釣れるギル系ルアー・ゾーイ開発秘話!「キテレツだなんて言わせない!!」



バス釣り用ギル系ルアーの金字塔、ゾーイ。音もなく忍び寄るi字軌道。チャカと煌めく腹の底。精緻な震えで武器隠し、気付けばアイツがそこにいる。静岡生まれ、全国育ち。世に数多のヒットマンを生んだ無法者である。姐さん、ついにあの叔父貴が侠気(おとこぎ)を見せるってよ。



ハンパ者で終わらない。いろんな意味で「本物」!

長らく続くギル型ビッグベイト抗争。各組を代表する幹部がこぞって繰り出し、試合でメディアで鎬を削り合う修羅場は今なお続く。そんな渡世を尻目に、やおら名を轟かせているのが“ゾーイ”という名のアウトローだ。

ゾーイ(T.H.タックル)

黒幕から請け負うこともなく、世に突如現れたヒットマンたちは矢継ぎ早に援護射撃。その様、マシンガンの如し。情け容赦なく撃ち抜かれ、蜂の巣と化した全国の事務所…いや、フィールドでも今なお釣果報告は絶えない。

…と、堅苦しい実話誌調の文章はここでリセット。

ご覧の通り、当企画ではあの超人気ギル型ビッグベイトの開発者にして、発売元のT.H.タックル代表・濱田禎二さんにインタビューを敢行することになった。ありそうでなかった、おそらくは業界初の試みだ。

【PROFILE】
濱田禎二(はまだ・ていじ)
『ハマティ』の愛称で知られる、ギル型ビッグベイトの名作・ゾーイを生んだ奇才ルアーデザイナー。現在はJBマスターズを主戦場とするコンペティターだが、かつてワールドプロ(=現トップ50)シリーズ在籍時は1998第1戦市房ダム優勝の記録も。ジャッカルから独立後の2005年から続く人気ブログ『今日のハマティ』にも要注目。1968年12月1日生まれ(52歳)、神奈川県出身・静岡県在住。

濱田さんと言えば、かつて創業したばかりのジャッカル社にルアー開発者として在籍していたことが知られる。当時の作品として知られるのは、今なお世界で人気を博すハマクル(=濱狂)シリーズ、そして、あのロングセラー・マイキーも氏の手によるものであることを知る人も少なくない。

2000年代前半、世はまだビッグベイトやジョイントベイトが隆盛する前夜。そんなご時世に突如現れた濱田さんの異彩を放つ作品の数々は、時に『奇天烈(読み:キテレツ)』と称されることも多かったことが今思い出される。

濱田「あの…ちょっといいですか? キテレツと呼ばれるのは…あまり好きじゃないんですよね」

何でも簡単な言葉で定義したがるメディアの弊害。濱田さんの胸中はこうだ。

濱田「何か変わったことをすればいい…みたいな解釈をされることが多くて、何の理由もなくおもしろそうだから作ったわけじゃないんですよ」

キテレツの意味をググれば、「非常に奇妙なこと」とある。ややもすれば、単に形状やギミックだけの物珍しさを追った紛い物と同類にされかねない。混ぜるな危険だ。

濱田「ゾーイに関しても、確かに他とは異なる形状ですけど、そのすべてに意味があることを知ってほしいですね。奇をてらうだけに作っているわけじゃないもんで(笑)、その辺を書いていただけたら…」

ゾーイは、けっしてキテレツではない。ゾーイは、いろんな意味で『本物』なのだ!

開発・テスト・生産・塗装全知全能! 濱田さんはT.H.タックルの要だ

濱田「思い付いたら(ルアーを)作ってしまうんで、気付けばかなりの数になっているような…」

T.H.タックル公式サイトを拝見すると、少数精鋭にも感じるが、否、それらは現在発売中の製品のみ。全モデル数は「んー…」。本人にも把握できないほど星の数!?

ハマティ親分かく語りき

DAIWAとジャッカルが育んだ世にも数奇な関係

それでは、なぜゾーイが『本物』なのか、まずは濱田さん自身に語っていただくことにしよう。既にご存知の方も多いと思うが、ここはぜひ濱田さんの口から語っていただきたい。

濱田「ゾーイの型は、ミミズで釣ってきたブルーギルをそのままシリコンで型取りしているんですよ」

そう、だから『本物』。濱田さんによる絶妙な塗装技術の効果も加わって、そのライブ感がヒシヒシと伝わってくるはずだ。

しかし、なぜ濱田さんは、本物を使おうと決めたのか。

濱田「ジャッカルさんに在籍していた頃は、データをPCで作って、今で呼ぶところの3Dプリンターで削り出して金型を製作して…という、いわゆるデジタルな方法でルアーを開発していたんです。

