菊地栄一×川村光大郎 クリエーターズクロストーク【ボトムアップfeat菊地栄一編】



お待ちかね後編は、川村光大郎さん渾身のボトムアップルアー群を、エリアトラウト系トップデザイナー・菊地栄一さんが分析する! エリアトラウト、ヴァルケイン代表・菊地栄一さんと、ブラックバス、ボトムアップ代表・川村光大郎さん。魚種の壁に阻まれて今まで接点がなかったこの2人、実は同い年。さらには、モノ作りに対する熱い思い、魚釣りに対する情熱。こだわり強め…という同周波数を有する2人のクロストークが炸裂!



HTTPError

【Profile】
菊池栄一(きくち・えいいち)
ヴァルケイン代表。エリアシーンのトップを突っ走るエリアトラウトメーカー・ヴァルケインをゼロから作り上げた、業界のレジェンド。栃木県と静岡県にて『アルクスポンド』という、大人気エリアの運営も行っている。こだわり強めのタックルクリエイターとしても支持されている。

【Profile】
川村光大郎(かわむら・こうたろう)
ボトムアップ代表。情熱のすべてをバスフィッシングにささげる、岸釣りのスペシャリスト。独創的な釣りスタイルもさることながら、作りあげるルアーやフィッシングギアも唯一無二の存在感を放つ。作るからには「今までにないアクション」&「他との明確な違い」を追及。妥協なきモノ作りの信者も多い。

菊地栄一×ボトムアップ・ルアー

川村「ボトムアップを立ち上げて、3年が経過しました。他に存在しているルアーであれば、それを使えばいい…という考えで開発を続けています。
ちなみにコレはビーブルというスピナーベイトですが、既存のスピナベにはないアクションが盛り込まれています。スピナーベイトは泳がせるとブレードが震源地になって震えます。その揺れが縦揺れだと釣れる…という説もあるのですが、確かにそれもあると思います。が…実際の魚は左右にもくねります。なので、自分は横揺れも出したいと思いました」

ビーブル/ボトムアップ スプリッターシステムによる絶妙な横揺れアクション。さらにはスローリトリーブ時にも発揮されるレスポンス力。そこに加えて、バスの本能に火を付ける、水をカクハンする水押し力を兼ね備えた、次世代型スピナーベイト。

川村「そのシステムがビーブルに搭載されているスプリッターです。ビーブルはゆっくり引いてもレスポンスがいいですが、実はレスポンスがいいだけではダメです。レスポンスを良くするためには、ブレードを薄く設計する手法があるのですが、薄くすると水掻き力が低下して、引き抵抗も弱くなってしまいます。その結果、バスの本能に火を付ける能力も下がってしまう。数多あるスピナベを調べると、よく釣れるモノはブレードの引き抵抗が強い。つまり水を強めに攪拌している。そのパワフルさを残しつつ、レスポンスもいい。かつスカートの生命感もあり、横揺れもする。そんなスピナベを作りました。ちょっと泳がせてみますね」

菊地「動きを下からも見てきますね(菊地さんが水槽の下へ移動し、見上げてアクションを確認する)」

菊地「確かに、しっかり水を掻いています。しかもレスポンスも抜群にいい。生命感が抜群です」

川村「自分はスピナベもバスから見て、魚っぽく見えて欲しいと思っています。あと、フッキングを考えるとラインは斜め上方向に引かれるので、遊泳姿勢が完全な水平になってしまうと、フッキングのパワーロスが生じます。理想はラインとフックが一直線になりつつも、スカートの中にフックがキレイに隠れている状態。それが、ナチュラルさとフッキング効率を兼ね備えた遊泳姿勢だと考えました」

菊地「下から確認すると、スカートの動きと、振動が強烈な生命感をまとっていて、鳥肌が立ちました」

前編では、常に新鮮な驚きをもってヴァルケイン体験を受ける川村光大郎さんがそこに。新たな刺激で、脳はフル回転。

川村「自分が得意な釣り方でスピナベサイトがあります。見えバスに対してダイレクトにスピナベを入れる釣り方です。つまり反応が丸見え。分かったことは、強すぎると逃げます。でも弱すぎると、今度はバスの気持ちに火が付かない。そのバランスが大切です。最初、スピナベサイトの反応はリアクションだと思っていました。ですが10年以上この釣りをして感じるのは、エサとして食べているように思えます」

