かつおぶしが2024年に『津本式』で変わります。そう、かつおぶしの材料となるカツオを、ルアマガプラスの読者にはお馴染みの魚の仕立て方『津本式』で処理し、それを熟成。すると、プロの職人も驚いたかつおぶしが出来上がりました。端的に言えば、『旨みマシマシ』。では、なぜそうなったのか解説したいと思います。
●文:ルアマガプラス編集部(深谷真)
津本式で処理した材料でかつおぶしを作ると『旨みが増す』理由
まず、ご存知ない方のために『津本式』をさっくり解説。これは血抜きを主体とした魚の仕立て方で、近年、飲食業界や水産業界に革命をもたらした技法です。開発者は宮崎県の魚仕立て師『津本光弘』さん。この津本式は死魚に対しても水道水を使って血抜き処理ができる画期的な技法で、高い精度で血抜きを行うことで、魚の『生』での従来では考えられない長さの『冷蔵保存』が可能になりました。
魚を長期保存するには『冷凍』して凍らせるしかなかったわけですが、魚の腐敗原因の主因である血を高い精度で抜き去ることで、『冷蔵』状態で、長期保存が出来るようになったわけです。
詳しい解説は省きますが、これにより魚の真の『熟成』を待つことが可能になりました。真の熟成なんて大袈裟な言葉と思われるかもですが、『冷凍』では魚の熟成はほぼ進行しませんし、特殊な冷凍方法でないと、食味が失われます。つまり、津本式で処理した魚は、本当の意味での熟成が可能になり、旨みが増すことが確認されました(東京海洋大学の髙橋希元助教のチームによりデータがとられています)。
もう、お気づきかと思いますが、今回のかつおぶし。津本式で血抜きを行い、足の速いカツオという魚を熟成させて旨みを増した状態にまで引き上げ、そこから『かつおぶし』に加工しているのです。なので、従来のかつおぶしよりも、『旨みが増している』のであります。
いままでのかつおぶしの製造法と、その原理
少しだけ理屈っぽいお話を。そもそもですが、かつおぶしというのは『旨みを意図的に閉じ込めた』食材と言ってもいいでしょう。魚の従来の旨みの代表格といえば『イノシン酸』。材料として仕入れてきた、カツオを熱処理することで、『イノシン酸』量が高い状態を維持します。そこから乾燥や燻を入れることで、水分を奪いその『イノシン酸』をギュッと閉じ込めるのです。
かつおぶしが出汁の材料として重宝されているのは、その閉じ込めたイノシン酸という旨み成分を利用しているからなんです。※もちろん、イノシン酸だけではありませんが。
津本式のかつおぶしはどうなるの?
熟成処理を施したかつおぶしの美味しさが増す理由は、至極簡単。従来のカツオが持つ旨み成分に加え、腐敗がともなう今までではコントロールが難しかった、イノシン酸以外の旨み成分が、カツオに生まれてきます。その旨み成分は『遊離アミノ酸類』と呼ばれ、お肉などに多く含まれるグルタミン酸などがカツオの身に増えてくるのです。
そのタイミングで熱を加えて処理すれば、従来のかつおぶしが『イノシン酸』主体だったのに対し、『イノシン酸』+『グルタミン酸』という夢のようなコラボ状態が生まれるのであります。よく、出汁をとる時に昆布も併用しますよね。昆布はこのグルタミン酸が多く含まれる食材ですが、かつお節単体で、どっちの旨みも生まれるよ!というイケてるかつおぶしが出来上がるのです。
そんなすごいかつおぶし。存在しません。だからこそ、革命であり究極と呼んでいるのであります。
革新に取り組んでくれた『オリッジ』というかつおぶしメーカー
そうなるよ!と説明しても、なかなか理解されないものです。なにせかつおぶしは、その製造法も確立され、新しいことに取り組む余地など、ほとんどないからです。伝統的な手法、技法で作られる日本人のソウルフードがかつおぶしです。
理論理屈はあっても、その開発に取り組んでくださるような柔軟なメーカーは多くありません。しかし、今回、ルアマガチームは多くの関係者の手助けもあり、かつおぶしの一大産地として知られる鹿児島県指宿市にある、老舗かつおぶしメーカーの協力を得ることに成功しました。それが『株式会社 オリッジ』さん。
そのオリッジの社長、地島昇平さんに、企画の概要を説明させていただくと、津本式と新しいかつおぶしの可能性を理解してくださり。『開発してみましょう』と快諾してくださったのです。そこから、この津本式のかつおぶしの開発が始まりました。
保守的になりがちな業界のなかで、話を聞き入れてくださったことに感謝! そこから、商品開発がスタートしました。津本式が処理のキーになってきますので、開発者である津本光弘さんや、東京で人気の津本式を活用をするお寿司屋さんのヘッドシェフ、保野淳さんなどに実際に鹿児島の現場にご同行いただき、その技術の指導と、工場環境などを確認したうえでの製造スキームの提案などを行うことで、2024年の横浜で行われる『釣りフェスティバル2024』での、テスト販売に間に合わせることができました。
とにかく食べてみてください! その旨みの強さに驚いてください!
