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【TULALAじゃない話】オガケン大学・第1章『サカナのゴハンの探しかた』~第5回~“朝マズメの正体を暴く”

『オガケン大学』開校——。幼少期に米国で釣りを始め、大学での水産研究を通し学んだ豊富な知識や2回に渡る365日連続釣行など、人並外れた知識と経験を持つ小川健太郎さんが、「釣り」を魚の生態から解き明かす。今回は第1章『サカナのゴハンの探しかた』~第5回~“朝マズメの正体を暴く”。

●文:小川健太郎 ●イラスト:大和なでしこ ●写真:ルアマガプラス編集部

小川健太郎(おがわ・けんたろう)

TULALAという釣り人ひとりひとりの思い描く特殊な竿を作るインディーズなメーカーをやってます。個人では昔ルアーマガジンをはじめ、多くの釣り、車やアウトドア、音楽、新聞からタウン誌などで連載を何本もやっていたライター/アングラーでしたが、大型のトラックに追突されて腰を痛めてバッサリ引退し、イラストやデザインなどの仕事に転向。以来10年以上連載を控えていましたが、webなら締め切りがない、という甘言に釣られてちょこっと書いてみることに。よろしくお願い申し上げます。

前回のおさらい

(教授、黒板の前に立つ。黒板には「クリア→視覚、マッディ→音波、夜→全体像」と書かれている)

教授「前回は、水の状態と明るさによって感覚の優先順位が変わるという話をしました。今日はその中から『朝マズメ』を深掘りします」

バスくん「またオレらの朝の話っすか……」

生徒「バスくん、朝は忙しいと言っていましたね」

バスくん「そうっすよ。なんか体が勝手に動くっていうか……」

教授「今日はその理由を、順を追って説明します」

マスくん「私も朝は不思議と活動的になるんですよね。渓流育ちなもので、夜明けの光が差した瞬間、なんとなくスイッチが入る感じがして」

生徒「そのスイッチの仕組みを知りたいです」

教授「では始めましょう」

プランクトンから始まる大移動

教授「まず、朝マズメを引き起こす大元から説明します。最初に動くのは——何だと思いますか?」

生徒「魚……じゃないですか?」

教授「違います。植物プランクトンです」

生徒「え、そんな小さなところから?」

教授「そこからです」

夜が明けて光量が増してくると、植物プランクトンが動き始める。それまで暗い水中で「呼吸」をしていた植物プランクトンは、光を受けて光合成へと切り替わり、光のよく届く水面近くへと浮上していく。

朝マズメが魚を釣りやすい理由とは?

教授「この植物プランクトンの浮上が、連鎖反応の引き金を引くんです」

植物プランクトンが動けば、それを食べる動物プランクトンが動く。動物プランクトンが動けば、それを食べるエビや小魚が動く。そしてエビや小魚が動けば——

プランクトンをはじめとした食物連鎖の底辺から動き出し、それがきっかけとなって魚が釣れやすくなる。写真は海の動物性プランクトン。

バスくん「オレらが動く、と」

教授「そうです。食物連鎖の底辺から順番に、ドミノ倒しのように活性が上がっていく」

マスくん「カゲロウが羽化するのも同じタイミングですよね。夜明けに虫が水面に出てきて……渓流では
特にそれがわかりやすい」

生徒「つまり朝マズメって、魚が急に元気になるんじゃなくて、エサが先に動き出すから魚も動くってことですか?」

教授「正確に言うとその両方ですが、原因の大本はそういうことです。エサが無防備に動き始めるから、捕食のチャンスが増える」

バスくん「朝って小魚がボーッとしてるんっすよね。夜間の休息から覚めたばかりで、無防備っていうか。食いやすい」

生徒「バスくんが一番生々しい証言をする……」

バスくん「当事者なんで」

魚の目が「慣れるまでの隙」

教授「もうひとつ、前回少し触れた話を今日はもう少し詳しく説明します。朝マズメが釣れる理由の二つ目——明順応のタイムラグです」

生徒「明順応って、明るさに目が慣れることですよね」

教授「そうです。人間の場合、暗い場所から明るい場所に出たとき、少し眩しいけどすぐ慣れますよね。ではその順応にかかる時間は?」

生徒「数秒……?」

教授「人間はそのくらいです。魚は?」

バスくん「結構かかるっすね。明るくなったとき、しばらくはよく見えない感じがあって……」

教授「魚は人間より光への順応に時間がかかる。これが朝マズメに生む『隙』です」

日が昇り始めたとき、水中の光量は急激に変化する。しかし魚の目はその変化についていけず、しばらくのあいだ視覚が追いついていない状態が続く。この時間帯、魚は本来持っているルアーの見切り能力が落ちる。

教授「夏の映画館や地下から出たとき、最初は眩しくて何も見えない状態を想像してください。あの状態に近いことが、朝マズメに水中で起きている」

マスくん「夜明けのあの瞬間って、光が横から差してくるんですよね。空が白んで、水面が金色になって……渓流育ちなもので、あの光は少し眩しくて、でも気持ちいい感じもして」