対して、ウチのような零細企業がそれをやると、かなりリスキーかつパワーゲーム。で、行き着いたのがウレタン。莫大な金型のコストも押さえることができるかなと」

プラスティック成型では不可能な“ナマ”を感じるウレタン造形美

T.H.タックルには無論、プラスチックモデルも多数存在。ジャッカルで培ったノウハウをベースに、ウレタン作品を研ぎ澄ましてきたことは言うまでもない。

今にも泳ぎ出しそうな本物感が、ゾーイ魅力のひとつ。データでは省略されがちな鱗はひとつも欠けることなく完全再現。実に美しい。

濱田ウレタンでしかできないことは何かって考えると、本物から型を起こすことなのかなって。細かい鱗のひとつひとつを再現することって、プラの手法では無理なんです」

試行錯誤の末、行き着いた先にあったのが、本物のギルを型取ったウレタンルアー。元祖は、現在人気沸騰中ゾーイのベース作品とも言える“ギルギル”だった。

濱田「でも、よく考えたら、ジャッカルさんとしてみれば、僕が独立してルアーを作るって、あまりよろしくないことだと思うんですよ。でも、加藤(誠司)さんに僕の意思を伝えると『まぁ、しょうがねぇな』と(笑)。それまでの関係があったからこそ今があるわけで、何ていうか、ウチはジャッカルの“暖簾分け”みたいな感じですかね」

いわば、老舗の味を受け継ぐジャッカル静岡支店。かつては新幹線と在来線を乗り継ぎ、週一で琵琶湖の畔へ向かう日々。釣具店経営の傍ら、ジャッカルルアーの開発に携わるという実にハードな毎日が続いていたという。

濱田「そもそも、なぜ僕がジャッカルでルアーを開発していたのかというと、『ハマクル』ってご存知ですか? あれは当初、某医薬品メーカーが新業態として釣り事業を始めるということで開発していたものなんですよ。当初は加藤さんにそのオファーが届いたんですが『ジャッカルが創業したばかりで手が回らない。濱田がやれ』という無茶振りから始まったんです(笑)」

何とここで意外な事実が発覚。

濱田「でもね、その企画が始まる前に頓挫しちゃったんですよ(笑)。既にルアーはできちゃっていたもので、どうすべきかということでジャッカルから発売することになったというわけです。そこからいろいろ開発して…。あ、創業(*1999年)するかしないかの頃、小野(俊郎)さんと、ここで『クロステールシャッド』を手流しで試作したこともありましたねぇ、懐かしい。あ、マイキーおかえり~」

出るわ出るわ、知られざる舞台裏の物語! …で、えっ? 濱田さん、今何とおっしゃいました? 当インタビューは濱田さんの自宅で敢行。息子さんがご帰宅のようです。こんにちは~。

濱田「長男の舞希(読み:まいき)です、アハハ。そう、そうなんですよ、あの当時、ルアーの名前が決まらなくてね、小野さんに『マイキーでいいじゃん!』てゴリ押しされたんですよ(笑)」

なっ、何とさらに意外な事実も発覚! なお、T.H.タックル作品には次男の瀬名さんに由来する『セナー』が存在することも付け加えておこう。

濱田「あ、ゾーイという名前にも深い意味はありませんよ」

命名の由来はパッケージに記載されているので、購入した際はそちらを参照してください(宣伝)。

T.H.tackle(ティーエイチタックル) ルアー ゾーイ #15 バス
Length 91mm
Weight 1.2oz.
¥3,080
2020-09-18 14:30


ハマティジャッカル在籍時代 1999〜2005

“濱”田“狂”うの略『ハマクル』国内ジョイントベイトの先駆け

濱田「元々、小野さんは大学時代の先輩で、加藤さんはDAIWA社員時代の先輩です」

釣りクラブの名門・日大チャートリュース繋がりの人脈で舞い込んだのがハマクルシリーズの開発。結果的にジャッカル作品として、一時代を築いたことは広く知られる。

マイキーウッドモデルプロト

現行モデルとして今なお最前線で輝きを増す、あのマイキーは濱田さん開発モデル。写真上は手削りのウッドモデルで、下はお蔵入りとなったマイキーディープランナーだという。

濱田禎二開発モデルの数々

中央が最初期作にしてシグネチャーモデルのハマクル大小2モデル。

濱田「ジョイントって言うと、ラパラくらいしかない時代でした」

濱田さんはそう振り返る。2ジョイントによる滑らかな動きは、当時としては前衛かつ画期的だった。ハマクルスパイダーやフラットボーンクリッカーなどの姿も見える。

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