【実は死亡率が高い破傷風のお話】『Dr.小野寺のノースアングラーズ・ティップス ~釣りと医療と北海道~ Vol.3』アイスフィッシング編

雄大な自然を擁する北海道で、暇を見つけては釣りを嗜んでいる救急医・小野寺良太さん。そんなドクターに、実はあまり知られていない北海道の釣りを紹介していただくと共に、自然と対峙する釣りに関しての「備えあれば憂いなし」的なアドバイスを、医学の視点から語っていただく。3回目は、様々なフィールドにて釣りを極めつつあるツワモノであれば、誰しもが1度は憧れるアイスフィッシング。そして、実はかかると怖い…身近な病気「破傷風」のお話だ。

●文:小野寺良太

2024 新製品情報

北海道札幌市在住の釣り好き『救急医』小野寺良太さん!

小野寺良太(おのでら・りょうた)
1987生まれ、名古屋出身。現在、北海道札幌市在住。ER型の救急医として活躍する傍ら、休日をほぼ釣りに費やしているツワモノ。日本中でライトなエサ釣りから大物釣りまで何でもこなすマルチアングラー。好きな釣りは、鮎釣り・しゃくり棒を使ったサクラマス釣り・カンパチジギング。座右の銘は「行ってみる、やってみる」。

誰もが1度は憧れる氷上の釣り

本州に住んでいた頃は憧れだったアイスフィッシング。氷上にテントを立て、氷に穴をあけて、ワカサギを釣ってその場で食べる。ずっとやってみたいと思っていた。

北海道にきて、実際にアイスフィッシングをやってみて感じたことは、やっぱり北海道は釣れるし楽しい。ワカサギ釣りはテクニカルな部分もあり、そもそも釣りとして楽しいのに、そこにキャンプの要素も混じるのだからもっと楽しいに決まっている。ただ、思っていたことといくつか違うことはあった。

本州ではなかなか体験することができない冬の風物詩的な風景…そして憧れのアイスフィッシング。

まず1つめは時期

北海道だったら冬の間ならいつでも氷が張っているのだろうと思っていたら、実際の釣期は1月のアタマから長くて3月の初旬頃までの約2ヶ月間。これも場所によっては、1月半ばから2月半ばくらいまでの1ヶ月くらいしかできない釣り場もある。

それに冬は吹雪くことも多く、現地まで辿り着けないこともあって、思ったよりワカサギ釣りに行ける回数は多くならない。

2つめは釣具以外の道具

思っていた以上に様々な道具が必要になる。テント本体、テントが飛ばされないようにするための杭、その杭を打つためのハンマー、氷に穴を開けるためのアイスドリル、テントだけでは寒いので携帯ヒーターなどなど。テントの中は家のような空間で、より良い快適空間を作りたくなると思った以上に出費が重なってしまう。

マイナス10度を下回るなかで、快適な釣りを繰り広げるには仕方がないこととは思うが、1度集めてしまえばテントの中ではかなり薄着をしても大丈夫なくらい快適な環境で釣りを楽しめる。

3つ目は釣果

場所によっては1,000匹を超えるワカサギを釣ることも可能だし、札幌近郊でも100匹は釣ることはできる場所もある。ただし、やっぱりそうはいかないのが魚釣り。ワカサギはいないところには全くいない。どんなに釣具が進化しても、落とした先にワカサギがいないと釣れない。

アイスフィッシングに至っては、頑張って穴を開けて(これは本当に大変な作業)、テントを苦労して立て、そしてその中で釣りを開始するので、場所移動する決断を下すのは精神的にかなりしんどい(笑)。

たいていの場合、移動するのも億劫で待っていれば回遊してくるだろうと思い、しばらく待つことにするのだが、そういう時ほど、待てど暮らせど釣れずで…結局のところ、かなりの貧果で終わってしまうこともある。

ちなみに、ワカサギは数mの場所の違いでとんでもない数…下手をしたら数百匹単位の差が出てしまうということがある。なので、ポイントに着いたら、まずはサカナ探し用の穴を開け、魚探でワカサギの群れがその付近にいるのかどうかを確認することが、好釣果を得る1番の方法だと確信している。『北海道ならどこにでもワカサギがたくさんいる』…というわけではないようだ。

掘削アイスドリルを使って、まずはめぼしいスポットに手分けして穴を開ける。サカナ探し用に魚探を落とし込む穴作りからだ。駆使できる範囲内ということにはなるが、ハイテク機器は使うに越したことはない。

総評

アイスフィッシング自体、時期が思ったより短く、道具を揃えるのが意外に大変、ポイントを絞らないと空振りをすることがある、というのが北海道に来て初めて体感した印象だ。

とはいえ、網走湖、近年では塘路(とうろ)湖など、手軽に大釣りができる場所は道内にいくつかあり、やっぱり、北海道はすごいなと思う。ワカサギの食味もそれぞれ若干違うので食べ比べしてみるのもいいかもしれない。一般的には、1番美味しいのは網走湖と聞くことも多いが、どうなのだろうか。

ワカサギ釣りという部分において、本州に比べて北海道だから…というスペシャリティは思っていたほどではないのだが、やはりココのワカサギは美味しい!

