「きっかけは奥田民生さん」「僕の中では終わっている。あれで完結」縦から横へ、進化の秘密を語る。

いわゆるギル系ワームの元祖の呼び声の高い、スタッガーワイド。ギルなのにタテではなくヨコ扁平ボディにしたのも画期的だった。制作秘話からブレイクまでのワイドなストーリーをお伝えする。

●文:ルアマガプラス編集部

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早すぎたギル系ワームの誕生

ギル系ワームの始祖として知られるスタッガーワイド。その登場は、2005年3月。ルアーマガジンが初めてギルワームを特集したのが2017年8月号だったことを考えると、実に早かった。いや、早すぎた。

吉田「当時は全然売れませんでしたね。魚は食ってくれるんですけど、人は無視です。僕も純粋だったから魚が釣れればいつか報われると思っていましたが、ずっとワゴンセールでした」

後にブレイクを果たし、ギル系ワーム興隆の呼び水になるのだが…それはまたあとで。では、誕生の経緯から伺っていこう。

吉田「昔は琵琶湖のバスはギルを食っているとは思われていなかったんです。でも、僕が出場していたトーナメント中、ライブウェルにキープしたバスがギルを吐いた。それがまず発見でした。ちなみに、そのとき半端に消化されたギルが青っぽかったのが『シニカケギル』というカラーの由来です」

昔も今も、吉田さんのルアー作りの基本は「バスが食べているもの」。当時はギルっぽいワームがなかったので、では自分で作ろう、という自然な決断だった。しかし、リアルを追求して作り始めた初期のギル系ワームはヨコ扁平ではなかったらしい。

吉田「最初はずっとタテだったんです。でもそれが全然釣れなかった。バスって、本物に近ければ近いほど警戒心を持つというか、本物に近いものが偽物の動きをすると見切ってしまう。逆に、明らかな偽物が本物に近い動きをすると劇的に反応する、そんな感覚なんですよ」

タテからヨコへ
ギル系ワームの始祖。特徴は横扁平ボディ。なぜ、縦ではなく横なのか? 吉田さんの話を聞いてみたい。さまざまなサイズが存在するが、2005年に発売された写真の7inがオリジナル(現在廃番)。

スタッガーワイドの縦型プロト
ギル系ワームの開発は、実は縦型からスタートしていた。ブルーギルそっくりにしたこともあったが、まったく釣れなかったという。こちらのプロトは本物のギルのリアルさから遠ざけるためにリブを入れた段階。

シルエットの変化も武器
通常のスイムベイトはローリングしても形は変わらないが、ギル系スイムベイトはロールして姿勢が変化するだけでシルエットも大きく変化する。

現行のスタッガーワイドは7サイズ
小さい方から、1.2、1.5、2、2.7、3.3、4、5inがラインナップ。このページのメインカットは(一部の人に)惜しまれつつも廃番になってしまった7in。今も熱狂的な信者がいる。

タテからヨコへ、コペルニクス的転換

あまり釣れないテストの日々が続くなか、吉田さんはギルの研究に没頭し続けていた。

吉田「当時はバスがギルを食う瞬間をあまり見たことがなかった。でも、食っているのは間違いないから、マリーナの桟橋の横にあるギルネストをずっと観察していました。ギルって卵に酸素を供給するためにずっとぐるぐるしている。そういう単純な動きをしているときってバスは食わないんですよ。それが波だったり音だったり、なにかのきっかけで一瞬ヒラを打った瞬間に、桟橋の下にいたバスがドーン! と食ったんです」

ヒラを打った瞬間に食う、つまりタテではなくヨコの方が食われやすいのではないか? …そう吉田さんは閃いたという。

吉田「ヒラを打って横を向く、あのときはホンマに食う。あとは食べやすさの問題だと思うんですよね。昔、先輩に『ピザを縦に食え』と言われて食ったら歯茎に刺さって血が出ましたよ。当然、ピザは横の方が食いやすい」

