【TULALAじゃない話】オガケン大学・第1章『サカナのゴハンの探しかた』~第3回~“反射って何?魚は意外と賢い”

『オガケン大学』開校——。幼少期に米国で釣りを始め、大学での水産研究を通し学んだ豊富な知識や2回に渡る365日連続釣行など、人並外れた知識と経験を持つ小川健太郎さんが、「釣り」を魚の生態から解き明かす。今回は第1章『サカナのゴハンの探しかた』~第3回~“反射って何?魚は意外と賢い”。

●文:小川健太郎 ●イラスト:大和なでしこ ●写真:ルアマガプラス編集部

小川健太郎(おがわ・けんたろう)

TULALAという釣り人ひとりひとりの思い描く特殊な竿を作るインディーズなメーカーをやってます。個人では昔ルアーマガジンをはじめ、多くの釣り、車やアウトドア、音楽、新聞からタウン誌などで連載を何本もやっていたライター/アングラーでしたが、大型のトラックに追突されて腰を痛めてバッサリ引退し、イラストやデザインなどの仕事に転向。以来10年以上連載を控えていましたが、webなら締め切りがない、という甘言に釣られてちょこっと書いてみることに。よろしくお願い申し上げます。

前回のおさらい

(教授、黒板に「音・波 → 匂い → 視覚」と書きながら登場)

教授「前回は、魚がルアーを発見する順番を学びましたね。音で気づいて、匂いで確認して、最後に目で見る」

生徒「で、急いでるときに確認を省略するのが……反射食い、でしたよね」

教授「そう。今日はその『反射』をもっと深く掘り下げます」

バスくん「また自分たちの話っすか……」

教授「バスくん、あなたは前回、そうめんのツユの話に妙に反応していましたね」

バスくん「あ、あれはただの……」

マスくん「『魚なのにそうめん知ってんのかよ』って言ってましたよね。でも知ってたんですか?」

バスくん「……うるさいっす」

「3秒で忘れる」は本当か?

教授「さて、よく聞く説があります。『魚は3秒で記憶を忘れる』」

魚は3秒で記憶を忘れる?

バスくん「……はあ?」

マスくん「それ一部の個体だけで、事実ではないですよ」

バスくん「そんな脳みそのやつばっかりだったら、氷河期超えて生きていけないっすよ。失礼な」

実は、魚の記憶力は私たちが想像するよりはるかに優れている。バスを対象にした実験では、一度学習した条件反射を半年以上、場合によっては一年近く保持していたケースが確認されている。「3秒で忘れる」というのは、根拠のない俗説だ。そういう個体も居る、という話。

教授「むしろ逆なんです。魚の多くは一度覚えたことをなかなか忘れない。これが釣り人にとっては厄介な話になる」

生徒「厄介? どういうことですか?」

教授「スレ、という現象をご存じですか」

生徒「……ルアーを見切るようになること、ですよね」

教授「そう。魚が『学習した』ということです」

スレるメカニズム

魚がスレる——つまりルアーを無視したり逃げたりするようになる——のは、「痛い目に遭った記憶」と「そのときの信号」が結びついて学習されるからだと考えられる。

教授「例えばシャラシャラした高い音のするルアーで釣られた魚がいたとします。その魚はその音と『危険』を結びつけて学習する。以降、同じ音がすると警戒するようになる」

バスくん「まあ……身に覚えがありすぎて何も言えないっすね」

マスくん「釣り場によっては、最初の数投はどんなルアーでも反応するのに、だんだん反応が薄くなるのは、まさにこれですね」」

教授「さらに厄介なのは、群れの中でこれが伝染することがある、という点です」

群れの中で最初に釣られた魚——そのリーダー格の個体が戻ってこなかったり、危険信号を発したりすることで、群れ全体が警戒し始めることもある。

スレが群れの中で伝染することも。

生徒「じゃあ、一匹釣ったら場が崩れるのはそのせいですか?」

教授「そのケースはあります。釣れた魚が群れのリーダー的な個体だった場合、長時間ファイトシーンを群れに見せてしまうことで残りが一気に散ることがある。だから連発しているときにいったんキープするのが有効な場合もある——まあ、それは釣り方の話なので詳しくは別の機会に」

