現在日本国内において人気、実力ともに若手No.1であるバスアングラー「伊藤巧」。2019年より戦いの舞台をアメリカに移し、B.A.S.S.セントラルオープンに参戦中。現在3戦を終え、年間暫定順位4位とトップカテゴリー・B.A.S.S.エリートシリーズ昇格圏内にいる。そんな伊藤巧のこれまでのアメリカでの3戦をプレイバック!第1回は初陣であるトレドベンドリザーバー戦を振り返る。
H-1GPX、TBC、陸王、艇王と国内の試合で破竹の快進撃を続ける若きロードランナー
伊藤巧、初陣での快挙!帰ってきた『スローロール』
2月20日~22日、アメリカ・ルイジアナ州のトレドベンドリザーバーで開催されたB.A.S.S.セントラルオープン。8名の日本人選手が参戦するこの試合は、日本人選手が大きく存在感を出した結果となり、日本はもちろんアメリカでもその活躍が注目されることとなった。
その日本人選手のなかでもひと際注目を浴びたのが、初陣にして準優勝という快挙を成し遂げた、伊藤巧さんである。
そのメインパターンが師である田辺哲男氏の十八番、クリスタルS1/2オンスのスローロールだったということも、往年のアングラーの涙を誘った。
サンダーストームをヒントにシャロースローローリング!?
今回のパターンを聞くに当たって、伊藤さんは記者に言った。
伊藤さん「メインパターンはクリスタルSのスローロールであることは間違いありませんが、いわゆる田辺さんのように、波動の強いスピナーベイトをロッドワークでブレイクなどの地形変化に這わせたり、深いレンジをゆっくり引いてくるものではありません。僕は水深1メートル以浅のシャローにスピナーベイトを入れ込んでスローロールしていきました」
その理由を続けて語った。
伊藤さん「キッカケはプラクティス中に起きたサンダーストームと言われる猛烈な嵐です。
それまで18℃近くあった気温が一気に3度近くにまで冷え込み、降りしきる冷たい雨の影響で水温が2度も落ちる大きな変化。そして、雨の名残でインレットなどの各所から入り込む冷たい水が下層を通るため、ボトムにいたバスも強制的に水の温かい層へ浮かざるを得なくなる。さらに太陽が出れば、より浅い層の水温が上がるので、魚の意識がシャローに行くことは明白でした。
しかし、それまでフラチャットを中心にシャローでイージーに釣れていた魚が一気に口を使わなくなり、バス自体の活性は低く、速い釣りでは追えないということに気が付いたんです。
だから、波動の強いスピナーベイトを魚の間合いに入れて一瞬のインパクトで食わせるという、スローだけど、リアクションに近い釣りを展開した結果、それが上手くハマったというのが今回のパターンです。
正直、試合直前までエリアも3カ所ぐらいしか見つけられなかったし、サンダーストームの影響でほかの釣りが通用しなくなったなか、スピナーベイトなら食うという状態になったというのが本音なんですよ」。
ラインの浮力とロッドの角度でシャローをスローに!
伊藤さんがメインに狙っていたのは根っこが水中にまで伸びているサイプレスツリーと呼ばれる樹木や水中に沈んでいる立木のトップ。その際をスピナーベイトのスローロールでトレースしていた。(※写真はスワニーリバーのサイプレスツリー)
シャローレンジをゆっくり引くためには、揚力の強いブレードを搭載したスピナーベイトが必須。さらに、太めのラインを使用してライン自体の浮力活かし、ロッドの角度を立てることで、自重のあるスピナーベイトを浅いレンジで引くことが可能になる。
5ポンドクラスを筆頭にスローロールが炸裂!
プラクティスではスローロールで5ポンドクラス(約2.2キロ)を筆頭に良型も! バンク側でキーパー、沖の立木のエリアでキッカーサイズを狙い分けていた。
カラーはホワイトクリスタルが圧倒的な釣れ方をしたという。結果、プラで手持ちがなくなりヘッドカラーが近いクリスタルSに、ほかのスピナーベイトからスカートだけを移植して試合に臨んだほど。
サンダーストーム、再来。状況悪化にも柔軟に対応。
試合初日、伊藤さんはクリスタルSのスローロールを駆使し、9フィッシュ。5尾で7キロ近いウエイトを持ち込み、16位という好スタートを切った。
しかし翌日、サンダーストームの襲来により試合2日目は中止。3日目をラストデイとする2日間の試合となった。
伊藤さん「3日目は水温がさらに落ちていたのですが、割と早い段階でスピナーベイトに2発バイトがあってチャンスをものにできました。けれど、どちらの魚もバイトが浅く『今日はミスバイトあるかも』と感じた矢先に、3尾目が案の定ミスバイトです(笑)。
すかさず、同じスポットにラバージグをスキップで入れ込んでからスイミングさせたら食い直してくれたのでなんとかリカバリーできましたが、そのあとが厳しかったですね」。
スキップでスイッチを入れ、スイミングで食わせる!
