川村光大郎さん普段はどんな風に仕事されてるんですか?【釣り業界のお仕事紹介】

プロアングラー、メーカー勤務、フィッシングガイドにショップ店員、そしてカメラマンなど、釣り業界を支えるそれぞれのエキスパートたち。そんな彼らの職業とは一体どんな仕事なのか? どんな人向いていて、収入は一体どれくらいなのか? 気になる事情を徹底調査! 今回はプロアングラーにしてルアーメーカー社長をも務める川村光大郎さんの仕事の現場風景をご紹介。

●文:ルアーマガジン編集部

川村光大郎さんのプロフィール

川村光大郎(かわむら・こうたろう)

レジェンド1勝、陸王通算4勝の最多陸王として、岸釣り界の頂点に君臨するオカッパリのスペシャリストである川村さん。メディアプロアングラーとして、取材やスポンサーワークなど、現場で活躍する一方で自身が主宰する人気メーカー・ボトムアップの代表取締役社長を務めている。

バス釣りに懸ける情熱は衰えることを知らず、スキルの進化は待ったなし。自身が主宰するブランド「ボトムアップ」からは、その情熱とエネルギーを具現化したアイテムがリリースされている。

会社を立ち上げた経緯を教えてください

自然と気持ちが芽生えました。

もともと、モノづくりはしていたのだけれど、最終的に自分のやりたいことを自分の後悔しないカタチで…と考えたときにこれしか思い浮かばなかったというのが本音ですね。モノづくりとアングラーとしてという面でも、自分の理想を叶えるために信頼できるメンバーと納得が行くモノを作りたい、やりたいなと。最初はよぎるくらいの想いだったんですけど、それが次第に強くなっていった感じです。

だから、決して最初から『いつかはメーカーを立ち上げる』という気持ちはなくて、自然発生的に想いが強くなって、結果思い切ってメーカーを立ち上げたという感じです。

ボトムアップのロゴには、その熱き情熱を象徴する炎が描かれている。ブランド発足から5年、その情熱を具現化したルアーは現在24種。

ブランドとしての理念、プライドを教えてください

世に出すからには、これまでにないもの。もしくは超えるもの。

世に出すからには、これまでにないものか、超えているもの。これまでにないものというのは、具体的には『ニューアクション』。いくら新しいアクションでもバスが好みでなければもちろん釣ることは難しいんですけれど、上手くそういうアクションが出せれば、これが1番釣果に直結するところなので、それを理想としてものづくりをしています。

ただ、ビーブルやスクーパーフロッグのように明確に違うものもあれば、細かな差である場合もあるんですけど、ブランドとしての基軸はそこにあります。

プロト段階で行った本誌実釣ではビーブルにて単日8本、うち50アップ2本という釣果を残した。

一方で、ラバージグのようにルアー自体はニューアクションを出しにくいカテゴリーに関してはトータル性能で超えていること。

ただ何を持って超えているかは状況によって変わってくることなので、自分が思う前提としては『今のハイプレッシャーに対抗できるもの』であること。これはオカッパリだろうが、ボートだろうが、今はどの地域に行ってもバスが賢いので、バスがルアーを学習している前提でそういうバスに効く性質のアクションやボリューム感であり、釣り勝てるものっていうのを意識して作っています。

『ボトムアップ』っていう社名にも込めた想いなのですが、これまであるものよりもより釣れるものを作りたいという信念でやっています。

フルーミー(ボトムアップ)

同カテゴリーのルアーでは異例のシミーフォールを実現した、ボトムアップの最新作ルアー。ブランドの理念でもある「これまでにないアクション」がしっかり踏襲されている。

ビーブル(ボトムアップ)

弊誌企画「タックル・オブ・ザ・イヤー」で、ルーキーオブザイヤーを獲得し、ハードベイト部門でも上位常連となっているスピナーベイト。特殊な金属パーツ、スプリッターが横揺れを発生させる。

会社立ち上げ時にクラウドファンディングを使用したキッカケとは?

