釣りザオの製品情報でT1100GやM40Xという文言を目にしたことがある人は多いはず。この二つは日本を代表する化学製品企業の一つ、東レ株式会社が開発した炭素繊維だが、なぜロッド(しかもハイスペックモデル)に多用されるのか? そこで知っているようで実は知らないトレカ®T1100Gとトレカ®M40Xの詳細を解説。この記事を読んで、両素材を採用するロッドが欲しくなっても編集部は関知いたしませんのであしからず。
●文:ルアマガプラス編集部 ●制作協力:東レ株式会社
強さ(強度)と硬さ(弾性率)の両立を高次元で実現した第3世代炭素繊維
トレカ®T1100Gとトレカ®M40Xは、これまでの炭素繊維の強さ(強度)と硬さ(弾性率)の両立を高次元で適えた第3世代炭素繊維と呼ばれている。一般的に、強度を高めて弾性率を妥協した場合、柔軟性の高いよく曲がるロッドなり、逆に強度を妥協して弾性率を高めた場合、ロッドは硬い使用感となり強度が低くなる傾向にある。
この、トレードオフの関係にあるとも言える強さと硬さの両立を、T800S(高強度タイプ)やM40S(高弾性率タイプ)などの第2世代よりもう一段引き上げたのが、第3世代と呼ばれるトレカ®T1100Gとトレカ®M40Xとなる。
高強度タイプのトレカ®T1100Gと高弾性率タイプのトレカ®M40Xは、繊維構造をナノレベルで制御する焼成技術を用いることで、強さと硬さを同時に高めることを実現しているのだ。
第2世代炭素繊維と第3世代炭素繊維の性能比較表
表1 高強度タイプ ※カッコ内はT700S対比
グレード | 強度 [GPa] | 弾性率 [GPa] | 伸び [%] | 密度 [g/cm3] | |
第2世代 | T700S | 4.9 | 230 | 2.1 | 1.80 |
第2世代 | T800S | 5.9 (+20%) | 294 (+28%) | 2.0 | 1.80 |
第3世代 | T1100G | 7.0 (+43%) | 324 (+41%) | 2.2 | 1.79 |
表2 高弾性率タイプ ※カッコ内はM40S対比
グレード | 強度 [GPa] | 弾性率 [GPa] | 伸び [%] | 密度 [g/cm3] | |
第2世代 | M40S | 4.5 | 377 | 1.2 | 1.80 |
第3世代 | M40X | 5.5 (+22%) | 377 | 1.5 | 1.79 |
Q そもそも炭素繊維とは? A 「軽い」、「強い」、「硬い」、そして「サビない」
炭素繊維は、炭素原子が結合してできた1本の直径が約5~7ミクロン(髪の毛の約1/10の太さ)の繊維状の材料で、非常に軽量で強靭な特性を持つ。衣料品の原料で使われるアクリル樹脂を繊維加工し、高温で処理することで不純物を取り除き、炭素原子の含有率を90%以上にまで高めたものを炭素繊維と呼ぶ…と特性や定義を書き連ねても、はて? となるが、知っておきたい主な特徴が「軽い」、「強い」、「硬い」の3つ。身近なところでは釣りザオをはじめ、ゴルフのシャフトやヘッド、自転車のフレームやリム、テニスラケットなどに使われ、使い手のパフォーマンスの向上に役立っている。
さらにサビないという特性もあり、航空・宇宙分野や自動車分野で軽量化による燃費の向上などが期待できる素材として注目を集めている。
炭素繊維トレカ®T1100G とは? 従来品より軽くて強い
前述のとおりT1100Gは、従来の炭素繊維と比べて強さ(強度)と硬さ(弾性率)が大きく向上している。この特徴を実証した実験動画が東レのトレカ®T1100G&トレカ®M40X紹介ページで公開されている。
T700S、T800S、T1100G炭素繊維にエポキシ樹脂をしみこませたシート(プリプレグ)を使用して「同じ硬さの平板」を作製。硬い炭素繊維は柔らかい炭素繊維より少ない量で同じ硬さの板を作ることができるので、板の厚さや重さはT700S>T800S>T1100Gの順に小さくなる(表3)。
板の厚さ[mm] | 板の重さ[g] | |
T700S | 2.4 | 11.7 |
T800S | 2.3 (-6%) | 11.0 (-6%) |
T1100G | 2.2 (-11%) | 10.5 (-10%) |
T700SとT110Gの3点曲げ強度比較実験 T1100Gは薄いのに強度が高い
T700SとT110Gの3点曲げ強度比較実験で両者に負荷をかけていくと、T700Sは01:48:03で破断。T1100Gは01:59:09と10秒以上長く耐えた。T1100Gは肉薄+軽量なのに強度が高いことがわかる。
T700S、T800S、T1100Gのたわみ戻り速度比較実験 T1100Gは軽量だからたわみ戻りが速い!
