梅雨の足音が聞こえ始める6月、東京湾の船宿ではマダコ釣りシーズンが始まる。
マダコ(以下、タコと呼ぶ)を狙う釣りと言えば、カニを付けたタコテンヤというカマボコの板に大きなハリが付いた様な道具を使って、竿ではなく手で直接糸を操る【手釣り】が一般的だったが、昨今ではタコ専用の疑似餌を使った【餌木タコ】が普及しビギナーからベテランまで幅広く楽しめるターゲットになっている。
釣って良し、食べて良しのタコを求めて、今回は横浜・鶴見の『新明丸』にお世話になり【手釣り】と【餌木タコ】の二刀流で挑んできたので報告。
●文:そでや ●写真:堀口俊 ●釣り船:新明丸(鶴見)
マダコ釣りの釣り方「手釣り」&「タコエギ」の違い
まず今回の釣りでは最近人気のタコエギ釣りと、伝統的なマダコ釣りスタイルである手釣りの2通りで挑んでみたいということで、それぞれの釣りがどういうものかを説明しよう。
釣り竿を使わない伝統的なマダコ釣り「タコテンヤの手釣り」
1つ目は、東京湾伝統のタコ釣りスタイルである手釣り。渋糸と呼ばれる太い糸と40~50号ほどの重さのタコテンヤを使い、釣り竿は使わず糸を直接手で操ってタコを狙う釣り方だ。手釣りでは主に冷凍のカニがエサとなり、これをタコテンヤに縛り付けて使う。
指先に伝わる微かな重みから乗せるタイミングを計って、腕を目一杯使い海底からタコを引きはがす様に大きくアワセを入れ、糸を手繰ってタコを船に引き上げるリアルな感覚が醍醐味。
状況によってテンヤのハリの間隔や角度、エサのカニを付ける位置等を調整してタコにアプローチしていく昔ながらの奥ゆかしい釣りである。
道具を一切持っていないビギナーでも船宿で売っているタコテンヤと冷凍カニさえ買えばチャレンジできる敷居の低さが魅力的。マダコ釣りで出船している釣り船なら、船宿の船長も慣れ親しんだ釣り方なので、アドバイスやコツもたくさん教えてもらえやすいというのも手釣りのよいところだろう。
大人気のお手軽マダコ釣り「タコエギ」
もう1つは近年大人気になっている釣り竿と餌木(エギ)を使ったタコエギ。釣り物名として「餌木タコ」とも呼ばれる釣りだ。
釣り竿を使ったタコ釣りは関西方面で行われていた釣法であるが、最近では東京湾でも人気を博しており、タコ狙いに特化するよう設計された「タコエギ」の普及も後押しして、エサが不要という手軽さでユーザーが増えている人気の釣り方となっている。
次々と新製品が登場している釣りで、エギを止める専用スナップや専用竿、リール等も販売されている。なおこのタコエギ、シンプルにエギだけでイカを狙うエギングとは違い、オモリを使ったりエギを複数つけたりと仕掛けの構成がやや複雑というか賑やかなのが特徴。
新明丸でマダコ釣りに挑戦!