菊地「しっかり認識して食っている、と」

川村「追って食っています。目の前にきて即食いではないです」

菊地「使ってみたくなりますね」

川村「これまでのスピナベにはない動きを盛り込みました」

菊地「本気で感動する動きです!」

川村「スピナベに限らず、釣れるルアーは下から見たときに必ず生命感がありますよね」

菊地「それは本当にそう思います」

川村「ちなみに、次のルアーですがコレはリズィーというシャッドクランクです。バスも年々賢くなっています。以前はオカッパリでもブリブリ動くクランクで結構釣れましたが、最近はそういう釣れ方は少ない」

リズィー/ボトムアップ 本質的には弱いアクションに軸足を置きつつ、そこに複雑さと刺激が盛り込まれたクランクベイト。具体的にはヘッドが8の字を描いて艶めかしく動く。ウォブともロールとも判別が付かない、ヌメヌメした不思議&不気味なアクション。

川村「ハイプレッシャー時には、タイト気味なアクションの方が釣れる傾向があります。そのうえで、優れたルアーの条件のひとつに挙げられるのがハイピッチ。スローに泳がせても生命感を失わず見切られにくい。ハイピッチを追い込むと動きが機械的になってきて、柔らかな艶めかしさに欠けてくる。だからハイピッチの領域だけを追い込むのではなく、大切なのは動きの質。ゆっくり巻いても艶めかしく見える動きの質です。複雑な艶めかしい動き。ちょっと巻いてみますね」

菊地「リズィーの動きは、ウォブリングとローリングの判別がつかないですね。自分は本能でその2タイプの動きを見極めるクセがあるのですが、このルアーはそれが分かりにくい…」

川村「それは本当に嬉しい言葉です(笑)。例えば、動きをウォブリングに振ると動きの支点はボディ中央になりますよね」

菊地「でもリズィーの支点は分からない」

川村「支点を分かりにくく作りました。本来であれば頭の振り幅とテールの振り幅が同じくらいなので、支点はセンターにくるはずですよね」

菊地「でもセンターに支点があるようには見えない」

川村「それもあって、開発に3年掛かってしまいました(笑)」

共通する要素が多いからこそ、そして違うフィールドで活躍するからこそ、フレッシュな観点と忌憚ない意見でどこまでも盛り上がる2人。

菊地「タイトなのに艶めかしい動き。不思議なアクションです」

川村「本質は弱いアクションだけど、そこに複雑さと刺激を盛り込みました。具体的にはヘッドが8の字を描くようによじらせています」

菊地「なるほど〜! このルアー、最初に形状を見ずに動きだけを見ると、リップが立っていると感じます…でもテールのフリを見ると、すぐにそうではないと分かる…、でも支点は見つからない。なるほど、そんなギミックがあったんですか」

川村「結構苦労しました(笑)」

菊地「いい意味で、ヌルヌルしたアクションですよね」

川村「本当はもう少し、時間を掛けずに作りたかったのですが(笑)」

正解のモノ作りのための、不正解探し

菊地「仕方ないと思います。今までにないモノを作るときには、正解と思われるバランスの、少し横にある間違いも確認する必要があるじゃないですか」

川村「それ! そうなんですよ〜。さすが菊地さん。今、おっしゃったことは、かなり核心ですよね。ココが正解だと思っても、必ずその周辺の領域も試さないとダメ。

菊地「コレで最強と思っても、わずかに違う、選ばない方も検証しないと理屈付けができない」

川村「そうですよね。後で後悔しないためにも周辺検証は必須です」

菊地「同じボディでわずかに仕様が違うタイプでも、キワキワでのみ効くことがありますよね〜。でも、トータルのアプローチで見るとやっぱりこっちが正解だ…ってね」

川村「そこまでしないと今までにないアクションは実現しないですね」

菊地「今までにないモノは基準がないから大変ですよね」

川村「天井が分からない。あと、自分の中で理想のアクションはあっても、この世にない動きなので、本当に実現できるのか分からない」

菊地「すべて手探りですね」

バス釣りならではの「ソフトルアー」

川村「そうなんですよ。ちなみに、話は変わりますが、自分が最もキャリアが長いのがワームの開発です。ワームは定番品も多いです。だからこそ、新しいモノが作りたかった。これまでにない動きでバスが好むアクション。食わせるためには弱さや、ナチュラルさも必要だけと、バスの食い気に火を付けるには刺激や強さも必要。なかでも大切なのは水押しだと感じています。水押しの強さは、視覚の強さよりもスレない感覚があります。ワームを泳がせてみますね。こいつはハリーシュリンプで、細かく動きます」

