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【TULALAじゃない話】オガケン大学・第2章『音と匂いの世界』~第3回~“ラトル音の真実”

『オガケン大学』開校——。幼少期に米国で釣りを始め、大学での水産研究を通し学んだ豊富な知識や2回に渡る365日連続釣行など、人並外れた知識と経験を持つ小川健太郎さんが、「釣り」を魚の生態から解き明かす。今回は第3章『音と匂いの世界』・第3回目ルアーにおける“ラトル音の真実”を解明していく。

●文:小川健太郎 ●イラスト:大和なでしこ ●写真:ルアマガプラス編集部

小川健太郎(おがわ・けんたろう)

TULALAという釣り人ひとりひとりの思い描く特殊な竿を作るインディーズなメーカーをやってます。個人では昔ルアーマガジンをはじめ、多くの釣り、車やアウトドア、音楽、新聞からタウン誌などで連載を何本もやっていたライター/アングラーでしたが、大型のトラックに追突されて腰を痛めてバッサリ引退し、イラストやデザインなどの仕事に転向。以来10年以上連載を控えていましたが、webなら締め切りがない、という甘言に釣られてちょこっと書いてみることに。よろしくお願い申し上げます。

前回のおさらい:体全体がセンサー

教授「前回は側線とウキブクロという二つの音感知器官を学びました。今日はいよいよ、魚にとって具体的にどんな音が聞こえていて、どんな音に反応するのか__ルアーの音の話に踏み込みます」

バスくん「ちょっとこれ、自分がどう釣られたかの解説っすよね……」

生徒「ぜひ教えてください!」

バスくん「……(深呼吸)……はい、正直に話します」

バスに聞こえる音、聞こえない音

(教授、黒板に周波数の図を描く)

教授「まず基本データから。人間の可聴範囲は20Hzから20,000Hz。これに対してバスなどの魚
はどうか」

(黒板に書く)

バスの可聴範囲:約50Hz~1,500Hz
最もよく聞こえる中心:300~400Hz前後

生徒「えっ、人間より全然狭い!」

教授「そうです。しかも、その中心がどのくらいの音か、想像しやすい例があります。電話をかけたとき、呼び出し音の前に鳴る『プー』という音__あれが400Hz前後、音階でいうとソの音に近い」

マスくん「つまり、電話の呼び出し音くらいの高さが、バスたちに一番よく聞こえる音……ですね」

バスくん「なんかイメージできた。確かにそのくらいの音には反応する気がする」

教授「この可聴範囲を超えると、魚は聞こえないか、聞こえても判別できなくなります。さらに、高周波が連続して発されると__」

バスくん「なんか嫌な感じがするんすよね。痛くはないけど、不快というか」

教授「そういう個体が多いです。脳波や心拍数のデータでも、高周波の連続音に対して不快反応が見られます」

ゴトゴト vs シャラシャラ__決定的な違い

教授「ここでルアーの音に話を移しましょう。ラトル入りのルアーというのは今や珍しくありませんが、実は大きく二種類に分けられます」

(黒板に書く)

ゴトゴト系(低音ラトル):200~600Hz前後。大玉、少数のラトル玉
シャラシャラ系(高音ラトル):800~2,000Hz前後。小玉、多数のラトル玉

生徒「同じラトルでも、こんなに違うんですね」

教授「バスくん、正直に言ってください。どちらが嫌ですか」

バスくん「……シャラシャラ系っす。あれ、最初は気になって追いかけることがある。でも、何度も聞いていると、なんか嫌になってくる。ゴトゴト系は……慣れてもそこまで嫌じゃない感じっすよね……」

マスくん「私も同感です。高い音の連続は、渓流でも何か不自然な感じがします」

教授「これには理由があります。ゴトゴト系の低い音は、自然界に存在する音に近い。石が転がる音、エサの魚が泳ぐ音__これらも低周波が中心です。だから、ゴトゴト系の音は『日常の音』として魚の脳に登録されやすい」

生徒「登録、というのは?」

教授「痛い記憶と結びつきにくい、ということです。シャラシャラ系の高い音は非日常的で目立ちます。だから最初は興味を引く。でも、その音を聞くたびに針に刺される経験を積んでいくと__」