ワームもしかり? 確かに、バスの口は上下に開閉するので、ヨコ扁平の方が食いやすいというのは理にかなっているかもしれない。タテ扁平ワームだと、バスが横になって食うか、タテの長さ以上に口を開かなくてはならない。

吉田「ブルーギルに似せたルアーだからボディをタテにする、そんな当たり前の世界を変えていこうと。10人ビルダーがいたら10人タテにすると思う。でも、それではみんな同じルアーになっちゃうじゃないですか」

満を持して発売されたスタッガーワイド。ごく一部に釣れるという評判はあったものの、世間の多数派には受け入れられず…あっという間にワゴンセール行きになってしまった。

吉田「僕は釣れるルアーなら売れると思っていたのですが、当時は今と違って、メディアにお金を払って宣伝しなければ情報が流せない時代でした。僕もポップを作ってお店に配ったりしましたが…」

タテ扁平だと…?
スマホをピザに見立てて吉田さんに食べてもらってみた。タテ扁平だと口に入れることさえ難しいが、ヨコ扁平ならすんなり食べられる(よい子は真似しないで)。バスもヒトも口は上下に開閉するので近いものがあるかもしれない。

ブレイクのきっかけは奥田民生さん

ところが、2012年ごろになって、スタッガーワイドが突然注目されることになる。きっかけはなんと、ミュージシャンの奥田民生さんだった。

吉田「真夏の琵琶湖で奥田民生さんと一緒に釣りをしていたのですが、暑すぎて全然釣れなかったんですよ。1匹釣るのもしんどいくらい。でも、ワイドの4inを投げてる民生さんだけ釣るんですよ。僕がワイド4inを使っても全然釣れない。『なんのリグで釣ってるんですか?』って聞いたらこんな小さいラバージグ。それがアベラバだった。僕のは落とすと普通にスーッと落ちていくんですが、民生さんのはスパイラルフォールしたんですよ」

それをきっかけに琵琶湖の大会のヒットルアーになったりもして、ワゴンセールだったスタッガーワイドが一気に売れ出したという。また、2014年にJBトップ50の桧原湖戦にて、スタッガーワイドツインテール4inを使った吉田さんが優勝したことでも人気に拍車がかかった。

JBトップ50桧原湖戦で優勝!
スタッガーワイド、スタッガーワイドツインテールのアベラバセッティングで3日間通してハイウェイトを記録。JBトップ50シリーズ初優勝と同時にワイド革命を起こした。

吉田「プラのときにツインテールのサイズ展開のテストもしていて、小さい順からずっと試していったんです。すると、小さいのも釣れるんですけど、バイト数はデカくするほど増えていきました。プラのときに『琵琶湖だったらこれで釣れるんやけど…』って同行者に説明しながら4inを投げたらラージの58cmも釣れてね。ジグにトレーラーフックをつけたらスモールもびっくりするくらい釣れるようになった」

その後、スモールマウスでもワイドの4inというサイズ感が定着し、爆発的に売れたという。

では最後に吉田さんが今思う、ギル系ワームの進化系とは?

吉田「もう、ワイドの進化版は思いつかないです。やり切った感があるので。各社がたくさんやっているし、まだやり方はあるかもしれないけど、僕の中ではワイドは終わっている。あれで完結です」

現在進行形の使い方
吉田さんが今も信頼するのが、HUスライドフォールジグにスタッガーワイドの組み合わせ。ヘビーダウンショットリグも琵琶湖をはじめ、永遠不滅的な釣れ方が続いている。

profile

吉田秀雄(よしだ・ひでお)
1972年、京都府生まれ。トーナメンターとしてだけでなく、ルアービルダーとしても卓越した才能を持つ。ライズバッカー、ブルーザー(スタッガー)、スタッガーワイド、コイケシリーズなど、名作を多数輩出してきた。バサーオールスタークラシックは2度優勝している。