でかバスと言えばこの人、金森隆志さん。いまや各メディアで引っ張りだこな理由は、限られた時間のなか大小硬軟さまざまな引き出しを駆使して、ついにはビッグフィッシュを引き出してしまうからにほかならない。こちらが用意した無理難題に最適解で答えてくれる、間違いのない人選なのである。ではなぜ、あれほど高確率でデカい魚を手にしてしまうのか? どうやらその理由は彼が確立した、ワンスポットで“粘る”独特なスタイルに核心があるようだ……。
【Profile】
金森隆志(かなもり・たかし)
でかバスのポジションを見極める千里眼とも言うべき観察眼を備え、ココと決めたら梃子でも動かない自他ともに認める“ネバリスト”。昨年は2度目の艇王を戴冠し、岸に限定されない実釣パフォーマンスの高さをあらためて世に知らしめた。
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“ネバリスト”というスタイルを確立した背景にあるもの
絵になるバスを釣る男
記者が初めて金森隆志さんの取材をした日から数えると、今年でちょうど10年が経つことに気づいた。過去を遡るほど詳細な記憶は薄れつつあるけれど、頭のなかにしっかりと焼き付いているのは、ファインダー越しに金森さんがでかバスを手にしている光景。
2日間の日程を組んでいた企画は言うに及ばず、ルアマガモバイル『特命釣行』などぶっつけ本番のワンデイロケであっても、極めて高い確率で絵になるでかバスを釣っている。いやむしろ、“外した取材”が稀なので、そちらのほうが割りと鮮明に覚えていたりもする(笑)。
もちろん、それは金森さんがデカい魚を狙っているからこその結果であり、今回は特集『でかバス白書2021』の導入として、本人の弁と併せつつ、第三者の客観的な目線で金森流でかバスへの筋道をまとめてみたい。
デカいバスを触るための手段
金森さんがバスフィッシングを始めたのは今から22年前。当時、地元である岡山界隈はバスの繁殖がピークを迎え、大袈裟ではなくアベレージサイズが40cm前後、数を釣れば必然的に50アップが混ざるという、大盤振る舞いの時代だった。やがて、「とにかくデカいバスを釣るアングラーがいる」と評判になり、メディアが注目することになるわけだが、まだその頃は陸王も行なわれておらず、本人の興味はでかバスを釣ること、その一点に集中していた。
金森「メーカー(レイドジャパン)の代表がこんな言い方をすると誤解を招きかねないですが、僕はそれほど釣りが好きではないんですよ(笑)。これはバスフィッシングをはじめた当初から今に至るまで変わらないのですが、ブラックバス、それもデカいやつがカッコよくて仕方がない。とにかく大きいバスを触りたくてしょうがない。そのためのもっとも効率的な手段が網ですくうのでも罠を仕掛けるでもなく、釣り、それもルアーだと思うんです」
とはいえ、やたらめったらに数を釣ってサイズを混ぜるのでは、あまりにも非効率的。そこで金森さんが実行したのは、以下に記した3つのアクションだった。
効率よくでかバスを釣るためのファーストステップ
- デカいバスはどこにいるのかを考え、そこへ行く(そこを集中的に狙う)。
- デカいルアーを使う。
- 周りのアングラーがやっていないことを試す。
金森「でも、すぐに壁にぶち当たってしまうんですよ。みんなが同じことを考えるわけで(笑)」
金森隆志の土台
アングラーの増加やインターネットの普及に伴い、釣れる場所の情報はいつのまにか拡散されてしまう。デカいルアーは諸刃の剣、バスに学習されるのも早く、場所やタイミングを含めたシチュエーションがものを言う選択肢。新たなルアーや釣法も、それが普及すればアドバンテージは薄れてしまう。
3つの着目点は不文律として存在するが、それだけでは解答に辿り着けないケースが増えてくると、次なるステップとして金森さんが留意したのは“観察すること”。このアクションこそ、金森スタイルの根幹であり、ネバリストの本領へとつながるのである。