たわみ戻りの速度は、たわんだ状態の位置から水平の位置に戻る速度を計測。3つの高強度タイプの素材で使った平板が止まったタイムはご覧のとおり。硬さが同じ平板でも、重量はT1100Gが最も軽く、たわみ戻りも速いということだ。
強くて、たわみ戻りが速いという特性は、釣りザオに置き換えるとキャストでロッドの反発力を利用しやすく遠投性能がアップ。振り抜いた後のブレの収束が早く、キャスト精度の向上、ライントラブルの軽減にもつながる。
炭素繊維トレカ®M40Xとは? 従来品より強度約20%アップ
一般的に炭素繊維は硬くなるほど、強度が下がり脆くなる傾向がある。M40XもT1100Gと同様、強さと硬さは極限での両立を目指し開発した炭素繊維で、従来品M40Sの硬さを維持しながら、強さは約20%(表2)向上している。その性能を検証する実験が、M40SとM40Xの3点曲げ強度比較実験だ。M40SとM40Xで同じ硬さの平板を作製。M40XはM40Sと同じ硬さなので、厚さと重量も同じとなる(表4)。
板の厚さ[mm] | 板の重さ[g] | |
M40S | 2.0 | 10.0 |
M40X | 2.0 | 10.0 |
M40SとM40Xの3点曲げ強度比較実験 M40Xが圧倒的な強度をみせる
同じ厚み、同重量の平板に負荷をかけていくとM40Sは01:06:13で破断。M40Xは粘りをみせ01:23:00まで持ちこたえている。これは従来の炭素繊維の定説を覆すほどの結果で、この高弾性率タイプの炭素繊維を使った新たな製品の開発が各分野で進んでいるということだ。
M40Xの採用で曲げても折れにくい釣りザオが期待できる。強度と高弾性率を高次元で両立する第3世代炭素繊維は、細いロッドにシャクリで高負荷をかけるエギングにも最適なマテリアルだ。
第3世代炭素繊維は釣り人のパフォーマンスを向上→釣果アップにつながる
ここまで紹介したとおり第3世代の炭素繊維、トレカ®T1100Gとトレカ®M40Xは、炭素繊維では難しいとされてきた強さ(強度)と硬さ(弾性率)を高いレベルで兼ね備えた素材であることお分かりいただけたはず。さらにどちらも曲げ強度が高く、T1100Gはたわみ戻り速度も速いという実験結果が出ている。このT1100GとM40Xを釣りザオのブランクスに使うと、次のような効果が期待できる。
- 軽くて強い
- 張りがあるのに曲がるサオが作りやすい
- 戻りが速く遠投性能、キャスト精度の向上
- 復元力が強いからファイトが楽
- 軽量化による感度と操作性の向上 etc.
もちろんサオの調子の設計によっても効果は変わるが、すでにライトゲームから磯ザオまで幅広い釣種の釣りザオにトレカ®T1100Gとトレカ®M40Xが採用されている。しかもハイグレードな高性能ロッドに使われることが多い。これはT1100GとM40Xがエキスパートの腕に応え、釣り人のパフォーマンスを向上させる証しであり、釣りの質が上がれば釣果アップにつながる。次に釣りザオを買うときは、トレカ®T1100Gとトレカ®M40Xというワードも視野に入れ、最先端のロッドを選ぼう。
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