魚の価値を高める!『津本式・究極の血抜き』完全解説 基本道具編【2022年完全版】



近年、注目を集めつつある魚の仕立て方、『津本式・究極の血抜き』。その方法については、開発者の津本光弘さんのYouTubeチャンネルで公開はされていますが、ネット上でテキストベースで公開されている情報は多くありません。ルアマガプラスでは、その技術について01年に発刊した解説書をベースに徹底解説します。2019年よりさらに進化を遂げ津本さんの解釈なども織り交ぜて最新版としてまとめていきます。

津本式・究極の血抜きとは?

宮崎県で魚卸をしている長谷川水産で働く傍ら、株式会社水流を立ち上げプロの魚仕立て師として活躍する『津本光弘(つもと・みつひろ)』さんが考案した魚の仕立て方です。

【Profile】

津本光弘(つもと・みつひろ)

大阪府出身。宮崎県在住。長谷川水産、(株)水流に在籍し、独自に開発した血抜きを中心とした魚の仕立て方『津本式・究極の血抜き』の普及に努める。魚の価値を上げ、美味しい魚を提供したい!がコンセプト。

ホースの水流と水圧を利用して魚の鮮度劣化要因、臭いなどの要因になっている血液を『血抜き』により高いレベルで除去することで、従来では無しえなかった鮮魚の長期保存が可能になり(食味が落ちやすい従来の冷凍などに頼らない)、この長期保存力の恩恵を受け、食材としての幅が広がったことから魚食の革命として注目されています。また、血抜きを死魚の状態からでも可能なのが特徴です。



なぜ鮮魚状態の長期保存で食材としての幅が広がるのか

詳しく書くとそれこそ本1冊になってしまいますので、簡単に書きます。

まず、魚が持っている(生命エネルギー・アデノシン三リン酸=ATP)は死後数日をかけて旨味成分のイノシン酸に変化していきます。イノシン酸そのものは死後半日から3日程度の間で増えていきその後減少していきます(魚の種類、個体、状態による)。魚は寝かせることで身質が変化していき、簡単に言うと旨味が身に馴染むようになっていきます。

従来ならば2、3日で食べないと消費期限が過ぎてしまう魚ではありましたが、津本式ならば、一般的な冷蔵庫やクーラーなどで、メソッドに従って寝かせるだけの処理でも5〜7日は簡単に鮮度状態を保つことができます。ピークを迎えてその旨味成分であるイノシン酸は減少していくのですが、その減少も優位に抑えられることが大学の研究により証明されていたりもします。

つまりイノシン酸という魚の旨味をより活かし、魚が持つ本来の香り(血を抜くことで、由来の臭みなどが抑えられる)や特徴と合わせて魚の価値を高めてくれます。これがまずひとつ。

そして、さらに寝かせることで、今までは鮮魚状態で優位に楽しむことのできなかった、魚がもつもうひとつの主要な旨味成分が出現しはじめます。遊離アミノ酸類が増加しはじめるのです。この遊離アミノ酸類は、鮮度の高い状態ではなかなか味覚に影響するほどではないのですが、減っていくイノシン酸に代わり、逆に上昇していく旨味成分なのです。

東京海洋大学の研究チームのデータから作成した旨味成分の変化概念図。

これによって、従来、一部の料理人による秘伝的調理法でもあった『魚の熟成』がより安全に、簡単にトライできるようになりました(もちろん、一定の知識は必要です)。

概論ですのでこれ以上はこちらでは書きませんが、簡単に言うと、魚が冷蔵という処理だけで長期保存できるようになったことで、料理の幅が大きく広がった! ということです。

当然ですが、鮮度保存力が上がったことから、無駄なく食材を利用することができるようになり、食材を無駄にすることなく使い切れるようになりました。魚は鮮度が高くなければ価値が無いという従来の在り方から、いや、寝かせて美味しくなるし、魚は鮮度だけじゃないよ! という考え方ができるようになりました。