この日は有望な釣り場となる川崎~横浜の運河地帯に近い新明丸にお世話になることにした。午前7時30分に出船し、鶴見川を下って約20分で最初のポイントに到着。船長の釣り開始アナウンスがコールされた。
最初は餌木タコ釣りで狙うことにした。
理由は、最近釣れているタコのアベレージサイズが小さい様子だったので大きなテンヤより小ぶりのタコエギの方が乗りがいいだろうと考えたことと、竿を使ってキャスティングでき広範囲を探ることが出来るということだ。
ただし、先述した通り、タコの生息域は根が荒いのでキャスティングは必然的に根掛かりでの仕掛けロストのリスクもかなり高いことを承知の上でやらなければならないことに留意する。
なおタコテンヤのカニ装着方法はこちら。
餌木タコの釣り方
餌木タコ釣りの誘い方は仕掛けを海底まで落とし、オモリを浮かさず竿を小刻みに動かしたりシェイクしてエギを躍らせることで周囲のタコの興味を引くだけというもの。
日によって細かく小さく動かした方がいい時と、アグレッシブにダンスさせるようにアピールさせた方がいい時があるので、色々なパターンを試してその日にあった誘いを探ろう。
誘いをかけているうちに、竿先が抑え込まれるように少し重たくなったらタコが餌木に触れているサインなので、誘いを掛け続けながら一呼吸おいて一気に竿を煽ってアワセを入れ、ゴリ巻きでタコを海底から引きはがそう。
注意すべきは即アワセは禁物であること。
最初に竿先が抑え込まれるような感覚を感じた時はまだタコがエギに触っている段階なので、ここでハリに掛けようとアワセを入れるとフッキングせずすっぽ抜けてしまう。
しっかりタコが乗った重みを感じてからフッキングを心掛けよう。
餌木タコ釣りこの日のセッティング
なおタコエギのセッティングだが、使用するオモリは30号程度でカラーは明るめを選ぶアングラーが多い。エギを2、3個まとめて付けアピール力を高める方法もあるが、タコの生息域はとても根が荒く根掛かりによるロストが頻発するのでご利用は計画的に。
道糸はPE2~3号、リーダーはフロロカーボン10号程度と強めのタックルを使うので、普段あまり釣りをしない人の場合はタコ釣り専用に準備しておいた方がいいだろう。ジギング等のルアー釣りをするアングラーであれば、そのタックルを流用しても構わない。
本日の当たりポイントに入った!
最初のポイントで30分ほど試したが誰もタコをキャッチできず、すぐに移動となった。
次のポイントは沖堤防周辺の岩礁地帯。
エギが根に当たり根掛かりの危険性を察知したときは少し竿を煽ってエギを浮かせ根を回避、再び細かく小さく誘うを繰り返すと竿先をズシッと抑えるようなタコの触りが到来。
誘い続けながら一呼吸おいて、竿先が戻らなくなったのを確認してから大きくアワセを入れるとエギとオモリに加えてさらに重みを感じる。
一気にリールを巻いて回収すると、小ぶりだが本日1杯目のタコをキャッチ! 周囲でもポツポツとタコが顔を見せ始め、魚影の濃いポイントに入ったことを確信した。
超大型マダコ襲来!
同じくタコエギで狙っていた友人にもこの日初乗りが到来! このまま数を伸ばすべくなるべく広範囲を探る為にエギをキャストして船の周りも入念に探っていく。すると突然ズシッっと竿が抑え込まれる。あまりにも抑え込みが強かったので「根掛かりしちゃったかな?」と不安がよぎる……。
餌木タコ釣りにロストは付き物だが、何とか回収したいと思い竿と糸を一直線にして一定のテンションを掛け続けるとエギが海底からズボッと外れる感覚が。「結束部から切れないで良かった~……」と安堵し回収しようとすると異様に重い。
まさかこれは!? と思い、一緒に来ていた友人に「タモ用意しておいて」と頼んでテンションが抜けないように回収してくると、海面に現れたのはしっかりとエギを抱いた巨大なタコ!
友人にフォローしてもらいネットインしたのは2.0kgの大きなタコだった。
タコ釣りは何度か経験こそあったが、ここまで大きなタコを釣ったのは初めてだったので思わず「うわっ、デケェ!!」と感嘆してしまった。基本的に船におけるタコ釣りはゴボウ抜きが採用されているが、大きなタコになればなるほど抜きあげ時の落水リスクは高くなる。
自分にとって抜きあげるには危ない大きさだと判断した場合は周囲の人に協力を要請し、タモ入れを手伝ってもらうことも重要だ。
根掛かり多発ポイント攻略ということで手釣りにチェンジ
その後餌木タコで更に2杯のタコをキャッチしたところでポイント移動。次のポイントは少し走って大黒埠頭周辺の岸壁付近になった。実績が高いポイントだが、さらに根が荒く餌木タコではロストの危険性が更に高かったので、このタイミング今度は手釣りで狙ってみることにした。
タコテンヤに冷凍のカニをセットするのだが、このセッティングをしっかりしないと誘いや仕掛けの投入時にカニが脱落してしまうので注意が必要。コツは、カニを固定するゴム紐をしっかりと伸ばし、左右の足の付け根付近にグルグル巻きにしてしっかりと固定すること。
誘い方は餌木タコと同じで、海底に着いたテンヤが底から離れないようにしつつ小刻みに動したり、少し煽ってテンヤを跳ねさせてアピールさせる。
手釣りの場合根掛かりしても渋糸が太く強いのでテンションを掛け続ければ根から抜けて戻ってくることが大半だが、指に大きな負担がかかり素手で扱うには少々危険が伴うのでフィッシンググローブや軍手、指先グローブ等、手指を保護する物品の着用を忘れずに。
手釣りも餌木タコ釣り同様、触りがあったら一呼吸おいて、タコがしっかりテンヤに乗り重みが伝わってきてから大きくアワセを入れ、海底から引きはがす様にする。
渋糸を手繰る時は船べりを滑車代わりにして船の中に糸を手繰りこむように素早く回収し、最後に船の中にタコを入れ込むときに船べりに張り付かれないよう少し船から離して抜きあげるようにする。
テクニックと経験がものをいう釣り方ではあるが、他にはない楽しみ方が出来るのでビギナーの方にも是非挑戦していただきたい釣りだ。
手釣りでもマダコをキャッチ!
