村上晴彦×ハートランド ロングロッドを使う理由



20年以上も変わらないブランド名でコアな岸釣りアングラーを魅了し続けているロッドシリーズ『ハートランド』。そのスピニングモデル、取り分け村上晴彦が完全監修する『ハートランドAGS』シリーズの現ラインナップには最短で6ft10in、7ft超のロングロッドが当たり前に並ぶ。ここではそんな村上のスピニング“ロッド”ワールドへと足を踏み入れてみよう。

「長い竿ってカッコええやん!!」天才の独創と流儀

原点

自宅から始発電車に乗って50分。琵琶湖の雄琴港でバス釣りを始めた当初、村上晴彦が使っていたのは父親との海釣りで愛用している磯竿だった。ルアーではなく、金魚やモエビを使ったエサ釣りからスタートした。ひとつ1000円以上もする高価なルアーは、中学生にはなかなか手の届かない存在であり「ならば作ってしまえ」と考える。プラモデルにも凝っていたので塗料やパテもあるし、道具もいろいろ揃っている。急きょ明日、釣りに行くとなっても、必要なルアーは作ってしまえばいい。模型店で売っている5mmのバルサさえあれば、自分の頭の中にあるイメージを形にできるではないか。しかもたくさん。何よりもその部分こそがハンドメイドの魅力だった。

初めてバスを釣ったのは、琵琶湖に通うようになる以前の話。自転車で30分ほどのため池で、そのときのロッドは近所の釣り具店で売っている手竿の替え穂先で自作した。コルクのグリップに曲げた針金でトリガーを設け、クローズドフェイスリールをセット。中通しオモリを使ったぶっ込み仕掛けで、やはり金魚を鼻掛けにして釣った。

村上「言ってしまえば、ライブベイトのキャロライナリグやね(笑)」

器用な手先は持って生まれたものと想像するが、そんな少年時代をざっくり振り返ってもらっただけでも、記者を含めた世の中の大多数のアングラーとは、そもそも思考回路が違うのだと感じる。ないものは作ればいい、使いにくければ使いやすくすればいい、釣れないなら…だから、今や世界に広がったネコリグもツネキチリグも、スモラバの元祖たるハンハンジグも、ジャスト日本サイズのスイムベイト・ウオデスも、村上晴彦から生まれたのだ。

村上「ほかの人が作ったルアーで釣っても、おもろないねん(笑)」

【Profile】
村上晴彦(むらかみ・はるひこ)

ラクに、楽しく釣ることの求道者。一誠の取締役兼ルアーデザイナーであり、常に世の中の一歩先にある“未来形”を発信し続けている。最近はディープアジングを筆頭にソルトゲームにもご執心のようす。



僕にとってはふつうやねん。 長いなんて思ったことないし。使っていて気持ちのええ、釣れない時間も楽しめるロッドが作りたい。

長さの定義

村上「竿をぎゅんと曲げたいやん」

これは子供の頃の原体験から今日まで変わらない、村上晴彦が頭の中に描く釣りという遊びの象徴。そして、こう続ける。

村上「世の中には、僕からしたらええ竿がなかってん。ないからハードランドで声をかけてもらったときにこんなんが欲しいて言うて作ったんや。それがはじまり」

ハートランドAGSには当然、ベイトキャスティングモデルもあるわけで、ここからの話は、スピニングに限ったものではない。と、あらかじめ断っておこう。

村上がロッドに要求するものとは? なぜ、ハートランドAGSはおしなべて長いのか? 

村上「ほんなら聞くけど、なんでみんな短いの?」

答えに窮する記者をよそに、村上節がはじまる。喫水線が水面に近いバスボートでの使用が前提で、その長さがスタンダードになってしまっているからバスロッドは短いのだ、と。たとえば、シーバスロッド。港湾部の岸釣りでは、使うルアーのサイズもウエイトもバス釣りとほとんど変わらないのに、ロッドは最短でも7ft6in、9ftさえ珍しくない。足場の高い護岸でもしっかりとルアーを操作するなら、ロッドティップは水面に近づけられるほうがいいに決まっている。バス釣りでも岸釣り、とくに河川では、そんなシチュエーションが多い。琵琶湖の浜の釣りなど、飛距離が欲しい場所でも長竿がアドバンテージを生むのは自明の理。