津本式・究極の血抜きをするために必要な道具

技法を開発した津本光弘さんは、毎日、数多くの魚を仕立てる必要のあるプロフェッショナルです。そのため、効率よく、なおかつ高い精度で仕事を行うための専用器具を数多く開発して、必要な人のために販売もしています。

業務としてこの技法を実践する必要のないかたは、『ホース1本』で試すことが可能ですが、今回はプロ用の道具の使用も含めて解説したいと思います。

【1】耐圧ホース

市販品。ホームセンターなどでも普通に販売されている。

津本式は血抜きのための全体の枠組みを指し、技術の根幹となる血抜きは『究極の血抜き』と津本さんに名付けられています。この究極という言葉は『究極に簡単』の意味を持っていることからも、技法としては非常に簡単であることがわかります。つまり、血抜きに必要な道具もシンプルです。まず耐圧ホースを用意してください。こちらを蛇口に繋ぎます。このホースを使って『究極の血抜き』をします。

血抜きそのものは、ホース1本で完結します。これが蛇口に繋げるか否かで、血抜きの精度は大きく変わってきます。

最近、各社より釣り場や家庭などで血抜きをするためのアイテムが販売されていますが、津本式の根本であり、もっとも大事な道具は『ホース』だと言っても過言ではないでしょう。これがキッチンなどの形状により使えなかったり、場所的制約がある場合は当社から発売されている簡易の血抜きノズルや、携帯用血抜きポンプなどが活躍します。

ホースの代替品 その1 家庭用魚仕立てノズル

津本式・家庭用魚仕立てノズル(ルアマガ)。現場や家庭で簡易的にホース血抜きを行うためのノズル。ペットボトルに真水を入れてこのノズルを装着し、規定の方法で血抜きができます。アジ、サバ程度の小型魚なら十分な血抜きが可能です。

ホースの代替品 その2 津本式血抜きポンプ

津本式・血抜きポンプ(ハピソン)。ハピソンが開発したポータブル血抜きポンプ。付属しているノズルで究極の血抜きと後ほど解説するノズル血抜きができる。

【2】血抜きノヅル(ノズル)+ウォーターシューター+ハイパー継手

ホースでの血抜きを含めて、より高い精度で血抜きを行うためのアイテム。方法については後述しますが、カットした魚の尾の動脈穴と神経穴にこの血抜きノヅルを差し込み、高圧の水を送り込んで血抜きを行います。神経穴に入れると神経を抜くこともできますので、活魚を神経締めする場合にも使用できます。各種サイズが存在しますが、通常φ1.5mmとφ2.0mmがあれば幅広い魚に対応できます。

この器具を使った血抜きが印象的なため、津本式をするためにはこれがないとダメだという誤解を与えていますが、このアイテムを使うことで尾側のより高い血抜きに加え、内臓まわりの血抜きを効率よく行うことができます。魚の内臓を食材として使う場合は、ぜひとも手に入れておきたい道具ではあります。

このノズルを使用するためにはウォーターシューターと呼ばれるコネクターが必要になります。津本さんが開発されたウォーターシューターはプロ仕様でサビなどを極力防ぐ耐久性の高い素材のものですが、市販されているエアダスターでも代用は可能です(ノズルも)。

ただし、エアダスターは水を使うことを想定して作られてるわけではありませんので、耐久性に劣ります。アマチュアとして津本式を楽しむならばともかくですが、プロとして現場に導入されたいと思われる方であれば、津本さんのプロ仕様を購入されることをお勧めします。

そのウォーターシューターを取り外して、別の仕立てグッズなどに換装する際に便利なのがハイパー継手と呼ばれる継手です。こちらもプロ用ではありますので、必要に応じて手に入れていただくことで各種道具の利便性が格段に上がります。ちなみにハイパー継手は当社の家庭用魚仕立てノズルを装着可能です。

