「Dr.小野寺のノースアングラーズ・ティップス ~釣りと医療と北海道~」【スズメバチとアナフィラキシーショック】

雄大な自然を擁する北海道で、暇を見つけては釣りを嗜んでいる救急医・小野寺良太さん。そんなドクターに、実はあまり知られていない北海道の釣りを紹介していただくと共に、自然と対峙する釣りに関しての「備えあれば憂いなし」的なアドバイスを、医学の視点から語っていただく。初回は、北海道の鮎、そして、ヤブ漕ぎをすればかなりの確率で出会う、あの“虫”のお話だ。

●文:小野寺良太

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小野寺良太(おのでら・りょうた)
1987生まれ、名古屋出身。現在、北海道札幌市在住。ER型の救急医として活躍する傍ら、休日をほぼ釣りに費やしているツワモノ。日本中でライトなエサ釣りから大物釣りまで何でもこなすマルチアングラー。好きな釣りは、鮎釣り・しゃくり棒を使ったサクラマス釣り・カンパチジギング。座右の銘は「行ってみる、やってみる」。

北の大地で『鮎』を釣る

とあるご縁から、北海道の釣りと、釣りにまつわる医療のお話を皆さんに知っていただく機会をいただいた。徒然なるままではあるが、専門職からの見識と共にお伝えしていきたい。

私の初めての釣りは幼稚園時代。父親に連れられて近所の鯉の釣り堀から始まった。釣った鯉はポイントに応じておもちゃと交換できたため、夢中になったことを覚えている。大学生時代のアルバイトは釣具屋がメイン。貯めたバイト代のほぼ全てをその釣り具屋で調達するタックルと釣行費で使い果たす日々を過ごす。大学在籍時には釣り部なるものを創設してみたり…とにかく、釣りという素晴らしい趣味に支えられて生きている、と言っても過言ではない人生を送っている。

現在は北海道で救急医として働いているが、休日は、ほぼ毎日魚釣りに出かけて気分転換をしている。とはいえ、魚が釣れず気分転換にならないことも多々あるのだが。

5年前、本州から北海道に移住して感じたことは、とにかく、釣り人の数に対して魚の数のほうが圧倒的に多いということ。船で出れば、魚種にもよるがクーラーいっぱいの釣りは当たり前。しっかり情報を集めることができれば、頑張って幻の魚・イトウも釣ることができる素晴らしいフィールドなのだ。

というわけで、今回私が最初にお伝えしたい釣りは、北海道の鮎の友釣り。

意外と思われるかもしれないが、北海道でも鮎は釣れる。北海道南西部を流れる朱太川(しゅぶとがわ)の鮎などは、『清流めぐり利き鮎会』(全国各地の清流が育んだ鮎の塩焼きを河川名を伏せた状態で“利き鮎”として食べ比べ、グランプリを決める大会)にて、2016年度のグランプリを見事に獲得するなど、その道の方々には知られた存在だ。

天然林の合間を流れる朱太川。北海道ならではの風景ではあるのだが、ここで釣るのはイトウではなく、鮎。

ちなみに、皆さんがイメージする鮎の友釣りとは、どんなスタイルなのだろうか。

数多くの鮎釣り師が、ところ狭しと川に並んでいる印象はないだろうか。鮎釣り師なら、一度は自分が立っているこのポイントを貸し切って存分に釣りができたらどれだけ幸せだろうか、と思ったことはあるのではないだろうか。

北海道の鮎の友釣りは、その夢を叶えてくれると言っても過言ではない。

これはあくまで私見なのだが、北海道在住の釣り人は、どうやらまだ鮎釣りに興味がない方が多いようで、鮎釣り師が圧倒的に少ない。

川沿いの遊道を牛が歩く。北の大地での、のんびりとした鮎の友釣りというのもなかなかに乙なもの。

私がメインフィールドとしている朱太川では、解禁日当日でもない限り、エリアを探していけば、ほぼ必ずと言っていいほど視界に釣り人を入れずに釣りに没頭できるスポットを見つけることができる。

朱太川で大釣りすることができる日は限られるのだが、頑張れば1日20尾くらいは釣ることができる。サイズに関しては、18~20cmくらいまでがアベレージといったところで、22~23cmが後半になると顔を見せる。25cmを超える大物鮎が釣れるのは、あまり聞いた事がない。ただ、本州から釣りにくる鮎釣り師がビックリするのが、たまに釣れるという、異常なまでの体高を持つ鮎。それは、フナではないかと思うほど。

朱太川は実はヤマメ釣りも有名。本州では考えられないような数のヤマメを容易に釣ることができる楽しい河川でもあるのだ。

とにかく、釣りに全集中できるのがありがたい。本州のソレと負けじ劣らずの良型揃い。ここに体高のあるアユが混じる。

そしてまた、朱太川が流れる黒松内町には、美味しいピザが食べられる『道の駅くろまつない』や、泉質のよい温泉、いくつかの素晴らしい宿があり、日常を忘れさせてくれるスポットでもある。私自身、全道の釣り旅をしているが、黒松内ほど北海道の自然と釣りの両方を楽しめる場所は少ないと思う。

