
フライフィッシングをやってみたことがない方は、釣りのシーンの映像や写真を見て、なぜあんなにフライフィッシングのラインは太いのだろう?と疑問を持たれた方も多いかと思います。今回は、そんな初歩的な疑問から、実はこの釣りに最も重要で性能が必要なのはフライラインなのかもしれないという部分を含めて、ベーシックと選び方を解説したいと思います。
●文:ルアマガプラス編集部(深谷真)
地味だけど、めちゃくちゃ大事なタックル
さまざまな種類の釣りあれど、異彩を放っているのがフライフィッシングのライン。フライラインと呼称しますが、このラインの機能は特殊です。通常、釣りのラインといえば、ルアーやフックをつなぐ、ナイロンやフロロカーボン、PEといった素材のレベルライン(テーパーがついていない太さが一定のライン)だと思いますが、フライラインは持っている機能と役割がそもそも違います。
いやいやいや、フライラインって太くない!?って普通の人は思うはず。正確に言うと、投げるために重さになっている太い部分があり、先端に向かって細くなっています。その細くなっている先に『リーダー』と呼ばれる主にナイロン製のこれも先に向かって細くなっているラインを接続し、そこから『ティペット』とフライでは呼ばれている、いわゆる『ハリス』を矢引の長さくらい接続し、その先にフライを結ぶ仕様になっております。
フライラインは、竿を曲げるためのウエイト(オモリ)の役割を持っています。ラインがオモリ?意味がわからない!となるかもですが、文字通り毛ほどの重さしかない毛鉤を、遠くに飛ばすには物理的に効率がいいのがフライラインの重さを利用して投げることなのです。
原理的にはフライラインをムチのようにしならせ、ロッドのエネルギーをラインの先端(毛鉤)に伝えていくとなのですが、この原理と複合してフライラインをラインごとぶん投げるのがフライキャスティングです。
毛鉤に限らず、もっとも効率的に軽いものを人力で飛ばすのに長けている技術ってのがフライキャスティングと言えるのですが、このフライキャスティングの中核どころか大半の働き手はフライラインだと言えるのです。ロッドはむしろ補助的役割を担っているくらいに考えたほうがよいかもしれません。
フライラインはこの釣りにおいて重要!重要! をなぜここまで繰り返しているかと言うと、ロッドは安くてもいいからフライラインだけは、信頼をおけるメーカーのを買ってね! 結果安上がりだから。ということを言いたいわけです。
フライラインの基礎知識 形状
フライラインは、均等な太さでなく『基本』テーパーラインになっています。基本と但書したのは、応用的にテーパーのないラインもあるからなのですが、渓流で使用するラインはテーパーラインだといってさしつかえないでしょう。
テーパーラインってなに? と言うビギナーの方に説明すると、太い部分と細い部分があるラインだと解釈してください。なぜ、そんな形状が必要なのかというと、これはキャスティングの技術解説と合わせてしなきゃいけないのですが、このフライラインに結ぶ、リーダーというこれまたテーパーラインと、その先に結ぶ、一般的にはハリス、フライの世界ではティペットと呼ばれるラインに(こちらはレベルライン)結んだ『毛鉤』を効率の良い運動で前に飛ばしやすくするためだとご理解ください。
言語化するとなんだかややこしい気はしますが、フランクに解説すると、毛鉤を前に飛ばすにはこの形状が最適!なのであります。
そのテーパーの形状としてWF(ウエイトフォワード)という表記とDT(ダブルテーパー)という表記がフライラインには明記されています。
WF(ウエイトフォワード)ラインは、先端から「細いテーパー → 太いテーパー → 細いレベル」と変化していく形状をしています。簡単に言えば、先端側に重さが集中しているラインです。
フライキャスティングでは、先端からおよそ9m前後のラインの重さでロッドを曲げ、その反発でラインを飛ばします。そのため、キャスタビリティ(投げやすさ)に優れた形状といえるでしょう。
DT(ダブルテーパー)ラインは、「細いテーパー → 太いレベルライン → 細いテーパー」という左右対称の構成になっています。
全長はおよそ30m前後あり、両端を使うことができます。飛距離がそれほど求められない日本の渓流域ではとても経済的で、一方の端が劣化したら巻き直して逆側を使えるのも大きな利点です。
