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【TULALAじゃない話】オガケン大学・第1章『サカナのゴハンの探しかた』~第6回~“夕マズメと日周性の真実”

『オガケン大学』開校——。幼少期に米国で釣りを始め、大学での水産研究を通し学んだ豊富な知識や2回に渡る365日連続釣行など、人並外れた知識と経験を持つ小川健太郎さんが、「釣り」を魚の生態から解き明かす。今回は第1章『サカナのゴハンの探しかた』の最終回となる、~第6回~“夕マズメと日周性の真実”。

●文:小川健太郎 ●イラスト:大和なでしこ ●写真:ルアマガプラス編集部

小川健太郎(おがわ・けんたろう)

TULALAという釣り人ひとりひとりの思い描く特殊な竿を作るインディーズなメーカーをやってます。個人では昔ルアーマガジンをはじめ、多くの釣り、車やアウトドア、音楽、新聞からタウン誌などで連載を何本もやっていたライター/アングラーでしたが、大型のトラックに追突されて腰を痛めてバッサリ引退し、イラストやデザインなどの仕事に転向。以来10年以上連載を控えていましたが、webなら締め切りがない、という甘言に釣られてちょこっと書いてみることに。よろしくお願い申し上げます。

前回のおさらい

(教授、黒板に食物連鎖の矢印を書きながら登場)

教授「前回は朝マズメの正体を解き明かしました。植物プランクトンの浮上から始まる連鎖反応と、明順応のタイムラグ。この2つが重なって朝マズメが生まれる」

生徒「朝って、こんなに色々なことが起きてたんですね」

バスくん「まあ……改めて言葉にされると恥ずかしいっすね。オレの朝の行動が全部バレてる感じで」

教授「今日は夕マズメ、そして少し踏み込んだ話——バスの日周性について話します。最後の授業になりますが、これが一番面白い」

バスの日周性について踏み込む。

マスくん「先生の目が輝いてます……前回から気になってたんですが」

教授「いつもこのくらい輝いていますが」

バスくん「いや、普段の1.5倍くらいっすよ(小声)」

夕マズメの仕組み

教授「朝マズメは光量の増加が引き金でしたが、夕マズメはその逆——光量の減少が引き金になります」

生徒「対称的なんですね」

教授「対称的ですが、仕組みは少し違います。夕方、日が沈むと植物プランクトンが今度は沈降していく。朝とは逆方向の移動です」

夕方になると、光量の低下とともに植物プランクトンが深層へ沈んでいく。これにつられて動物プランクトンも動き、エビや小魚が再び無防備に動き始める。朝と同様の連鎖反応が、今度は「下から上へ」ではなく「上から下へ」の流れで起きる。

教授「エビや小魚が夕方に動く——これがバスの夕マズメの捕食スイッチを入れる」

バスくん「夕方も忙しいっすよ。朝と同じくらい、なんか焦る感じがあって」

夕マズメは「暗順応の隙」

教授「夕マズメにも、朝と同じく目の順応の問題があります。ただし今度は『暗順応』です」

生徒「暗い方向への順応ですね」

教授「そうです。夕方、光量が落ちていくとき、魚の目はすぐには暗さに順応できない。明るい状態に慣れていた目が、暗い状態についていけないタイムラグが生まれる」

これが夕マズメの「隙」だ。視覚がまだ暗さに慣れていない時間帯、魚はルアーを見切る能力が落ちる。そしてこの時間帯に最も効くカラーが——

教授教授「白です。パールホワイト系」

生徒「前回の夜釣りの話と同じですか?」

教授「夜釣りにつながる話ですが、夕マズメは特に白が機能する。暗順応がまだ完了していない魚の目に対して、わずかに残った光を受けてぼんやり浮かび上がる白い全体像——これが捕食しやすい信号になる」

バスくん「白いルアーって、夕方から夜にかけて見つけやすいんっすよね。なんか浮いて見えるっていうか」

マスくん「朝は金、昼は銀、夕方〜夜は白……整理するとわかりやすいですね」

教授「よくまとめてくれました。その通りです」

「シーバスは夜行性」は本当か?

(教授、チョークを持ち直す。目が輝く)

教授「ここから、少し踏み込んだ話をします。一部の学者の方は怒るかもしれませんが——」

生徒「先生、大丈夫ですか?目が妖しいんですけど」

教授「よくシーバスは『夜行性』とよく言われますが、私はこれを一律に当てはめるべきではないと考えています」

バスくん「……え、アイツらって夜行性じゃないの?オレも夜行性の時あるけど」

教授「季節によって変わる可能性が高い、というのが正確な言い方です」

一般的には夜行性とされているシーバスだが…

これが「日周性」の話だ。

日周性とは、動物が一日の中で活動のピークを持つ時間帯のことを指す。夜行性ならば夜、昼行性ならば昼にピークが来る。しかしバスの場合、この活動ピークが季節によってシフトしていく可能性がある。

教授「いくつかの魚で春分(3月下旬)と秋分(9月下旬)を境に、捕食活動のピーク時間帯が移行していくという実験データがあります。バスやシーバスに近い魚だとヨーロッパスズキに関しては実験が盛んで顕著な結果が得られています。具体的にいうと——」

(黒板にタイムテーブルを書く)

