『自分だけが釣れるルアーを作らない』加藤誠司というルアーデザイナーの特異点【レヴォニック・ドットシックス誕生秘話】

クランクベイトの元祖と呼ばれるビッグOがアメリカで誕生したのが1967年。その後、一大ブームを巻き起こし、ひとつのジャンルにまで昇華したバスルアーのイデア(理想形)は日本にも持ち込まれ、これまでに多くの名作が生まれてきた。そんな国内ルアービルドの第一人者・加藤誠司さんに、これからの時代に求められるクランクベイトについて話を伺った

●文:ルアマガプラス編集部

2024 シーバス特集

加藤誠司
かとう・せいじ/ダイワ精工(現グローブライド)、ラッキークラフト、ジャッカルのルアー開発を務め、TDバイブレーションやベビーシャッドなど、数多くの名作ルアーを輩出してきた。2023年からは株式会社レヴォニックを立ち上げ、日々、新しいルアーづくりへの挑戦を続けている。

釣れるクランクベイトとは

厚さ0・6ミリという極薄ボディを目指して作られたクランクベイト『ドットシックス』。加藤さんが考える釣れるクランクベイトとはどのようなものですか?

ドットシックス(レヴォニック)

加藤「バルサではなくプラスチック製のクランクベイトとして、現代の製作技術を駆使して新しい挑戦をしたのがドットシックスです。釣れるクランクベイトというのは、色々な部分がその要素になり得るのでひと言で表すのはとても難しい。ただ、釣れるクランクベイトは手に来る感じ(振動)が違う。プロの人はみんなそういう感覚をもっていると思う。釣れる引き心地がある」

時代によって加藤さんが求めるクランクベイトは変化してきたのでしょうか。

加藤「僕がというよりは、世の中が求めているクランクベイトは時代によっていろいろと変わってきたと思う。日本だったら、最初はピーナッツ、バスハンター、ビッグオー、バグリーなどがまず流行って。アクションがワイドなものからタイトになっていったり、タイトの中でも種類が変わったり。釣れなくなると『アクションはタイトがいい』とか言ってそっち方向にいきやすい。でも、クランクベイトはあまりタイトにしても意味がないと僕は思っている。だったらミノーやシャッドでいいよね。2〜3年くらいの周期で世の中のクランクベイトの好みが変わる気がする。ただ、釣り人の好みが変わるだけで、バスの好みが変わるわけではないと思うけど」

似たようなものが大量に氾濫する時代

加藤「ルアー制作はすべてハンドメイドで進んでいた時代があった。最初は木を削ってルアーにする。そこから金型を作ってプラスチックルアーを量産することが始まる。それが加藤誠司というルアーデザイナーの原点で、劇的に国産ルアーが良くなり始めた。30年くらい前にはバス釣りブームが来て、たくさんのルアーメーカーが誕生した。それとともに、コンピュータの進化が加速して3Dデザインもできるようになった」

「そこからまた10年、パソコンのスペックは向上し、デジタル化がさらに進む。時間の負荷で言ったら、昔10時間かかっていた作業が今では1時間以内でできるようになった。そして、形だけなら誰でも簡単にルアーを作れるようになった。コピーするのも簡単。いろんな人が作れるし、いろんな国で作られる。その結果、似たようなものが大量に氾濫する時代になりました。ちょっと工夫されていたり、ちょっと変わったルアーが釣れたりすると、ビューッとみんなそっちに向かって行っちゃう。同じようなものを作るのは本当に簡単で、今では新製品が出て半年後には別のメーカーから同じようなものが出せる。モノとモノの差を出すことが難しくなっている。最初に考えたメーカーは0から1を生み出すから大変で、次は真似したほうが簡単。市場の原理でそうなることは自然な流れではあるんだけど」

ドットシックスの秘密

ボディが3枚のパーツを貼り合わせた複雑な構造となっているため、通常のクランクベイトにはない位置に結合部のラインが見える。全て手作業で貼り合わせと研磨が行なわれる

ないものに挑戦することが令和のルアーデザイン

「じゃあ、どうやって新しいものを作るか。ないものに挑戦するしかないんです。今回、今までやったけどできなかったものに挑戦してドットシックスを作った。いろいろやってみないとわからない世界がある。ドットシックスに挑戦した理由は、バルサの軽さを超えるプラ製のクランクベイトを作りたかったからです」

「バルサ製は、軽いマテリアルの外を0.4〜0.8ミリくらいの薄いセルロースセメントなどで覆うので外側がとても軽いルアー。外側が軽いと慣性モーメントが低いので、動き出しが早く、反対方向に戻ろうとするときも小さなエネルギーで素早く戻ることができる。プラスチック製ならではの精度の高さで、このバルサの動きを超えるクランクを作りたかった。さっきの技術の話とリンクするんだけど、今のパソコンの中でできることで『ひょっとしたらこれ、いけるんじゃないの?』ってことで、厚さ0.6ミリの極薄ボディのクランクベイトに挑戦したんです」

