ミス釣りは永遠に……「続編に期待(笑)」
世界を駆ける『管釣りカンタロウ』のフリースタイル!?
1990年代後半から2000年代前半の5年半もの長きに渡り連載された『Mr.釣りどれん』。今読み返すと、その時代背景も浮き彫りになる。例えば、高校生である主人公たちがお酒を呑む、など。ある意味で大らかな時代だったが、20年という歳月で世は大きく変わりつつある。そのせいか、ちょっとエッチなシーン(※注27)もそこかしこに。
「注27 ちょっとエッチなシーン」
村田「あー、本当だ! 前のページが透けると(笑)」
当時の少年たちがドキドキで読んだヒロスレ涼美のモヤがかかるお風呂シーン。敢えてそのページは載せないでおくが、きになる方は第13巻の132ページを寝転がって見てみよう(笑)。
※電子版だとワカリマセンヨ。
村田「あ、本当だ(笑)! これは意図したの? 」
とだ「もちろんです(笑)。下書きを描いている最中に思い付いて、前のページはある程度完成していたんですけど、ここにコケを生やして、コマの大きさを変更してと……と入念に(笑)」
猪熊「絶対に版ズレしないように、赤ペンで細かく指定して製版所に入稿して(笑)」
とだ「誰も気付いてくれなくていいんですよ。でも、気付いてくれた方がいたんですよね。確か掲示板に書き込んでくれた方で『寝転がって読んでいたら、裏面が透けて……』と(笑)」
猪熊「今だったら良くてバズる、悪くて炎上の危険なネタですよね(笑)」
とだ「載りますか、このネタ? こういう場所でしゃべっておかないと、なかなか日の目を浴びる機会もないですし(笑)。これ以外にも、絶対誰にもわからないレベルのものはいっぱいあります。全編に渡って楽しんじゃってますね(笑)」
村田「そうそう。『間違いだらけのバッシング(※注28)』を読んだ方から『村田さん、笑いながら書いてるでしょ』と言われたこともあるよ(笑)」
「注28 間違いだらけのバッシング」
1987初版、村田さんの出世作にして釣り名著。
1990年代に最も売れた釣り書籍と言っても過言ではない村田さんによる名著。地域によっては図書館にも蔵書されるなど、釣りファンの倍増に貢献したとも呼ばれる。なお、写真は「誤植を直しただけ(笑)」の改訂版でソニーマガジンズ刊行だ。
とだ「楽しんでることって意外と伝わるもんなんですよね」
作者自身が心から楽しんで表現しているものは必ず伝わるものだ。断言してもいい。
そもそものタイトル『Mr.釣りどれん』はあの超有名グループアーティストのパロディだ。略称は『ミスつり』。本誌編集部スタッフでも意外と気付いていなかったという者は多い。
とだ「声に出してみるとわかりますけど、意外と文字ヅラだけじゃわかんなかったりするもんなんですよね。夜中まで打ち合わせして、このタイトルに決まった時は爆笑の渦でしたね(笑)」
猪熊「夜中でハイになってる可能性もあったんで、翌日起きてそれでも違和感がなかったら決めようということになって… で、起きてもやっぱり釣りどれんが最高だということになりましたね。『これしかない!』と(笑)」
とだ「もうひとつの仮題として『あしたは釣り日和(※注29)』ってのもあったんですよ。主人公が『日和』湖一くんて理由もあって。でも、そのタイトルだったら、5年半もの連載は続かなかったかもですね……」
「注29 あしたは釣り日和」
ホンワカしたタイトル案……『Mr.釣りどれん』大正解。
もし当初のタイトルだったら、たとえバスブームだったとしても、これほどまでに人気は出なかったのではないだろうか。タイトルって非常に大切だ。不思議なのは、ルアーマガジン。ベタ過ぎな雑誌名だが今年で25周年を迎える。
猪熊「あの頃の月マガ連載マンガのタイトルは最後が『N』で終わるもの(※注30)が非常に人気だったんです。『修羅の門』とか。たまたまなのかもしれないですけど、おそらく語感が良いってのは確かですね」
「注30 最後が『N』で終わるもの」
業界の裏キーワード。
とだ「たまたまですよ」
修羅の門を始め、当時月マガの人気マンガに共通したNワード。各業界には様々な隠れた鉄則はあったりする。かつて歌謡曲は3度同じフレーズの繰り返しがヒットするとか、雑誌ではQ&A企画は売れるとか…。本当だろうか?
一同「おぉぉぉぉぉ(驚)!」
とだ「ミスつりではなく本家の『チル』さんのボーカルの母上が美容院を経営していたらしく、妻の友人がこのマンガをおすすめしたという実話もあって、もしかしたら読んでくれているかもですね(笑)」
村田「彼が釣りをやるって話は聞いたことないなぁ。ほかの芸能人ならけっこういるけどね」
とだ「山下健二郎さん(※注31)がフィッシングショーのステージで釣りどれんを読んでいたと話してくれたとか。いつかお会いしたいですね」
「注31 山下健二郎」
何とあの有名人も釣りどれん世代!
