松本幸雄とのプライベート釣行で知った、エリア(管理釣り場)エキスパートの日常!



取材じゃないから見えることもある

釣りライターなどというお仕事をさせて頂いていると、いくつかの役得がある。そのひとつがトッププロとのプライベート釣行。

リラックスムード満点の遊びの釣りだが、トッププロが呼吸のように自然に行う釣りの中に、取材時には見えない、脅威の能力とルアーフィッシングの奥深さが見えることがある。今回は、エリアゲームのトップを走り続ける松本幸雄さんと行った、エリア・プライベート釣行のお話しです。

まつもと・さちお ロデオクラフト・プロスタッフ。10代の頃からエリアトラウトの世界でトップを疾走するプロアングラー。自身の釣り理論を凝縮して開発した、タックルとルアーは例外なく時代を代表する名作となっている。エリアに限らず、ナマズ、ソルト、バス、ライギョゲームに高次元でのめり込んでいる。

その出来事はマッディポンドで起きた

ポンドはマッディだった。濁ったポンドではどこにトラウトが泳いでいるのか視認できない。その日のポンドは活性が低く、僕を含めた、そこに居るお客さんの誰も釣れていない。ただ一人、松本幸雄さんだけを除いて。

松本さんだけが、テンポよくトラウトを釣り続けている。まぁ~ここまではよくある話。2時間経っても、3時間経っても1尾も釣れなかった僕は、ついに松本さんに泣きついた。「全然釣れないよ~(涙)」。この一言がきっかけである出来事が起きた。

マッディポンドでトラウトの姿が視認できなくても、ルアーの反応でマス玉の大まかな位置はイメージできる。

「ハンドル5回転から10回転以内でヒットしますよ!」(松本幸雄)

松本さんは僕にひとつのクランクベイトを貸してくれた。「このクランクを結んで、対岸の木に向かってフルキャストしてください」。僕がフルキャストすると「もう少し右です。もう少し飛ばして下さい」。

キャスト位置を微調整して、何度目かのキャストで「そこです。ロッドティップを少し下げて、ゆっくりリールを巻いて下さい。もう少し速く…、今度は速すぎます…。そうです…その速度です。そのリトリーブ速度で巻いていれば、ハンドル5回転~10回転以内でヒットしますよ」。と笑顔で教えてくれた。その言葉通り、リールハンドルを7回巻いた直後にドスンと深い完璧なアタリが入った。



なぜ…松本さんは、そこまで正確にヒットを予測できたのか?

ひとつのクランクベイトをススメてくれた松本さんだが、注目すべきは、この日、松本さんは一度もクランクベイトを投げていない…という現実。松本さんは終始スプーンをローテして釣り続けていた。さらに、水質がマッディなのでトラウトの姿は見えない。その状況下でピンポイントで釣られてくれた。そこにはもちろん論理的な理由が存在する。

エリアゲームにとってスプーンは鋭敏なレーダー!

松本さんの主力スプーンのひとつであるノアシリーズ。写真はノア・ジュニア。

ミリ単位でレンジコントロールできるスプーンは、熟練のアングラーにとって、ときに高性能の魚群探知機以上の働きをする。エリアの場合、目の前のポンドには必ずトラウトが居る。

問題は、どんな速度の、どんな動きの、どんなカラーに反応するトラウトが、どこに(レンジと場所)溜まっているのか? を把握できるかにかかっている。

カラーバリエーションは多いほど有利。僅かな色の濃淡で釣果に明確な違いが出ることも珍しくないのがエリアゲーム。

松本さんはスプーンをレーダーのように駆使して、レンジと速度を微調整しながら、アタリの出方や、トラウトの食い方のデータを蓄積していた。そして、目の前のポンドのトラウト活性地図を、脳内でイメージ化していた。

スプーンはエリアゲームの主力ルアー。用途ごとに何個ものワレットに分類して収納されている。

だからこそマッディで見えないポンドでも、僕のキャストに対して、狙うべき位置を正確に指示できた。

また、トラウトの食うレンジを把握していたので、僕に渡したクランクベイトで、リールハンドルを5回ほど巻くと、ベストのレンジに潜行することを理解していた。

その上、リール1回転を約70センチで計算して、10回転目くらいで食い気の多いマス玉を抜けることも分かっていた。

エリアには必ず魚が居る。釣れないとしたら原因は自分にある。そうした考え方が松本さんの細胞レベルにまで染み込んでいる。

ちなみにスプーンではなくクランクベイトを僕に渡した理由は、クランクベイトは、攻略レンジやアクションがルアーに内包されているため、すべてをアングラー側がコントロールする必要があるスプーンよりも扱いやすいから…。

エリアゲームの奥深さを裏付けるエキスパートたちのハイレベルな思考

こうした裏事情を知ると、緻密なデータの上に構築されているエリアゲームの奥深さを知ることができる。松本さんの行ったことは魔法ではない。あくまでもエリアエキスパートたちの日常なのだ。そして、松本さんを始めとしたエリアゲームのエキスパートたちは、こうした高次元の日常を土台として、その上に魔法のような高等メソッドを、高く丁寧に積み上げている。


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