ロッドを曲げるために必要な重量も十分にあり、キャスティング性能として不足はありません。ただし、WFラインのように長い距離をフルキャストする用途にはあまり向いていません。
ショップなどで物色してきたらSTって表記のラインが販売されているかもしれませんが、それはとりあえず最初の段階では必要のないので、棚にもどしておきましょう。ちなみにシューティングヘッドと呼ばれる、先端部分だけを切り取ったラインになっています。
フライラインの基礎知識 浮くか沈むか
もうひとつ、フライラインの種類で覚えておきたいのがフローティングタイプ(浮くライン)とシンキングタイプ(沈むライン)があるということ。ビギナーが最初に買うべきは前者のフローティングタイプ。パッケージには『F』と表記されています。
日本の渓流域ではほぼフローティングラインが使用されます。なぜかというと、この釣りの主戦場は毛鉤を浮かせる釣り『ドライフライ』に依存するからです。この釣りに慣れてきてから、フライを沈ませる釣りの技術を習得していく流れになります。たとえ、フライを沈ませる釣りからフライフィッシングを習得していくとしても、シンキングラインを使うシチュエーションはかなり後回しになると覚えてください。
因みにシンキングラインはどんな状況で使うかというと、湖の釣りや、水深がある、もしくは大規模渓流で使うシチュエーションが生まれます。この釣りはウエットフライと呼ばれる毛鉤を使う場合や、重たいニンフと呼ばれるフライを使う釣りになります。本州では、フライフィッシングとしてはベテラン勢が嗜んでいる印象が強く、北海道など、そもそもそういうフィールドが多い地域ではこの釣りがメインになることも稀にあります。
ので、一概には言えないのですが、それでもビギナーはフローティングラインを使ったフライフィッシングが主軸になる。と言わせてください。9割、フローティングラインで解決します。
おまけ程度ですが、シンキングラインには6から7段階に沈下速度が設定されており、そちらも解説しておきます。
インターミディエイト 1秒に約1-2cm沈んでいく。
タイプ2 1秒に約5cm沈んでいく
タイプ3 1秒に約7-8cm沈んでいく
タイプ4 1秒に約10cm沈んでいく
タイプ5 1秒に約12-13cm沈んでいく
タイプ6 1秒に約15cm沈んでいく
フライラインの基礎知識 番手について
フライラインには先端9.14mの重さを基準とした『番手』があります。例えるならゴルフクラブの番手に近い概念です。ゴルフクラブは飛ばしたい飛距離やフィールド状況によってクラブを選ぶかと思いますが、フライラインの場合は、フィールドの規模と使いたいフライの大きさによってその番手を決めます。
日本渓流域で最初に購入すべきライン番手は『4番』か『3番』と覚えておきましょう。3番にくらべて4番のほうがラインに重量があるので、初心者は投げやすいのですが、少しだけ慣れてくると『3番』ラインのラインやロッドが欲しくなります。なので、一足飛びに3番を選ぶというのも悪くないでしょう。
海外のクリーク、北海道などの大規模渓流域を要する場所では、4番から6番という選択肢もあります。繰り返し申し上げますが、この連載は『日本の渓流』でフライフィッシングを楽しむということを主題に置いております。フライラインの性能も随分あがっていますし、中流域でも4番ラインを購入しておけばカバーできるでしょう。
【フライライン番手表(AFFTA規格)】
| 番手 | 標準重量(grains) | 許容範囲(±grains) | 標準重量(grams) |
|---|---|---|---|
| #1 | 60 | ±6 | 3.89 g |
| #2 | 80 | ±6 | 5.18 g |
| #3 | 100 | ±6 | 6.48 g |
| #4 | 120 | ±6 | 7.78 g |
| #5 | 140 | ±6 | 9.07 g |
| #6 | 160 | ±8 | 10.37 g |
| #7 | 185 | ±8 | 11.99 g |
| #8 | 210 | ±8 | 13.61 g |
| #9 | 240 | ±10 | 15.55 g |
| #10 | 280 | ±10 | 18.14 g |
| #11 | 330 | ±12 | 21.40 g |
