
国内唯一の海洋系国立大学「東京海洋大学」の修士学生が研究を重ねてきた、環境にやさしい次世代ワーム素材が実用化に向けて完成度を高めている。そもそもプラスチックですらないこの生分解性素材の謎を探るべく取材をしてきた。
●文:ルアマガプラス編集部
東京海洋大学
東京都港区と江東区にキャンパスがある国内唯一の海洋系国立大学。海事・海洋科学・水産学に関する教育・研究に特化しており、充実した実習や高い就職実績を誇る。海洋生命科学部・海洋工学部・海洋資源環境学部の3つの学部が設置されている。
食べられる!? これが食品素材のみで作られた「ゲルルアー」だ!
今回取材をさせていただいたのは、海洋科学技術研究科で生分解性ワーム素材の開発をしているこちらの大学院生の3人。すでに卒業した先輩の代から始まったこの研究とその意思を受け継ぎ、これまで開発を続けてきたという。もちろんみんな釣りが大好きだ。
左:修士1年の白石啓汰さん。好きな釣りはオフショアジギング。ほかの趣味はゲーム。
中:修士2年の末兼一徹さん。好きな釣りはカワハギ釣り。素潜りでのモリ突きも特技。
右:修士2年の松尾祐作さん。好きな釣りはシーバス釣り。旅行も趣味。
こちらが今回の主役、その名も「ゲルルアー」。見た目はプラスチック性ソフトルアーと変わりなく、触った感じは通常のソフトルアーよりは水気を多く感じるが、柔らかく、かつ引っ張っても簡単にちぎれたりすることもなかった。
金型次第でさまざまな形状のソフトルアー(ワーム)に成型することができる。
このゲル素材、最大の特徴はなんと言っても次の点だろう。
- 食品素材(こんにゃく粉と海藻由来成分)のみで作られており、そもそもプラスチックではない。
先に述べた研究室の先輩・野村さんが、環境にやさしい次世代のソフトルアーの実現を目指し、食品素材を用いたゲルルアーの開発に2023年より着手。使用する天然多糖類の種類および混合比率を確立した。
その後、末兼さんがゲルルアーの海水中における生分解性の評価実験に着手し、海水中で迅速に生分解することを定量的に確認した。また、末兼さんはゲルルアーの保存性向上に向けた研究を行うとともに、白石さんは淡水中での実用性向上のための改良に着手し、海水とは浸透圧が異なる淡水環境においても十分な実用性を有するゲルルアーを完成させたという。
こんにゃく粉と海藻由来成分でできた食品素材「ゲル」。95%が水分でできている。
白石さんの淡水環境におけるゲルの改善の研究が表彰された。
下の写真からもわかるように、適切な温度で練った素材を金型に流し込めば簡単にゲルワームを作ることができる。一般的なプラスチック製素材よりも低い100℃前後で成型可能な状態になるため、素材さえあれば、極論、自宅でオリジナルワームを制作することも可能だ。
また、製造コスト面でも大きなメリットがあり、メーカーが所有する既存の射出成型機をそのまま使用できるだけではなく、素材自体の原材料費が通常のプラスチック製素材の1/6程度だというから驚きだ。



従来のプラスチック製ルアーは、根がかりなどで水中に取り残された場合、水中での分解がとても遅く、さらにマイクロプラスチック化して環境に悪影響を与えることが問題だった。また、生分解性プラスチック素材のルアーについても、特定の条件下ではないと分解が進まず、分解に長い歳月を要してしまうことが課題だった。これらの問題を解決できる可能性があるのがこのゲルルアーというわけだ。
肝心の生分解性はどうなの?
末兼さんらが行ったゲルルアーを海水に浸漬させる実証実験によると、微生物が活性化する夏場で約7日間ほどで分解されることがわかった。また、冬場でも20日間ほどで分解されることが判明した。
食品素材なので、万一魚の体内に吸収されても安心だ。白石「安全性については今後、さらなる実験により定量的な結果を調べていく予定です」
「人間が食べても大丈夫!おいしくはないかも…(笑)」味噌でもつけてみる?
実際に釣れる?
このゲルワーム素材、材料の配合や比率を変えることで、硬さやしなやかさを自由に変えることができるという。従来のプラスチック製ソフトルアーにおいて、各メーカーが理想のアクションを出すために素材のやわらかさにまでこだわって開発していることを考えると、ますます実用化への可能性が高まると言える。
ラメや匂い・味成分を混ぜ込むことも可能で、その点でも実用性が高い。多孔性素材なので、集魚剤などに漬け込むこともできる。
この通り! 普通に釣れます!
アクション例① ゲルワーム(スティックベイトタイプ)をジグヘッドワッキーリグで使用
アクション例② ゲルワーム(スティックベイトタイプ)をジグヘッドワッキーリグで使用
ゲルルアーがルアーフィッシングの未来を救う!?
海水・淡水問わず、手軽さやゲーム性の高さから人気が高まっているルアーフィッシングだが、これからも末長く楽しむためには、自然環境への負荷を減らす取り組みが欠かせない。現在はフィッシングブランド『フローフルワークス』と製品化に向けた実証実験も行っている。ゲルルアーの実用化に向けた今後の研究に期待したい。(ゲル素材は現在、特許公開中)
末兼「実は集魚剤を練り込んだゲルのボールでカワハギが釣れるんです」。アサリより格段に安価なため画期的な代替品になる可能性もある。
●お問い合わせ先
東京海洋大学
海洋資源環境学部 海洋環境科学科
准教授 呉 海云(ご かいうん)
TEL:03-5463-0644
Email:wuhaiyun@kaiyodai.ac.jp
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