昨年(令和4年)のルアーマガジン8月号で、トップウォーターシーンに一石を投じた記事「ペンシルベイトは死んだのか?」これが、図らずも大きな波紋となって多くの人々の心をざわつかせたと聞きます。しかし、わかりやすい形でのペンシルベイト復権の兆しはまだ見えず。今も日本では影の薄い存在。そこで、今回はルアーデザイン界の巨匠2人に、このテーマをぶつけてみました。
●文:ルアーマガジン編集部 写真:望月俊典
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これだけ揃ってると、新しく出てくるルアーの隙間がないのかもね
悪循環によって忘れ去られた存在に?
加藤「ペンシルベイトは、俺の中で相変わらず釣れるルアーであることは何も変わってないなあ。ただ、ペンシルベイトという言葉を聞かなくなった気はするね。もしかしたらi字系をやりすぎたってことですかね? ペンシルとi字って、完全に逆じゃん。片方は首を振るルアー、片方は首を振らしちゃだめなルアーでしょ。まっすぐ引いてオッケーなルアーで釣れちゃったから、首を振るルアーが衰退しちゃったとか?」
そう聞くと、i字系が台頭してきた時代と、ペンシルがフェードアウトしていった時代は、符合しているかもしれない。だとしたら、ペンシルが釣れなくなったわけではないようだ。
加藤「普通に釣れるよ。思い出したんだけど、この時期に俺がペンシルベイトのテストに行ったらね、一緒に行った人が『ペンシルベイトって釣れるんですね』と言ってたよ。ペンシルでは釣れないと思い込んでしまってるみたい」
加藤誠司さんはダイワ時代にT.D.ペンシル、ラッキークラフト時代にはサミー、ジャッカル時代にはボニーといった、数々の名作ペンシルベイトを手掛けてきた。でも、最近はペンシルを作っていないような気もする。
加藤「最後に作ったのがボニーかもね。サミーとボニーがあればそれで十分だと思っちゃったところはあるな。重い水押しのタイプはザラが良くできてるじゃん。フワフワッと首振るタイプのものって、サミーとか山岡さんのマッドペンシルとかがある。ジャイアントドッグ?Ⅹもそれ系だよね。頭の振りが軽いものだとボニーとかレッドペッパーがあるよね。これだけ揃ってると、新しく出てくるルアーの隙間がないのかもね。逆に言うとルアーメーカーも作らないから、新製品が出てこない。すると、プロモーションも誰もやらない。そうなると、ペンシルベイトって釣れるのかな? みたいな感じになっちゃって。ペンシルベイトのジャンルに対する気持ちがどんどん冷めちゃっていく。それが真相なのかもしれないね」
サミー100(ラッキークラフト)
セイラミノー(ジャッカル)
ボニー(ジャッカル)
開発中の新作ルアーはペンシルベイトだった
加藤さんにリスペクトするペンシルベイトを聞いてみたら、予想通りの答えが返ってきた。
加藤「オリジナルザラスプークでしょう。あのシンプルな形状なのに、最も効率よく動くんだという部分にすべてがあるよね。日本ではあまり使わないけど、アメリカでは今もよく使ってるよ。試合に出ると、コアングラーの人もザラを投げてるね」
アメリカでは、ペンシルベイトの存在に陰りなどはないようだ。加藤さんによると、ペンシルベイトは釣れるだけではなく、特別な力を持っているという。
加藤「バスが水面や表層を意識してるときは、ペンシルベイトは『止められる』ルアーとして優秀だからね。誘って止めることができる。また、ずっと長い距離泳がせると、ベイトフィッシュがふらふらと逃げるときに出るあの波。あの波に近い航跡を出せるんだよね。バスが遠くから魚を見つけて、食いに行こうという動機付けになる。そのきっかけ作りが、ほかのルアーとは微妙に違うから、ペンシルは圧倒的に釣れることがある。ペンシルベイトだけが引ける、そんなバイトの引き金があると思う」
うんうんと頷いている人もいるだろう。でも、体験したことのない人には、まだまだピンと来ないかもしれない。そんな人たちにどんな声をかけるかと尋ねたら、加藤さんはこう答えた。
加藤「ドッグウォークをちゃんとできない人が、ペンシルの食わず嫌いになってると思うんだよね。動画で綺麗に首を振るペンシルを見たことはあると思う。でも、それができないと釣れない…、と思ってる人が多いんじゃないかな。一番大切なのは、ティップをちょんちょん動かした時にちゃんと糸を緩ませるってこと。それさえできれば、ドッグウォークなんて簡単にできるのに」
そういえば、かつて多くのアングラーに、ドッグウォークをマスターさせたペンシルベイトがあった。それは今回も何度か名前が出てきた「サミー」ラッキークラフト時代の加藤さんが作って、大ヒットした傑作ペンシルだ。
加藤「サミーは、山岡さんの『ファットペンシル』からインスパイアされて作ったペンシルだよね。あれはお腹の反りのおかげで、割と誰でも簡単に首を振らせることができた。世界中で売れたから、結果的に世界中の人にドッグウォークを教えたペンシルなんじゃないかな? ただ最近になってね、実はレッドペッパーみたいなペンシルが欲しいなと思ってさ、テストに行ったりしてたんだよ」
なんと! 加藤さんは現在進行形でペンシルベイトを開発中だったようだ。ちょっと、ホッとした気分になった。ボニー以来の新作かもしれないペンシルベイト。完成するのが楽しみだ。
オリジナルザラスプーク(へドン)
レッドペッパー(ノトス/ティムコ)
T.D.ペンシル(チームダイワ)
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