
「魚は3秒しか記憶できない」そんな話を聞いたことがある人も多いだろう。しかし、これは魚の能力を大きく誤解している。魚のなかには、仲間を個体ごとに見分けたり、過去の経験を記憶したりする種類がいる。そして驚くことに、人間の顔を見分けることができる魚まで存在する。では、魚は本当に「この人は前に見た人だ」と認識しているのだろうか?
●文:ルアマガプラス編集部
人間の顔を見分けた「テッポウウオ」
魚の顔認識能力を調べる研究で、特に有名なのがテッポウウオだ。テッポウウオは、水面上にいる昆虫などを狙って水鉄砲のように水を発射し、獲物を撃ち落とすことで知られている魚。
この「水面の上にあるものを正確に見分ける能力」が、研究者たちの注目を集めた。
2016年に発表された研究では、テッポウウオに人間の顔写真を見せ、特定の顔を選ぶように訓練。すると、テッポウウオは44枚もの人間の顔写真の中から、学習した顔を見分けることができた。
しかも、単純に「顔の色が違う」「頭の形が違う」といった特徴だけを頼りにしているわけではない。頭の形や明るさ、色などの条件を揃えた実験でも、顔を識別する能力が確認された。
研究では、平均正答率が81~86%に達している。
顔を「写真」として覚えていた?
さらに興味深い実験も行われている。
2018年の研究では、テッポウウオに人間の顔を学習させた後、その顔を正面だけではなく、30度、60度、90度と向きを変えて提示。
すると、魚は向きが変わった顔についても、学習した顔を見分けることができた。
つまり、単純に「この写真のこの位置にある模様」という情報だけを記憶していたわけではない可能性がある。
研究者は、テッポウウオが異なる角度から見た顔についても認識できることから、単純な画像の照合ではなく、ある程度の「対象そのものの認識」を行っている可能性を示している。
では、釣り人の顔も覚えている?
ここで気になるのが、釣りとの関係だ。
「いつも同じ場所で釣りをしていると、魚に顔を覚えられるのでは?」
そんな疑問を持つ人もいるだろう。
実際、2025年に発表された研究では、野生のクロダイ科の魚が、水中で異なるダイバーを見分けられるかが調べられている。
研究では、2種類のタイ科魚類を訓練し、2人の異なるダイバーを見分けられるかを検証。魚は異なるダイビング装備を身につけたダイバーを識別することができた。ただし、2人が同じ装備を着用すると識別できなくなった。
つまり、この研究では「人間の顔そのものを見て個人を識別した」とまでは言えず、ウェットスーツや装備などの視覚的な特徴を手掛かりにしていた可能性が高い。
それでも、野生の魚が「この人とあの人は違う」と視覚的に識別できることを示した点は興味深い。
魚は思っている以上に「見ている」
魚というと、人間よりも単純な視覚しか持っていないように思えるかもしれない。しかし、研究が進むにつれて、魚にもかなり高度な視覚認識能力があることが分かってきた。
2024年に発表されたレビューでは、魚が仲間を個体ごとに見分ける能力について、複数の研究結果がまとめられている。なかには、顔の特徴から個体を識別し、異なる距離や角度からでも認識できる魚がいることも紹介されている。
さらに、ホンソメワケベラでは鏡に映った自分自身の顔の特徴を認識している可能性を示す研究もある。魚の「記憶力」や「認識能力」は、これまで考えられていたよりもずっと複雑なのかもしれない。
「魚は3秒で忘れる」は本当なのか?
では、最初に出てきた「魚の記憶は3秒」という話はどうなのか。結論から言えば、魚の記憶が3秒しか続かないという説を裏付けるものではない。
魚の記憶能力は種類や学習内容によって異なるが、少なくとも「数秒ですべて忘れてしまう」という単純な生き物ではない。
人間の顔を見分け、仲間を識別し、経験から学習する魚がいることを考えれば、その能力は想像以上だ。釣り人が水辺に立ったとき、魚から見えているのは単なる「人影」ではないのかもしれない。水面越しに見える姿や動き、装備などを手掛かりに、魚はこちらを識別している可能性もある。
魚は、私たちが思っている以上に「見ている」かもしれない。
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