当時のルアマガスタッフに教わりました。

会社の立ち上げは自己資金で行ったんですけど、その資金では開発に必要な大型水槽をまかなえるほどではなかったので、クラウドファンディングを使わせてもらいました。

そんなクラウドファンディングなのですが、僕はその存在をまったく知らなくて、当時のルアマガのスタッフさんに水槽の相談をしたらそういうものがあると教えてもらいました。

当時、レディーフォーで発足したプロジェクトは目標金額の7倍以上の支援が集まった。

本当にこれで水槽購入用の資金が集まるのかという不安もありましたけど、やってみたらみるみるうちに目標金額は突破して本当にビックリしました。しかも返礼品は、当時これから開発段階のリズィーも含まれていたので、いつお返しできるのかお約束できるものではなく、あくまで完成を待ってもらう形にも関わらず支援いただけたことは精神的にも背中を押してもらえましたね。

当初、3mもの全長と強度を敵えつつ価格を抑えるには、50cm四方の覗き窓方式になる予定が、予想以上の支援を得られた結果、全面ガラス張りの強化水槽にグレードアップ。ルアーの開発に一役も二役も買っている。

そのおかげで水槽も全面強化ガラスのグレードアップした状態でブランドをスタートできたと同時に、これだけ多くの人が支援してくれたというところで絶対に裏切るわけにはいかないという気の引き締めにも繋がりましたね。

モノづくりで勝負する以上、妥協はしないという思いがクラウドファンディングのおかげでより一層強くなりました。

水槽を使ったアクションチェックでは一人の意見ではなく、全員が納得するものを求める。スロー映像などで細かく動きをチェックし、肉眼ではわからないような細かい部分まで追求。

ボトムアップの社員数を教えてください

全員で5人です。

自分で言うのもなんですが、うちは少数精鋭です。このうち、誰ひとり欠けても会社は成り立たないと思っています。

たとえば、主にハードルアーの開発ほか、数字的な部分や海外とのやりとりなどは草深(幸範)が担当していますし、ルアーの開発という花形ではないかもしれないけど、アパレルの製作や動画の撮影と編集、ショップさんへの対応をしている征矢(明久)。ハードベイトの開発を草深とともに行っている若松(知幸)は趣味がルアー作りで、釣り以上に作ることが好きという稀なタイプ。感性が鋭くて、芸が細かい上、アクション出しが上手い。

それぞれ役割は持ちつつも、出荷なんかの作業は人手が足りないのでアルバイトの助っ人を含め、全員相撲でやっています。

みんなそれぞれ役割もキャラも違うんですけど、気持ちや向いている方向は同じですね。

川村さんから向かって右に、征矢明久さん、若松知幸さん、草深幸範さん。経理は川村さんの奥さんが担当し、合計5人で会社を運営している。

社長としての仕事を教えてください

「いいものを作っている」という信念を楽しんで、そこにプライドを持って働いてほしい。僕の役目はそれを徹底することだと思っています。

僕が社長らしいかというと、あまり自分ではそう思っていないんですが、具体的な業務としてはものづくりをして、取材を受けたり、原稿を書いたりですね。あとは、何か物事を決めるときの意思決定という機会は度々あるんですけど、それも社員のみんなと話し合って決めている部分も大きいのでその責任を持つくらいです。

そうしていられるのも社員それぞれの役割があって、それをちゃんとこなしているお陰だとも思っています。社長としての役割はありますけど、僕が社長でいられるのは社員のみんなに助けられているからだと思っています。

あえて社長としての仕事をはっきり言うとすれば、納期と性能を天秤に掛けなければいけないときになったら、迷わず性能を選ぶことですかね。それによってロスするものは多いですが、目先の利益などに捉われて中途半端なものよりは、やり切ったものを世に出したい。

社員にも「うちはいいものを作っているんだ」というのを楽しんでほしいし、それをプライドとしてやってもらいたいなと思っています。

それが社長として、僕がこの会社で徹底していることですね。

本誌にも掲載されていたブルスホッグの広告イラストは、美大卒である征矢さん作。製品に掛ける想いや愛情はこういった部分にも現れている。

どういう人と仕事がしたいですか?

同じ熱量のある人です。

釣りに対しても、ものづくりに対しても同じ熱量のある人です。どちらか一方でもいいと思うんですけど、そうでないといくら釣りが好きだと言っても実際に働いてみたら違ってしまうこともあるので。

なので、技術や知識はある程度は求めますが、そこまで備わっていなくてもいいとは思っています。CADができないといけないとか、本当に手先が器用であるとか、それはあとからついて来ればいいのかなと。一緒に働くというのは縁もあることだとも思っているので。

それこそ、若松の例でいうと、イベントがキッカケです。ショップのイベントなどでファンの方からよく手作りのルアーをいただくんですけど、若松がくれたルアーはその中でもアクションがすばらしく良かったんです。当時リズィーの開発中で、正直難航していたんですよね。そこで、彼ならと思ってサンプルを削ってもらったり、人手が足りなかったので出荷の手伝いをアルバイトとしてお願いしているうちに人柄もわかってきて、信頼できるなと思いました。

ランナー(パインベイツ)

若松さんがハンドメイドで作っていたクランクベイト。超ハイピッチで、高速巻きにも対応。当時はメルカリなどで販売されていた。

その結果、僕が一緒にルアーを作りたいと思うようになって、社員としてどうかと声を掛けました。

だから、どんな人が向いているかというより、そう思わせてくれる人と働きたいです。

役割は違えど、良いものを作りたいという情熱は社員全員が同じ熱量を持って働く。その結果はリリースされるアイテムを触ればわかっていただけるだろう。

プロアングラーとして大切にしていることは?

