
『オガケン大学』開校——。幼少期に米国で釣りを始め、大学での水産研究を通し学んだ豊富な知識や2回に渡る365日連続釣行など、人並外れた知識と経験を持つ小川健太郎さんが、「釣り」を魚の生態から解き明かす。今回は第3章『色と光のルアー学』〜第2回〜”水深で消える色の順番__水は究極のフィルターである”について勉強しよう。
●文:ルアマガプラス編集部
小川健太郎(おがわ・けんたろう)
TULALAという釣り人ひとりひとりの思い描く特殊な竿を作るインディーズなメーカーをやってます。個人では昔ルアーマガジンをはじめ、多くの釣り、車やアウトドア、音楽、新聞からタウン誌などで連載を何本もやっていたライター/アングラーでしたが、大型のトラックに追突されて腰を痛めてバッサリ引退し、イラストやデザインなどの仕事に転向。以来10年以上連載を控えていましたが、webなら締め切りがない、という甘言に釣られてちょこっと書いてみることに。よろしくお願い申し上げます。
※注
本原稿は「絶対の法則」ではなく「傾向」です。カラーは釣りを構成する道具のひとつにすぎません。第1章・第2章で学んだ音・匂い・動きこそが基本であり、カラーはその上に乗る選択肢です。釣れる魚の個体差もあります。しかし、選ぶ理由を持てると、釣りはもっと面白くなります。
前回のおさらい:魚は四原色で見ている

教授「前回、人間の目と魚の目の違いを学びました。覚えていますか?」

生徒「人間はRGBの三原色、淡水魚や汽水魚の多くはRGBVの四原色。紫外線の一部まで見えている」
教授「それと——」

バスくん「順応が遅い。朝夕はコントラスト、日中は色。っすよね」
教授「完璧です。で、前回の最後に、こんな問いかけをしました。『赤いルアーを深いところに投げたとき、本当に赤く見えているのか?』——今日はその答えを出します」
水は光のフィルターである
教授「まず大前提です。色=光の反射でしたね。太陽光にはすべての色が含まれていて、物体がそのうちの一部を反射する。それが色として見える」
生徒「前回の復習ですね」

教授「では——水中に入った太陽光は、どうなるでしょうか」
(教授が水槽を指す)
教授「水は光を吸収します。しかも、すべての色を均等に吸収するのではなく、色によって吸収される深さが違う。ここがポイントです」
マスくん「渓流育ちなもので実感がありますが……深い淵は青緑に見えますよね。あれは水が色を食べているからなのですね」
教授「食べている——いい表現です。まさにそう。水は光を食べる。しかも好き嫌いがある」
虹の順番で消えていく。
教授「水が最初に食べるのは、赤です」
(黒板に書く)
水深と色の消失順序(人間の目には)
赤 → 橙(オレンジ)→ 黄 → 緑 → 青

教授「純粋な水の中では、赤い光は水深わずか数メートルで大幅に減衰します。10メートルも潜れば、人間の目にはほぼ赤い光は届かない。深くなるほど短い波長——青や紫の光だけが残っていく」

生徒「じゃあ、赤いルアーを10メートルの深さに沈めたら——」
教授「人間の目には、赤には見えません。赤い光が水に吸収されて届かないわけですから、赤いルアーは赤い光を反射できない。結果として、暗い色——黒っぽいシルエットに見えることになります」
バスくん「……え、マジっすか。あの赤いクランクベイト、ディープで黒くなってるんすか」
教授「人間の目にはそう見えます。ただし——ここで非常に大事な注意があります」
「人間の目には」の前置き
(教授、黒板に大きく書く)
色が消えるのは(人間の目には)の話
教授「水深で色が消失するという話をするとき、必ずこの前置きが必要です。なぜなら、魚の目は人間の目と違うからです」
生徒「四原色だから、人間に見えない色も見えている……」
教授「そう。魚は紫外線側の光まで拾えます。しかも、水中で最もよく通る光の波長は460ナノメートル前後——青の領域です。魚の色覚がまさにこの青を中心に発達しているということは、水中で最も使える光を最大限に活用する仕組みになっている」

