魚の締め方。津本式推奨の(脳締め→神経締め→エラ切り→フリフリ血抜き→冷やし込み→保冷)の手順が良い理由

さて、津本式の認知度が深まるに従って、さまざまな血抜きや魚の締め方についての見解が出てきておりますが、今回は手順を含めて、推奨する魚の締め方について解説していきたいと思います。津本さんは多くは語りません。なぜなら「試してみて、やってみて。答えは出るから」。ですが今回の解説、ちょっと突っ込んだ話になっていますのでご容赦くださいませ。

●文:ルアマガプラス(深谷真)

解説をするまえに。津本式というのは血抜き(だけ)の手法ではありません。魚を美味しく仕立てるための枠組みです。血抜きはその手法のなかのひとつの工程でしかありません。現場で素早く、ローコストに仕事として津本さんが最適化した手法であることをお忘れなく…。では解説まいりましょう!

Tips:津本式とは?

津本式とは宮崎県の魚卸、魚仕立て屋の津本光弘さんが開発した魚の血抜きを主とした仕立て方のことです。脳締め、神経締め現場でのエラからの初期血抜きを推奨し、死んだ魚であってもホース1本で血抜き。そしてノズルで血抜きを仕上げ、低温で保存する。この仕立を実行することで、魚の保存力が格段に向上。精度の高い血抜きを行うので血液に由来する魚の臭みを大幅にカット。まさに魚食の革命と言える技術を体系化したのが津本式であり津本光弘さんです。

【魚の締め方】手順1:脳締め

さて、まず魚を釣りました。より美味しく食べると言う点で考えると、「即殺」することです。「即殺」するにはどうすればいいのか。生命活動の根幹である脳を潰し機能停止させることです。

設備が整っている場合は生簀などに魚を生かしておいて、興奮状態を解消し、乳酸やストレス物質などの影響が収まったタイミングで締めるという方法もあります。ただ、往々にして生簀で逆にストレスを与えたり興奮状態を作り出したり、酸素不足で苦悶死させたりと、なかなか難しい側面があることからそのあたりの理解が深くない場合は『即殺』を推奨しています。

※温度変化に関する話は後述

さて。いままで、わかりやすい理由として旨味の元となるATP(アデノシン三リン酸→旨味物質・イノシン酸に変わっていく物質)というエネルギーの消費がより早く抑えられるという部分を主眼に脳締めについては解説してきました。根幹は変わりませんが、ATPの消費が抑えられるという1点だけが即殺の優位点ではありません。

ですが、そもそも言っているATPってどの程度気遣えばいいの? そんな変わる?

結論を言うと変わります。特に、苦悶死と即殺では、ATP量は大きく変わると考えてください。美味しく食べたいなら、ATPをリッチに残しておくというのは大事なことです。ハタやカサゴのような魚よりも、サバなどの魚で比べてみるとエビデンス云々でなく一目瞭然ですし味という部分でも大きく違います。

では、ATPを多く残すという理屈以外の利点って?

少し書いておりますが、即殺しないでだらだらしているとストレス物質が増える、乳酸が増える、pHが傾く。暴れることによって体温が上がる。物理的に暴れることによる打身、鬱血が生じる。これらの事象は、魚の身質を悪くし、食味を落としてしまいます。

同じタイミングで釣って血抜きして捌いたスズキ。右が締めるタイミングをを遅らせてしまった魚。暴れ、ストレスなどで、身が鬱血、赤みがかったりして食味が落ちる。即殺して、適切な処理を施し、冷やし込んだ魚は状態が良い(左)。協力:sushibar にぎりて 保野淳さん。

そういった、食味ロスを簡単に予防できるという部分でも『即殺』を推奨するのです。

その即殺の手法として、魚の脳に直接ピックやナイフを差し込み絶命させる手法を津本さんは推奨しています。やってみればわかりますが、手早く処理できるのも利点です。時間をかけて暴れさせたりすると本末転倒ですし、魚の脳の位置は比較的簡単に特定できますので、テクニックがあまりいらないのも特徴です。

【魚の締め方】手順2:神経締め

脳締めは脳死、神経締めは神経伝達を遮断する作業です。そして必ず起こってしまう魚の死後硬直の質をコントロールする意味で、神経締めが有効と言えます。

津本式開発者の津本光弘さんが、ノズルを使い水の力を使って神経を抜くのは、一連の処理の過程における作業効率を追うからで、水で神経を抜くことにこだわっているわけではない。針金などで神経を潰すことも場合によっては行う。 [写真タップで拡大]

また、ATPを浪費する可能性のある遅延性けいれんを神経締めで抑えることができるため、神経締めを行うことができればマストです。

※遅延性けいれん→脳締めしても、脊髄から神経伝達物質の放出が続くので、筋肉がけいれんし、締めて保存した後でもATPを消費してしまう現象のことです。いくら脳締めしても、結局魚がけいれんして暴れてしまうのでは意味がなくなってしまうので、神経締めをします。

神経締めの方法ですが、脳締めの後に、脳締めで傷付けた部分から針金などの専用の器具を使って神経を締める方法がよく使われます。津本式では作業の流れの中で、尾切断からの神経穴にそのノズルの水流を使って締める手順がありますが、これは魚仕立て屋として、日々の作業の効率のなかで運用している手法ですので、現場ではそれなりに手間だと思います。

