「エアチケットが安かったから」と言う、スティーズエアもびっくりの軽さを極めた理由で、ベトナムまで遠征してきたドラマチックハンター。
メインターゲットのメコン大ナマズが実は絶滅危惧種だったり、ルアーで狙った釣り堀のナマズが草食だったり、街中でiPhoneⅩを引ったくられたりと、図らずも盛りだくさんの内容になったので、ルアマガ本誌でも2か月に渡ってその珍道中を紹介。発売されたばかりの4月号には、その後編を掲載中です。そんな記事の中でも、こぼれてしまった食べ物ネタをまとめてみました。
●その1:二枚貝のねぎ焼き(チェムチェップヌーンモーハン)
ホーチミンに到着した夜は、現地の釣り人である朝日さん、光明さんと酒を酌み交わして釣り談議に興じました。お店の名前は「サイゴンナイト」。サイゴンとはホーチミンの昔の呼び名ですね。サイゴンなんて聞いちゃうと、ロバートデニーロとクリストファーウォーケンがロシアンルーレットをしていたのは、この店の地下なのでは? なんて妄想まで抱いてしまうのは世代のせいでしょうか? 意味の分からない人は映画「ディアハンター」を観てください。
この店は海鮮系のベトナム料理が得意らしく、おいしい海鮮料理ものがたくさん出てきました。中でも忘れられないのが、この貝の料理、チェムチェップヌーンモーハン。ハマグリのような大き目の2枚貝に、豚の脂、ねぎ、そしてピーナッツを入れて焼いたもの。この3つの薬味が、貝の旨味を一つも消さずに主役を引き立ててくれる。貝はこういう味わい方もできるんだという、意外な一面を発見できる一皿でした。
●その2:カニのタマリンドソースがけ
これもサイゴンナイトで頂いた料理で、ルアマガ本誌でも紹介していいます。タマリンドとはマメ科の植物で、その果実で作った甘酸っぱいソースは、カニとの相性が抜群でした。濃厚だけど、優しい味。最終的には小学生のように甲羅の裏も表もべろべろと舐めて、口の周りと10本の指がタマリンドソースでべとべとになってしまいました。
濃厚だけど、どこか優しいというのは、ベトナム料理全体に言える特徴かもしれませんね。そういえば、ベトナムの人々もみんな優しかったなあ。
●その3:フライドフォー
「ベトナムと聞いて何を想像するか?」という質問を各世代の日本人にぶつけた意識調査では、50代は「ベトナム戦争」、40代は「水曜どうでしょうの最終回」、30代は「フォー」という結果が出ました(サンプル数8名)。つまり「フォー」はベトナム料理の代表格だし、日本でも大人気ですが、フライドフォーを食べたことのある人は少ないのでは?
これは最終日の昼にぶらりと立ち寄ったフォー専門店「hou thiên フォーの店」で試しに注文したメニューでしたが、その冒険心のおかげでちょっとした感動を味わいました。フライドフォーというのは、つまりはフォーの揚げ焼きそばのこと。フォーは平べったいので、揚げるとほうとうより幅広い揚げそばになります。その上に、野菜と練り物がたっぷり入ったあんかけがかかっているというシロモノ。このお店の看板料理だけあって、文句なしに旨かったですね。
●その4:はちみつキンカン茶
ベトナム2日目は、メコン川河口で野生のメコンオオナマズを釣ろうとして、四苦八苦した日でした。
そんな2日目の、ユニコーン島という巨大な中州から、他の島へ渡す船を待っている時、釣りたいという焦る気持ちを鎮めてくれたのがこの飲み物。
写真の女性が、日本語を交えながら色々説明してくれて、船を待つ我々にこれを1杯振る舞ってくれたのです。このはちみつが特別なものらしく、プロポリスやマヌカハニーより親しみやすい味で、体にもいいとか。キンカンとの相性も良く、滋味に富むというか、心が洗われるというか、甘さの中にもさわやかさを感じる一杯でした。
これはカミサンへのお土産に……と思ったけれど、値段を聞いて買うのをためらっているうちに船が来ちゃいました。今から考えると、めちゃ安かったのに、失敗しましたね。ユニコーン島に行ったら是非飲んでみてください。
●その5:バインフラン(ベトナム式プリン)
深夜の便でベトナムを離れる夜、最後の晩餐はホテルの裏通りにあった小さな食堂で楽しみました。「似たようなレストランが並んでいるなあ」と思って、店先にあるメニューを物色して回ると、なんとメニューの写真がどの店もほぼ一緒であることが発覚。どうやら、ひとつの厨房を数軒のレストランで共有しているようでした。
「じゃあどの店でも一緒じゃん!」という状況で、この店を選んだのは、メニューの片隅にこのバインフランがあったから。日本に帰る前にこれを絶対に食べたいと熱望していたのは、スイーツ好きのカミイ。そのカミイの夢が、帰国直前に叶ったのでした。日本のプリンより濃厚だったような……ちょっと詳細は忘れちゃいましたが、旨かったのは確かです。
そして、4日間過ごしたベトナムで感じたことを、彼にぶつけてみました。
横沢「ベトナムは社会主義国だし、ベトナム戦争でもアメリカにたくさん国民を殺されて、ひどい目に会わされましたよね。でも、今のベトナムの町並みはアメリカの影響を色濃く受けていて、むしろ日本よりアメリカっぽく感じる部分までありました。日本みたいに戦争でアメリカに負けたならわかりますが、勝ったベトナムがアメリカ化しているのはちょっと不思議ですね。恨んだりしてないんですか?」。
すると、ベトナム生活25年以上の彼はこんな答えをくれた。
朝日「ベトナム人は過去は過去として水に流すんですよ。だからアメリカとだって仲良くできるんです。これがベトナムの国民性なんですね、きっと」。
おいしい料理にやさしい人々、ベトナムは本当に魅力的で快適な国でした。いつかまた戻ってきたい。iPhoneをひったくられたカミイでさえ、再訪を夢見てしまう。そんな国でした。