バスくん「キープって……ずいぶんと物騒な話を平然と(小声)」

でも魚は馬鹿じゃない——だからこそ釣れる

教授「ここで少し視点を変えましょう。魚は学習する、記憶する、スレる。これは釣り人にとって難しい話のように聞こえますね」

生徒「そうですよね……賢いなら釣れにくいじゃないですか」

教授「ところが、賢いからこそ釣れる側面もある。これが今日の本題です」

ここで整理しておきたいのは、「反射」には大きく2種類あるということだ。

教授「ひとつは『無条件反射』。生まれつきの、学習なしに起きる反応です。もうひとつが『条件反射』。生きていく中で学習して獲得した反応」

生徒「無条件反射って、例えば?」

教授「熱いものに触れたら思わず手を引っ込める、あれが無条件反射です。学習しなくても起きる」

バスくん「オレたちで言えば……光るものが急に動いたら、とっさに食いつく、みたいな感じっすかね」

教授「それも一種の無条件反射ですね。エサの動きに近い信号に対して、確認なしに反応してしまう」

マスくん「渓流育ちなもので……水面に何かが落ちると、考える前に飛び出してしまうことがあります」

生徒「それって……本能みたいなもの?」

教授「まさに。本能と無条件反射は近いところにある。そしてこちらは、スレにくい」

これが重要なポイントだ。本能に近い反応は、学習によって簡単に上書きされない。だから何度釣り場を叩いていても、本能に訴えるルアーアクションには反応が出やすい。

教授「一方、条件反射はスレる。でも条件反射があるからこそ、釣り人はそれを逆手に取れる」

生徒「逆手に取る?」

条件反射を利用する

教授「実験の話をしましょう。水槽のバスに、赤い壁紙を見せた側からエサを与え続けます。これを一週間繰り返すと……」

バスくん「あ、なんかわかる。そっちに行くと飯が出てくる、って覚えるやつっすね」

教授「そうです。二週間も続けると、全個体が赤い壁紙に反応してエサを待つようになった。本来バスは緑を好む傾向があるにもかかわらず」

生徒「えっ、それって……釣りに使えませんか?」

教授「使えます。管理釣り場でエサやりの時間を覚えた魚が、その時間帯になると勝手に集まってくるでしょう?」

マスくん「わかります! 養殖場でも同じことが起きますよね。音や光の合図でエサの時間を覚える」

管理釣り場ではエサやりの時間になると、集まり始める現象も。

教授「魚は『この合図が来たら食べ物がある』という条件を学習する。餌の釣り堀で釣り人が同じ時間、同じ場所で釣りをすると、最初の数回はバラバラでも、だんだんと魚のほうが釣り人の到着を待つようになる——という現象が起きることがある」

バスくん「……聞けば聞くほど複雑な気分っすよ」

マズメはなぜ釣れる?

生徒「朝マズメや夕マズメって、条件反射が関係してるんですか?」

教授「関係しています。光の変化をトリガーに、プランクトンが動き始め、小魚が動き、大型の捕食魚が動く——この食物連鎖の動きが毎日繰り返される。魚はこのリズムを『条件』として学習する」

マスくん「光が変わると、お腹が空いてくる感じがするんですよね。渓流育ちなもので、夜明けの感じは体に染み込んでいる気がします」

バスくん「オレも朝は忙しいんすよ。なんか体が勝手に動く感じ」

教授「それが条件反射です。光の変化という信号に、捕食行動が結びついている。だから釣り人がマズメ時を狙うのは、理にかなっています」

生徒「……それって逆に言うと、マズメ以外は釣りにくいってことですか?」

教授「そうとも限らない。またいずれ教えますが、バスは日周性が季節変化する可能性が高いと私は見ています。また本能に訴えるアクションや音には、時間帯に関係なく反応することもある。ただ、条件反射が重なるマズメ時は、その条件を使って釣りやすいということです」

ローテーションが大事な理由

生徒「スレる話に戻るんですが……スレたらどうすればいいんですか?」

教授「ルアーをローテーションする、という行為はまさにその対策ですね。同じ音、同じ動き、同じ色を繰り返せば、魚はそれを『危険な信号』として学習していく。別の信号を与えることで、学習済みの警戒を回避できる」

バスくん「まあ、そうっすね。同じルアーばっかり来ると、だんだん『あ、またか』ってなってくるんで」

ルアーローテションは魚に学習させないためにも必須。

マスくん「渓流育ちなもので……特にドライフライのパターンは繊細で、一度見切ると同じパターンには
なかなか反応しなくなります」

教授「逆に言えば、しばらく時間を置いてから同じルアーを投げると、また反応することがある。記憶は消えなくても、時間経過で優先順位が変わることも結構あるようです」

生徒「じゃあ、同じ場所で同じルアーをずっと投げ続けるのは……」

バスくん「まあ、よっぽどのことがないと食わないっすね、正直」

教授「ただ、『よっぽどのこと』というのが釣りの妙でもある。本能を強く刺激するアクション、完全に目線の外から来るアプローチ——条件反射で警戒していても、本能が上書きすることがある」

生徒「奥が深い……」

今日のまとめ(黒板)

(教授、黒板にまとめを書く)

第3回のポイント
・「魚は3秒で忘れる」は俗説 一度学習した条件反射は半年以上保持される場合も
・スレるのは「学習による条件反射」 危険な信号として記憶される
・反射には2種類ある
・無条件反射=生まれつきの反応。スレにくい。本能に近い
・条件反射=学習で獲得した反応。スレやすいが、逆手に取れる
・マズメが釣れるのは条件反射のリズムと食物連鎖の連動
・ローテーションの意味は「学習済みの警戒を別の信号でかわすこと」

教授「次回は、クリアウォーター、マッディウォーター、夜釣りと、条件によって感覚の優先順位がどう変わるかを解説します」

生徒「場所によって狙い方が変わるってことですか」

教授「そうです。同じバスでも、水の透明度と明るさで、見ている世界がまるで違う」

バスくん「……そういえばマッディな池と、クリアな野池だと、なんか感覚が全然違う気がするっすね」

マスくん「渓流の澄んだ水と、里川の濁った水でも全然違います。あれは目の使い方が変わっているのかな……」

教授「その話を次回しましょう」

次回・第4回:「クリア・濁り・夜、感覚の使い分け」へ続く

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