最新ロッド素材から考察するアジングロッドとの相性。なぜ、ナノアロイ技術は高弾性グラファイトと相性が良いのか



現在、ルアマガではアジングロッドをライトゲームのパイオニア的メーカーといえるサーティフォーの協力を得て製作中なのです。そのロッドに採用した素材は、現在、席巻中の製造技術「ナノアロイ®(東レ)」を用いた高弾性カーボンを採用しています。この技術の真骨頂はある意味、高弾性素材で発揮されると言ってもよいと思います。その理由を考察してみたいと思います。

ナノアロイ®とは?

まず、ナノアロイ素材とはそもそもなんなのか。簡単に解説します。詳しくはルアマガプラスの過去記事を御覧ください。

簡単に言うと、素材メーカーとして多くの釣り具メーカーにマテリアルを提供する東レの特殊なプリプレグ製造技術です。カーボンを接着して釣り竿として働かせるためのレジン(接着剤)を、極めて精密に、規則正しく配置して素材強度を上げるということをやっています。

東レの樹脂コード#2574がナノアロイ技術採用プリプレグ。強度13%向上、弾性率が10%向上とのカタログ表記があります。
ナノアロイ→東レのレジン製造技術
プリプレグ→レジンで固めたカーボンシート
レジン→カーボン繊維を束ねてプリプレグにするための接着剤
カーボン→カーボン繊維、カーボンを束ねてシートにして使用
トレカ→東レのカーボンプリプレグの商品名。ブランド品

※レジン技術は他社もいくつかもっています。ナノアロイだけではありません。

多少の語弊はありますが、従来3のレジン量によって必要強度を得ていたカーボンが、2のレジン量、1のレジン量で同強度を出せるようになり、より軽量に、同強度、もしくは上回る素材強度を出せるようになったと考えればわかりやすいかもしれません。

これにより、カーボン素材本来の特徴がより出やすくなったなど、様々な副次的な性能向上が見られるようになりました。

なぜ、ナノアロイ®技術は高弾性カーボンと相性がいいのか

なぜ、ナノアロイ技術は高弾性カーボンと相性の良い技術なのかを解説する前に、弾性率の雑な解説をします。

カーボンには低弾性・中弾性・高弾性とざっくり区別され、単純に低いほうが柔らかく、高いほうが硬く反発力が増す傾向にあります。しかし素材としての強度は低いほうが高く、高いほうが低くなります。つまり、高弾性カーボンは高い反発力(弾性)をもってはいますが代償として、破損しやすいというデメリットを持っていました。

かなり端折りますが、高弾性素材を実用域に高めるためにはある程度、レジン量を増やして丈夫にするか、そういった耐久性の弱さを無視して素材を生かすかという選択をする必要がありました。

もしくは、ロッドのデザイン時にシートを厚巻きにすることで、なんとか強度を保つ。などの試みが過去にも試されてきたようです。

レジン量を増やす、厚巻きにする…は素材の特性を結局消していた…

ただ、高弾性カーボンのヌードな性能を生かすならば、前述した「レジン量を増やす」「厚くカーボンを巻く」「強度担保のために塗装する」という解決策は実はナンセンスといえます。高弾性素材本来の特徴を活かしきれませんん。そんな使い方をするなら、中弾性素材をうまく使って、テーパーデザインでのぞみのアクションを出したほうがよっぽど有意義です。

なので、「高弾性ロッド=破損しやすい」は裏を返すと素材を生かすならばそうなるしかなかったと言えるかもしれません。

ナノアロイ®技術の登場でその問題が大幅に改善された

強度を出すためにレジン量を増やしてプリプレグを作れば、高弾性の特徴をスポイルし、強度を出すために厚く巻けば硬すぎたり、設計が難しく…..。その諸問題を一足飛びに解決したのが、ナノアロイ®という製造技術でした。

ここまでくれば読者の皆さんもああなるほど。とご理解いただけたと思います。

ナノアロイ®は素材強度を大幅に担保する製造技術です。今までと同じレジン量なら従来より耐久性は強く。場合によってはレジン量を少なくすることで今までと同様の強度を出すことが可能になった、カーボン素材の特性をより強く出すことができるようになったと考察することができます。

数年前より最新素材の代名詞として各種ロッドに採用されはじめた同社のT1100Gはナノアロイ技術採用のプリプレグですが、分類的には中弾性素材です。素材的には非常に軽いことから、中弾性特性を持ちながら、感度が高くロッドマテリアルとしては革新的な特徴を備えていました。