釣り方だけではなく、マナーやバスの扱いも正しく伝えていきたい。

でかバスハンター、トーナメンター、釣りの楽しさを伝えるとか、アングラーそれぞれ持ち味があるとは思うんですが、僕は『釣ってみせる』だと思っています。

オカッパリでもレンタルボートでも、多くの人と同じシチュエーションで、釣り場も偏るのではなく、各地のメジャーフィールドに行って釣ってみせること。理想はそれによって、僕の映像や誌面を見た人が釣れるようになってもらいたい。自分たちの存在理由って、真似した人たちが釣果に役立ててもらえることだと思うんですよ。

だからどんなに釣っても、釣り方が上手く伝えられなかったり、内緒にしていたら意味がない。トーナメンターの場合はそれが勝敗や賞金などにも関わってくるというのがあるので話は変わりますけど、僕はそうじゃないのでなるべくわかりやすく、みんなが実践できるようにしたい。

だからそういうのを伝え続けるほか、陸王という勝負の場面で勝つためにも、テクニックやルアーは常に模索し続けていきたい。

プロとしてわかりやすく説明するというのは川村さんの映像を見ている人ならわかるだろう。現場ではていねいに言葉を選び、的確な説明と動作で伝える。時にはうまくいかなくて何度もリテイクすることもしばしば。しかし、その妥協のなさこそが川村さんの本質なのだろう。

あとはモラルやマナー、バスの扱い方などを正しく伝えていきたいですね。自分が釣ってみせるだけではなく、多くの人が釣れるように、そしてその魚たちや環境を守ってもらえるような見本になりたいです。

プロとして、スポンサーに関しても僕は契約交渉をしたことはないです。自分もメーカーをやっているのもあるし、自分がどれだけスポンサーに貢献できているのかはわからないじゃないですか。

本来、スポンサー料は自分の貢献によって生まれた利益の還元であると思うので、僕は一緒にお付き合いする以上、貢献し続けたい。お荷物にはなりたくないし、得であってもらいたい。だから、その判断はスポンサーに任せてます。そのほうがいい関係を続けていけると思うので。

風景撮りのために出た現場でも、限られた時間で結果を出すよう最善を尽くす川村さん。今回の取材でも短い時間でしっかり魚を捉えた。

コスモ 2.5g + M.P.Sビッグ(ボトムアップ)

晩秋から活躍する場面が増えるスモラバ。もちろん、伝家の宝刀『マイクロピッチシェイク』で仕留めていた。

会社の業務以外に、取材やスポンサーワークなどをこなしていますが、休日はどのくらいありますか?

0といえば、0になります。

仕事と休日の境界線がないので、0と言えば0です。休みだからといって、家でゆっくりするということはなくて、会社に行くか、釣りに行くか、どっちかですね。

休日の釣りも結局、仕事から離れることはなくて、実釣の感触を見たり、テストしてしまったりしてしまいますからね。

だからいい意味で仕事という感覚も休みという感覚もなくなっちゃってるかもしれないです。そもそも貧乏性なので、なにもしないでいるのがもったいないと思ってしまう性分なのと、休日に会社で仕事すると静かなので意外とはかどるんですよね(笑)。

収入について教えてください

会社の役員報酬とプロアングラーとしての収入があるんですけど、毎年変動するので年収でいうと、大体ビッグベイト2,600~3,000個くらいですかね。

これからもより良いもの、良い釣りをお伝えできればと思っています!

『ルアーマガジン』2023年9月号 発売情報

ルアーマガジン史上初めてのスモールマウス×オカッパリの表紙を飾ってくれたのは川村光大郎さん。大人気企画「岸釣りジャーニー」での一幕です。その他にも北の鉄人・山田祐五さんの初桧原湖釣行や、五十嵐誠さんによる最新スモールマウス攻略メソッドなど、避暑地で楽しめるバス釣りをご紹介。でもやっぱり暑い中で釣ってこそバス釣り(?)という気持ちもありますよね? 安心してください。今年の夏を乗り切るためのサマーパターン攻略特集「夏を制するキーワード」ではすぐに役立つ実戦的ハウツー満載でお送りします! そして! 夏といえばカバー! カバーといえば…フリップでしょ!! 未来に残したいバス釣り遺産『フリップ』にも大注目ですよ!


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