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「前日はなかった足跡が」熊とばったり遭遇しないように心がけている事とは…

今回は、ヒグマに対する意識と備えを、渓流釣りのエキスパート「小川 貴恵(おがわ・たかえ)」さんが、北海道の支笏湖をメインフィールドに釣りをされている岡部裕司さんに聞いた生の声をレポートしてくれた。

●文/写真:小川 貴恵(おがわ・たかえ)

ヒグマへの備えを改めて考えよう

7月に入り、本格的な夏の訪れを感じる季節となりました。私の住む北海道・道南の渓流では水温も安定し、ウェットウェーディングを快適に楽しめる時期を迎えています。ただ、今年もやはり各地でクマの出没が相次いでいる状況で、釣行回数が増えるからこそ、ヒグマへの備えについて改めて考えておきたい季節でもあります。

今回は湖でのヒグマ対策について、北海道の支笏湖をメインフィールドにして釣りをされている岡部裕司さんにお話を伺いました。

北海道で活躍する岡部裕司さん

支笏湖は釣り人に人気の湖で、全国からの釣り人が増える一方で近年ヒグマの出没が相次ぎ、昨年はヒグマが釣り人へ接近した事例の報道もありました。岡部さんは釣り具メーカーのスタッフで、素晴らしい魚を多く釣られている湖の釣りのエキスパートでもあります。そんな彼が支笏湖で釣りをする時にどのようなヒグマ対策をしているのか、お話を伺いました。

支笏湖という自然豊かな釣り場で釣りをする時の心構え

岡部さん「支笏湖は日本最北の不凍湖と呼ばれ、その湖岸のほとんどが原生林で覆われ、広大な大自然が広がる美しいフィールドとなっています。トラウトを釣る上での難易度は北海道屈指で『難攻不落の湖』とも呼ばれています。禁漁期もなく一年を通して釣りを楽しめる環境であり、メインターゲットの一つであるブラウントラウトに関しては、ワールドクラスのサイズのポテンシャルを秘めた夢のフィールドでもあります。」

岡部さんが釣り上げた90センチオーバーのブラウントラウト

岡部さん「支笏湖原生林に覆われた林道を歩きポイントを目指す場合があり、林の中の動物の歩く音や獣臭に気付けるよう、フードを被らず、フェイスマスクは外すよう心掛けています。そして黒めの色や周りの状況や変化を見逃さないように、視界を確保するために偏光グラスも外して移動しています。」

私も渓流釣りで林道を歩く時には同じように周りを注意深く視野を広く保ちながら歩くようにしています。そして支笏湖においては、エゾシカが多い地域であり春の雪解けの季節には動物の遺体を見かけることもあるそうで、もしかしたらヒグマがエゾシカを捕食している場合に土饅頭(ヒグマは一度に食べきれない獲物を土や草木で覆い隠し保存することがあり、そのように獲物を隠し置いておく場所のことを土饅頭といいます)にしている可能性もあります。

そういう点からニオイには特に気を付けていらっしゃる印象を受けました。

岡部さん「ヒグマとの遭遇を避けるために、朝からの釣行時もしっかりと明るくなってから車を降りて行動を開始するようにしています。そして釣りをする時間帯もローライトな時間帯を避け、明るい日中のみの釣行しかしません。以前、支笏湖で二日続けて釣行をした際、前の日には無かったヒグマの足跡を2日目に確認したことがあり、やはり夜間や早朝の時間帯にヒグマが移動しているのだと気付かされ、ゾッとしたことがありました。」

ここでお話されているローライトの時間帯、早朝や夜の釣りに関してのお話ですが、北海道の川や湖での夜釣りは法律やルールで禁止されていない限り可能ではあります。

ですが岡部さんの仰るように、早朝や夜間などの時間帯はヒグマとの遭遇リスクが非常に高くなります。そして湖は特に足を踏みはずしての転落や水難事故のリスクが高いので暗い時間帯の釣りはあまり推奨できるものではありません。

まして支笏湖はヒグマと遭遇した際に緊急回避できるルートがほぼないようなポイントが多いので暗闇の中での遭遇は命に関わる事態になりかねない。そういう点からリスク回避を考えると夜間や早朝の釣りは控えた方がいいと私も思いました。

