2関節という斬新な構造でマイキーを作り、ビッグベイトの新世界を創造した濱田禎二さん。それをチューンした躱マイキーでビッグベイト・カバークランキングを確立した川島勉さん。本質と深奥を知る2人のジョイント・トークが実現。それぞれが誕生するに至った経緯が明かされる!
【Profile】
川島勉(かわしま・つとむ)
関東でもっとも人気の高いメジャーリザーバー・亀山ダムのスーパーロコとして知られていたが、ジャッカルプロスタッフとして「自己満足のルアー」をプロデュースするや瞬く間に機能と釣果が拡散、その名を全国へと轟かせた。本職は美容師さん。
【Profile】
濱田禎二(はまだ・ていじ)
唯一無二のルアーを生み続けるファクトリーメーカー・T.H.タックル代表にして、多くの著名アングラーに愛用されているギル型ベイトの金字塔『ゾーイ』の生みの親。トーナメントプロとしても活動しており、JB最高峰カテゴリーでの優勝経験も持つ。
ハマクル開発秘話
――国内におけるジョイントルアーの歴史を紐解いたとき、その構造自体を備えたエポックメーキングなルアーの先駆けは濱田禎二さんが手掛けたジャッカルのハマクルであり(2000年のフィッシングショーでプロトモデルを発表)、のちに続くマイキーがビッグベイトを身近な存在にしたのではないかと個人的に感じています。それまで、三連ボディのジョイントというのは、海外にはあったかもしれないけれど、少なくとも国内にはなかったはず。まずはハマクルの開発経緯を教えていただけますか。
濱田「きっかけは、釣りとはまったく関係のないメーカーさんがジャッカルにルアーの製作を依頼してきたことでした。ちょうどジャッカルが軌道に乗り始めた頃で、僕もDAIWAを退職してもちづき釣具(奥様のご実家)で仕事を始めたタイミングだったので時間を割りと自由に使えたから、ジャッカルを手伝っていたんですね(ジャッカル代表の小野俊郎さんは、濱田さんの大学およびDAIWA時代の先輩)。そのとき加藤さん(加藤誠司さん=ジャッカル会長)が、僕にその仕事を振ってきたんです。『濱田、やってみてよ』と(笑)」
川島「その案件が、具体的にこういうものを、というオーダーだったんですか?」
濱田「いや、先方からの要望はなくて、『好きなものを作ればいいよ』と(笑)。そのときに考えて考えて、出した答えがジョイントルアーだったんです。当時、ジョイントというと、ラパラとかジッターバグとか、海外のビッグベイトで少しあるくらい。自分自身もルアー作りの経験がほとんどなく、何か新しいものを作りたいな、と」
川島「濱田さんのなかで、ジョイントであることのメリットを感じる経験があったとか?」
濱田「過去に、レーベルの小さなジョイントミノーでものすごく釣れたんですが、それくらいでしょうか。でも、その頃はバス用のルアーでジョイントタイプというのがなかったからやってみようと」
川島「そこがスタートだったんですね。もし、そのメーカーからの依頼がなければ…」
濱田「作っていないかもしれませんね(笑)。ところがそのメーカー、ルアー作りにどれだけ時間がかかるか知らずに心配になったのか、本業が忙しくなったのか、理由はわかりませんが開発がかなり進んだタイミングでいきなり手を引いてしまったんですよ。金型もほぼできているのに。その結果、ハマクルはジャッカルから発売することになったんです」
濱田「ちなみにハマクルの、エイトカンにシャフトを通すというジョイント構造は、それまでなかったと思いますよ。
川島「そんな裏話があったとは…。あのジョイントの仕組みは濱田さんのアイデアだったんですね…知りませんでした』
――ハマクルを作るうえで、いろいろなジョイント構造を試したんですか?
濱田「試したし、考えました。ただその際に、僕自身は大前提として見た目をリアルな造形にしたかった。だから、前側のボディに切れ込みを入れて、後ろ側がそこにはまるような接続法をとったんです」
川島「ラパラにしてもレーベルにしても、関節はひとつしかありませんよね。なぜ、ジョイントを2つにしたのでしょうか」
濱田「それまでにないルアーを、というのがひとつ。あと、ジョイントのプラグって、アクションをさせた際にリップを装着した前部の動きがジョイントを通じて後部にも伝わるわけですが、テスト中にたまたまリップなしの状態で三連ボディのプロトを巻いたら、くねくねとジョイントの部分が動くことに気付いたんです。そのときに初めてジョイント自体が動きを出すことを知りました」
初めてキャストしたマイキーで30尾!
