
我々ルアーマンが陥りがちな錯覚。より精密に餌となる生物を模した形状だったいカラーリングだったり。その方向に行けば行くほど、釣れる、釣れそうって思ってしまいがち。もちろん、その方向も正解なんだけど、ルアーの本質的な機能ってそれじゃないかもしれないと思わせてくれる思想とアイデアで、日本のルアーフィッシング界に黎明期から切り込んできた鬼才デザイナーが、今、送り込んできているルアーたちをちょっと紹介させてください。
●文:ルアマガプラス編集部(深谷真)
『ammo baits』というプロダクト
ammo baitsは2024年に株式会社シマウマの1ブランドとして生まれたプロダクト。ルアーのデザインや設計、製造を行っているのは山科和史さん。この名前を聞いて『ヒヨコブランド』だよね?となった人は、往年のルアーマンではないだろうか。
ヒヨコブランドは、1990年代後半〜2000年代初頭に日本で活動していたルアーメーカー。明確な代表者名や大量の広告展開は行わず、独特なフォルムや構造を持つルアーを少量流通させた。
山科さんは、1990年代後半、2000年初頭にかけて完成しつつあったバスルアー・トーナメント至上主義のムーブメントのなか、その潮流に抗うようにヒヨコブランドで当時の潮流のなかでの『異端』を作り続けてきたルアービルダーだ。象徴的なのはヒヨコブランドの『ペラ』。
ヒヨコブランドのペラは、「回すための部品」という従来の常識から外れた存在だった。安定した回転や均一な波動を目指すのではなく、わずかな巻き速度や水流の変化によって挙動が揺れ、不規則な音と抵抗を生み出す設計が特徴だ。なかでも特筆すべき『発明』は、不規則に回るプロペラの開発過程で偶然生まれた「クリック音」にある。この音は、小魚が餌をついばむ際に発する金属的な響きに近く、捕食者の本能を直接刺激する要素だとされる。
美しい花に一瞬目を奪われるように、その音はバスにとって理屈を超えて反応してしまう「餌の音」なのかもしれない。山科氏は、そうした本能的な反応を引き出す音をこのペラが生み出している可能性を語っている。この発明と思想は、形を変えながらも、現在のルアー設計に少なからず影響を与えている。ちなみに記者はアクアリウムをガチ勢として嗜んでいたことがあるのだが、モツゴやオイカワ、カワムツなどがボトムなどで餌を啄む硬質な音が、まさに、このペラのクリック音に近くこの逸話を聞いてなるほどと納得してしまった。
ホールが楕円穴であるがスムースに回転し、さらにクリック音を発生
さて、そんな革命的なパーツを開発したヒヨコデザインそのものは、現在は休止している。が、その山科さんは新天地といえる沖縄に移住し、ルアーデザイナー、設計者として商品開発を手助けする会社を立ち上げ、そのなかのひとつとしてammmo baitsが生まれた。ammo baitsからは既に何種類かのルアーが発売されている。
それらのプロダクトは、最近、飛躍的な性能向上でルアーの製造も可能になった3Dプリンターで製造されており、少量生産ながらもルアービルダーであり、デザイナー・山科和史のアイデアがダイレクトに反映された逸品になっている。
『リアル』なルアーとは真逆のベクトルの、機能美、ルアーの黄金比が投影されたかの様な美しさがある釣れるルアーたちにぜひ注目してほしい。
往年のルアーを3Dプリンターで復活
ヒヨコデザインのルアーはインジェクション系のプロパー品のように大ヒットしたというルアーは多くないがコアな層に強く支持された。まさに、知る人ぞ知るルアーが多くある。代表作となるひとつがウッドが材料になっているマンドリラー。先ほどあげた、不規則に回り、DNAを刺激するクリック音を発するヒヨコのペラを世に知らしめた作品のひとつだ。
ammmo baitsではこのマンドリラーとマンドリラーjrを、当時のウッドではなく3Dプリンターによる製造で復活させている。
元々のウッドに比べて良い点は、比重やバランスを調整できること。1個からでも制作できること、カラープリントなので、様々な色やパターンが塗装無しで再現できること。 素材がウッドよりも硬いので、音が響きやすいこと。 なのだという。
デザイナー・山科氏の拠点である沖縄で鍛え上げられたビッグフィッシュキラーが「ammo_Chugger_120」だ。本ルアーは、ジャイアント・トレバリーをはじめとする沖縄の大型魚を想定し、実釣を重ねて完成したモデル。
3Dプリンター製ルアーであっても、大型魚と真っ向から渡り合えるだけの強度と耐久性を備えていることを、山科氏自身が確信するに至ったプロダクトでもある。さらに、大型魚をキャッチした後に万が一破損した場合にはルアーを交換する保証制度が用意されており、その割り切った姿勢も本作の特徴と言える。
ammo_Chugger_120 価格4,950円・ Length: 120mm・ Weight: 50g・ Hook: ST66 #1/0・ for offshore
ammo baitsは、一見するとリアル系ルアーの系譜には属さない。しかしその造形は、魚を「だます」ための写実性ではなく、ルアーがなぜ釣れるのかという要素を意図的に印象化することで成り立っている。過剰な装飾や説明を排し、水中での存在感や動きそのものを形にした結果、独特の機能美を醸し出しているのが特徴だ。現在は釣具店に加え、ECサイトでも入手可能となっており、その思想と手触りを実際に体験してみる価値は十分にある。ぜひ、手に取って使ってみて欲しい。
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