだとロッドよりもリールフットのほうが指の触れている部分が大きくなり、凹凸も感じやすくなる。軽量化を優先すれば、それも仕方のないこと。しかし、大事なのはリールをセットした状態でのフィット感です。スピニングも2フィンガー、3フィンガーといろいろな持ち方をするので、違和感がないほうが好ましい。スティーズのファイヤーフラッシュを作るときに、自分でグリップをヤスリで削って、こういうふうにしてくださいってお願いしまいした。25BLXでも同じように、凹凸や段差、隙間などを極力感じさせないよう要望しました」
握ったときに感じるリールフットのカド張った感触を軽減するため、段差をなくすための「バリ」
のような壁を設置した。
「これによってリールフットが埋め込まれているような構造になります。段差がなくなってリールとロッドのフィット感がかなり高まっていますよ。人間の指はとても敏感で、ちょっとした違和感も感じ取ってしまう。ロッドはブランクばかり注目されるんですがグリップもとても大事な要素。アングラーが常に触れているのはリールシートですからね。これまでロッドを握ったときに感じていたわずかな違和感も極力排除したのが、25BLXのシームレスフィットです」
多くのリールシートは、リールフットをロックする部分が膨らんでいるが、これでは指と点で接することになる。ここを逆アール形状にすることで、指とリールシートが面で接することになり、よりフィット感が向上する。
リールシート比較
19BLX
軽さを追求したエアセンサーリールシートと上から下にリールフットを締め込むダウンロック方式を採用。リールフットを固定する部分は膨らみのあるアール形状で、ここが指のタッチングに違和感を与えていた。また、リールシート側面を見ると、リールフットが剥き出しになっていることがわかる。
21スティーズ
当時新開発されたエアビームシートを導入。また、リールシート上部を理想の形状にするため、下から上にリールフットを締め込むアップロック方式を採用している。エアセンサーにあったわずかな膨らみを逆アール形状にし、指のフィット感を高めた。これにより、指とリールシートがより密着するようになり、操作性と感度が向上。リールシート側面は、このスティーズに関してもリールフットが剥き出しになっている。
25BLX
25BLXで初めて搭載されたシームレスフィット。名前の通り、リールフットとリールシートの段差をなくし、一体化しているかのような滑らかさを実現している。人差し指と小指が触れる部分のパーツは両方とも逆アール形状にしてフィット感を増幅。SC 64L-STなどの一部モデルでは、フロントグリップに川村さんが好むラッパ形状が採用されている。
スティーズから持ち替えたときのストレスはもうない
完成した25BLXの新たなリールシートは、スティーズに迫るとも劣らない、川村さんも満足の出来に仕上がった。
「DAIWAにはリールシート専門の職人がいて、現場でロッド開発者と一緒に、いろいろなキャストや動作を確認してもらいながら、その都度感じた違和感を伝えて、その場でグリップを削ったり盛ったりして、リールシートを作ってもらいます。これ以上違和感をなくすことは難しいんじゃないかっていうくらい、握りやすさを追求したリールシートになっていますよ。実際にリールをつけて、キャストしたりルアーを操作したり、魚を釣ってもらえれば一目瞭然です。19BLXは、握りにくいというよりも、今まではそれが当たり前で、言われなければそこまで違和感は気にならなかったところかもしれない。ただ、一度スティーズのエアビームシートや25BLXのゼロシートのフィット感の良さを知ってしまうと、以前のものには違和感を覚えてしまうんです」。
以前、スティーズからBLXに持ち替えたときに感じていた握ったときのストレスはもうなくなった。
「スティーズにはないブランク特性をもったBLXは、ときとしてスティーズ以上の武器になる。しかし、握りにくいから使用をためらったり、指が痛くなって長く使えないようでは意味がない。今回の25BLXは、スティーズに近いレベルの握り感になっているから、これから活躍の場は増えていくと思いますよ」
リールフットが剥き出しになっていると、カド部分の指触りが気になってしまう。そこで25BLXはリールフットを包み込むバリのような壁を設置。これにより、リールフットのカドが気にならなくなり、指触りが滑らかになっている
グリップエンドの上部はフラット面を設けている(一部モデルのみ)。これはグリップエンドに肘を当てながらファイトしたときに安定させるため。縦捌きのロッドアクションもさせやすい。半袖や薄着のときにより効果を実感できるはずだ。
今季発売されるショアコンペティションのFスペック。リールをロックするナットパーツには、25BLX同様のEVAが採用された。「手や指が触れる部分の金属パーツは極力減らしてもらって細かい部分までフィット感を突き詰めています」。
スティーズから25BLXまで続く理想のリールシートを求めるDAIWAロッドの旅路には、川村さんの鋭い着眼点が反映されてき
た。実際にリールをつけて現場で使ってみれば、その快適な使用感のレベルの高さにすぐに気がつくはずだ。
- 1
- 2