タコテンヤに冷凍ガニをセットして手釣りを始める。
隣で手釣りをしている友人たちにもタコが乗っているので、この釣り場は手釣りに軍配が上がっているようだ。テンヤが海底から離れないように小刻みに誘いを掛けていると、指に掛けている渋糸を伝ってヌルッとした違和感が伝わってくる。
誘いを止めずにかけ続けていると違和感はズシッとした重みに変わり、それを合図に大きく腕を煽りタコテンヤを海底から引きはがす。
手釣りは仕掛けの回収中にテンションが抜けやすくバレやすいので、船べりを上手く使いながら一定のスピードで手早く渋糸を手繰ってくるのが重要だ。水面にあがってくると、タコテンヤにはアベレージサイズのタコが掛かっていた。
船べりに張り付かれないよう少し離してタコを回収し、無事にキャッチ! 手釣り独特のタコの触りの感触と手繰り寄せが面白い。
手釣りを楽しむ友人たちも『タコが触ったり乗ってくる感覚が分かってくると本当に病みつきになっちゃう釣りだよね』と、この釣りの魅力にどっぷりハマってしまっていた。
釣れたマダコの管理に要注意! 活かすためのネットが便利
タコ釣りで気を付けなければならないことが、釣ったタコの管理である。タコは脱走が大得意であり、気が付いたら足元のバケツから這い出て脱走しているなんてことは日常茶飯事。
せっかくキャッチしたタコが気が付いたら居ない……なんて悲しいことにならないために用意しておかなければならないのが、タコ脱走防止のための「ネット」である。
オススメは100円ショップで購入できる「洗濯用ネット」だ。
網目も細かくジッパー付きで脱走できない仕様になっているので、タコ釣りの必携品と言えるだろう。船宿でネットの貸し出しをしているところはあまりないので、準備を忘れずに。
また、思っていたよりたくさんタコが釣れてしまいひとつのネットにたくさんのタコを詰め込んでしまうと、共食いを始めたりストレスで自分の足を食いちぎってしまうこともあるので、最低でも2~3個は用意していった方がいいだろう。
急な雨にはご用心
釣りも終盤に差し掛かり、場所を移動して今度は別の岸壁付近を流すことに。船の移動中、横浜港の上空に真っ黒な雨雲がモクモクと集まってきていた。友人が天気予報を調べると、15分後に雨雲が船の真上に差し掛かってくることが判明した。
予報は残念ながら的中し、さっきまで晴れていた空が急に暗くなってあっという間に滝の様なゲリラ豪雨に見舞われた。風や雷こそなかったので釣り自体は続行可能だったが、夏場の釣りにおいて天気は本当に変わりやすいことを改めて実感した。
釣行の際は天気予報の確認も重要だが、突然の天候急変に備えてレインコートも忍ばせておいた方がいいだろう。特に貴重品類やスマートフォンはジップロック等で防水対策を採っておくことをおすすめする。
今回の釣行を振り返って
15時15分ごろに船長から釣り終了のアナウンスが入り、納竿となった。餌木タコ釣りと手釣りの二刀流で挑んだ今釣行であったが、2.0kg頭に7杯と、その日の船内釣果としては上々の結果だった。一緒に来ていた友人たちも2~7杯と、タコ釣りを楽しめたようだ。
今釣行では乗船者の約8割が餌木タコで狙っており、人気の高さが伺えるものだった。しかし、餌木タコが必ずしも有利というわけではない。
タコの大好物であるカニをエサに使っている手釣りの釣果も負けてはいないし、何より竿で釣るやり方では感じることが出来ない楽しさがある。