菊地「おっ!凄い!! 繊細!!!」

ハリーシュリンプ/ボトムアップ エリア業界の天才ルアークリエイターである菊地栄一さんをも唸らせた、脅威のアクション。アングラーが操作しなくても水とケンカして、勝手に振動する細部のアクションは、緻密な機械仕掛けに見えてしまうほど秀逸。

川村「この細かい動きでどうやってバスにアピールさせているか?というと細かい動きの集合体と思って下さい。細かいパーツが集合して、複雑さでアピール力を維持している。ノーシンカーにすると勝手にワサワサ動きます」

菊地「なにコレっ! えっ、何かの仕掛け? 凄すぎる!!」

川村「エビってボトムでキックバックするじゃないですか? その動きも演出可能です。ポンポンって」

菊地「あぁぁ〜エビだっ! これヤバイほどリアルですね」

川村「このときにテールが無いと、水をつかまないので、現状の『くの字』のキックバックはできません」

菊地「どうしても電動に見えてしまうくらい精密」

川村「フォール中もアングラーが動かさなくても、勝手に水とケンカして動いてくれます。今までにないアクションが出せました」

菊地「いや〜、ビックリです。最先端のワームって凄いですね」

川村「まだ、他にもあるんですが、全部やるとキリがないのでこの辺にしておきましょうか(笑)」

菊地「個人的には何時間掛かっても全部見たい(笑)」



バス釣り×エリアトラウト。クロスする観点と新たな地平

川村「バスルアーは種類も豊富で、まったくのニューカテゴリーが出にくいですが、それでも数年に1度くらいは、明らかに鋭くバスが反応するルアーやリグが出たりします。
トラウトの世界は、スプーンならスプーン、クランクならクランクの方向性を極限まで、掘り下げて細分化していく印象を受けたのですが、その一方で、ニューカテゴリーの方向性のルアーが登場する可能性はあると思いますか?」

菊地「十分にあると思います。ちなみに、今日見て頂いたクランクは全てフローティングですが、自分たちは、同じクランクでシンキングとハイフロートまで開発します。つまり同じボディでシンキングにしたときのバランスを最初から計算して開発するんですね。今はレンジごとに3タイプのルアーを使い分けていますが、もしかしたら、そこをひとつのルアーでカバーできるニューカテゴリーが登場する可能性もあります」

対談は、デュオ社の巨大水槽を借りて行なわれた。ジャパンクォリティを追求する釣り界のトップファクトリーだ。

川村「状況の壁も乗り越えて反応しちゃうルアー。そんなルアーができるといいですね」

菊地「発掘は常に必要ですね。アタリが大きく出るスプーンとかね」

川村「アタリが強く出るルアーっていいですよね。疑いなくルアーを食っている証拠ですもんね」

菊地「憧れのルアーです」

川村「バスでも無理やり食わせる方向もありますが、状況にどハマりしているか、今までにないフレッシュなアクションだと、食い方が違います。本能むき出しで食ってくる。そんなルアーがいいですね」

菊地「最高ですね(笑)」

川村「トラウトもバスも賢いけど、理性をすっ飛ばしてバイトしてくれるルアー」

菊地「理性、飛ばさせたいですね(笑)」

川村「本当にね(笑)」

菊地「お互いに頑張りましょう」

川村「今日は本当にありがとうございました。凄く勉強になりました」

ターゲットやジャンルを超越してクロスした2人。その交差点の先で、お互いの影響を無意識にでも受けたプロダクトが生まれるかもしれない…。

ヴァルケイン関連記事はコチラ



ボトムアップ関連記事はコチラ