ネバリストの最重要事項「観察すること」
“観察”の本意
観察と聞くと、ついつい見えバスを釣るためのフェーズを想像してしまうが、それは無数にあるこの作業のひとつに過ぎない。たしかに、今、バスが何を求めているか、どんな状態なのか、物言わぬ魚とはいえ、目の前にいる個体の行動は頭のなかで主観へと置き換えやすい。だから、経験値としてインプットできることもたくさんある。では、マッディーなフィールドではどうだろう。見えバスがいなければ観察はできないのか、しなくてよいのか。
否、金森さんの言う“観察”とは、あらゆる場面で実行されているのである。
陽が昇ったあと、シェードができるのはどちらの岸か。そのなかで、もっとも濃くなるのはどこか。複雑なカバーがあるが、枝はどこまで伸びているのか。それはブレイクに近いのか。岸のマテリアルが土から岩盤に変わるが水深も変化しているのか……。観察し、イメージした水中を、ルアーの操作が補完する。思ったよりも浅い。ここは張り出しがある。ボトムは硬い……つまり、ぼんやりとしているものをより具象化するため検証を行なうわけだ。
そうしてさまざまな要素を可能な限り収集し、場所と状況に対する理解を深めていく。使う道具に対しても、こちらは検証が中心になるが、考え方としては同様である。
いま、でかバスを釣ったのは風が吹いたときだった、急な雨によって濁りが入り始めた瞬間だった、というように結果に対する観察(考察)も忘れない。
季節と状況に則した、観察と検証をはてしなく繰り返していく。言ってしまえば、それらはいずれもバスフィッシングの基本ともいえる作業だ。しかし基本の蓄積が応用を生み、キャストやロッドワークといった技術とルアーローテーションという戦術がプラスされ、でかバス・ターゲティングの精度は増していくのである。ときに苦手の克服や新たなルアーないしメソッドの研究に多くの時間を割くこともあるが、どんなときもあらゆる事象の観察には余念がない。
金森「今言ってもなかなか信じてもらえないんですけど、かつての僕はラン&ガン大好きのヤブ漕ぎマンだったんですよ(笑)。でも、岡(友成さん)と出会い、(川村)光大郎さんと一緒に釣りをして、上には上がいることを知った。そのやり方では彼らの精度には到底辿り着けないなと……それが今の自分のスタイルを形作るうえでのターニングポイントだったのかもしれません」
変化の多い一等地で粘る
金森さんのゲームの組み立て、取り分け場所の選び方は至ってシンプルだ。たとえば、見た目にまったくシェードのない皿池で、1ヵ所だけインレットがあるとする。季節は夏。あたえられた条件がこれしかなければ、狙うのはそのインレット。よほどの天邪鬼でもない限り、誰もが目を付ける場所である。なぜなら、そこが一等地であるのは間違いないからだ。ここでのインレットは唯一の“変化”であり、その変化に魚が偏ると考えられる。
そして変化が多いほど、魚は偏りやすい。
要はどれだけ変化を見つけられるか……観察によって変化を積み上げ、場所に対するジャッジを行なうのである。
金森「僕が釣るのは基本、そのフィールドの一等地と呼ばれる場所だけ、ですね。ぶっちゃけシークレットでもなんでもない、分かりやすいエリアがほとんど。なのでほかのアングラーさんとかぶることは、まぁ~多いですよ(笑)。でも、自分が入るスペースさえあれば、先行者はまったく気にしません。見ていることも、やっていることも違うはずなので」
そこで、粘る。
金森「オカッパリって、ボートに比べると格段に機動力が乏しいですよね。足場が1ヵ所しかなければ、そこからキャストで届く範囲内しか探ることができない。
でも、地に足をつけているからしっかり粘れるわけですよ。ボートのように、風で流されてしまう心配がない。エレキの水流でバスをスプークすることもない。ライトリグの操作にしても、不安定な水の上とは違って、より繊細に、緻密にできますよね。ここで粘ると決めたら、余計なことを考えずに済むので釣りに集中できるじゃないですか。