| #12 | 380 | ±12 | 24.62 g |
| #13 | 450 | ±20 | 29.16 g |
| #14 | 500 | ±20 | 32.40 g |
| #15 | 550 | ±20 | 35.64 g |
【基準】
- フライラインの番手は、先端30フィート(9.14m)の重量で決定されるというAFFTA公式規格による
- 上記数値は長年変更されていない業界標準
【注意点・例外】
- シューティングヘッド/スカジット/OPST系などは、この表を意図的に外れる設計が多い
- メーカー独自に
- 「半番手重い」
- 「1番手重い」 といったチューニングが施されている場合がある
- 表はライン全体重量ではない(先端9.14mのみ)
- ロッド適合はキャスティングスタイル・ティップ長・ヘッド長に大きく左右されるため、最終判断は実釣前提
【出典】
- AFFTA Official Fly Line Weight Standards (American Fly Fishing Trade Association)
- The Fly Fisherman’s Book of Fly Lines
- Orvis / Scientific Anglers 技術資料
おすすめしたい渓流用ライン
現在日本で手に入りやすいメーカーはおそらく3社、エアフロ、サイエンティフィックアングラーズ、リオ。廉価版になりますかアングルのエイシスフライラインも入手しやすく、古くからありますので安心して購入できると思います。ネットで売っている爆安フライラインには注意。
こういった小物はショップで解説を聞きながら買うのがおすすめですが、記事内にはアフェリエイトリンクと今回協力いただいたプロショップ『ハーミット』さんのwebを貼り付けておきます。東京の老舗フライショップで品揃えも多く、抜群に詳しい店長さんがおられますので初めの方も安心です。わかりにくいと感じた方はプロショップに足を運ぶのが吉。
※フライラインのカラーはお好みでどうぞ。できれば視認しやすいカラーがおすすめ。釣りの釣果にはほとんど関係ありません。
このあたりのラインメーカーは老舗で信頼性が高い。
日本でも流通が多いラインメーカーのひとつがサイエンティフィックアングラー。
WF(ちょっとキャスティングに有利)
DT(先端が痛んだら、ひっくり返して使えて経済的。実際の渓流ではフルキャストすることも少ないので、意外にこれで十分)
バッキングライン
フライラインをリールに巻き付ける前に、バッキングラインを巻いておこうと指示されることがあるかもしれません。これはフライラインをリールに巻く前の下巻きのこと。
バッキングラインは①スプール径を適正化し巻き取り効率を安定させ、②魚に走られた際の実質的なファイトラインとなり、③フライラインをスプールから保護する役割を持ちます。主素材はダクロンとPE系で、用途により使い分けられますが専用のダクロンラインはプロショップなどで購入できます。PE系なら手に入りやすい1号くらいのラインを代用してもOK(3番、4番ラインなら)。正直もう少し太くても大丈夫。ダクロンなら20lb、30lbくらいの表記のものをお好みで選んでください。
巻き込む量ですが、ラージアーバーの場合は魚が走られてもコントロールできるメートル数。せいぜい30mもあれば大丈夫かと思います。クラシックタイプのナローなスプールでも下巻き口径が確保できればOKでしょう。
ぶっちゃけファイトでバッキングラインが引き出された。なんてことは管理釣り場や冬季釣り場の60cm級ニジマス、北海道の野生のニジマス。サクラマスくらいなもので、そうそう遭遇する事態ではありません。それぐらいのサイズでも場合によってはフライライン全長でやりとり可能です。
ラインの次はリーダーとティペットの解説
ややこしいな。と思うかもですが、次のリーダーとティペットの解説で、タックルの大部分の解説が終了しますので、今しばらくお付き合いください。今回は投げるためのラインの解説。次からは、釣るためのラインの解説をします。フライフィッシングはここが明確に分かれているのでちょっとややこしく感じるかもしれません。
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