マスくん「水に合わせて目が進化している、ということですね」
教授「そういうことです。だから、人間が水中に潜って『赤が見えない!』と思っても、魚にとっての見え方は別の次元にある可能性がある。少なくとも、人間が思うほど何も見えていないわけではない、ということは押さえておいてください」
バスくん「じゃあ、深いところでも赤が赤く見えてるかもしれないんすか?」
教授「深いプールがあればバスくんに確認してもらいたいのですが。赤い光そのものが届かなければ、赤としては見えていないでしょう。でも、人間に見えない紫外線を利用したコントラストで、何かしらの色彩的存在感を拾っている可能性はある。ここは正直にまだわかっていない領域です。断定はできません」
「水深=距離」という考え方

教授「さて、色が消える順番はわかりました。でも実際の釣りでは、水深10メートルまで沈めることってそんなに多くないですよね」
生徒「近所の釣りだと、せいぜい5メートルくらいがメインです」
教授「そう。でも——この色の消失は、水深だけの話ではありません」
バスくん「?」
教授「水深と同じ効果をもたらすものがあります。濁りです」
マスくん「……なるほど」
教授「水深3メートルのクリアウォーターと、水深1メートルの濁った水。どちらも光が同じだけ吸収・散乱されるなら、色の消え方は似たようなことが起きます。つまり——」
(黒板に書く)
濁り = 水深の圧縮
教授「濁った水は、浅くても深い場所と同じ光の条件を作り出す。これがカラー選びにとって非常に重要な概念です」

生徒「濁りがきつい日は、浅くても赤が効きにくくなるってことですか?」
教授「いい質問です。正確には、赤い光がルアーに到達しにくくなる。するとルアーは赤を反射できず、暗いシルエットになっていく。その場合、赤よりもっと視認しやすい色——ピンクやチャート、あるいは白のように光量全体を反射できる色のほうが、魚に見つけてもらいやすくなる可能性がある」
生徒「雨のあと、いつもの赤がなんか効かなくてピンクに替えたら釣られた、っていう経験あります」
教授「まさにそれです。ただし、繰り返しますが——」

マスくん「人間の目での推測であって、魚の実際の見え方は違う可能性がある」
教授「その通り。だからこの講義は絶対のルールではなく、傾向として覚えてください」
浸透圧の罠:濁りがないのにフィルターがかかる

教授「ところで、濁りがなくても同じことが起きる場面があります」
生徒「え?透明な水でも?」
教授「はい。河口です。川と海が交わる場所——塩分濃度が急激に変わるエリアで、面白いことが起きます」

バスくん「河口……シーバスのポイントっすね」
教授「サケの漁場でよく使われる漁具やルアーに、こんな傾向があります。海にいるサケは赤いルアーによく反応する。ところが河口に近づくにつれて、ピンクやオレンジに負けだす。さらに川に入ると、白いルアーでの釣果、売上が飛躍的に伸びる。日本は内水面のサケ漁を禁じているので川のデータが少ないのですが、海外では川の売上データも取ることができます」
マスくん「浸透圧……ですね」
教授「そう。海水に慣れた魚が急激に淡水に入ると、体の粘膜に浸透圧の変化が起きます。細胞内に水が入り込んでふやける。ナメクジに塩をかけると縮む——あれの逆です。角膜の細胞がふやけると、浸透圧が落ち着くまでは薄い白い膜がかかったような状態になる」
生徒「目の表面にフィルターが……」
教授「そう。見た目には水がクリアでも、魚の目に白いフィルターがかかっている。つまり魚にとっては濁りの中にいるのと似た状態になるわけです。こうなると、はっきりした色——ピンクやチャート、白のような色が見やすくなる」