村上「逆にフローターでトップウォーターを操るとなったら、短いほうが絶対に扱いやすいやん。でしょ?」

岸釣りの竿

岸釣りに最適化すれば、ロッドは必然的に長くなる。村上にしてみれば7ftは“ふつう”であって、けっして長くはないのだ。だから世の中を見渡すと、その部分でもう「ええ竿がない」となる。長い竿だと、藪漕ぎするときに不便では? とこちらが突っ込めば、「藪を漕がなきゃいいだけの話。ていうか、枝が低い森の中でも歩かん限り、竿が邪魔になることなんてあらへんやん。そんでもし、そういうとこ行くんやったら、長い中でも短いのを選べばええ」と一蹴されてしまう。

いや、ごもっとも。

ロッドが長ければ、メンディングの幅が広くなる。風を味方につけられる。竿のしなりを活かしやすいので軽い力で投げることができる=遠投がしやすくなり、ロッドがブレないので精度も高まる。掛けた魚をいなしやすい。「馴れは必要だと思うよ。僕にとってはふつうやけど、それまで6ft半までしか使ったことがなかったら、長いと操作しにくいって感じるかもしれん。短いほうがアクションつけやすいんちゃうのって。でもだったら、竿を使わないで腕だけでトゥイッチさせられる? ドッグウォークさせられる?上手くはできひんでしょ。今作ってるミドストのロッドもそうやけど、その長さで操作しやすいよう設計してるに決まってるやん」

機能美

村上がディレクションする道具には、すべてストーリーがある。ハートランドAGSもしかり。なぜ、それを作ったのか、投げる、操る、掛ける、取り込む、それらルアー釣りをする動作の一連でどこに重きを置くか、個性が実に明確なのだ。

村上「1日釣りをするのが10時間で10本釣れるとする。ってことは単純計算で1時間に1本しか釣れないわけやん。じゃあその間に、何回キャストする? 何回ボトムにコンタクトする? 僕はその、釣れてない1回1回も楽しみたいねん。目的地にきっちり到達するなら電車でいい。でも、車が好きなら自分で運転して行くでしょ。ドアを閉めた瞬間からワクワクして、エンジンかけたらモチベーションがさらに上がる。そんでアクセル踏んだら加速にドキドキして、信号で止まっても隣の車のドライバーに、“どう? 俺のホイール見て”って(笑)、全部楽しんでるやん。それと同じ」

機能は言うに及ばず、所有感も道具の大切な構成要素。ガイドの口径が大きく、数も少ないロッドがスタンダードだった20年以上前にすでに、村上のハートランドは小口径を採用、なおかつ11個のガイドを搭載していた。

村上「そのほうがカッコええやん。初めてシャコタンを見たときにカッコええと思うのと一緒やねん(笑)。でも、その当時にもうちゃんと理屈もあってんねん。極端な例で言えば、ガイドが先端にひとつしかないロッドと比べてみるとわかるけど、それだと何かものを引っ張るときに寄せづらいのは想像できるでしょ。ラインがロッドにまったく沿ってなくて、ロッドのパワーをちゃんと活かせないから。キャストするときもそう。ガイドの数が増えると抵抗が多くなるって考えてまうけど口径が小さければ軽いから、ティップの戻りが早い。本来の反発力をちゃんと活かせるねん」

そのロッドで何をしたいか?

いま村上が描くのは、独りよがり価値観ではなく、使い手たるほかのアングラーにも伝わる明確なストーリー。それをしっかりと頭の中で整理したうえで、道具として表現するのだ。だから10年経っても、20年経っても色褪せることはなく、あのロッドが欲しいと思える完成形が生まれるのである。

ルアー交換の手間を省くため、足場の良いオープンなスポットでは3タックルを携行。実釣でもっとも多用していたのは、手にしている『震斬77 AGS』だった。

村上と言えば、PEスピニングの先駆。

村上「ナイロンでもフロロでも、スピニングには太いラインが巻けない。細くて強いPEはその時点で理に適ってるやんか」

震斬にセットしたイグジストLT2500(SLPW EX LTスプールに換装)にはUVFエメラルダスセンサー12ブレイドEX+Si0.8号(いずれもDAIWA)を巻いていた。

夕方に訪れたため池のインレットでライアミノー3インチ(一誠)のノーシンカーが炸裂!! ロングロッドならではのベンディングカーブが美しい、と言いたいところだが、バスのサイズが小さくて曲がりきらない!?