だからこそ、高弾性素材に脚光が、そして超高弾性にも光が

ナノアロイ技術の登場で、今までは、実用強度に至らなかった高弾性素材が、より、ロッド素材として活かしやすくなった、また、ロッドとして機能する素材として降りてきたとも言えます。

ピーキーな特徴を備えていて、ルアーロッドとしては実験的、および特殊なロッドにしか使用しにくかった高弾性素材が、ロッドデザイナーにとって手に余るほどではなくなったとも言えます。

ルアーロッドとしての得手不得手

新しい素材というのは可能性を秘めていて、比較的誕生からはやく、ロッド素材に使われていました。実は40tを超える高弾性のルアーロッドやフライロッドというのは20年近く前から採用はされていました。高弾性がイコール最新素材というわけではありません。

セールス的な意味でも、あたかも高弾性=高性能といった喧伝のされ方はされてきましたし、ただ採用しただけのロッドというのもたくさん発売されました。

結局、素材の弾性率は適材適所であることが周知され、いまは、高弾性カーボンを使用したロッドの居場所、適所はそう多くありません。

ルアーのシーンで言うと、繊細なリグを扱い、絶対的な操作感度、アタリ感度が求められるバストーナメントを背景としたバス用のロッド。

そして、同じくトーナメントを背景としたエリアトラウト用のロッド。

もうひとつは、アジングでしょう。アジングはアタリ感度、操作感度、潮感度など釣りで求められる情報が多く、高弾性カーボンロッドとすこぶる相性の良いルアー釣りだと言えます。



55tナノアロイ採用プリプレグが出回り始めた

高弾性ナノアロイ採用素材として、東レの公式webの製品案内にも登場するのがトレカ®MXシリーズのM40Xです(弾性率377GPa)。が、どうも最近、55tクラスのナノアロイ技術採用プリプレグがロッドメーカーに供給されているようです。

東レさんは、ロッドメーカー各社の要望に合わせたプリプレグを、開発して提供することがありますので、そのプリプレグのひとつと推測できます。

実は詳しくは追いきれていませんが(実際にはカタログラインナップされている可能性もあります)、55tナノアロイ採用プリプレグのロッドが、ちらほら各社から発売されてはじめています。例えばライトゲームメーカーのサーティフォーからは昨年、55tナノアロイ採用プリプレグを全身にまとったAdvancement63 Version3というモデルが発売されました。

シャキッとしていて、軽量で超感度。空振りした感じでは「ちょっとした棒のようだな」と思うのですが、ルアーを載せてキャストすると思ったよりも曲がりますし、小さなアジを掛けても空振りで感じたほどのロッドの硬さを感じません。開発者の家邊克己さんも「違和感を楽しんでください」とおっしゃるように新世代感が半端ありません。こういった特徴もナノアロイ採用の高弾性素材の特徴とも言えます。

ルアマガで開発中のAdvancement65も最新ナノアロイ採用マテリアルを使い込んだ新感覚アジングロッドだ

今回、サーティフォーと開発に取り組んだアジングロッドは、ブリなどの大型魚が掛かったときに機能するロッドの粘りと、一戦級のアジングロッドとして戦える繊細さをもっています。この性能を体現するために、かなり苦労していただきました。

結果として、各種弾性率のナノアロイ採用プリプレグを適所に採用し、その性能を実現していただきました。従来のT1100Gはもちろん、55t、40t….。とこちらもかなり特殊怪奇複雑な素材構成にたどり着きました。

ですので、いままでにない特性を持つかなりスペシャルなアジングロッドに仕上がっておりますので楽しみにしてください。

いい素材を使うだけじゃ、いいアジングロッドはできない!

かなり採算度外視な設計に踏み切ったために、サーティフォーとルアマガのアジングロッドは、ロッドとしては高価になりました(Advancementシリーズの販売価格に合わせます!)。しかし、10,000円のアジングロッドと、58,000円のアジングロッドにどんな差があるの? そう思われたアジングファンも多いことでしょう。

どちらにしろ、不必要なコストアップはしません。例えば今回で言うとチタントルザイトを採用するとか

なるべく、オーナーに負担をかけずに最高の性能を! ルアマガコラボロッドのポリシーは貫きます。ので、メーカーには迷惑をかなりかけました。

そういった部分もじっくり解説していきたいと思います。乞うご期待ください。その大事な性能とやらは現在開発しているロッドに備わっていますが、その性能がちゃんと備わっているロッドを見極める知見にもなると思います。