注意点としては、北海道の鮎釣り期間が7月から9月15日までで、本州のソレと比較しても期間が短いという点。私が個人的に感じる最盛期は7月後半からお盆までの約1ヶ月ほど。ただ、逆にこの短さが北海道の鮎釣りをより特別なものにしているような気もしている。

もう1つは、遭遇する可能性のある動物『ヒグマ』である。残念ながら、北海道の鮎釣りができる場所では、ほぼ全ての場所で熊と遭遇する可能性がある。鮎釣りをしていてヒグマと出会ったという話は毎年本当に数多く耳にする。釣りをしていたら目の前に子熊が崖の上から転げ落ちてきたという話も聞いたことがある。釣行の際は極力単独行動は避け、熊避け鈴やスプレーを持参したいところだ。

正直なところ、北海道の鮎釣りができる河川は、例えば九頭竜川のような強烈な引きを楽しんだりだとか、球磨川のような尺鮎が狙えるといった、遠征してまで行きたい何か特別な要素があるわけではない。

ただ、先述のとおりで、人がほとんどいない中、北海道の広大な自然の中でのんびりとほぼ貸し切り状態で竿を出せるといった、贅沢極まりない環境を提供してくれるという意味では、これ以上のフィールドは全国を探してもなかなか見つけられないかもしれない。

もちろん、素敵な食事&温泉&宿で過ごす休日は、極上のモノになること請け合いだ。

本州から友人が初めてきた際は、何もないところだね~、と言っていた彼らだったが、ソレ以降毎年のように鮎釣りに来ることになっていることからも、北海道がいかに楽しい場所であるかを表しているエピソードだと思う。皆様も是非、次の夏休みの候補にどうだろうか。

アナフィラキシーを起こしたときに出る症状とは?

さて。話題を北海道の鮎釣りから移そう。

釣りのハイシーズンでもある夏から秋というのは、釣り人が虫に、その中でもハチによく襲われる季節でもある。私は仕事柄、ハチに刺されて救急搬送されてくる患者さんを見ることがあるが、釣り人は本当によく襲われている。救急医からの視点として何か注意できることはないだろうか、と私なりに考えてみた。

まずは、ハチに刺されないところに行かないことが一番…なのだが、そんなことは釣り人には不可能と思われる。あの藪の先には素晴らしいポイントがあるはずだと、超楽観的に突き進んでいくのが釣り人だ。

刺されない工夫については、皆さんも行っているであろう防虫スプレーや長袖の服を着るなどいくつかあるのはご存じのとおり。ただ、釣り場ありきの釣り人目線で考えると、刺されてしまった後、どういう症状が出たときに必ず引き返すべきなのか…が、最も大事だと思われる。

多くの方々は、痛みで帰ることを決断されると思うし、また、基本的には帰ることをお勧めする。とはいえ、釣り人にも色々事情があることも十分に理解はできる。

ハチに刺されたときに一番注意しなければいけないのは、アナフィラキシーによって死に至る場合があるということ。

人が死亡してしまうほどのアナフィラキシーとはいったい何なのか。今回はその症状について、私の知識を共有したいと思う。

北海道に限らず、特に注意したいのがスズメバチ類。繁殖期に入る秋のシーズンが一番気が立っている。威嚇されたら下手に刺激しないで、身を屈めながら、ゆっくりと静かに離れよう。

アナフィラキシーとは『急速に発症した重度の全身性アレルギー反応で死に至る危険があるもの』と定義づけられている。簡単にいうと、死に至る可能性がある最悪なアレルギー反応、といったところだろうか。

毎年10~20人(実はそれ以上とも言われている)が、ハチ刺されが原因のアナフィラキシーショックで死亡している。

ちなみに、ガイドラインによると…ハチに刺されてから症状が出るまでの時間で最も多いのは5分以内。心停止や呼吸停止に至る場合は、刺されてからの中央値で10分程…と書かれている。

となると、アナフィラキシーを起こしたと感じたら、すぐに救急車を呼ばないと死んでしまう可能性が出てくる。とはいえ、これがアナフィラキシーだと判断することは医者でもなかなか難しい場合もあり、またそこが悩みどころでもある。

ということで、以下の3点を釣り人の皆さんには知っておいてもらいたい。アナフィラキシーを起こしたときに出現する代表的な症状だ。

ハチに刺された後、

  • 息が苦しくなる       
  • 血の気が引く        
  • お腹が痛くなる(嘔吐、下痢)

医療機関へ駆け込むか、救急車を呼ぶか悩んだ時は救急車をよぶことを躊躇わないことが必要。蕁麻疹は出ても出ていなくても、とりあえずハチに刺され後にこれらの症状が出たならば、アナフィラキシーとして対応することが大事だ。

また、スズメバチ以外…ミツバチやアシナガバチでもアナフィラキシーを起こす可能性があること、刺された経験がなくても1回目でも死亡する可能性があること、短期間に2回刺されるとアナフィラキシーを起こしやすい、といったことも頭の片隅に入れておいてもらいたい。

とにかく、ハチに刺されて『息が苦しい』『血の気が引く』『腹痛』の症状が出た場合は、すぐに釣りを中止して医療機関受診または救急車を呼んでほしい。命あっての釣りなのだから。

*参考文献:日本アレルギー学会・アナフィラキシーガイドライン2022


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