話題沸騰中の魚の締め方/仕立て方、究極の血抜き・津本式。でも、この言葉が独り歩きして、やや誤解を生んでいることに取材をしていて気付かされたぞ。そう、熟成魚=津本式ではありません。津本さんも何度も指摘しているコトなのでちゃんと理解しておこう!
津本式と熟成をいっしょくたにしない!
津本「何度も言ってるんですが、僕の提唱する技術は魚の熟成の技術ではありません」
そう、究極の血抜き・津本式の開発者、津本光弘さんが行う仕立て方をすれば、イコール熟成と同義だと思っていませんか? 魚を血抜きして締めたら熟成するわけじゃないですよ。これについては、東京海洋大学で熟成魚を研究されている、高橋希元助教も指摘されています。
高橋「津本さんの仕立てと、熟成は別に考えてください」
では、話題の「究極の血抜き・津本式」ってなんなの?
津本「仕立ての技術です。僕の仕立てで、従来よりも保存がめっちゃきくようになった」
高橋「津本式の最大の利点は保存です」
そんな話から、おそらく一流の料理人でも勘違いしているであろう「熟成魚」の正体についても、それを研究している高橋助教から聞き出す事ができたので、かんたんにご紹介。
魚の熟成とはなにか?
まず、ここを定義しなければなりません。先に、正しい熟成魚の定義を。少々謎の言葉が飛び交いますがご容赦くださいませ。
魚の熟成とは、…
ちょっと、理屈っぽい話をします
魚を寝かせると美味しくなる。これは、津本式以前から知られてきた事実。この仕組についても、様々な文献が出てきます。良く言われるのはATPと呼ばれる「魚のパワーの素」が、魚の死後に、イノシン酸と呼ばれる旨味物質に変質し、美味しさになると。ATPがイノシン酸に変わり切るピークこそが、魚が美味しく食べれられるタイミングだと。
で、寝かせれば寝かせるほど、そのイノシン酸の旨味が迸る魚がいるので、熟成魚は旨い。これが、一般的な熟成魚の旨さの見解。
はい。これに関して、海洋大の高橋助教から、軽く訂正をいただきました。
高橋「えーっと、そのATPから変化する旨味成分、イノシン酸は数日後のピークを経て、どんどん減少していきます。というか、また違う物質に変化します」
あれ? 寝かせれば寝かせるほどATPがイノシン酸に変わるんですよね?
高橋「寝かせればATPはイノシン酸に変わりますけど、そのピークって魚の種類や締め方にももちろんよりますが、だいたい半日から数日後ですよ」
ん? ということは10日後熟成とか2週間熟成の魚の旨味の正体は??
高橋「うーんと、イノシン酸の旨味ではなく、別の旨味成分の立ち上がりによる味ですね。つまり、まったくの別物」
!? ということは、寝かせれば寝かせるほど、イノシン酸がというのは。
高橋「イノシン酸が云々というのは、ちょっと勘違いだと思いますよ。つまり、魚本来の旨味がイノシン酸だと仮定したときに、その美味しさを味わうには、寝かせすぎ、熟成しすぎでも駄目だということです」
ある意味、新鮮な魚が美味しいというのは間違いではないですね。
津本「新鮮なほど魚が美味しいと盲信するのは駄目ですよって話。魚の見極めが大事。同じく、旬や産地、高級魚って言葉にも踊らされ過ぎちゃ駄目」
でも、たしかに理屈でなく、津本さんの締め方で仕立てて、処理した魚は美味しかったのですが….。
高橋「そのあたりは、いま、調べているところですが、美味しさって、数値の足し算ではないので。ただ、単純な成分の話で言うと、熟成魚の旨味は、イノシン酸とは別のグルタミン酸などの遊離アミノ酸の旨味の影響が大きいです。でも、実際の味については様々な要素が複雑に絡み合っているはずですから、好みは別れるはずですよ。ただし、津本式の処理をした魚は、通常の血抜きによる魚より、先程申し上げた、イノシン酸の減少速度が緩やかというデータは出ているんです」
ん? そのへんのことを考察すると、色々な仮定が産まれてきそうですが… 。
高橋「はい。何度も申し上げていますし、津本さんもおっしゃっているように、非常にローコストで誰でも、鮮魚を長期保存できる処理として僕らは特に津本式に注目しています。その保存が効くことが、魚の熟成に関してどう絡んできているかは、ただいま研究中です。ある程度、こうだよという理屈はわかってはいるんですが(笑)」
津本「あと、もう混乱しないように、今後はちゃんと“寝かせ”と“熟成”という言葉を別けて考えたいと思います。僕が仕立てて、1週間や2週間、なにもせずに置いておく(保存)しておくというのは“寝かせ”。きちんと温度管理をしたり、その魚の美味しさのピークを見極めたり、さらに手間かけて、美味しくしていく技術を熟成。
ただ寝かせるだけで、熟成と言ってる人がいるけど、それは違うと思う。熟成というのは技術がいることやしね」
なるほど、津本さんの技術は、魚を美味しく食べれる保存期間を長くすることができる技術であり、熟成技術の新しい可能性を提示した技術だということですね。津本式=熟成となると混乱しますね。津本式は熟成と非常に親和性の高い技術であることは間違いないですが、そこは、ルアマガプラスでもしっかり、別けて今後解説したいと思います。
なにか、途中で半端に終えているお話も相当に深そうですが、そこは、来年発売の書籍でじっくり解説したいと思いますね!
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