【3】血合取りリムーバー

2021年に開発されたノズル。元々は、魚の内臓を処理した後の、血合い(腎臓)を水の水圧で掃除するためのノズルです。

特に背骨下の腎臓(血合)部分を掻き出すことを意識した

ただ、このノズルそのものをホース血抜き(究極の血抜き)のように使用したり、先端に尾から使用するためのこの血合取りリムーバー専用の血抜きノズルを装着することで、【2】のノズルと同じ役割をします。

これも津本さんの日々の作業の効率化、高精度化を意識して開発されたアイテムですが、現在、津本さんはこれを主軸にホース血抜き以外の作業を行うことが多いです。

津本式を始めたいのですが、公式アイテムのどれを買えばいいですか? と尋ねられたら、この血合取りリムーバーとこのリムーバー専用のノズル(リムーバーノズルPRO)を購入してくださいとアドバイスさせていただくほど汎用性の高い津本式アイテムとなっています。

【4】専用のナイフ「アサシンナイフ」

アサシンナイフオリジナル。38,500円(税込)

津本さんは、毎朝、宮崎の魚市場に出向き、野締め(絶命した魚)された魚だけではなく、生きたまま市場に運ばれた鮮魚を扱うことがあります。そういった鮮魚も、より生命力を残した状態で加工所に運ぶために、市場で即、魚を締める必要があります。

そこで、魚を市場で締めつつ、加工所でも一連の処理を手早くできるようにと専用設計したナイフを津本さんは使用しています。まさに津本式のために特化したナイフです。

魚を締めやすくした刃の形状や角度、そしてルーティーンワークをこなすための独特なグリップ形状。津本式ノヅルを素早く交換するためのナットホール。まさに津本さんのためのナイフ。これがアサシンナイフです。

こういった特殊な製品。ある程度のロット数をもって注文しなければコストがかかるのは自明の理。1本だけというオーダーメイドではいくら仕事だといってもコスパが悪すぎます。そこで、開発時に専用ナイフを作ることを公表し、欲しいプロの方がいらっしゃればと有志を募ったところ、欲しいという有志が殺到。

とはいっても、1000本、2000本単位で作れるほど大量生産品ではありません。そんなこんなで発売以来、生産が小ロットで繰り返され、いまでも入手困難な人気のプロ用ナイフとなっています。

このナイフでなくては、津本式ができないわけではありませんが、津本式を代表するギアですので紹介させていただきました。

このオリジナルのアサシンナイフが大量生産できずなかなか手に入りにくい、なおかつ価格が高いことから(生産コストが高い!)、もっとラフに廉価に使ってもらえるような汎用性の高いアサシンナイフを提供しましょうと2021年に発売されたのが「アサシンナイフJr.」です。

440Cステンレス。重量感があって使いやすい魚仕立て具。14,080円(税込)で各釣具店で取り扱い中。

こちらはオリジナルの販売価格の半分以下に抑えられていますが、初回生産分もほぼ在庫がなくなり、追加生産を予定しています(8月再入荷予定)。現在、釣具店などの小売店の在庫販売のみとなっております。

このように、津本式の作業効率を高めるアイテムはまだまだたくさんあります!ですが、ホース1本でも完結するのが津本式だということを忘れないでください。この手法のすごいところはローコストで美味しい魚が仕立てられることです。

津本さんが各種小道具を開発、販売しているのはまさに自分の仕事のため。そして、津本式を仕事として取り入れたいと考えているプロや、ハイアマチュア向けといってもいいでしょう。ただ、ご本人が使っている道具を使ってみたいと考えるファンも多く、魅力的な職人の道具が揃っているのも確かです。プロでなくても欲しくなってしまいますよね。

ということで、津本式について解説していくにあたって最低限必要な道具を解説しました。都度、道具は解説時に紹介させていただく予定です。

https://plus.luremaga.jp/2022/03/26/138881/2/
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