サイプレスツリーの根の奥にスキッピングで入れ込み、スイッチを入れたのち、スイミングで食わせるリアクションに近い釣りでフォロー。カバーも濃いのですり抜けの高いフラットバックジグをセレクト。
焦りや不安を跳ね除け、魚探を駆使した沖の釣りを。
幸先のいいスタートから一転、伊藤さんは試合終了3時間前までノーバイト。活性が低くてもシャローに残っていた魚がことごとくいなくなっていたという。
エリアの持ち駒も少ない伊藤さんはこの変化に対応すべく、沖に目を付けた。
伊藤さん「散々焦りましたが、シャローから消えた魚がどこにいったのかを冷静に考えてみて、少し沖側にコンタクトできるスポットがないかを探してみたんです。そしたら、なだらかに深くなっていく地形の水深6メートル付近にオダが点々とあったので、ハミンバードの360度イメージで具体的な位置を割り出し、ガーミンのライブスコープでオダの高さやスケールを見定めて、バスが入り込めそうな隙間を集中的に狙っていって、何とかリミットメイク。個人的にはかなりギリギリでしたが、魚探に助けられましたね」。
位置を割り出す360、規模を把握するライブスコープ。
その沖の障害物に入れていったルアーが6.5インチカットテールワームの5グラムネコリグ。同サイズのシュリルピンではなく、カットテールワームを使用した理由はルアーパワーだと言う。
伊藤さん「広大なアメリカのフィールドでは食わせの要素を持ち合わせつつも魚を引っ張るルアーパワーが必要だったので、同じ6.5インチのストレートワームでもボリューム感があり、水押しの強いカットテールを選びました。
というのも実はプラで面白いことがあって、同じような深めにあるストラクチャーにヘビーダウンショットやヘビーキャロライナリグを入れ込んで、ライブスコープで映しながら誘いをかけているとバスがチェイスしてくるのが見えたんです。でも、寸前で食うのを止めたので、試しにカットテールのネコリグを同じ場所に入れてみたらあっさりバイトしちゃって…(笑)。これはリグで差が出るぞとを感じたと同時に、アメリカのバスもルアーを選んでいるなと思いました」。
試合を終えてみての後悔。その一投が繰り出せない重圧。
今回メインパターンとなったクリスタルSのスローロール。ノリーズにはよりスローロールに特化した「スーパースローロール」というモデルがあるにも関わらず、オリジナルのクリスタルSを使用した理由をこう答えた。
伊藤さん「プラクティスでは効率も考えなきゃいけないので、スローロールでもまだスピード感のあるクリスタルSを使っていました。だけど、実は試合中に何度も思いました。
『スーパースローロールなら、もっと強く、もっとスローに、もっと強い魚を引っ張ることができるかもしれない』と。
でも、プラで釣ってないからそれを試す勇気はなかったし、僕自身も余裕がなかったんです。終わってみて試しておけばよかったなって心底思います」。
そう悔しそうに語る伊藤さんが印象的だった。今回の快挙にも甘んじない姿勢はきっと今後さらなる活躍を見せてくれることだろう。
次回は第2戦のルイス・スミスレイク戦の模様をお届けする!!
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マキモノルアーといえば、個人的に得意ジャンルはスピナーベイトやバズベイトなど、比較的アピール力が強くて根掛かりにくいモノ。そう思っていたタイミングで、とある人物から喝を入れられました。
「根掛からないからスピナーベイトって全然イケてないです!」
そう語るのは、現在人気の若手熱血アングラー・伊藤巧さん。
伊藤 巧
いとう・たくみ。ホームである利根川のTBCトーナメントやハードルアーオンリーH-1グランプリなど、関東エリアの大会で無類の強…