実はあまり売りたくなかった? 不世出の名作ペンシル『ジョイントテラー』物語【ジョイント多事争論】



ジョイントに一家言ある各界の賢人たちに、エピソード、理論、テクニックなど、ジョイントにまつわるあれこれを聞いてみた金言集。9つのエピソードを読み終わると、ジョイントルアーの全体像が見えてくれるかもしれない。今回は伝説のビルダー兼アングラー柏木重孝さんにお話を伺った。

【Profile】

柏木重孝(かしわぎ・しげたか)

「かわいくてよく釣れる」というコンセプトのルアーブランド「ズイール」の創業者。現在はズイールを離れ、“バモノス”ブランドでバスタックルを企画。また渓流の世界でも流派を興し、センセーションを起こしている。

トップの鬼が語る、ジョイントテラー開発秘話と私的ジョイント理論

柏木「ジョイントルアーは、単純に生き物に近いナチュラルな動きが出せる。だからみんなジョイントにしたがるんだよ。でもそれが釣れる方向とは限らない。なぜなら、ラインを引っぱることによって動きが出るからね。人から見て生き物っぽく見えても、魚から見たら違うんだよ」

既成概念にとらわれない思考法で独自のバスフィッシングを切り拓いてきた柏木重孝さんは、常に人間以外からの視点も持っている。ではジョイントは釣れないのか?

いや、その答えは頭で考えて出るようなものではないらしい。

柏木「それは魚に聞いてみなきゃわからないよ。ただ、俺の経験だと川バスを狙ってルアーを流すような釣りは、ジョイントじゃないほうが釣れてるね。でも、アクションさせて止めた時、ジョイントルアーは、少し戻るようにゆらっと動く。あの動きは食う。ラバースカートみたいな動きだよな。人が力を加えていないのに出る動き」

柏木さんがジョイントルアーを世に出したのは、1985年のこと。ジョイントのペンシルべイト『ジョイントテラー』だ。このときはすでに、ジョイントのリップレスルアーがS字軌道で動くことに気が付いていたらしい。

上が2005年のジョイントテラー。下が1998年のテラー5/8。形状が全然違う。ジョイントルアーは既存のルアーを単純に切断するのではなく、1から設計し直すのが基本なのだ。記録によると、ジョイントテラーは1985年のリリース以来2003年まで販売されなかった。

柏木「そりゃズイールを始める(1981年)前から知ってるよ。というのはね、ジョイントラパラのリップを削ったものを昔使ってたんだよ。これがただ巻きするだけで泳いだし、よく釣れたんだ。これは航空力学だなと思って、俺なりに調べたらやっぱりそうだった。水中は分厚い本みたいなもので、ページをめくるごとに水圧が変わる。ルアーを潜らせて、ある水深になると同じ水圧のレンジにとどまろうとするんだ。例えば一本の針金の真ん中にラインを結んで、水中を引っ張るでしょ。すると針金は必ず水平になる。縦にはならない。同じ水圧を保つために横向きになる。これがペンシルべイトみたいな形状だと、まっすぐ動かすのは難しい。どこかで向きを変える。でも、同じレンジにとどまろうとするから、横移動になるんだよ。そのルアーがジョイント構造だと、よりヘビみたいなS字の軌道で動くようになる」

それが航空力学かどうかは別として、40年も前に彼はここまで考えていたようだ。ちなみに柏木さんの作るトップウォータープラグは、原則的にただ巻きすると水面直下を泳ぐように設計されている。だからジョイントテラーもある程度潜るのだ。

柏木「いろいろ試したけれど、ジョイントテラーの場合はルアーの全長の半分のところで切るのが一番いいアクションが出たな。ぬめぬめ泳がせたいならそれが基本。違うアクションを狙うならその限りじゃないけど」

そんなジョイントテラーだが、ズイール黄金期の90年代はほとんど製造しなかった。その理由も、柏木さんは話してくれた。

柏木「だって、ラパラのリップ削りが元ネタだからさ、あんまり売りたくなかったんだよ(笑)」



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