スピニング用タイニークランク『ペティ』現在開発中!!

待ち合わせ場所である一誠の事務所にうかがったところ、村上さんは何やら作業中。

村上「スピニング用のタイニークランクを作ってるんよ。可愛いやろ(笑)。名前は『ペティ』にしよかな」

52mmの『チーラ』よりもさらに小さい!!

季節の変わり目で難しいタイミングのせいか、どこへ行っても食ってくるのはこのサイズばかり。でも、試行錯誤の結果であり、「これはこれで楽しいけどな(笑)」。上はミニミニザリバイブ(プロト)、下は沈み蟲2.2in(ネイルリグ・バックスライド仕様)でキャッチした。

岸釣りでは、水面よりもかなり高い位置からキャストしなければならないケースも多い。だから7ftクラスのロッドが必要になる。ロングキャストだけが長竿のメリットではないのだ。

村上晴彦の5本

すべてに共通するのは岸釣りに特化したものだということ

今回の撮影はため池と小規模リザーバーで行なった。そのフィールドを踏まえつつ、企画にあわせてハートランド・スピニングの象徴的なラインナップを5本、村上にセレクトしてもらった。今季の最新モデルとともに紹介しよう。

ザ・岸釣りロッド

村上晴彦のバス釣りは、岸釣りからスタートして、なおも現在進行形。そのスタイルはまったく揺るがない。足場が少ない、持ち運べる道具の数が限られる、そうした不便さを百も承知のうえで、どう楽しむか。

ロッドの特徴として、バスアングラーの大多数を占める岸釣り派を意識した『バーサタイル性の高さ』をうたうアイテムは少なくない。その1本でさまざまなルアーに対応できるメリットは、たしかに大きい。だが今やそんなロッドはごまんとあり、たとえスペシャリティであってもある程度の汎用性は当たり前となっている。

その意味においても、村上が監修するハートランドは稀有なブランドなのだ。メバル釣りに使うような極小フィネスリグ特化の『冴掛ミッジディレクションST』など例外もあるが、そもそも岸釣りで必要な汎用性のなかに村上流の味付けをしたロッドこそがハートランドではないか。7ftを「ふつう」と言い切る岸釣りアングラーなど、彼をおいてほかにはいない。

村上「長い竿のほうが、カッコええやん」

たしかに、ロングロッドならではのベンディングカーブの美しさや使いこなす楽しさもあろう。でも実は、すべてにおいて合理的。村上の独創は確信犯なのである。

今回のロケに持ち込んだスピニングロッドを、村上自身に解説してもらった。

あえてマイルドな個性を与えたハートランドのスタンダードモデル

ハートランド6102MLFS-19

[SPEC]
【全長】2.08m
【継数】2本
【仕舞寸法】108cm
【自重】110g
【先径/元径】1.5mm/9.9mm
【ルアー】1.8~7g
【ライン(PE)】0.5~1.0号
【価格】45,500円(税抜き)

村上「2007年に作ったPEライン対応のライトゲームロッド『スピニング柳龍』に近い竿やね。これも伸びのないPE使用が前提であり、穂先は曲がる、そしてある程度バットまで入る。だから投げやすいし、掛けた魚をいなしやすい。ライトリグからスモールプラグまで何でも使える。ビビビショットなら1.8~3.5g。リールは2000番がええかな」

使っていて世界一おもしろい、

村上流“遊び竿”の真骨頂

ハートランドAGS701ULF/RS-ST16【冴掛 Midge direction ST】

[SPEC]
【全長】2.13m
【継数】1本
【仕舞寸法】213cm
【自重】78g
【先径/元径】0.7mm/8.4mm
【ルアー】0.45~3.5g
【ライン(PE)】0.15~0.4号
【価格】63,000円(税抜き)

村上「何に使うの?って思ってまうような、すごく柔らかい竿(笑)。リールは1000番台でもええくらい。ビビビショットなら1.8gやけど、それでもラバーの抵抗に負けてまう。ちゃんとバットで止められるから、“わざと負けさせて”使うことも多いんやけどね。基本は3inワームの1/64ozジグヘッドリグとか。プラグは不可です」

