あるときは釣りの「王様」、またあるときは「ミラクルジム」、そしてまたあるときは「潮来釣具センター」の店主でもある村田基さん。店舗奥の展示棚に歴代シマノベイトリールがズラリと並ぶ様子はまさしく「歴史的博物館」そのものだ。ある人には往年の名機、ある人にはヴィンテージの趣。それらの魅力をご本人の口から伺いたい! 我々は突撃取材を敢行…ところが、村田基さんは懐古主義を真っ向否定!?
解説はご存知、村田基さん!
【Profile】
村田基(むらた・はじめ)
スコーピオンにアンタレス、いやそのもっともっと前から濃密に関わってきたシマノベイトリールのレジェンド。1を問えば10が返ってくるバスフィッシングの生き字引。この業界の歴史は王様に訊くが良い。
村田「せっかく来てもらったのに申し訳ないんだけど…過去のリールは思い出でしかないからね。当時は衝撃だったけど、今使えと言われたって、そりゃムリ。釣れる魚も釣れなくなっちゃうよ(笑)」
村田基さんのお店、潮来つり具センターへ着くなり、こう開口一番。企画倒れか…いや、何とかお話を聞き出したい。何とか…。
村田「えー、シマノのルアーフィッシング用初代ベイトリールと言えば、この『BM-1』。当時、ルーのスピードスプールBBは知っていても、コレを知らない人はいたかもしれない。何が凄かったかというと…」
記者の不安は杞憂。時代は1976年にまで遡り、すべてを語ってくれたのだった(感謝)。
1976年11月発売「BM-1」
「カタログ登場は翌年でも、実際の発売は前年末だよ」
BM-1こそはシマノ・バス用ベイトの夜明け。米国ルー社と共同開発したモデルで、世界では「スピードスプールBB」の名で知られている。
ブレーキシステムは現代にも脈々と続く遠心タイプを搭載。
村田「1・2・3 ・4とあり、1は浅溝のチヌ用で2が主にルアー用。今で言うところの100・200…だね。一時マグネットに移行したけど戻った。うん、何より飛ぶからね」
偉大なるBM-1の話は続く。
村田「当時としては画期的な機構が幾つも搭載されたんだよ。パーミングカップ側からネジやメカニカルブレーキが消え、ドラグは5スターから3スター、そしてクラッチを切ればレベルワインドは固定」
シマノベイトは初代から話題性に富み、世界の注目を浴びた。
村田「今じゃ驚きもしないけど(笑)、どのメーカーもやっていないことをやった。当時ナンバー1だったアブを脅かす存在になったよね」
BM-1各部カット(クリックで拡大)
村田「実はこのモデル、1984年発売の2代目『ニューBM』。マグネットと遠心のハイブリッド」
ハンドル側には“000”の刻印。開発初号機だという。
村田「初代は20年前、ルアマガに貸し出してまだ…」
エェーッ!(大反省)。たいへん申し訳ございませんでした…。
1978年発売【バンタム100EX】
「BMは定価3万くらい。手頃な価格でバンタム登場」
現代と異なり、当時は舶来物が優位だった。
村田「『国産なのに3万?』という声に応えて登場したのがバンタム10。1万台だからお年玉握りしめて買いに来るお客さんも多かった」
100EXは独自機構搭載で両端にレリーフのハイエンド。
パーミングカップ側のON-OFFスイッチは、バックラッシュを軽減する画期的なシステムだ。
村田「スプールの回転を制御する…らしいよ(笑)」
ハンドルノブはウッドで、ブルーグレーのメタルボディと相性抜群。もはや美術品の領域!。
1982年発売【バンタム1000SG】
「Super Gearの略称。ギアのシマノ、お家芸だね」
村田「80年頃になると、他社との差別化でシマノ製ギアを売りにしたモデルも」
マットシルバーにゴールドレリーフが美しく、フラットかつ大型のハンドルノブが特徴的。村田さんは何と箱入りで所蔵していた。
村田「ハンドル、工具にグリスなど、どれも当時のトップエンドだね」
村田「工具付きって、今じゃあり得ないよね。現代のリールは分解しちゃダメよ」
当時はシンプルな構造だったからこそ?
村田「いや、最初から替えパーツ同梱って…。ウチのお店ではよく修理したよね」
1980’sにはバンタム系が続々登場!