ドットシックスの秘密

通常、ウエイトボールはボディ側面の両側から内部に突起したパーツで固定されているが、ドットシックスはボディ内部に別パーツを組み込んで固定することで、極力ボディ外側に重量配分が偏らない設計となっている。0.6ミリというボディの薄さとの相乗効果でバルサクランク並みのハイピッチアクションを実現した。

3つのパーツからなる特殊な外部構造

「今の技術をもってしても少ないパーツでバンと一発で作れないから3つに分かれている。これからはより少ないパーツで作れるように挑戦したいけどね。3つを張り合わせて研磨するからコストがかかっているけど、面白いものができたと思っています。なぜパーツが3つに分かれるか。ルアーを成形するときは、金型の中に樹脂を流して固める」

「薄いところと厚いところがあると、隙間が大きい厚いところに樹脂が流れやすく、薄いところは流れにくくなる。注入口から遠いところが薄くなっていると樹脂が行き届かないんです。そういう制限があるから一発で作れない。だから今回は、左右のボディパーツだけが薄い肉厚で、腹部の厚いところは別パーツにして合体させている。メーカーでルアーを作っている人に見せたら『加藤さん、本当にそんなことをするんですか!? 大変過ぎませんか、よくやりますね』って言われました」

ドットシックスの秘密

上がフローティングモデルで、下がハイフロートモデル。フローティングモデルは1.4グラムのウエイトを追加することでキャスタビリティが向上している。

ドットシックスはこう使え

「ドットシックスがどういうアクションのクランクベイトに仕上がったのかというと、世に言うところのブリブリ系。戻るのが早くて、かなり強く泳ぐ。濁った水質にも強いクランクベイト。潜行深度は、1メートルから最大1・5メートルくらいです。元々はハイフロートタイプから作った。でも、いろんな人に使ってもらったら、ハイフロートは飛ばしにくいって言われて。そう言われるのは嫌だったんで、1・4グラムのウエイトを足してフローティングタイプも作りました。追加するウエイトは絶対に元々ウエイトボールが入っている位置より下に入れたかったので、かなり複雑な形状のオリジナルウエイトを設計して、ウエイトボールのワンノッカーサウンドの邪魔にならないように小さな隙間に埋め込んでいます。普通こんな複雑な形状のウエイトは作りませんよ。自前で作っているからこそできることで、不良率が多くて普通の工場だと嫌がられる」

「オリジナルのハイフロートタイプは浮力が強いから、浮きたい力と潜る力のせめぎ合いで本当によく揺れるとてもおもしろいルアーです。あとドットシックスは『釣れる巻きスピード』を覚えるっていう意味でもすごくいいルアー。1番最初は目で確認しながら水面直下5センチくらいのところをずっと引いてみてください。そうすると、ルアーを一定に引く感覚を覚えられるので、そこから徐々にスピードを上げてレンジを下げて、ルアーの引き感やプルプル感を覚えながら釣りをすると結構楽しいんじゃないか。そうすると、自分の巻きのリズムと使っている竿とのバランスで、魚がドンと出てくる巻き感があるはずなんで、そこを探しながら釣りを楽しんでもらうとちょっと今までのクランクベイトとは違うなっていうのを感じてもらえると思います」。

ドットシックスの秘密

フローティングモデルのウエイトまわりの構造。わずかな隙間に組み込めるよう、自社で独自に制作した特殊な形状のウエイトを使用している

加藤誠司というルアーデザイナーの特異点

「たぶんね、僕が作るルアーの特徴で、ほかのデザイナーと1番違うところは『自分だけが釣れるルアーを作らない』ことだと思っています。僕はスタートがマスプロダクション(量産)の人。ルアー作りを覚えたのは、ダイワ精工(現グローブライト)の商品企画部。つまり、ハンドメイドで自分のルアーを作っていたわけではない。最初から大量生産することが前提で、ある一定量以上を売って、その人たちが釣れるルアーを作らなきゃいけないという仕事の使命があった」

「当時、数さえ売れればたくさんの人が使うから、それで釣れるルアーと呼ばれるようになるんでしょ、っていう風潮があった中、『それは違う。そんなことはない』と思って作り続けてきた。自分が納得して釣れると思えるルアー、なおかつそれがほかの人が使っても『釣れる』と言ってもらえるルアーを作ろう、というところからスタートしている。それをずっと長いことやっているんです。マスプロダクションの立場からルアー製作に入っている人は割と少ない。僕が作るルアーがたくさんの人に『釣れる』って言ってもらえるのは、そういうものづくりの仕方をしているからだと思っています。多くのルアービルダーは『自分が使いたいもの』からスタートする。それがマスプロダクションするようになって、それはそれで素晴らしいルアーだから売れるんだけど、さらに多くの人に行き渡ると評価が変わっちゃったりするから、そこが難しいんですよね」。

ドットシックスの秘密

40種類以上もの試作リップから理想のアクションは生み出された。


※本記事は”ルアーマガジン”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。