三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのメンバーにして、業界屈指の釣り好きとして知られる山下さんは1985年生まれの現在36歳。Mr.釣りどれんをリアルタイムで読んでいたと公言している。
村田「彼は釣れたら『フィーッシュ!』とか言ってくれるし(笑)、ちょうど世代なんだよね」
とだ「僕は連載始まる前に、釣りも何も知らない状態で『生フィッシュ』を見させてもらいました(笑)。ありがたいお話です」
話はいつしか次回作構想(!?)へと進んで行く。
村田「俺的にはこの続き、続編を描いて欲しかったね。その名も『管釣り カンタロウ』(笑)」
とだ「常々、村田さんから言われております(笑)。一応、続編的なお話もあります(※注32)。さらに今号では、あれから20年経ってオトナになった釣りどれんのお話も描き下ろしましたし」
「注32 続編的なお話」
とだ先生の公式サイトで各作品を要チェック!
本誌今号の巻頭では20年後の釣りどれんが描かれているが、連載終了後から現在までに『EX』『海』などの続編も存在。気になるアナタはぜひ、とだ先生の公式サイトからご確認を。電子書籍で購入することが可能だ。
村田「おぉ、なるほど。で、続編の大まかなプロットはできてるんだよ(笑)。管理釣り場で『心眼の術』的なワザを覚えて、そこから日本全国はもちろん世界へ羽ばたいていくというね。月刊マガさん、枠をください(笑)」
猪熊「えっ……今の私は別の編集部なので……(笑)」
まだ実現していない新作マンガは、まさに村田さんの提唱する『フリースタイル』がモチーフ。再び、とだ先生とのタッグでぜひ我々を楽しませていただきたいものだ。今からでも遅くはない(笑)。
村田「管理釣り場のメッカ・北関東へセミナーに行くと『ルアーの後ろに魚が着いたことがわかる人は手を挙げて』というと、30人いたら10人は手が挙がる。ある程度の重さがあるルアーだと、後ろに魚が着いてスリップストリーム状態になるとルアーの動きに異変が出るんだよ。それがわかるようになったら、目をつぶっていても手の感覚だけで魚が釣れるようになるよ」
とだ「村田さんから聞いてはいたんですけど、僕はそれを理解できることがなかったですね…。ある時、ビギナーの友人と管理釣り場へ行ったら、彼は最初苦戦していたものの最後には『釣れるときはわかる』と。たった1日でわかるのかと。それを聞いて妙に悔しかったですね(笑)。ルアーにカメラが付いてたらいいのにと思ったことは何度もあります(笑)」
村田「アハハハハハ(笑)。クレーンで上空から撮影したこともあるよ。僕の話す通りに魚が動いて食い付いて、ホラと」
一同「おおおおおおおお(驚)!」
村田「対象魚はバスだけじゃなく、いろんな魚を相手にするといろんなことがわかってくるもんなんですよ。ルアマガは『ルアー』マガジンなんだから、他魚種のルアーフィッシングをもっと取り上げてもいんじゃないかな」
とだ「テレビ番組などの映像じゃなくても、村田さんにいつも目の前でそういったテクニックを見せてもらえた。そこは釣りどれんの強みでしたね。楽しかった思い出も沢山あります」
最後にお2人に、釣りどれんで記憶に残るエピソードを訊いてみよう。
村田「このマンガを作り上げていくために、とだちゃんたちと一緒に釣りに行ったことがやっぱり楽しかったね。それもオマケマンガになってるし、今でも振り返ることができるし」
とだ「どの1話って取り上げるのは非常に難しいですねぇ……。やってて良かったなと思うのは、読者さんとの繋がりですね。当時はインターネットが普及し始めたばかりで、ホームページを介してチャットや掲示板で交流したり、オフ会を開いたり。そこで出会った方々の絆があってこそ、物語が広がっていったってのもあります。この作品を通じて出会えた村田さんを始めとしたすべての方々、そしてすべての読者の方々に感謝したいですね」
今なお不朽の名作釣りマンガ『Mr.釣りどれん』はウェブ上の電子書籍で楽しむことができる。当時の少年たちはもちろん、現代の少年たちも一読する価値がある。いや、一読すべきだろう。また新たな釣りの世界が広がるはずだ。
最後に我々に有意義な機会を与えてくれた、とだ勝之先生と村田基さん、そして猪熊泰則さんに盛大な拍手を送りたい。
一生釣りどれんします宣言(!?)
まだ終わっちゃいない。物語が終わってはいけない(願望)!
我々の心を掴んだまま離さない『Mr.釣りどれん』という不朽の名作。今回の企画にあたり全てを読み返すと、時に笑い、時に涙、そして初心に帰れる良い機会に恵まれた。ふと思い出したら、もう一度電子書籍で読んでほしい。あなたの心に大切な何かがきっと……。
『ルアーマガジン』2023年9月号 発売情報
ルアーマガジン史上初めてのスモールマウス×オカッパリの表紙を飾ってくれたのは川村光大郎さん。大人気企画「岸釣りジャーニー」での一幕です。その他にも北の鉄人・山田祐五さんの初桧原湖釣行や、五十嵐誠さんによる最新スモールマウス攻略メソッドなど、避暑地で楽しめるバス釣りをご紹介。でもやっぱり暑い中で釣ってこそバス釣り(?)という気持ちもありますよね? 安心してください。今年の夏を乗り切るためのサマーパターン攻略特集「夏を制するキーワード」ではすぐに役立つ実戦的ハウツー満載でお送りします! そして! 夏といえばカバー! カバーといえば…フリップでしょ!! 未来に残したいバス釣り遺産『フリップ』にも大注目ですよ!