ワカサギ釣りは美味しくて楽しい!

それに何より、数を競い合うことももちろん楽しいのだが、何人かの仲間とカップラーメンやソーセージを食べながらワイワイ釣りをして、帰りに温泉に入り、自宅であらためて美味しいワカサギを食べる…といった、最高の冬の釣り旅になることは、間違いない。

さらに、北海道に来てビックリしたのは、釣ったワカサギを餌にした泳がせ釣りが非常にスリリングなのである。いわゆるムーチングというヤツだ。ワカサギを泳がしていると、サクラマス、アメマス、そして時にはイトウが釣れてしまうという衝撃的な釣りを展開できる。

竿先に鈴をつけ、テントで暖をとりながらアタリを待つ。鈴が鳴ったら飛び出していくという鯉のブッ込み釣りにも似たスタイル。

朱鞠内湖のイトウ

量販店の店先で購入できるタックルセットがあれば十分楽しめる。なんて贅沢なオプション!

特に朱鞠内(しゅまりない)湖では、イトウを狙って釣ることができるという、とっても素敵なフィールド。ワカサギ用の小さな穴から60cm以上の魚が顔を現す瞬間は、忘れられない思い出になる。道具も、ベニャベニャに曲がる汎用の竿に安いリール、そしてナイロンラインが30mくらい巻いてあるというだけの簡易タックルキットでも十分楽しめる。なんでも、真冬の水温低下で魚の動きが鈍るがゆえに成り立つ釣りなのだそうだ。

冬のアイスフィッシングは、ワカサギを釣るだけでなく、キャンプ的な要素もあり、さらに大物も狙えるという、とてもおいしい釣り。ぜひ1度試してみてもらいたい。

見事なイトウ。このようなグラマラスな魚に出会えることもある。ムーチングといはいえ、変に身構える必要はない。

1度かかると非常に致死率が高い、身近な感染症【破傷風】!

というわけで、今回の医療ネタは『破傷風』について。土壌に潜む、危ない細菌について今回はお話ししよう。

みなさんは破傷風についてご存じだろうか。なんとなく聞いたことがあるけれども詳しくは…という方や、昔、ワクチンを打ったよなぁと懐かしむ方もいらっしゃるかもしれない。今回はそんな破傷風の概要と、予防接種の必要性について伝えていきたい。

そもそも、破傷風は土壌に棲む破傷風菌によって引き起こされる感染症。

破傷風の厄介なところは、神経毒素(テタノスパミン)を作り出し、人のさまざまな神経を蝕んでいくところだ。

破傷風に感染すると80%ほどの患者さんに症状が出現する。多くの場合、体の疲れや肩こりなどから始まり、口が開きにくい、モノが飲み込みにくい、といった症状が現れ始める。その後、痙攣や呼吸困難を引き起こすことになる。

年間の患者数は120人前後だが、1度かかると致死率が高い危険な病気でもある。

私からみて破傷風が危険だと感じるのは、傷の大きさや汚さに関わらず感染してしまう可能性があるところだ。患者さんの中には、私たちでも見つけることができないような小さな傷から感染してしまうこともあるくらい。

当たり前の話ではあるのだが、予防には怪我をしないことが1番。怪我をしたときは水道水でしっかり洗うことも大事。ただ…どんなに洗っても感染するときはするので、残念ながら100%防ぐことは不可能といっても過言ではない。

釣りをしていれば、かすり傷を負うことはよくあることだと思う。なので、この記事を読んでいる釣り人の皆さんには是非とも予防接種をオススメする。

破傷風については幸いなことにワクチンが作られており、そのワクチンを打つことにより予防することができる。そして日本では1968年以降、破傷風ワクチンを小児期に打つことが義務化されており、大抵の場合20歳までは予防することが可能になっている。

ただし、20歳以降になると免疫の量が下がっていき、追加接種をしないとワクチンの効果が得られない状態となる。問題はココ。

その追加接種に関して、実はほとんどの人が行なっていない。なぜなら、自分から申し込みに行かないと基本的に接種する機会はないからだ。

1度追加接種を受けると10年ほど効果があると言われているので、次回は10年後ということになる。ただし、1967年より以前に生まれた方は、体の中にベースとなる破傷風の免疫がないため3回打つことが必要になる。

かかる可能性は少ないかもしれないが、万が一かかってしまうと非常に厄介な病気の破傷風。ただし、ワクチンさえ接種しておけば、しっかりと予防することもできる。

自然と遊ぶことが多い釣り人の方には、是非とも破傷風ワクチン接種をお勧めしたい。

「備えあれば憂いなし」とはよく言ったもの。

罹患してはじめて対策しておけばよかったと後悔するのが病気。気になる方は接種しておこう。


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