「釣り」はその性質上、フィールドで学ぶことがほとんどと言えるかもしれない。実際、キャスティングのように技術的な側面も多いため、上達のためには釣りに出かけるのが一番なのは間違いない。だからといって、座学が無駄になることも決してない。そこで学べるのは先人たちの圧縮された、あるいは高純度化された高度な『情報』なのだ。大津清彰さんが長年行ってきた、ブラックバスの食性調査に基づく生物学的な今回の話もまさにそうだろう。春のバス釣り環境を大津さんが生物学的に読み解く。今回は「バス×ベイト」の関係。ベイトの種類がバスの行動に影響を与える仕組みを解説。
●文:ルアーマガジン編集部
大津清彰さんのプロフィール
大津清彰(おおつ・きよあき)
老舗メーカー・ティムコに勤務し、野良ネズミシリーズなどのエポックメイキングな製品を生み出してきたプロデューサーにしてアングラー。その実力を支えるのが生物に対する広い知識であり、大学生時代から行っているブラックバスの胃内容物調査は現在も続くライフワークと呼べるもの。
新しいものをどんどん取り入れていく柔軟さにも定評があり、ライブスコープを使いこなして2022年に艇王の座も獲得した。
春を中心としたフィールドごとの食性の変化
それでは春という季節を例に、具体的なバスとベイトの関係性について聞いていく。
大津「結論からいうと、春を迎えるバスの行動は、ベイトの種類に影響を受けます。まずはエビゴリ系がメインベイトとなっているフィールド。そこでは、それらの生物が動き出す水温12度を境にバスも動き出す傾向が強いです。適水温としては低いと考えられる水温にも関わらずバスが動き出すのは、ベイトが動き出すからなんです。エビゴリは泳ぎ回るベイトフィッシュほどは食べにくくないはずですから、本調子でないバスであっても食べやすいんでしょうね」
ため池など、ベイトフィッシュが少ないとされるフィールドほどこの傾向は顕著となるだろう。
大津「一方、ワカサギが多く生息していると、2月頃からバスが積極的に動き回るようになります。これは産卵のためにワカサギが接岸する、つまり岸際に追い込んで捕食しやすくなるからです。少し季節が進めば、産卵を終えて死にかけたワカサギも出てきて、なおのこと捕食もしやすくなりますからね。いずれにせよ、ワカサギのいないフィールドに比べると、明らかに行動的になる時期が早いはずです。ただし、ワカサギが生息しているフィールドでも、全てが同じ傾向になるわけではありません」
ベイトの種類による太り具合
バスの体型をみればその捕食傾向がわかるといのが大津さんの持論。ワカサギなどの小魚をよく食べていると丸みのある体型、エビ系をよく食べているとスキニーになる傾向がみられるとのこと。これは胃内容物を調査した際にわかった傾向で、小魚は栄養効率がよく消化が進んだ状態で採取されるという。その一方、エビ系は消化が進んでいない状態で採取されたり、消化しきれないのか甲殻だけが残されて採取されることも多かったのだとか。
霞ヶ浦のベイトパターン
大津「例えば霞ヶ浦水系では、早春にワカサギが接岸するタイミングがあるので、岸釣りからビッグベイトで釣るチャンスが多分にある。バスからすると、その季節には岸際に食べごたえのあるベイトがいることを知っているんでしょうね。逆にいうと、エビゴリのような小さなベイトがまだ出ていない時期なので、ルアーを小さくする必要もないんです。バスからすれば、そんな小さな餌は存在しない季節だから怪しまれるというわけです。ですが季節が進み、岸際からワカサギがいなくなると霞ヶ浦水系は途端にエビゴリ系がメインベイトとなっていきます」
相模湖のベイトパターン
これが相模湖だと、また動きが変わってくるのだという。
大津「2月頃からはじまるワカサギを狙った岸際での捕食は4月頃まで続きます。ですがワカサギの産卵シーズンも徐々に終りを迎え、5月頃になると、シャローにいるバスたちのベイトがいなくなる…のかとおもいきや、その頃になると相模湖ではケムシやイモムシが落ちてくるようになるので、バスはそれをメインに食べるようになるんです。そしてそれが落ち着く頃になると、その年に生まれたワカサギも成長してバスに捕食されるようになっていくんです」
水温が高くなる時期になればそのワカサギが低水温を求めて沖の水温が安定したレンジに移動するため、バスもそれを追うようになっていく。ベイトの存在が、バスの居場所や捕食傾向そのものに影響を与えているのだ。
マイクロベイトが強い理由
大津さんも得意とするマイクロベイトパターンの釣り。その根拠となるのが、エビゴリ系のベイトやワカサギの未成熟魚などの小型ベイトの存在だ。高水温期にはこれらのベイトが非常に活発かつ大量に発生するため、バスが「いつも食べているもの」のサイズが小さくなっていく。つまりマッチ・ザ・ベイトとして小型のベイト全般に合わせられる「マイクロベイト」の釣りが成立するのである。
利根川のベイトパターン
大津「こんな例もあります。利根川の下流域では、1月~2月にアシ撃ちでよく釣れるんです。水温はもちろん低い季節ですし、霞ヶ浦水系のアシ撃ちは水温12度以下で途端に釣れなくなるのにもかかわらず、です」
これまでの話を統合すると、答えに行き着くことができるだろう。つまり、『ベイト』の存在がそこにあるということだ。
大津「実はモクズガニが1月ごろから遡上を始めるんです。そうすると、2月頃まで利根川河口堰から佐原の道の駅あたりまでの下流域で、50mmくらいの子ガニが捕食されるわけです。不思議とそれ以降の季節では見かけませんが、明確にパターン化することができます」
この写真の横たわっている小瓶に入っているのが、実際に胃内容物として採取されたモクズガニだ。
大津「バスはどんな時にどこでどんなものが食べられるかをなぜか知っているんですよ。リザーバーで増水すれば、バスは上流にいって流れてくるサワガニやミミズを積極的に食べにいくし、産卵期になるとワカサギが食べやすくなるのも知っているわけです。本当に面白いですね」
バス釣りにおいてシーズナルパターンを解説するとき、季節とは連続的なものであり、前後の季節を無視して考えることはできないといわれている。バスと水温とベイト。今回の3要素も同様に独立した要素ではなく、相互間の関係性ありきで読み解くことで、バス釣りをより深く知ることができるだろう。
「水温×ベイト」まとめ
- 捕食対象となる生物の行動がバスの行動を左右する
- 人間が想像する季節感とは異なるタイミングでバスとベイトの関係性が生まれていることも
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