ライアミノー3in(レジスター部をカット)のマスバリノーシンカーでキャッチ。「かわいいサイズやけど、この竿だと十分楽しめるのがええところ(笑)」

ティップはメガトップカーボンソリッド。ブランクスの軽さを活かすため、贅肉を削いだグリップ部は特徴的な意匠。自然とソフトハンドになる。

野池からビッグレイクまで使う場所を選ばないパワーバーサタイル

ハートランド772MFS-SV AGS17【震斬77 AGS】

[SPEC]
【全長】2.31m
【継数】2本
【仕舞寸法】119cm
【自重】128g
【先径/元径】1.5mm/10.9mm
【ルアー】3.5~14g
【ライン(PE)】0.6~1.5号
【価格】87,000円(税抜き)

村上「ビビビショットなら3.5g以上。21gのヘビキャロをフルスイングできるし、ギルフラットとか、クランクとかバイブとか、ベイトの領域をある程度カバーできる、スピニングでありながらかなり無理が利いてまう竿。でも、ちゃんと曲がるから飛距離が出せる。リールは、ライトリグ方向に振るなら2000番も使うけど、ベースは2500番やね」

沈み蟲2.2in(一誠)ネイルリグ

オリジナルバズ+キャラメルシャッド4in(一誠)

ロケ中はこのほかにもライアミノーのジグヘッドリグやAKチャターJr.(プロト)など、さまざまなルアーに対応。

村上「スピニングやからな、やろうと思えばある程度はできてまう」

PEラインは0.8号を使用(リーダーはフロロ12lbを1ヒロ)。沈み蟲2.2inの0.9gネイルリグ(総重量約9g)で、飛距離はゆうに50m超え!!

シェイクやリフト&フォール、ロッドアクションが楽しい1本

ハートランド7102L+FS-SV AGS18【別誂 冴掛 710 AGS】

[SPEC]
【全長】2.39m
【継数】2本
【仕舞寸法】123cm
【自重】123g
【先径/元径】1.3mm/9.9mm
【ルアー】0.9~5g
【ライン(PE)】0.3~0.8号
【価格】89,000円(税抜き)

村上「名前のとおり2010年に作った『別誂 冴掛』の系譜やねんけど、AGSになってるぶん軽くなってシャキッとした。でもちゃんとしなってくれるから、ライトリグが飛ぶし、アクションをつけやすいし、これからの時期ならザリメタルなんかにもええね。ビビビショットなら1.8~5g。リールは2000番でも2500番でもOKです」

AGSとは『エアガイドシステム(AIR GUIDE SYSTEM)』のこと。DAIWAの特殊技術によって生み出されたカーボン素材の超軽量ガイドが、ブランクス性能をフルに発揮させる。

今季登場予定の新作は中層フィネスに気持ちいい調子

ハートランドAGS2021プロトモデル

[SPEC]
【全長】2.39m
【継数】2本
※ほか、すべて未定

村上「ライトアクションのロッドで、スタンダードではあるんやけど、ちょっと柔らかめにしてミドストとかホバストがやりやすいようにしてる。軽い力でもたわんでくれるから、ジグヘッドとかノーシンカーでイトフケを出すロッドアクションが簡単にできる。ビビビショットだと2.6gまでかな…。リールは基本、2000番がええね」

「ちょっとだけサイズアップ? いや、変わらんか(笑)」

それでも、ロケだろうが、テストだろうが、プライベートだろうが釣りを心から楽しむ。まさに一魚一会である。

グリップを握る手に力を入れずとも、ロッドのテーパーと硬さの絶妙なバランスで、ミドストやホバストが可能。「ロッドアクションがラクにできなきゃ疲れてまうやん(笑)」

ライアミノー3in(一誠)ホバスト仕様

至高の遊び道具『ハートランドAGS』

初代『冴掛』の遺伝子を受け継ぐフラッグシップモデルの象徴機

ハートランド721MLFS-SV AGS20【冴掛七弐 AGS】

[SPEC]
【全長】2.18m
【継数】2本(グリップジョイント)
【仕舞寸法】196cm
【自重】105g
【先径/元径】1.5mm/11.4mm
【ルアー】1.8~7g
【ライン(PE)】0.5~1.0号
【価格】82,500円(税抜き)

今回のロケには帯同しなかったが、今春の発売前から注目を集めていた2020年モデルにも言及しておかねばなるまい。2002年に登場した冴掛の正統後継機種として、最高の素材と技術を惜しみなく採用。ガイドの固定にはカーボンラッピングシステム(CWS)を導入して感度をさらに向上している。名前どおりの“掛け調子”はまさしく唯一無二である。