バスくん「もう聞いただけで逃げるようになるんすよ……あの音、本当に」

マスくん「条件反射ですね。第1章で学んだ」

教授「そうです。シャラシャラ系はスレやすい。ゴトゴト系はスレにくい。これがラトル音の基本的な差です」

フックの音という問題

教授「もうひとつ、見落とされがちな音の話をします。フックの音です」

生徒「フックって音がするんですか?」

教授「フック同士が当たると、キンキンとした高周波の金属音が出ます。これが__」

バスくん「嫌いっすよ。なんか、ルアーの動きとちぐはぐな音がして、気になる。追いかけてたのに、あの音で興味が冷めることがある」

教授「金属音は1,500Hz以上の高周波になることが多い。バスの可聴上限あたりです。脳波測定でも、フックの金属音には不快反応が出やすいというデータがあります」

マスくん「ただ、渓流では流れの音でマスキングされることが多いので、それほど気にならないこともあります」

教授「そう、ここでもマスキングが登場します。川の流れの音という環境雑音が、フックの金属音を覆い隠してしまう。だから川では問題になりにくい。でも__」

バスくん「クリアな池で、しかもプレッシャーが高い場所だと、フックの音で逃げることある気がするっす」

教授「それは十分あり得ます。静かな環境では、フックの音がダイレクトに届いてしまう」

場所と状況で音の戦略を変える

教授「これまでの話をまとめると、音の使い分けについてひとつの考え方が見えてきます」

(黒板に書く)

クリアな池・プレッシャー高 → ゴトゴト低音 or サイレント
マッディな池・にごり強い → シャラシャラ系で存在をアピール
川・流れのある場所 → 高音で環境雑音を突き抜ける

生徒「場所によって、有効な音が違うんですね」

教授「そして、プレッシャーによっても違います。スレていない魚にはシャラシャラ系が効くこともある。でも、同じルアーを繰り返し投げ続けると、条件反射が形成されてしまう」

バスくん「一回で釣ってほしいっす、お願いだから」

マスくん「……それは難しい注文ですね」

バスくん「ですよね……」

「音がない」も作戦のひとつ

教授「最後に、サイレントルアーの話をしておきましょう。音を一切出さないルアーという選択肢です」

生徒「音がないと、魚に気づいてもらえないんじゃないですか?」

教授「ここが面白いところです。ルアーが動けば、水を押して波動が生まれます。ラトル音はなくても、水圧の変化は側線に届く。つまり、音がゼロでも、存在を感知されないわけではない」

バスくん「波動だけで来てる感じ、確かにあるっす。サイレント系のルアーって、いきなり近くに現れた感じがして、逆にびっくりすることがある」

教授「それがサイレントルアーの強さです。音による警戒スイッチを刺激しない。なのに、近づいて気づいたら目の前にいる。スレた魚に対して、音を消すことで条件反射を回避できる」

ワームもサイレントルアーの一つ。プラグでは発生してしまうフック同士の音も抑えれる。

マスくん「先に音で警戒させてしまうより、静かに近づいて視覚で驚かせる__という戦略ですね」

教授「まさに。音を出すか出さないか、どんな音を出すか__これは、ルアーフィッシングの戦略の中でも、かなり重要な選択です」

今日のまとめ(黒板)

(教授、チョークを置く)

第2章第3回のポイント
・バスの可聴範囲は約50~1,500Hz。中心は300~400Hz(電話の呼び出し音の高さ)
・ゴトゴト系(低音)=スレにくい。自然界の音に近く、条件反射が形成されにくい
・シャラシャラ系(高音)=目立つが、スレやすい。不快感を生じさせやすい
・フックの金属音は高周波で不快反応あり。静かな環境ほど注意が必要
・音の選択は、場所・濁り・プレッシャーによって変える
・サイレントルアーは音の警戒スイッチを刺激しない__スレた魚への有効策

教授「次回からは、音の話を離れて__匂いの世界へ。魚がどれほど鼻に頼って生きているか、驚いていただけると思います」

マスくん「私のご先祖、サケの話も出てきますか?」

教授「もちろん。母川回帰という、匂いの最大の奇跡の話をします」

マスくん「楽しみです……(しみじみ)」

次回予告:第2章第4回「匂いで川を遡上するサケ」

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