話を戻します。

先ほど、即殺を推奨する理由について乳酸などが必要以上に増えることを防ぐ利点があると明記しました。(ちなみに乳酸は、釣りの場合、ファイト中などにも増えてしまいます。なので、美味しく食べるという部分においては乳酸をなるべく出さないほうが良いので、ファイトそのものも手早く抑える。というのが大きな要因のひとつとしてあります。この状態を回復させるために生簀で休ませたりします)。

その乳酸が関係するのですが、即殺後のATP嫌気代謝(酸素を介在しない性質の代謝)でpHが酸性に下がり、細胞膜間のカルシウムイオンの行き来ができなくなることで、先ほど避けたいと申し上げた筋肉硬化が起こってしまいます。つまり、魚の死後、ATPが回復しなくなってからのATP残量によって、身が生きたまま(準じた状態)キープできるか、死後硬直をはやめてしまうかという話になります。

ちなみに神経締めによって硬直前の魚に価値があるとされるのは、身体がまだ生きている状態に準じているとされるからです。

鮮度保持の革命的手法と言われている津本式ですが、前段階の魚の状態が良ければその後にも通じるわけなので、可能な範囲で身体がまだ生きている状態を担保しておくのは大事なことなのです。

ということで、可能な限り食味的な観点からいきますと脳締めの後に、神経締めを行なってください。省いたとてその後のテクニックでフォローしてくれる津本式ではありますが、やれることをやっておいて損はありません。

【魚の締め方】手順3:エラ切り

津本さんが推奨するのは、魚のエラをせぐりあげて、背骨とエラの付け根部分。背骨の下にある血管と腎臓を切断する手法です。さまざまな主張やテクニックがありますが、現場に即した簡単で効果的な方法としてこのエラ切りを推奨しています。

Q.この手法だと魚の体温が上がって身がダメになるのでは?

A.魚の体温が上がる事象にはいくつかの原因があります。ストレスや釣り上げたあとの暴れなど。なので『正しく脳死めされていれば』極端に体温が上がる要因はありません。即殺を推奨するのもそういった背景があります。で、魚の身が痛むような体温上昇を誘発しているようであれば、それは締め方に問題があると言えます。<<<魚の身のタンパク質変化は35度以上から起こると言われているようです。夏場なんかはさっさと締めて、冷やすってのは確かに大事ですね>>>

また、ありがちなのが長時間のファイトを行った後の体温上昇です。その場合は、生簀などで魚を回復させて締めるなどの手法がとられることがあります。が、身質に影響を及ぼす10度以上の体温変化は稀ですので、さっさと脳締めして後で解説する冷やし込みに移行したほうが良いです。ボートデッキで放置したり、暴れさせたり。これも、そこを指摘するのあれば避けてください。

【魚の締め方】手順4:フリフリ血抜き

手順3で開けたエラの穴に手を入れ、バケツなど水が張った場所で軽く魚を左右に揺すってください。そうすることで、開けたエラか血が抜けていきます。身割れしやすいサバやトラウト、サーモンはやさしく。15秒程度でOKです。記者はものぐさなので、エラ切りをしたあと、4回くらい左右にフリフリしたら少し放置したりするのですが、魚の血は放置していると水の中でも凝固しますので注意してください。

こちらの器具解説にフリフリ血抜きの動画シーンが入ってますのでご確認ください。また、家庭用の津本式ノズルを使えば、船上でも血抜き可能です。

【魚の締め方】手順5:冷やし込み

こちらも非常に重要な工程です。凍る温度にならない調整で水氷を作ります。そこに手順4までおこなった魚をここで一気に冷やし込みましょう(水温は5度から10度の範囲が望ましい。5度以下の場合ほとんどの魚が硬直状態になります)

1から4までの処理を可能な限り迅速に行い、魚の身を冷やします。適切な手順を踏んでいる場合は、身質が大幅に変化するような体温変化は起こらないものの、早く冷やし込むことで、鮮度を適切に保つことができます。イメージは体の芯まで水氷と同じくらいの温度まで下がるようにケアしましょう。

【魚の締め方】手順6:保冷

水氷に入れっぱなしという方も多いと思います。ですが、可能な限り、芯まで魚が冷えたら水氷から取り出し、保冷剤や氷の入ったクーラーに移動してください。5度から10度の氷水がベストとは書きましたがコントロールが難しいので、魚が冷えたらさっさと保冷に移行しないと、あまり起こしたくない死後硬直がおきてしまいます。

魚を氷水からとりだしたら、可能な限り氷や保冷剤などに直接当てず、クッションやタオルなどの上に置いて持ち帰りができればベストです。

ここまでできれば、かなり状態の良い状態の鮮魚を自宅まで持ち帰ることができます。ここまでの手順を踏めないとい方も、脳締め→冷やし込みは最低やっておくといいでしょう。すべてやれば完璧ですが、死魚でも簡単に血抜き作業が行えるのが津本式のスキームの強みです。

釣りが楽しくで仕方ない!って人は自宅で処理すればよいという考え方もあります。

津本式はまだまだ、開発者の津本さんをはじめ、まわりの利用者により改良され進化しています。生きたものをいただくにあたって、より美味しく食べようという探求は続いておりますので、ルアマガではその進化についても、お伝えしていくことができればと思います。

この情報は、津本式グループで日々勉強を重ねる人たちの知見を記者がまとめたものです。さまざまな情報が飛び交う昨今ではありますので、なるべく詳しく丁寧に解説させていただきました。詳しいアドバイス、知見を提供してくださった皆様に感謝します。

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