冬(冬至前後) → 深夜
春(春分前後) → 早朝〜朝
夏(夏至前後) → 正午前後
秋(秋分前後) → 夕方〜夜

教授「つまり夏のバスやシーバスは昼行性かもしれず、そして冬のバスは深夜に動いている可能性まである」

生徒「え!? 冬って深夜にバスが活動してるんですか?」

教授「そうかもしれない、という話です。冬のバスは『寝てじっとしている』と教本に書かれることが多い。しかし実際には深夜に動いているだけで、釣り人が釣りをしない時間帯に活動している、という可能性があります」

バスくん「……言われてみると、冬の深夜って結構動いてる気がするっすね、オレ。暗いから、昼みたい
に動き回るわけじゃないっすけど」

マスくん「それ、初めて聞きました。冬は動かないものだとばかり」

生徒「そっか……バスが釣れないんじゃなくて、釣り人がいないだけってことも……」

教授「そういうことです。これは私の研究における仮説であり、まだ学術的に完全に証明されたものではありません。ただ、実験や自然条件での観察からは一定のヒントが得られています」

バスくん「先生が一部の人を敵に回すって言ってた話って、これっすね」

教授「そうです。ただ、実際にあり得ることを言っているつもりです。フッフッふふ…」

マスくん「……先生の目がさらに輝いてます。大丈夫です?ビーム出るの?」

季節で釣り方が変わる理由

生徒「でも、バス釣りだと冬の昼間に釣れることもありますよね」

教授「もちろんです。あくまでも活動ピーク時間帯の話であって、それ以外の時間に完全に動かないわけではない。また個体差もあります。大型の個体ほど行動パターンが個性的になる傾向がある」

バスくん「デカいやつは時間関係ないっすよね、確かに。我が道を行く感じの個体が多い」

教授「そういう大型個体を狙う場合は、一般的な時間帯のセオリーが通用しないことがある。それが大型バスの難しさのひとつでもあります」

マスくん「渓流でも、大型のトラウトは行動が読みにくいですよね。時間帯も場所も独自のルールがある感じで」

生徒「じゃあ『夏は朝マズメが絶対』というわけでも、ないってこと?」

教授「夏至に近い時期は正午前後に活性が上がるという観察データもあります。発信機の実験ですが、夏のバスは酸素条件さえ満たせれば、昼に一番元気に活動するデータもある。朝マズメ至上主義で昼を諦めるのは、もったいないかもしれない」

バスくん「夏の昼間って確かに動いてる気がするっすよ、実は」

生徒「それって、真夏の炎天下に釣れるやつ?」

バスくん「そうっすね。暑いから嫌だとかじゃなくて、単純に元気な時間帯っていうか。まあ最近は暑過ぎて酸素が足りないんすけどね」

第1章の総まとめ——魚目線でゴハンを考えると

教授「さて、第1章のまとめをしましょう。6回にわたって、魚がどうやってエサを探すかを学んできました」

(黒板に整理する)

第1回:人間の五感 → 魚の三感。水が感覚を統合する

第2回:エサ発見の順番は「音・波 → 匂い → 視覚」。距離で感覚が変わる

第3回:反射の2種類。無条件反射はスレにくく、条件反射は逆手に取れる

第4回:クリア→視覚、マッディ→音波、夜→シルエット。状況で戦略が変わる

第5回:朝マズメの連鎖反応と明順応のタイムラグ。朝は金・赤・オレンジ

第6回:夕マズメと暗順応。日周性の季節変化。夕〜夜は白

教授「これらをつなぐ一本の線があります。魚はその感覚と環境の条件に従って、合理的に動いている。ランダムに動いているわけではない」

生徒「つまり……読めるってこと?」

教授「完全には読めない。でも、理屈を知っていれば、はるかに高い確率で予測できる」

バスくん「……まあ、正直ちゃんと理解した人に会いたくないっすけどね」

マスくん「理解している釣り人は、怖いですよ。投げてくるルアーが全部なんか意味ある感じがして」

生徒「目指します、そういう釣り人を」

教授「よろしい。次章からは、今回学んだ感覚の話を、もっと深く掘り下げていきます。第2章は『ルアーが魚に見つかるまでの長い旅』——今回の話を前提に、より具体的な話をしましょう」

バスくん「また自分たちのことが暴かれるわけっすね」

マスくん「……勉強になりますけどね(苦笑い)」

生徒「次回も楽しみにしています」

今日のまとめ(黒板)

(教授、最後のまとめを書く)

第6回のポイント
・夕マズメの仕組み:植物プランクトンの沈降 → エビ・小魚が再び動く → 大型魚の捕食スイッチON
・暗順応のタイムラグ:夕方、魚の目が暗さに慣れるまでの「隙」が釣れやすさを生む
・夕〜夜のカラーは「白(パールホワイト系)」:わずかな光でシルエットとして浮かび上がる
・「バスは夜行性」は季節によって変わる——日周性の季節シフト
・冬至→深夜、春分→朝、夏至→正午、秋分→夕方
・大型個体ほど行動パターンが個性的。一般的なセオリーが通用しにくい
・魚は合理的に動いている。理屈を知るほど、予測の精度が上がる

(教授、チョークを置く)

教授「第1章、お疲れ様でした。魚のゴハンの探しかたを、感覚と環境の両面から見てきました。次章では、このルアーがどうやって魚に見つかるのか——魚の視覚の話を中心に、さらに深いところへ進みます」

バスくん「先生……またオレたちのことを暴くつもりっすね」

教授「暴くのではなく、解明するんです」

マスくん「言葉は違いますが……やることは同じですよね(小声)」

教授「では、また第2章で」

生徒「(先生の目が、また輝いている……)」

次章予告:第2章「ルアーが魚に見つかるまでの長い旅」

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