『ポップX』はポッパーじゃない⁉衝撃の発言と初めて明かされるその名前の「意味」

『ポップX』はポッパーじゃない⁉衝撃の発言と初めて明かされるその名前の「意味」

「ポップX」というルアーを知らないバスアングラーはおそらくいないだろう。一方、名前の由来を、その真実を把握している人間もほとんどいないはずだ。メガバス、そして伊東由樹を象徴するルアー「ポップX」。今なおバス用ルアーの第一線で活躍する隠された秘密とは…?

●文:ルアマガプラス編集部

伊東由樹
いとう・ゆき/世界に名だたるタックルメーカー「メガバス」を一代で築いた人物。カリスマアングラー、デザイナーにしてCEOを務める稀有な才能の持ち主だ。今回紹介するポップXはもちろん、ワンテンやディープXなど、バス釣りの歴史を語るうえでは欠かせない名作をいくつも世に送り出してきた。

ポッパーの皮をかぶった怪獣

バス釣りの流行には何度かの波があったが、1990年代のそれは社会現象と呼ばれるにふさわしい規模だった。どこの釣り場にもアングラーが押し寄せ、大会の規模も驚くべきものだった。そして各地にプロショップが展開され、雑誌にテレビ番組にとあらゆる場所にバス釣り情報があふれかえっていた。

メガバスの『ポップX』はそんな時代に誕生し、圧倒的人気を誇ったルアーの筆頭といえるだろう。 多くのアングラーが熱狂し、憧れ、いくつもの関連エピソードが誕生。社会現象の爆心地ともいえたかもしれない。バス釣り歴の長いアングラーに聞けば、必ずや一つや二つ、ポップXにまつわる逸話が聞けることだろう。

そんなポップXは1996年にリリースされており、来年で生誕30周年を迎える。これまでの累計生産個数は、およそ350万個。ポップXをまっすぐに並べるとおよそ240キロメートル分となり、これは静岡県浜松市にあるメガバス本社浜松からルアマガ編集部のある上野までと同程度となる。驚くべき個数だ。

いくらバスバブルを象徴するルアーだとしても、ブーム時だけの人気では到底この個数には到達できはしないだろう。およそ30年という、日本製バスルアーとしては最長クラスの販売歴。今なお人気ルアーであり続ける秘密を、開発者に迫る。

時代を先取りした「ポップX」の誕生

「まず前提としてお話したいのは、ポップXはポッパーとして作ったプラグではない、ということです」。

トップウォータープラグにはいくつか種類があるが、その中のひとつ「ポッパー」は大きく口を開いたような形状が特徴的なルアー。ポップXはまさしく「ポッパー」の代名詞。そう考えているアングラーも少なくないはずだ。

「1990年代当時のポッパーといえば、ポップRやチャガースクープが定番。いかに大きな音を立てるか? いかに派手にスプラッシュを発生させるか、というジャンルのルアーでした。これらは捕食音を生させたりスプラッシュで逃げ惑う小魚を演出することで、フィーディングモードに入っている魚に対して有効なルアーです」。

ポップXはポッパーではない。つまり、当時としては狙っている魚が違ったのだ。

「ポップXが目指したのは、捕食スイッチを『入れられる』ルアーだったんです。フィーディングとは関係ない、中層でニュートラルになっているバスに対して捕食への動機づけをさせるルアーとでもいいましょうか」。

当時はまだ現在ほどは中層の釣りが確立されていなかった時代。無理やりレンジを合わせても釣れない魚を、表層までおびき寄せて、釣る。それがポップXに求められた性能だったのだ。

「つまり『虫パターン』です。ポップXは虫パターンのはしりでもあるわけです。それからスポーニング絡みの魚であったり、ターンオーバー時のウィードトップだったりとか、ほかにも当時の釣りでは考えられなかった表層の釣りも視野に入れていました」。

具現化される思い描いたルアー

そんなポップXのリリースは1996年だが、さらに前、1990年初頭にはすでに開発がスタートしていたという。

「釣りたい魚もいて、それを狙う方法も考えていましたが、ほかにカテゴライズできるジャンルがなかったので、ポッパーとしてのカテゴライズで開発がスタートしました。だから一番初めはもっとプレーンな形状で、ポッパー的な性能も持ち合わせていました」。

1995年に発行されたメガバスのコンセプトアルバム第二弾「The Voice of GAIA」にてこっそりと公開されていたポップXのプロトモデル。「コレ1つで317本バイトを達成した14個目のMPO16サンプル」と書かれている。今のポップXとは異なるプレーンなデザインは本文中で伊東さんが語った通り。