専用の道具を準備したり、小難しい技を知らなくても軽装で楽しめ、釣りの後にはブランドものの東京湾のタコに舌鼓を打てる。皆さんも是非エントリーしやすいこの魅力的な釣りに挑戦してみてはいかがだろうか。
今回の釣りレポート
項目 | 釣りの情報 |
---|---|
釣り物 | 餌木タコ釣り&タコテンヤの手釣り |
ターゲット | マダコ |
釣り船 | 新明丸(鶴見) |
釣り場 | 横浜・大黒埠頭周辺その他 |
利用プラン | 1日マダコ釣り乗合船 |
今回の釣行費用 | 9,500円(エサ付き乗船料)+800円(テンヤ購入) |
釣行日時 | 2022年6月12日(日)07:30~16:00 |
釣果 | マダコ:0.3~2.0kg×2~7杯(参加した4人とも) |
今回の釣り船
新明丸(しんみょうまる)
東京湾の季節を感じやすい伝統的な釣り物を楽しめる釣り船。JR京浜東北線「鶴見駅」、京浜急行「京急鶴見駅」から500mとアクセスが良い。女性とお子様は半額割引あり。
今回の釣りのオススメ商品
蛸墨族【ハリミツ】
ラトル内臓仕様でアピール力が高く、加えてフラッシングブレードも付いているのでアピールスカート等の附属品をつけなくてもこのエギだけで十分釣れる。タコエギ初心者にオススメ。
今回の釣り攻略情報
- タコエギとカニエサを縛ったタコテンヤの二刀流で挑戦。
- 乗合船の乗客8割はタコエギを使用。
- 序盤からタコエギにポツポツと乗ってくる。テンヤはお触りこそするが、アベレージが小型(0.3~0.5kg程度)の為か中々乗らないもしくは乗せられない。
- この日はタコエギもテンヤもあまり大きな誘いを掛けず、小刻みにじっくり狙っていたアングラーに軍配が上がっていた。
- 釣友は積極的に誘いを掛け狙っていたがタコエギでもテンヤでも中々触らず、誘いを小さく繊細にしたら乗り始めた。
- 全体的な釣果として見ても、現在の東京湾のマダコは小型主体かつキャストして広範囲に探りを入れられるタコエギが圧倒的に有利な環境になっている模様。
- 筆者は今回タコエギ初挑戦だったためシンプルにエギのみを使ったが、タコエギベテランのアングラーはスカートや集魚剤を使い効率化を図っていた。
今回の釣り行程
- 06:00:船宿到着。乗船名簿記入&料金支払い。
- 06:30:乗船。タックルセッティング。
- 07:30:桟橋離岸。ポイントへ
- 07:45:実釣スタート(扇島の岸壁~大黒埠頭近辺)。
- 15:15:実釣終了アナウンス
- 15:30:桟橋着岸。納竿。
※本記事は”ルアマガプラス”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。
関連する記事
バチ抜けというと春頃のイメージのある自然現象だが、さまざまな種類のゴカイがいて種類ごとに「抜ける」時期が異なり、周年に近い幅広い時期で見かけることがあるという。つまりわりといつでも遭遇する可能性がある[…]
東京湾は今年もタコが絶好調! でももうシーズンオフじゃないの? っと心配なそこのあなた! 大丈夫です! 東京湾なら1年中マダコを狙えちゃうんです! しかもこれからの季節こそ大物釣りが期待できちゃうんで[…]
2019年は近年まれに見る豊漁に湧いた東京湾のマダコ釣り。2020年も好調なスタート! との風の噂を聞きつけたマシモP。さっそく自粛開けの林遊船さんにお邪魔してきたぞ![…]
20年に一度の大量湧きと言われている2019年の東京湾真蛸シーン。タコ大好きマシモPが大量捕獲を夢見てタコ釣りに出かけたらしい。[…]