現在開発されている『津本式かつおぶし』には2種類あります。2日熟成タイプの『銀熟』と10日熟成タイプの『金熟』。単純に短期熟成タイプと、長期熟成タイプと区分してくださればわかりやすいと思います。
『津本式かつおぶし銀熟』の解説
こちらは、仕入れたカツオを津本式処理して水抜きした後に、すぐにカツオ節にしています。当初の意図は血抜きにより雑味を除き、生臭さを排除したスッキリとした味わいになるであろう。と、予測して開発した商品で、こちらは比較的従来型のカツオ節に近いイメージだったのですが…。
試食してびっくり。オリッジさんで従来作っているかつおぶしも相当美味しいのですが、それと比較しても、『あれ?味濃くありません?』『というか、味が立っている感じがします』という官能テストの結果が。成分析で解析中ですが、現時点ではその理屈がわからないのであります。ただ、間違いなく『美味しい』。これの解析が進行中ですので、今回はプロト品と呼んでいる経緯があります(完成品に限りなく近いのでご安心を)。一応、なぜ美味しくなっているのか、いずれちゃんとご説明できる日がくると思います。
雑味がなくスッキリもしているけど、味が濃くて立っているし、味が濃い。これが『銀熟』。嬉しい誤算ですが、明らかに通常商品とは味が違います。
『津本式かつおぶし金熟』の解説
こちらは、しっかりと血抜きによりカツオを生で10日間寝かせて熟成を促していますので、前述した、従来のカツオ節の旨み(イノシン酸類)とは違う、別のベクトルの旨み(グルタミン酸類)が強く出てくるであろうと開発した商品。謎に美味しい銀熟とは違って、こちらは狙った効果がそのまま出ています。いままでのカツオ節ではなかなか成し得なかった、イノシン酸×グルタミン酸の共演が見られる革命的カツオ節です。
薫が強く、味が濃い、旨みが深く増している、まさに津本式ならではのかつおぶし。これが『金熟』。
両方とも、荒節と呼ばれるカツオ節ですが、荒節よりも手間がかかりコストと製造時間がかかる枯節に匹敵、いや勝てる旨みが凝縮されています。実際食べ比べていただけるとわかると思います。
まとめると、銀熟も金熟も両方、味が濃くて美味しい! そして従来あった生臭さがかなり消えていますので、お出汁などにもいいと思います。銀熟の旨みの立ち具合と、金熟の旨みの深さ具合の好みはあろうかと思いますが、通常の荒節とは明らかに違います。
ということで2024年1月に開催される、横浜でのフィッシングショー『釣りフェスティバル2024』で、食べ比べセットを先行発売します。ルアマガブースにぜひいらしてください。
基本的には『津本式かつおぶし』の銀熟と金熟を食べ比べてもらうセットです。ひとつは、削り節の食べ比べセット(税込1500円)。もうひとつは、オリッジさん特性の出汁パックセット(税込2500円)。価格は未定ですが、1本まるまるの販売も予定しています。
さぁ、カツオ節にも革命を起こした津本式。一般販売は量産体制が整ってからになりますので、まずは釣りフェス2024でお買い求めいただき、そのポテンシャルを知っていただければ幸いです。
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