バスくん「バスのスポーニングの後、流れ込みに入ったやつにピンクが効くって聞いたことあるっす。あれもこれっすか?」
教授「可能性は高いですね。産卵後のバスが新鮮な水の流れ込みに集まる習性がありますが、本湖とインレットの有機物などのなんらかの濃度差で一時的に目にフィルターがかかっている個体がいるかもしれない。本来そのインレットに常駐している個体にはクリアな赤が効くのに、入ったばかりの個体にはピンクが効く——こういう使い分けのヒントになります」
青が最後に残る意味
教授「色の消失順で最後に残るのは青でした。これには釣り的に面白い意味があります」

マスくん「水中で最もよく通る光が青だからこそ、水中で一番『自然な色』が青、ということですか」
教授「するどい。青は水中の背景色に近い。つまり青いルアーは——」
バスくん「目立たない……?」
教授「環境に溶け込みやすい、ということです。これはプラスにもマイナスにもなる。目立たないから警戒されにくいけど、発見もされにくい。クリアウォーターで濃度の安定した水——何日も雨が降っていない湖の日中なんかでは、青が不思議と効くことがあります。逆に濁りが入った状況では、青は一番見つけてもらいにくい色になる」

生徒「それが、濁ったときに金が爆釣したり、クリアレイクで青が定番になってたりする理由なんですか」
教授「まさに。濁り=水深圧縮の考え方で説明がつきます。ただし、この青と金の話はもう少し複雑な要素があるので、第3回の金銀の話で詳しくやりましょう」
実釣への応用:深さと濁りで色を選ぶ

教授「今日の話を実釣に落とし込むと、こうなります」
(黒板に書く)
浅い+クリア → 色の選択肢が広い。赤も緑も青も届く
深い or 濁り → 赤から順に情報が減る。ピンク、チャート、白が有利になりやすい
非常に深い or 強い濁り → 色よりもコントラスト(白・黒・蛍光色)を考える
バスくん「深いか濁ったら、コントラスト系にシフトっすね」
教授「ただし——」
マスくん「人間の目には、ですよね」
教授「(笑って)もう完璧ですね。はい。これはあくまで光の物理法則などから導いた傾向です。魚の目がどこまで補正しているか、紫外線をどう使っているかによって実際は少し違うかもしれない。だから、クリアで深いところでも赤いクランクで釣れることはある。でも、なぜ釣れたのか——あるいはなぜ釣れなかったのか——を考えるための物差しとして、この知識は非常に役に立ちます」
第3章第2回のまとめ
(教授、黒板にまとめを書く)
第3章第2回のポイント
・水は光を吸収する「フィルター」。色によって消える深さが違う
・消失順序(人間の目には):赤 → 橙 → 黄 → 緑 → 青
・純粋な水で最も通る光は青(波長460nm前後)
・水深10mで赤い光はほぼ届かない → 赤いルアーは暗いシルエットに(人間の目には)
・色が消えるのは「人間の目には」の話。魚の四原色
・紫外線利用で見え方は異なる可能性・浸透圧変化(河口、インレット)→ 目に白いフィルター → 濁りと似た効果
・深い or 濁り → ピンク、チャート、白が見やすい傾向
・クリア+安定水質 → 青が自然色として溶け込みやすいあり
・濁り=水深の圧縮。浅くても濁れば、深場と似た光条件になる
・浸透圧変化(河口、インレット)→ 目に白いフィルター → 濁りと似た効果
・深い or 濁り → ピンク、チャート、白が見やすい傾向
・クリア+安定水質 → 青が自然色として溶け込みやすい

教授「水深と濁りで、色の情報がどう変わるか。これが今日のテーマでした。次回からはいよいよ具体的な色の選び方に入ります」
生徒「待ってました。金と銀、どっちを朝投げたらいいんだろ、ってずっと気になってました」
教授「お、ちょうどそれが次回のテーマです——『金と銀、どっちを投げる?』。環境光とルアーの反射の関係を、車の運転で使うあるものに例えてお話しします」
生徒「あるもの?」
教授「フォグランプです。霧の中で黄色い光を使う、あの理由と同じなんですよ」
マスくん「(静かに)また先生の目が輝いている……」
次回予告:第3章第3回「金と銀、どっちを投げる?——環境光マッチングの法則」
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