教授「その横からの光——これが朝のカラー選択に深く関わってきます」

朝マズメに効くカラー(反射光)の理由

教授「まず、朝マズメはシルエットの出やすい黒や赤が効く。これはいずれカラーの授業で話しますから軽く覚えておいてくださいね。黒の話は一旦置いておいて、今回は反射光に絞った話をしようと思います。それでは朝、日光が水平に近い角度で差してくるとき、金と銀どっちが自然に『光る』でしょうか?」

生徒「う〜ん……金色?」

教授「正解です。朝夕の太陽光は赤みがかった黄色い光を含んでいます。この光の中では、金色のカラーが最も自然に輝いて見える。銀色はどうでしょう」

赤みがかった太陽光では金色のカラーが最も自然に見えるという。

バスくん「銀は……なんか昼間と感じが違う気がするっすね。朝には眩しすぎるというか」

教授「銀は直射日光の下、つまり日中に最も自然に光る色です。朝の光の中では、銀はまだ夜と同じように、個体によっては不自然な恐怖信号として機能してしまうことがある」

これが「朝は金、昼は銀」という使い分けの根拠だ。

教授「赤やオレンジも朝のマズメ時に効くと言われますが、これも近い理由です。朝の横からの光の中で自然に見える色。そして魚の目がまだ順応しきれていない時間帯に、ゆっくりと横から光を受けて輝くカラー——それが金・赤・オレンジです」

赤色やオレンジ色もマズメ時は有効的。

生徒「じゃあ銀色のスプーンは朝は投げないほうがいいってこと?」

教授「効かないとは言えませんが、使うなら光が安定してから——日が完全に昇ってからの方が理にかなっています。朝一番に銀ピカを投げ続けるのは、少しもったいない可能性がある」

バスくん「あ、でも銀で釣れることもあるっすよ」

教授「もちろん。すべてが杓子定規ではありません。ただ『なぜ効くか』を考えながら投げるのと、なんとなく投げるのでは、引き出しの数が変わってきます」

朝マズメの「時間帯」はどのくらい?

生徒「朝マズメって、何時から何時ごろまでですか?」

教授「これが季節と天候によって大きく変わります。夏の快晴なら日の出後30分もすれば光量が安定してマズメが早く終わる。曇りの日は光の変化が緩やかで、マズメが2時間とか長く続くことがある」

バスくん「曇りの日って釣れやすいって言いますよね。あれはそういうことっすか」

教授「一因はそこにあります。光量変化が緩やかで陽射しが出たり消えたりとムラがあり、金色の出番も長くなる。言い方を変えると、順応が完了したあとでもマズメの時間は長引く」

写真のように雲が多く、光量変化にムラがあるとマズメの時間は長引く。

マスくん「渓流でも、曇りの日はライズが長く続く気がします。色んな理由が絡み合ってるのですね……

生徒「じゃあ、晴れた日の朝は短期決戦ってことですか」

教授「そういうことになります。晴れた朝マズメは勝負が早い。短い時間に集中する」

食物連鎖の図を整理する

(教授、黒板に矢印を描く)

教授「朝マズメで何が起きているかを整理しましょう」

光量増加

植物プランクトンが浮上(光合成開始)

動物プランクトンが動く

エビ・小魚が無防備に動き始める

大型肉食魚の捕食スイッチON
(さらに)魚の目が光に順応しきれていない「隙」

教授「これだけの条件が重なって、朝マズメという現象が起きている。単に『魚が朝に活性が上がる』ではなく、これだけの連鎖があるんです」

さまざまな条件が重なった結果、ようやく魚の活性が上がる

生徒「複雑……でもわかりやすい」

バスくん「オレからすると、朝は本当にそういう感じっすよ。あちこちで何かが動いて、焦って、気づいたらルアーに食いついてて……(遠い目)」

マスくん「……私も似たような経験を、何度か」

生徒「(二匹とも釣られた朝の記憶があるんだろうな……)」

今日のまとめ(黒板)

(教授、黒板にまとめを書く)

・光量増加 → 植物プランクトン浮上 → 動物プランクトン → エビ・小魚が無防備に動く →
・大型魚の捕食スイッチON
・朝は「エサが先に動き出す」から魚が動く——魚が元気になるのではなく、チャンスが増える
・明順応のタイムラグ:魚の目は明るさへの順応が遅い。その「隙」が釣れやすさの理由
・朝に効くカラーは金・赤・オレンジ:朝の横からの光の中で自然に輝く色
・銀は日中に輝く:朝一番の銀ピカは恐怖信号になりうる
・曇りの日はマズメが長引く:光変化が緩やかで、魚の目の順応が追いつかない時間が長くなる

教授「次回は夕マズメと、少し踏み込んだ話——バスは本当に夜行性なのか、という問いに答えます。日周性の話は一部の人を敵に回すかもしれない内容ですが」

生徒「え、大丈夫ですか?」

教授「問題ありません。実験や自分の見てきたことを話すだけです」

バスくん「先生がそれ言うの、なんか怖いっすよ(小声)」

マスくん「……先生の目が少し輝いてる気がします」

教授「では、また次回」

次回・第6回:「夕マズメと日周性の真実」へ続く

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