川島「そこから、マイキーへと派生していくわけですね」
濱田「リップレスの場合、水を受け流しながら泳ぐじゃないですか。でもそれだと、濁った場所でのアピールが足りなかったり、リップがないから障害物に引っ掛かりやすい。ちょうどビッグベイトが流行り始めた頃だったので、ボディも大きくして…まずは自分で木を削ってサンプルを作ってみました。それは、製品化したものよりもちょっと大きめで180mmくらいあったんじゃないかな」
川島「ハンドメイドでも形としてはほぼ製品版と同じでしたよね。以前、小野さんに見せてもらったことがあって、『これ、ください』ってお願いしたら、『たとえ川島さんでも、それはできません』って言われてしまいました(笑)」
――そんなマイキーを、川島さんは溺愛することになるわけですね。
川島「実はそれまで、ジャッカルのルアーってあまり興味がなかったんですよ(苦笑)。ところがよく行くショップでたまたまマイキーをひとつ手に入れることができて、5月(2004年)のシトシトと雨が降っている日に亀山ダムで初めて使ってみたら、岸際だけでなく、立ち木だろうがブレイクだろうが沖でもどこでも食ってきて、いきなり30尾くらい釣ってしまった。その当時にこのサイズのルアーをちゃんと使っている人はいなくて、衝撃を受けましたね。マイキーは人気で、買って持ってきてとりあえず投げてみるんだけれど、みんな数投したら『よし、釣るか』とワームやスモラバに変えてしまう。フィネス全盛の時代でしたから」
濱田「それで川島さんは自分なりにマイキーをアレンジして…」
川島「ガンガン使い込んでいるうちに、岩盤に当てたりして壊してしまったんですよ。当時はジャッカルからサポートを受けてはいなかったので、割れたリップを外してサーキットボードにしてみたり…躱マイキーという名前から、オリジナルのマイキーより圧倒的に障害物回避能力が高いと思われがちですが、ふつうに使うのなら回避能力はオリジナルで充分と思える域にありました」
――その部分はもう、濱田さんの作ったマイキーで完璧だったんですね。
川島「そうです。でも、自分の場合は、ふつうならトリプルフックの付いたルアーを投げるには躊躇してしまう、『ここは厳しいかな』と思えるカバーにもお構いなしで入れてしまうので…(苦笑)。で、もうちょっとゆっくり引いてレイダウンを乗り越えさせたいんだけれど、そのスピードだとテールのフックが引っ掛かってしまうとか自分のなかでの些細なこだわりみたいなものがあって、それで後部ボディのウエイトを抜いてしまったり…ただそれだと、今度は飛距離が落ちてしまう。そうこうしながらマイキーをどんどんいじってしまい…20数個買ったんじゃないかな(苦笑)」
――誰もが使いやすいマイキーを、川島仕様にしていったと。
川島「何て言うか…すごく愛着が湧いてしまって」
濱田「ありがたいことです」
マイキーと躱マイキーの違い
――川島さんがジョイントルアーの威力を知ったのは?
川島「それこそマイキーが最初です。ハマクルを手に入れたのはその後ですから。当時、ジョイントが2ヵ所あるルアーって、ほかにはなかったですよね。動きもしかりですが、使っていくうちに音がすることにも気付いて、それも魚を呼ぶ要素なのではないかと」
――それはボディの接触音?
川島「そうです。あと、フックの接触音。ラトルも積んでいるけれど、それだけじゃない。ジョイントによってボディがくねるから、フックが当たって常にカリカリと音が出ているんですよ。
濱田「ラトルは内部で当たっているので、外に伝わるときボディが壁になって吸収されてしまう気がするんです。でも、ボディ自体がぶつかる音は水の中で直接伝わる。その効果はあるかもしれません」
川島「あと、これはフィッシングショーで熱心なユーザーさんに言われたんですが、『使い込んだ躱マイキーの関節部分がキシキシいう音が良いんですよ』と」
濱田「バズベイトもそういう話がありますよね。使い込んだバズの、アームとペラの金属接触音がいいという。かなり小さな音だし、真意のほどは何とも言えませんが、それがルアーを信じて投げ続けられる要素になりますからね。
――そして2010年にジャッカルからカワシマイキーが登場します。見てすぐにわかるのはリップの形状ですが、マイキーとカワシマイキーはどう違うんですか?
川島「その当時は自分自身、ルアー作りなんてしたことのない素人でしたからね。すでに出来上がっているものをいじるくらいで、それこそさっき言ったように後ろを軽くすれば障害物を乗り越える際に引っ掛かりにくくなるだろうと、真ん中のボディとテールからウエイトを抜いて…」
濱田「マイキーを作った時代というのは、とくに巻く釣りに関しては表層が重要視されていて、僕自身はもう少し潜らせたかったんだけれど世の中的に『潜っちゃいけない』空気があったんです(笑)。だからリップを立ててウエイクベイト的にも使えるバランスになっているんですが、そのままだとリップが抵抗を受けてしまって後ろが軽いと飛ばない。それで後方にもウエイトを入れたんですよ」
川島「ロールを強くするためにウエイトを入れたんだと思っていました。たしかにマイキー、めちゃくちゃ飛びますもんね」
濱田「一番の理由は飛距離なんです。当時、琵琶湖でもテストをしていたんですが、オープンウォーターだと、やはりロングキャストできることが必須になる。でも、川島さんの場合はカバーでの起用が前提になるから」
川島「遠投しなくてもいいんです」
――では、リップがクランクしているのは?
川島「オリジナルのマイキーよりも少し潜らせたかったから。立ち上がりを良くしたかったというのもあります。ただ、その点については、テール側にウエイトがないぶん前傾姿勢になるので、そもそも水をつかみ始めるのは早いんですよ。あと、カバーにコンタクトした際、すぐにヒラを打つのではなく、踏ん張って踏ん張って抜けた感を出したかった。リップがクランクしていることで、前につんのめるというか。そのほうがテールフックが高い位置になるから引っ掛からないように感じるんです」
濱田「要はどこで、どんなふうに使うかですよね。川島さんは、自分のホームグラウンドと、そこでの使い方に最適化して躱マイキーを生み出したわけです」
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