もちろん、状況によっては見切りも必要ですが、ここぞという一等地で高い精度で粘れるのは実はオカッパリじゃなきゃできない、オカッパリのアドバンテージを最大限に活かせる戦術じゃないかと、そう思うようになったんです」
粘るべきエリアを特定したなら、次に注目する(イメージする)のはそのなかの、どこがバスにとってフィーディングスポット(エサを追い込む場所)となるのかだ。
カギを握るのは3つの『壁』。水面、岸、そしてボトムである。
3つの壁を強く意識するとフィーディングスポットが見えてくる
エサによって壁は変わる
バスが捕食のためにどの壁を使うのかは、季節や時間帯によっても変わってくる。多くの場合それは、エサの種類に左右されるので、その時期、その場で、バスのメインベイトが何であるかを知っておかなければならない。朝、ボイルがあって追われていたのはオイカワだった、岸辺に小さなブルーギルがたくさん浮いている、釣ったバスの喉の奥からテナガエビのヒゲが見えている……ここでもやはり観察がものを言う。
金森「たとえニセモノだと思っていても、自分がエサを食いやすい場所にルアーが入ると、けっこう簡単に口を使ってくれたりするんです。逆に言うとデカいバスほど賢いので、ふだん使っていない追い込み場ではなかなかエサを摂ろうとしない。それを踏まえたうえで、3つの壁に対するイメージがきちんとできて、なおかつ理解力が上がると、それまで何気なく見ていた景色が格段に色付いて視界に入ってくるようになるはず。そしてフィーディングスポットをイメージできたら、あとはそこにフィットするルアーを通せばいいんです」
『ネバリスト』金森隆志だからこその最強スタイル
マネのできないスタイル
でかバスを釣るためのルアーに関しては、適材適所のセレクトが金森さんの考え。フィネスなノーシンカーからビッグベイトまで、引き出しは多いほうがいい。レイドジャパンの代表を務めていながら、ジャンル・メーカーノーリミットで貪欲に釣れるルアーを探し求めるのも、金森さんならではだ。
金森「このルアーでデカいバスを釣りたい、という楽しみ方もできるのがバスフィッシング。ただ、僕自身はデカいバスを“たくさん”釣りたい(笑)。そうなるとやはり、ルアーを縛ってしまうと対処できない場面が出てきてしまいますよね。たとえ釣り歴が浅くとも、その時点で持っているものを総動員したほうが、可能性は高まるはずです。
じゃあ、もっと根本的な部分で、引き出しを増やすためにはどうしたらいいか。その方法はざっくり2つあって、これと決めて徹底的に使い込むのと、あれこれとにかく試してみるというもの。これはどっちも正解に成り得ると思っています。というのは、アングラーの個性によって、向き不向きがあるから」
このことは同様に、ラン&ガン派かネバリストかというスタイルにも当てはまる。どちらにもメリットとデメリットがあるわけで、あとは自分の個性に合うかどうか……。
誰もが狙う一等地でなぜ金森さんがデカいバスを手にするのか、我々には釣れないのかを客観的に考えたとき、おそらく明確な差として存在するのはバスのフィーディングスポットを高い精度で特定できるかどうか、そして何よりそもそもその場所で粘れるかどうかが大きいのではないか。
金森「いや実際、僕くらい粘るヤツって、ほとんどいないんじゃないですか。その意味では、周りがやっていないアドバンテージがあるのかもしれませんね。もしネバリストがどんどん増えたら、またスタイルを変えなくちゃならない(笑)」
粘れば観察する時間は長くなり、目の前の一等地に対する理解度は自ずと高まっていく。するとフィーディングスポットを特定する精度も高くなる。そのループが、でかバスへとつながるのだろう。
ネバリスト。
それは、おいそれとはマネのできない点も含め、“とにかく大きなバスに触ること”にプライオリティを置くアングラーが導き出した、でかバスキャッチのためのもっとも効率的なスタイルなのかもしれない。
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