そしてマサチューセッツ州に当時のメガバスUSAを設立したころからポップXの本格的なテストがスタートしたという。

「アメリカでもテスト釣行で各地をフィールド行脚していたんです。よく行っていたのが池原ダムや七色ダムのようにジンクリアで尾瀬沼みたいな、現地のナチュラルレイクでした。レイライン(透明度)が6メートルくらいなので、バスはそのレンジでクルージングしていたりニュートラル状態になっています。そしてこの魚をトップで釣るために、移動距離を抑えたアクションや生命感のあるサウンドなど、『ポップX』足りうる要素を獲得していったんです。時折水深の浅いフィールドもあって、遠投して釣らざるを得ないこともあったので、ロングディスタンス時の操作性なんかも追求しました」。

こうして伊東さんの思い描いたルアーがいよいよ『ポップX』として、具現化していった。

「だからポップXはポッパーではないんです。自分の脳内ビジョンを形にしたから。同様のモデルもないしお手本もない。造形もそうです。決してバスをモチーフにしたわけではないんです。ナリは小さいけど、秘めたポテンシャルは『列島を震撼させる怪獣』クラス。そんなイメージで色々と創造していったら、ずいぶん強面になっちゃいましたね」。

ポッパーの皮をかぶった怪獣。

『ポップX』とは、そんなルアーなのかもしれない。

普遍的に釣れるポップXの魔力

発売から四半世紀以上が経過したポップXだが、その人気は衰えることを知らない。弊誌主催の読者投票型の人気ルアーランキング企画『タックル・オブ・ザ・イヤー(T.O.Y.)』においてもトップ10の常連であり、表層系ルアーというカテゴリーで考えると今なおトップクラスの人気を誇る。もちろん、メガバスだからこその優れた造形美が効いているであろうことは間違いないが、T.O.Y.は釣れているルアーに人気が集まる傾向にある。つまり、時代を超えて釣れ続けていることは間違いない。

「バスを水面に呼び寄せて捕食させる。そのための普遍的な原理原則、その核心的な要素が濃縮されているのでしょう。水面はバスにとって非常にリスキーな場所です。水中では高次捕食者なのに、水面では鳥や人に狙われてその立場が揺らぐわけですからね。それでも食いたくなる。食わざるをえない状況にさせる。そんな要素の集積がポップXなのでしょう」。

最早その異常なまでの釣れぶりは、開発者の想定の域を逸脱しつつあるのだ。

「ポップXにはバリエーションとして、ポップMAXとベビーポップXがありますが、あれらは厳密にはポップXとは別のルアーです」。

ポップMAX [写真タップで拡大]

ベビーポップX [写真タップで拡大]

「実はもう50種類近くのプロトモデルを開発してポップXのサイズ違いを作ろうとしているのですが、結局はポップXでいいよね、となってしまう。サイズ展開が不可能なほどの完成度なんです。逆に言えば、その釣れる普遍的な性能を変えないために、フックのフェザーを固定するスレッドに至るまで30年間変更していません。釣れる要素は完成されたボディにいくつもいくつも詰め込まれていますから、何も変えたくない。変えられないのです」。

着水音、水面に漂う姿勢、ローリングアクション時のフラッシング、水しぶきの膨張と収縮、ボディとフェザーが生み出す微波動、ひとまとめに遠くへ飛ばすスプラッシュ、静かな生命感を持つサウンド…。ポップXが持つ、釣れるであろう要素は挙げればきりがないのだ。

「おそらくそれが長く使っていただけている理由なのではないかと思いますね。バスが思わず襲いたくなる要素がものすごくたくさん濃縮されていて、誰が使っても、そのいずれかの要素が効いて先ずは釣れる。テクニックの有無や嗜好性に関わらず、です。そして効かせられる要素も増えていくから長く使える。それがポップXなんです」。

誰もが釣れる 誰からも愛される

そして今、ポップXの名前の秘密が明かされる。

「ポップXはポッパーではないと申し上げました。だからこれまでも敢えてポッパーという言葉を使ってきていません。ではなぜ『ポップ』なのか。じつは『ポピュラリティ』、つまり大衆性から来ているんです。いろんな場所で、誰が使っても釣れる。ショートジャークでライフライクなポップ音を出して釣る人がいれば、連続ドッグウォークによるネチネチとしたローリングアクションで釣る人もいると思います。そうかと思えば、虫パターンのようにほとんど動かさずに誘うという方もいるでしょう。自分が持っている流儀に合わせて、誰もが扱える表層系ルアーとして、この名前を付けたのです」。

人を選ばず、テクニックも問わず使える「大衆性」という名前を付けられたポップXは、やがてその確かな実力によって別の意味を携える。

29年間使われ続け、350万個という途方もない個数が生産されるに至った圧倒的「人気」。

メガバスを代表するプラグとして、そして日本を代表する表層系ルアーとして、最も「ポピュラー」なルアーとなったポップXは2026年、生誕30周年を迎える。

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メガバス(Megabass)

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