言わずと知れたバス釣りのプロアングラー・今江克隆さん。長年トーナメンターとして活躍してきたからこそわかる、バス釣り業界の懸念点を赤裸々に告白する。今後のバスプロのあるべき姿とは…?
●文,写真:柳生豊志
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選手をサポートし,大会に協賛する意味
近年、JBトップ50トーナメントで協会サイドも問題視していることがある。
今江「トップ50戦でルアーメーカーにサポートされている選手が、サポートされていないルアーで釣ってくる。それを表彰台で堂々と言う選手が多い。必死で選手をサポートしているメーカーからすれば、今や選手をサポートしたり、大会に協賛する意味がなくなりつつあることを示している。これはバストーナメントにおいて実に深刻な問題なんだ」
選手の立場としては、スポンサードルアーだけではこの厳しい環境のトーナメントを勝ち抜けない現実があるのかもしれない。また、バス人気が下降している現在、スポンサードメーカー以外にも釣れるルアーを公にしてバス釣り人気を盛り上げたいという希望があるのかもしれない。それともスポンサードルアー以外を使うことが、ルアーをよく知っている、ルアーのことをわかっている、と逆説的に知らしめるための今どき流行りのスタイルなのかもしれない。
今江「トップ50クラスの表彰式での発言は、拡散力があるから問題は深刻だ。逆に言えば、それだけプロモーションの場になるのも事実。その証拠に今年BMCで大きなライブ配信を2回やったが、そこで活躍
した河野正彦がルアー販売に大きく貢献した。オールスターワイルドカードでは3位に入ったが、河野自身が開発したヴィラル1本で押し通しての3位はスポンサー的には何にも代えがたい価値があったのは確か。ちゃんとスポンサードされているルアーで釣れば、トーナメントは未だに絶大なプロモーション効果があるのは間違いない。しかしそれだけ逆効果になる可能性があるのもまた真なりなんだ」
サポートメーカーへの逆効果
最近はライブ配信だけでなく、自分でゴープロを付けてSNSで発信したり、オブザーバーやプレスが同船するケースも多いため、スポンサー外のルアーを使っていると隠しようがない。
今江「例えば最近若手だけが出場するトーナメントのライブ配信があったが、そこでサポート選手が自社ルアーを一切投げずに配信されていたら、それってメーカーへの逆効果以外のなにものでもない。経営者がそのライブ配信を見ていたらどう考えるのか。自社ルアーをプロモーションしてほしいからプロ契約をしているのであって、それを堂々と無視する選手が多くなっている現状は、メーカーとサポート選手という枠組みを根本から変えてしまうほどの問題をはらんでいる」
今江「しかし、それだけ今のフィールドの現状は、1社に限定されたルアーだけで釣るのが難しいのかもしれない。だがそうなれば、メーカーが選手をサポートしたり、大会に協賛する意味を失ってしまう。この現実を放っておくと、次に起こってくるのがスポンサーの大会離れ、選手離れなんだ」
トーナメントの未来には不可欠なライブ配信だが
今年、今江はBMCトーナメントのライブ配信解説者を2度務めた。それは単なる解説者として乗り込んだわけではなく、ライブ配信に掛かるコストや必要な人員、機材、段取りなどを内部から知るためでもあった。
今江「日本のバストーナメントを長く続かせるには、ライブ配信は必要不可欠で、ファン獲得にも、メーカーの宣材としても格好のプラットフォームになる。トップ50シリーズが今後も日本最高峰のトップトーナメントとしての立場を確立し続けるには、間違いなくライブ配信の力が必要になる。そのための方法論はあらかた学んだ。だがそこで問題になるのが、先程から何度も言っているスポンサードルアー問題なんだ」
バストーナメントは選手のエントリーフィーで運営費の一部は賄えるとしても、賞金を出すにはメーカーからの協賛金は不可欠だ。メーカーは慈善事業で何百万円もの協賛金を出すわけではない。直接的なり間接的なり、自社へのメリットを考慮するがゆえに多額の協賛を行うのだ。それは今後、ライブ配信に係る協賛金集め(いわばCMスポンサー)にも大きく関わってくる。