釣りをしている最中も油断は禁物

岡部さんは釣りをしている時も注意を払うことに気を付けているようで次のような事もお話してくださいました。

岡部さん「釣行前に天気予報を確認して雨に当たる時間がありそうな場合は、あらかじめ耐水性のあるツバが広くて長めの帽子を被り、釣りの最中もなるべくフードを被らないようにして周りの音に気付けるようにしています。単独での釣行時もクマに対してこちらの存在に気付いてもらえるよう、なるべく定期的に声を出すようにもしています。」

そして続けて、

岡部さん「北海道の湖での釣れる状況として、よく波の出る状況があげられると思います。しかし、ザブザブと波が起きていると波音により周囲や背後の物音に気付きにくくなるのと、なおかつ正面に広がる水面の状況に集中してしまいがちになるので、常に背後や周囲には注意を払うように心がけています。」

どの釣りでも集中すると、どうしても物音を立てずにいることが多くなります。そのうえ、湖での釣りは渓流釣行のように常に移動している事が少なく、一か所に留まりキャストを続けることの方が多い釣りです。ヒグマは本来、人を避ける動物といわれているので、以前の記事にも書きましたが「音を鳴らして人の存在を伝えることで不意な遭遇を避ける事が出来る」といわれています。

岡部さんは人の存在を知らせるために、常に声を発したり腕に着けるタイプの鈴を付けて、キャストの度に音が鳴るようにしているそうです。そしてやむを得なく単独釣行する際は、風向きを常に気にしながら釣りをしているなど、常に不意の遭遇を避けるための注意を怠らない、

ヒグマと出逢わないようにする事が何よりも大切

岡部さんはその他、軽食をとった後のゴミをジップロックのような密閉できる袋を持参してその中に入れるようにするなど、出来るだけヒグマを誘引しないように気を付けられています。

岡部さん「湖での釣りをするという事は逃げ場もなく万が一の遭遇の場合は対処できないケースが多いと思うので、出来るだけ遭遇しないための対策がとにかく大切ではないかと思っています。そしてもしもヒグマとの遭遇リスクが高く危険だと判断した場合は、支笏湖に来る可能性がある仲間やSNSでも可能な限り注意喚起し、少しでも多くの釣り人に共有することで、ヒグマによる事故を未然に防ぐことが出来るのではないかと考えています。」とお話されていました。

これは湖での釣りだけではなく、釣りやアウトドア・アクティビティを楽しまれている方に言えることだと思いますが、「ヒグマと遭遇しないようにすること」がとても大切なことだと私自身も思っています。もちろん、もしもの時に備えてクマスプレーを携行することも重要ですし、適切に対処できた場合は命を守ることに繋がります。

ですが「絶対大丈夫」ではないと思っています。私たちに出来る対策は出来るだけ正しい知識を持って正しく恐れることや、異常行動をするヒグマの出没があった場合にはそのエリアに近づかないようにするなど遭遇しないようにすることがまずは大切ではないかと思います。

事故が起きたり、出没が相次いでいる地域でのアウトドア・アクティビティは「自分は大丈夫」という油断が事故に繋がる可能性があるという気持ちを忘れないようにしていただけたらと思っています。少し言葉が強くなってしまいましたが近年のヒグマの出没状況を考えると「前は大丈夫だったから」は殆ど通用しなくなってきているのではないかと思うからです。

私自身、ここ数年ヒグマとの遭遇や目撃回数が増えて釣行回数が減っています。これまでに遭遇経験があったとしてもヒグマが怖いので遭遇はなるべく避けたいと思う気持ちが強いからです。

岡部さんは「自由に釣りが出来る湖だからこそ、この釣りを大切にするためにも、ヒグマ対策をしっかり考え事故が起きないようにしていきたい。」とお話されていました。

これから夏休みやお盆休みなど長期休暇のシーズンを迎えますが、北海道のアウトドア・アクティビティにはヒグマの問題は常に隣り合わせです。どうか出没情報等を確認して、出来るだけヒグマ対策をして楽しむようにしていただけたらと思います。

小川 貴恵(おがわ・たかえ)

北海道出身、北海道在住の、TULALAフィールドスタッフ。釣り好きの父からの影響で、子供の頃からイワナ、ヤマメ、鮭釣りなどを始める。そのうち、自然と渓流魚の美しさに惹かれ、渓流トラウトをメインに狙うようになる。道内のトラウトフィッシングには精通しており、ルアーフィッシングを始め、フライフィッシングも行う多彩なアングラー。

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