「以後のバンタムの派生機種。国内未発売」【バンタム プロマグ 100X SG】
ゴールドボディが眩い北米仕様モデル。サイドの文字を見れば『バンタムプロ マグ』で、プロマグではない。
マグネティックコントロールによるブレーキシステムの時代を代表するうちの1台。パーミング側は樹脂製。
「ギア比が2スピードに可変。時代に応えた機構ではあったね」【バンタム ブラックマグナム BKM-2000II】
3.8のロー、5.2のハイ。スタードラグ内側にはギア比が可変する2スピードシフターを搭載。
村田「そこで村田基は気付いた。ローギアは不要だと」
80年代後半、ディープクランクが隆盛し始めた頃のことだ。
「ローギアだと潜らないし、疲れる(笑)」
手裏剣のごとく(?)即座に設定可能なスタードラグ【バンタム スーパースピードマスター BSS-2000ULS】
80年代後期、現代のフルカーボンモノコックグリップの元祖ロッドと共に登場。
村田「当時のB.A.S.S.マスターマガジンでロッドの4折り広告を出した。翌年は世界のメーカーがパク…(笑)」
独自形状のファイティンスターがドラグ操作性を向上させた。
「瞬時にドラグを緩められた」【バンタム マグナムライト 200SG Plus】
フロントカウルを搭載して、現代ベイトに近いフォルムにデザインされた1986年モデル。
村田「黒のカーボン製で軽くなった頃だね。同時にロッドもカーボンで進化していった」
ワンタッチで操作可能なファイティングドラグを搭載。
1990年発売【バンタム スコーピオン1000】
「ワインレッドの遠心を作ってくれと手紙で…」
村田「当時の社長に、人間味のある遠心ブレーキに戻してほしいなと」
シマノがマグネットからの脱却を図り、現代に続くスコーピオンレッドの原型を投入。フロントは異例の逆開きで、『F(lipping)』スイッチを搭載した。
派生モデル【バンタム スコーピオン メタニウムXT】
“伝説の赤メタ“、スコーピオンのXtraTune版。現代では“∞”へと進化を遂げたSVSブレーキシステムの元祖でもある。
村田「当時はよく『メタニウムという金属を使っているの?』と。違いますよと(笑)」
1992年発売【カルカッタ200】
「ウチのチューンパーツで超回転を制御。よく売れたね」
米国AFTMAショーでの先行公開を当時のTV番組『とびだせ!つり仲間』でレポートした村田さん。
村田「金属ボディであまりに精度が高過ぎ、スプール回り過ぎで困ったのが懐かしい(笑)」
当時はブレーキシューが2個だった。
村田さんチューンが採用!?【カルカッタ200XT】
村田「シューは6個で自在にブレーキ調整が可能になりました」
ブランキングは村田さんの改造モデルがベース。
村田「元々は自分用の銀カルカッタにドリルで穴を開け、軽さとデザイン性を追求していたんだ」
1998年発売【98アンタレス】
メタニウム超えを目指して誕生した初代。開発当初、スプールのマグネシウム採用に難色を示したという。
村田「フェラーリのマグホイールは、自転車産業No.2のカンパニョーロ製だよと。No. 1のシマノが燃えたのは言うまでもない(笑)」
00’s~の歴史的注目モデル【アンタレスDC MD】
「投げたら糸が全部出る。そのくらい飛ぶのが面白さ」
村田「19アンタレスが登場してもその前年登場のDCMDは未だに強い支持を受けているね」
その理由とは?
村田「12lb×100mか、20lbか。ブレーキがマイルドか、カッ飛び仕様か。その差で、バス釣り人口の9割を占める陸っぱり派に受けているんだと思うよ」
現代の主流がここに。
世界的に見ても右利きが9割。先進国は右巻きがスタンダード
現代こそベイトに左右巻きが揃うが、かつては右ハンドルのみの設定が一般的だった。
村田「古代の壁画で手の絵があると、ほぼすべてが左手」
そう、右手で描いているからだ。
村田「井戸などの滑車ってあるでしょ、右巻きしかない」
ネジなども然り。右手で締め上げやすいように、時計回りでねじ込めるようにネジ山が切られている。
村田「右利きならしっかり力が入るのは右巻き。複雑なカバー、大物とのバトルは利き手で使う方が断然有利」
歴史は事実を物語る。
昔のリールは当時の衝撃。現代で使ってくれと言われてもそりゃムリ(笑)
村田「どんだけ名機と言われても、テクノロジーというものは日進月歩で進化するもの」
村田さんにとって歴代のベイトは通過点に過ぎない。
村田「タックルとして使うなら現代の最先端モデルが正解。ベイトならアンタレスDC MD、それとステラだね」
番外編:スピニングリール
村田「3年経っても未だ数が足りないなんて異例中の異例」
村田さんも躊躇なく太鼓判を押す傑作機。
村田「世間では22ステラが予想されてるけど、18は未だに大人気。全てにおいて最高峰のスピニングだよ」
一方、フロントドラグに目盛りが入っているこちらのスピニングは、1971年発売のダックス50だ。
村田「今年シマノは100周年だけど、『ダックス50』の50は50周年の意味」
前半世紀を象徴する機体と言える。シマノは新世紀も期待大だ。
『ルアーマガジン』2023年9月号 発売情報
ルアーマガジン史上初めてのスモールマウス×オカッパリの表紙を飾ってくれたのは川村光大郎さん。大人気企画「岸釣りジャーニー」での一幕です。その他にも北の鉄人・山田祐五さんの初桧原湖釣行や、五十嵐誠さんによる最新スモールマウス攻略メソッドなど、避暑地で楽しめるバス釣りをご紹介。でもやっぱり暑い中で釣ってこそバス釣り(?)という気持ちもありますよね? 安心してください。今年の夏を乗り切るためのサマーパターン攻略特集「夏を制するキーワード」ではすぐに役立つ実戦的ハウツー満載でお送りします! そして! 夏といえばカバー! カバーといえば…フリップでしょ!! 未来に残したいバス釣り遺産『フリップ』にも大注目ですよ!
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