今江「プロってなんなんですか? という根本問題を問われている。バスプロの存在意義は、プロ契約ってなんですか、と。日本の場合はアメリカほど賞金が高額ではないから、選手は契約金や発案ルアーのロイヤリティがメインの収入になっている。賞金なんてないに等しいので、プロ選手はスポンサーに頼っているのが日本の現状なんだ。メーカーの立場から言わせてもらうと、選手個人に支払う契約金以外にも、トーナメントに出る選手にはひとりあたりの協賛費を支払っており、選手が多くなればその額も増えていく。選手はメーカーの支援あって大会に出られているのが日本のトーナメントの現状なんだ。
だから自分を含め黎明期からのプロ達は、トーナメントを続けるため自分で自分をサポートするためのメーカーを自ら興すプロが多かったんだ」
ライブ配信はそのままリアルであるからこそウケる。しかしそのリアルさがメーカーにとっては打撃になる可能性があり、メーカー(スポンサー)側からトーナメント離れにつながる可能性がある。
今江「すべてのルアーを自社製品だけにしろとまでは言わない。類似品がないオンリーワンルアーが釣れているのであれば、それを使わざるを得ない状況もあるだろう。しかし3尾中1尾ぐらいはせめて自社ルアーで釣ってよね、というのが経営者としての偽らざる気持ちなんだ」
サポートプロの仕事
3尾中1尾でも釣ってくれれば溜飲も下がると今江は言うが、それは自身も選手だからこそのやさしい意見だろう。プロ選手は自社製品プロモーションが仕事であり、自分が使いたいルアーは自ら開発できる立場にある(会社によるが)。その立場を自ら放棄し、安易に流行りのルアーに飛び乗るようであれば、プロ選手としての矜持も価値もないと言われてもしようがないのではないだろうか。
今江が最後の大仕事としてやろうとしているライブ配信を阻む最大の障壁は、『プロ意識の低下』だということをすべてのプロは理解したほうがいいだろう。自社製品を宣伝すること、ルアーの有効性を証明することがサポートプロの仕事であることは間違いない。もし自社ルアーに有効性がないならば、意見を通して有効性を発揮できるように改良すればいいのだから。
今江「昔は日本でももっとプロへの締付けはきつかった。それだけ所属プロのプロモーションが売り上げに直結していたからだ。しかし近年はバスが非常に釣れにくくなってきたし、メーカーも選手に以前ほど強く言わなくなってきた流れもある。また、バス市場が激減した事で十分な契約金も出せず、昔ほどメーカーとして選手に対し強く出れないことの裏返しかもしれない。しかしそれってニワトリが先か卵が先かの話であって、自社ルアーを使ってくれなければメーカーはサポートしなくなるのは当然だろう。たとえ移籍したとしても、そいう人間は新しい場所でも勝つために必要なら他社ルアーを使うだろ
う。こうなってくると選手にお金を払う意味が見い出せなくなってくる」
今江「これはライブスコープ問題よりもはるかに深刻だと思う。ライブ配信が充実すればするほど、メーカーのスポンサー離れ、スポンサーの選手離れが加速するかもしれないというジレンマを今のバス業
界は抱えている。これを解決する可能性の一つは配信の有料化だが、それでは視聴者数は激減し本末転倒になるだろう。だからこそスポンサーシップの意味を選手がしっかりと理解し、スポンサーメーカー
にも、ルアー・タックルを購入してくれる一般のファンにも、それぞれにウインウインとなる情報提供ができるかどうかにかかっているだろう」
契約大国アメリカでは契約で細かく、厳しく決められているのかもしれないが、日本では曖昧な『信頼関係』という絆でメーカーと選手はつながっている。選手はサポートされている意味を今一度しっかり
と認識し、サポートメーカー、一般のバス釣りファン、大会運営サイドがすべて純粋に楽しめるようなライブ配信を目指してほしい。
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